産経前支局長在宅起訴:「報道を萎縮させる」専門家ら批判

毎日新聞 2014年10月08日 22時18分(最終更新 10月09日 04時55分)

 韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領に対する名誉毀損(きそん)の罪で、産経新聞ソウル支局の加藤達也前支局長(48)が韓国で刑事責任を問われることになった。日本と事情は異なるが、専門家からは「報道を萎縮させるもので行き過ぎだ」と批判の声が出ている。【青島顕、和田武士、川名壮志】

 問題とされたのは、8月3日に産経新聞のウェブサイトだけに載った前支局長のコラム。4月のセウォル号沈没事故当日の大統領の行動に「空白の7時間」があり、いろいろうわさが出ていると韓国紙のコラムを引用して記述した上で、うわさについて証券街の関係筋の話として「大統領と男性の関係に関するものだ」と書いた。

 刑法の名誉毀損罪の要件は日韓ほぼ同じだが、今回適用されたインターネット上の侵害行為を取り締まる韓国の「情報通信網法」の名誉毀損は「ひぼうの目的」が必要となる。示した事実が虚偽の場合、刑法なら最高刑が懲役5年だが、情報通信網法は最高懲役7年で、罰則もより厳しい。ネットの波及力の強さを考慮したものだという。

 日韓の言論法に詳しい韓永学・北海学園大教授は「韓国では報道機関に対する刑事訴追は少なくない」としたうえで「取材・報道の自由は市民の知る権利の充足に欠かせないもので、刑事訴追は極めて慎重であるべきだ」と指摘する。

 今回の起訴については「報道の萎縮を狙った面があり、行き過ぎの感が否めない。韓国内でも一部報道された内容をベースとしており、報道機関に求められる注意義務にただちに違反するとまでは言えない」と批判した。

 一方、韓国法に詳しい高初輔弁護士(東京弁護士会)は「沈没事故当日の大統領の行方という公共性のある問題であり、罪の成立の要件である『ひぼうの目的』があったかどうか微妙だ。裁判ではこの点が有罪、無罪を分けるポイントになる」と指摘。「表現の自由や報道の自由を萎縮させるもので、起訴しないという選択もあったのではないか」と起訴に疑問を呈した。

 日本の場合、刑法の名誉毀損罪は「公然と事実を示し、名誉を毀損した場合」に、3年以下の懲役、禁錮または50万円以下の罰金が科せられる。近年は毎年数十人が起訴されている。

 ただ、日本ではメディアによる名誉毀損は民事の問題とされる傾向にあり、ベテラン裁判官は「言論の自由が問題になることも多いので、報道関係者が刑罰の対象になることは想定しにくい」と話す。

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