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[インタビュー]3000枚以上を収集 バンドTシャツしか着ない男

イサック・ウォルターという男は数えきれないほどのバンドTシャツを所有している。既に所有枚数を正確に数えていないとのことだが、その数はおおよそ3000枚。彼が運営するブログ「Minor Thread」を覗いてみると、音楽への情熱に加え、バンドTシャツへの飽くなき欲求心を垣間見ることができる。

そもそもウォルターが運営する「Minor Thread」というブログは、彼自身が500日間連続で違うバンドのTシャツを着ることができるのかを試してみたいという動機で始められたものだ。その結果、500日を簡単にクリアしたウォルターは、それだけに飽き足らず、1000日間違うTシャツを着続けることを決意し、いとも簡単にクリアしてしまった。

「あとどれくらいこのプロジェクトを続けられるのか」という質問を電話越しにぶつけてみたところ、「少なくともあと2000枚以上は未着用のバンドTシャツが残っているね」と答えた上で、「これは永遠に終わらないプロジェクトなんだ」と語ってくれた。

ウォルターは音楽に人生の全てを捧げているといっても過言ではない。20代のうちはレコード店で働き、その後レーベルで様々な仕事を経験した上で、最終的にはMySpaceが運営する音楽サイトの編集長に就任した。もちろん今でも仕事は続けているものの、基本的には自身のTシャツ収集プロジェクトにほとんどの時間を費やしているようだ。

彼は自分の着ているTシャツへの愛着、当のバンドとの関係、その他細かい音楽に関する様々なことをブログにぶちまけている。たまに誤植を非難されたりもしているが、それでも彼の情熱と90年代の南カリフォルニアのパンクシーンに関する圧倒的な知識には誰しもが惹き込まれてしまうはずだ。というわけで今回はそんなウォルターにバンドTシャツにのめり込んだきっかけ、そしてその目的について語ってもらった。

bandt_20141008_02.jpgでは早速一番初めに買ったTシャツについて教えてもらえますか?

それはなかなか難しい質問だね。実際に一番最初がどれだったかは定かじゃくて。無料のライブに行って、バンドを直接サポートするためにTシャツを買ってたってのが始まりかな。物販でTシャツを買うことは彼らに直接お金がわたるわけで、バンドマンの生活費のためにはこれが最善策なんだよ。「彼らにお金を払いたい、だからグッズを買う」みたいに当時から思っていたね。僕は今でもよくライブに行くんだけど、Tシャツは買うからね。あ、もしかしたら一番初めについて思い出したかもしれない。確かではないんだけど、DEVO(※1)のTシャツじゃなかったかな。「New Traditionalists」(※2)が出たときだったね。緑がかった青色に黒の袖にちょっと変わった代物だった。袖に宇宙飛行士のプリントがあってね。1981年のアルバムのジャケットでメンバーが着ていたTシャツで、それがライブのときに売っていたんだ。残念ながらもう持っていないんだけど。

何で持ってないのですか?

破れてしまったか、シミがついてしまったか・・・Tシャツをいっぱい持ってると、なぜか逃げていっちゃうわけ。付き合っている彼女が持っていってしまったりするんだ。「このTシャツかわいい!今度着てみようっと」みたいな。そんな感じで、突然なくなっちゃうんだ。

これまでで最も長持ちしているのはどのTシャツですか?

Descendents(※3)のTシャツじゃないかな。自分でメールを送ってオーダーしたんだ。当時サクラメント(※4)のフローズンヨーグルト屋で働いていたんだけど、そこでお金をくすねたんだ。どうしようもないやつだったわけなんだけど、そうしないとTシャツなんて買えなかったんだ。だからバンドのHPに直接だったか、イケてないフォーマットにメールオーダーをしたか何かでグッズを注文した。確かDescendentsの86年のツアーTシャツでライブには行けなかったんだけど、Tシャツを買うことでバンドに対して感謝を表明したって感じだったね。

ブログの中で、このプロジェクトの醍醐味はアーカイブしていくプロセスにあると書いていましたが、これまでで最もグッと来たTシャツの思い出はどういったものですか?

