高校の時に使っていた国語の教科書、数学の教科書、英語の教科書が、どこの会社のものだったのか、まるで覚えていない。物理、化学、地理、美術、技術、音楽についても同様だ。
しかし、歴史だけは鮮明に覚えている。日本史も世界史も、山川出版社の教科書を使っていた。日本史の表紙は煉瓦色、世界史の表紙はブルーグレーだった。
特に日本史については、ボクが高校生の頃から“日本史の山川”といわれ、山川は圧倒的な知名度を誇っていた。“鰻の浜松”“酒の伏見”の如く、ほかの日本史(の教科書)とは格が違っていた。
都立高校の山川率は75%超。改めて強さを探りたい
ボクは高校生だった頃からつい最近まで、それに違和感を覚えず、当然のことだと思ってきた。2009年に山川出版社が高校の教科書を元にした『もういちど読む 山川日本史』を出版し、ベストセラーとしたときも、さすが山川とは思ったものの、なぜさすがと感じるのかには思いが至らなかった。
しかし、よくよく考えてみれば、山川出版社以外にも日本史の教科書をつくっている会社はいくつもある。なのになぜ、山川と言えば日本史で、日本史と言えば山川なのか。
数字も圧倒的だ。東京都が今年8月に発表したところでは、都立高校における日本史Bでの教科書の山川率は実に75%超。世界史Bでも6割を超えている。
ここには、鰻が浜松の名物であり酒が伏見の文化であるのには理由があるのと同様に、なんらかの理由があるに違いない。
S巻、そしてY瀬に連れられて、東京都千代田区は内神田にある山川出版社の本社を訪れ、会議室に通されたボクは、そんなことを考えていた。
すると、山川出版社の取締役編集部長の曽雌健二さん、取締役の野澤武史さん、編集部課長代理の鈴木史郎さんの3人がやってきた。
〜1時間30分経過〜
ボクは打ちのめされて会議室を後にした。教科書のことも、同社のことも何も知らなかったことが明らかになったからだ。教科書で教養をどころか、教科書への教養を深めるのが先ではないかと思ったほどだ。