「テロ対策」の名の下に、人権の制約や監視社会化がさらに進むのではないか―。懸念が拭えない。
国連安全保障理事会が、中東で台頭した「イスラム国」など過激派勢力に加わる外国人の処罰を国連加盟国に義務付ける決議を採択した。テロ参加目的での海外への渡航や資金集めを重大犯罪として国内法で訴追、処罰する、としている。
イスラム国の掃討を進めるオバマ米大統領が安保理の首脳級特別会合を主宰。決議案は、日本を含む100カ国以上が共同提案国となり、採択は全会一致だった。
背景には、過激派に加わる外国人が母国に戻ってテロを起こすことへの各国の強い警戒感がある。米国がイラクに続きシリアにも空爆を拡大したことが過激派のさらなる反発を生み、テロが拡散する危険性も高まっている。
会合でオバマ氏は、これまでに80カ国から1万5千人以上が戦闘員としてシリアに入ったと述べた。中東やアフリカのほか、欧米各国の出身者も数千人に上るとされ、その多くがイスラム国に加わったとみられている。
決議は、外国人戦闘員が紛争を激化させ、対処をより困難にしていると指摘。加盟国に、外国人戦闘員を含むテロリストの行動や動向に関する情報交換を強化することも求めた。
問題は、過激派に加わろうとする「危険人物」をどう把握するのかだ。渡航や資金収集を防ごうとすれば、通信の傍受やインターネット上での情報収集といった監視の強化が不可欠になる。
市民の個人情報が知らぬ間に利用され、プライバシーが損なわれるだけでなく、思想・信条の自由が脅かされる。不当な逮捕、拘束による人権侵害にもつながる可能性がある。
2001年の米中枢同時テロ後、米国は厳しい監視社会化が進んだ。テロの容疑者として無実のイスラム系市民が拘束されるなど、人権侵害も日常化した。テロの脅威が声高に叫ばれ、自由な社会が変質したと指摘される。
テロ防止を理由にした治安対策の強化や監視社会化は、米国以外の国々にも及んだ。日本でも、テロ行為に関与する恐れのある人物の資産を凍結する新法の制定が具体化している。話し合いに加わっただけで処罰対象になる共謀罪を新設する動きもある。
安保理決議を後ろ盾に、こうした法整備が一気に進めば、市民社会の土台が揺らぎかねない。その危うさにしっかり目を向けたい。