刺激を受けたライブで手に入れたTシャツは全部感慨深いものがあるね。説明するのは難しいんだけど、それぞれにたくさん思い出が詰まっているんだ。そんな中でライブには行ってないんだけど、思い出深いTシャツが1枚ある。それはNOFXの「Cokie the Clown」(※5)のTシャツで、バンドのフロントマンのファット・マイクとテキサスのオースティンでずっと一緒に遊んでいた頃を思い出させてくれるんだ。彼は本当に自分に馬鹿正直に生きているんだよね。彼にとっては普通のことなんだろうけど、僕にとっては何もかもが初めての経験だった。SXSW(※6)でのライブ中に小便の入ったテキーラのショットを観客に配ったりなんかしてね(笑)

それからスミスの「Strangeways, Here We Come」(※7)のTシャツも思い出深い1枚。ガキの頃にこのカセットがずっと車の中にあって、デッキの中にずっと入ったままになっていたんだ。学校の行き帰りに本当にずっと聴いていたんだ。文字通りテープが擦り切れるまで聴いていたよ。だからこのアルバムを聴いたら学校に車で向かっているような気分になるし、Tシャツを見ただけで当時の車内の匂いとか通学路の景色が自動的に頭に浮かんでくるんだ。

Tシャツはどこで見つけてくることが多いですか?

僕のコレクションの75%はライブ会場で買っていると思う。他だとeBay(※8)で購入することが多いかな。大体ライブ会場で探して買うんだけど、たまになくしてしまうこともあるんだよね。例えば数週間前にグリーンデイの1992年のバレンタインデーのライブのTシャツを着ていたんだけど、これなんかはずっと昔にも持ってたことをはっきり覚えていて、それがダメになっちゃったんだよね。なんたって3枚パック5ドルくらいのクオリティの白シャツだったわけだから。ずっと後にまたeBayで同じTシャツを見つけたからすぐに買いなおしたよ。たまにもうどこにもなかったり、eBayで500ドルみたいなこともあるので、自分でリメイクしたのを着ていることもあるよ。

ヨレヨレになったヴィンテージのストーンズTシャツに500ドル払うってことはないわけですね。ではこれまでに一番高かったTシャツはどれですか?

7 Seconds(※9)のTシャツは、探し出して買ったね。というもの僕が行った初めてのパンクロックのライブだったんだ。120ドルもしたんだけど、それだけの価値があった。なんたって自分が中学生のときに初めて行ったパンクロックのライブだったわけだからね。そのTシャツを手に入れることは僕にとってかなり重要なことだったわけ。あとローリングストーンズは、僕にとってはあまり意味のないバンドなんだ。もちろん素晴らしいバンドだよ。でも個人的な関係は特にない。それに比べてグリーンデイなんかはシカゴのパンクロック箱のGilman Streetで35回も観てるんだよね。こっちの方がよっぽど関係性が深いって言えるわけだよ。

コレクターとしては、どういった希少性が重要なのですか?もしTシャツのデザインがもの凄いイケているけれどもアーバンアウトフィッターズ(※10)で大量生産されているみたいな場合は買ったりすることはありますか?

まあ絶対に買わないね。大量生産されてアーバンアウトフィッターズで売っているみたいなものは全く特別ではないんだ。一方で、バンドが「86年のTシャツを再プリントして200枚だけ売る」みたいなことを言ったとすれば、それは特別なものになるんだ。

他よりTシャツも頻繁に着たいと思うものはありますか?

残念なことに僕はこういうプロジェクトを継続しているので、1052日間同じTシャツを着たことがないんだ。一度着て洗濯して乾かして、プラスチックの箱に入れて地下に保存している。僕は自分にフィットするTシャツしか集めないのだけど、ちょっと不幸なのは、たまにとてもカッコいい80年代のTシャツが欲しいと思うこと。何故かというと80年代のXLのサイズはとても小さかったりするんだ。まあそういった理由もあって、昔のものがいいってわけでもない。腕を出す2つの穴と頭を出す1つの穴、そして体を出す一つの穴、この3つがあるってことだけが80年代のTシャツ作りの唯一の決まりだね(笑)

良いTシャツを作る特定のブランドはありますか?

僕は厚手で襟の大きいシャツを好むちょっと古い世代の人種。まあ最近の若い子はどんなTシャツがいい品質なのかを理解していると思うよ。50%が綿で50%がポリエステルというものが一番品質がいい。僕はFruit of the Loom(※10)のTシャツが一番好みなんだよね。アメリカンアパレルのTシャツなんてのと比べると全然モノが違う。そういうTシャツはやっぱり20年経ったときにヴィンテージ品のような見た目にはならないから。ヨレヨレに伸びてダサくなっちゃうからね。

「特に興味はないけれど洒落で」という感じで買ったTシャツはありますか?

R.ケリー(※11)のTシャツがそれに近いかな。個人的にはよく分からないところが多いけれど、数曲は好きな曲があるし、もちろん本当に素晴らしいエンターテイナーだと思うよ。ただ最初から最後までR.ケリーの歌詞を暗唱できたことはないね。あとカニエ·ウェストのTシャツも持っていないね。何かダメなんだよなあ。

リリー・アレンのTシャツは?

