【ソウル=内山清行】韓国のソウル中央地検は8日、朴槿恵(パク・クネ)大統領の動静に関する記事が朴氏らの名誉を毀損したとして、記事を書いた産経新聞の加藤達也前ソウル支局長(48)を情報通信網法に基づく名誉毀損罪で在宅起訴した。検察捜査に関しては「報道の自由を脅かす」との懸念が内外から示されたが、青瓦台(大統領府)と検察当局は強硬姿勢を貫いた。
加藤氏は8月3日、産経新聞のウェブサイトに「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」という記事を出した。韓国最大手紙、朝鮮日報のコラムと「証券街の関係筋」の話などを紹介して「朴大統領と男性の関係に関するうわさがある」と報じた。大統領府はうわさの内容を否定している。
報道を受け複数の市民団体が刑事告発した。大統領府高官も「民事、刑事上の責任を最後まで追及する」と言及した。検察の強硬姿勢の背景には、大統領府の意向が働いているとの見方もある。大統領府報道官は8日、日本経済新聞に「この問題に関する特段のコメントはない」と語った。
インターネットを使った不正行為を規制する情報通信網法の名誉毀損罪は最高刑が懲役7年。地検は起訴の理由について(1)記事の内容が虚偽である(2)事実関係の確認をしていない(3)被害者への謝罪や反省の気持ちをみせていない――などを指摘している。
裁判は「悪意があったか」「公共の利益にかなう内容か」などが焦点になる見通し。産経側は「朴氏を誹謗(ひぼう)する意図はなく、事故当日の大統領の動静は公益性の高いテーマだ」などと主張している。
告発を受け検察は3回にわたり加藤氏に出頭を求め事情を聴いた。加藤氏は10月1日付で東京本社勤務の辞令が発令されたが、出国禁止措置のため帰国できない状態が続いている。
韓国では名誉毀損の訴訟が多いが、大統領への名誉毀損で外国メディアの記者が起訴されるのは極めて異例だ。日本新聞協会や国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」などは相次いで批判的な見解を表明していた。
報道を対象に刑事責任を追及するやり方には、韓国メディアからも「言論の自由が脅かされる」などの懸念がでていた。大統領府と検察の姿勢は、朴政権につきまとう強権的なイメージを裏づける結果となった。
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