16歳の社長、クラウドファンドで学生の起業支援-投資で社会に還元を
10月10日(ブルームバーグ):三上洋一郎さんは15歳の時に、インターネットで事業資金を募る学生向けクラウドファンディング会社GNEXを起業した。尊敬するソフトバンクの孫正義社長と同様に高校1年の終了と同時に自主退学。現在16歳で社長業を務めている。
今は投資資金がないため、投資家と起業家をつなぐ仕事をしているが、将来の夢はプロの投資家。海外で買収を続ける孫氏を「会社、従業員、社会に価値を還元し、会社を育てている」と尊敬し、投資の魅力は「専門外の領域でも間接的に関わって、会社を大きくして社会にインパクトを与えられること」と話す。
父親の書棚に並んだ株式投資の本を読んだことをきっかけに、小学3年生の時に数万円で株を買い、数千円の利益を得た。それを元手に世界最大のクラウドファンディングサイト「キックスターター 」を通じて出資。ほかの学生達にも社会に触れる機会を提供したいと、学生向けクラウドファンディングに行きついた。
グローバル・アントレプレナーシップ・モニター(GEM)によると、2013年の起業の活発度を示す起業活動率(TEA)は、主要7カ国(G7)の間で、米国やカナダが10%を超えているのに対し、日本は3.7%と、イタリアの3.4%に次いで低い。起業家に対する評価や社会的な地位に対する評価も日本はG7のうち最低となっている。
その背景について、青山学院大学大学院の国際マネジメント研究科非常勤講師、熊平美香氏は「日本では親の多くは良い大学に行き、大企業に就職することが幸せな道と信じているため」と分析する。しかし、マクドナルドのようにネット環境の整った場所とパソコンさえあれば仕事ができる時代となり、「若者は自分の人生を生き始めている」と述べ、日本でも10代の起業家は増えていくとの見方を示した。
チノパンにシャツ同氏は午前9時までに朝食を済ませ、投資先の株価チャートをチェックしてから一日の仕事を始める。自社が運営するクラウドファンディング用サイト「ブリッジキャンプ」のスポンサーなどと商談の日は、ボタンダウンの半袖シャツにチノパンツ、肩掛けかばんといった出で立ちで電車を乗り継ぎ、企業に向かう。パソコンを持ち歩き、外出先でも仕事をする。
同サイトでは、中・高・大学生がアプリ開発など自分のやりたいプロジェクトを掲載し、その資金数十万円を投資家から募集。現在は、学生同士が交流できるソーシャル・ネットワーク・サービスの開発などが掲載されている。資金のほかに、人材やモノ、活動スペースも募集可能だ。投資家は配当として完成品やグッズなどを受け取る。
事業提案者からの手数料は3%と少額で、リクルートホールディングスなどの企業から受け取る1社当たり月10万-30万円のスポンサー料が主な収入源。大学などとの連携で学生への起業家教育も計画し、学生からの立案を呼び込む。社員はツイッターなどで知り合った15-20歳の12人。全国に散らばっており、スカイプなどで連絡を取り合う。
親の反対三上氏は10年に受験して中高一貫の進学校に入学。1年経たたないうちに学校を辞めたいと思い始めた。全員が疑問を持つことなくトップ大学を目指す中、「自分の夢について考え、選択肢を増やす行動を取りたい」と考えるようになった。中2の4月には「自分たちのやりたいことを」と8人で学生団体を立ち上げ、同年夏に学生の起業支援イベントでサムライインキュベートから500万円の出資確約を得た。
「今やるべきことではない」と反対する会社員の父親と専業主婦の母親を説得し、自らの投資収益とインキュベーターからの出資を元手にGNEXを立ち上げた。父親の三上純市さん(44)は「様々なリスクを考え、当初は私の中でも賛成と反対の意見を持っていた」と振り返る。最初は一蹴したが、「毎日懇願してくるので、その度に課題を与え、全てクリアしてきた根性に根負けした」という。
サイトのブリッジキャンプでも、学生がやりたいと思っても、その保護者が待ったをかける場合が多く、取り扱ったプロジェクト件数は7件にとどまっている。三上氏には想定外の事態だったという。
アントレプレナー安倍政権は成長戦略で、産業構造の新陳代謝を図るためベンチャー企業支援を打ち出している。しかし、三上氏の場合、設立登記に必要な印鑑証明書が15歳にならないと取得できず、起業まで1年半待たなければならなかった。「年齢に関係なくチャレンジ可能な社会を作りたい。15歳まで起業できないという制限は邪魔にしかならない」という。
青学大の熊平氏は、日本も大企業が経済をけん引する時代から「アントレプレナーの数が国力を決める時代」に変わっていくとし、前例踏襲型ではなく、主体性と創造力に富んだ若者の起業家を増やすことは「日本にとって不可欠」と主張する。
ソフトバンクの孫氏が大学に入ったように、三上氏は今後、経営学を学ぶため高校卒業認定試験を受けて15年度に大学受験を目指す。「どういうことが学べるのか行ってみて、必要性がなければ辞めればいい」と割り切っている。「一度しかない人生、死ぬ時に悔いのない人生だったと思いたい」。
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更新日時: 2014/10/10 00:01 JST