そうだなあ。まあ持ってる唯一の理由は、MySpace時代に彼女のライブに立ち会ったからだよね。それだけかな。

コレクションするもの中では、Tシャツというものはそこまで風変わりなものではないと思いますが、そのあたりはどうお考えですか?人形を集めてるみたいなわけではないですし。

そうだね。自宅にガラスケースがあってそこに保存しているみたいなことはないからね。毎日着て見せて回っているという感じだから。

以前少しネットで話題になった「コンサートTシャツルール」をご存知ですか?

聞いたことないかな。

ルール①「ライブ当日にはそのバンドのTシャツを着ない」、ルール②「現場で買ったTシャツをすぐ着ていけない」みたいな感じなんですが。

なるほど。そういう意味では結構その通りにしているかも。そのルールに乗っ取っていない奴らは、確かにちょっと目障りかもしれないね。「Tシャツゲット!このバンドが好きで、今日はマジで興奮してるぜ!」みたいなことを大げさにアピールしているように感じるからね。自分はそういう感じになりたくないから、結果としてルールを守っているんじゃないかな。まあでも僕はスレイヤー(※12)のコンサートにR.ケリーのTシャツを着ていって、特にそのことについて振り返って考えたりしないタイプだけど。まあほっといてくれって感じだよ。

僕もコールドプレイのコンサートにバッド・レリジョン(※13)のTシャツを着ていったことがあります(笑)あと発売されたほとんどのTシャツを持っているアーティストはいますか?

確実にDescendentsだね。お気に入りのバンドの一つだし、彼らはグッズ販売にすごく理解があるんだ。特別なライブがあればTシャツを作って売り出す。Tシャツを買わないと決めていても、実際手に入れないと後々頭に浮かんで欲しくなってくるんだよ。何だっけなあ、あの頭文字の・・・

FOMO (Fear Of Missing Outの頭文字)のことですか?

そうそれだ。手に入れられない恐怖ってやつ。

お気に入りのバンドベスト5を教えてもらえますか?

正直5つもいないけれど3つなら簡単。Descendents、ニューオーダー、そしてスミス。昔からずっと聴いているし、感謝しているバンドだよ。10代の頃に聴いていたときと同じくらい今でもよく聴いているしね。

それでは最後の質問です。 あなたは2014年の3月20日にドライヴ・ライク・ジェフ(※14)のTシャツを着ていましたが、Donut Friend(※15)には訪れたことはありますか?確かドラマーのマーク・トロンビーノがオーナーだったと思うのですが。

もちろんさ。僕はJets to Brazil(※16)の大ファンだからね。あそこはフォークとナイフでスニッカーズを食べるような感じのお店で、ドーナツをワンランク上の食べ物にしたって言えるんじゃないかな。

bandt_20141008_03.jpgTranslated & Edited by Shotaro Tsuda


脚注

(※1)DEVO:1970年代後半に登場したアメリカ発のニューウェーブバンド

(※2)New Traditionalists:1981年発表のDEVOの4thアルバム

(※3)Descendents:1978年に結成されたカリフォルニアのパンクロックバンド

(※4)サクラメント:米カリフォルニア州北部に位置する都市

(※5)Cokie the Clown:カリフォルニア出身のパンクロックバンドNOFXが2009年にリリースした楽曲

(※6)SXSW:サウス・バイ・サウスウエスト。アメリカのオースティンで毎年開催されている音楽を中心とした大規模なフェスティバル

(※7)Strangeways, Here We Come:イギリスのロックバンド、スミスの4thアルバム。1987年発表の実質的なラストアルバム。

(※8)eBay:欧米で最も人気の高いオークションサイト。日本でのヤフオクのような位置づけ

(※9)7 Seconds:1980年に米ネバダ州で結成されたパンク・ロックバンド

(※10)Fruit of the Loom:1871年創業の世界有数の米国アパレルブランド

(※11)R・ケリー:シカゴ出身のR&Bシンガーソングライター、音楽プロデューサー。

(※12)スレイヤー:1981年に米ロサンゼルで結成されたメタルバンド

(※13)バッド・レリジョン:1979年にロサンゼルスで結成されたパンク・ロックバンド

(※14)ドライヴ・ライク・ジェフ: 1990年に結成された米サンディエゴ出身のポスト・ハードコアバンド

(※15)Donut Friend:ロサンゼルスにある人気のドーナツ店

(※16) Jets to Brazil:ニューヨーク・ブルックリン発のインディバンドJets to BrazilをもじったJets to Bazilという人気メニューがDonut Friendに存在