発光ダイオード(LED)の原理は知らなくても、現代の先進国でLEDの恩恵にあずかっていない人はほとんどいないだろう。

 電気を直接光に変えるから省エネで長寿命、小型の照明が可能になった。この10年ほどで、交通信号やLED照明、大型ディスプレー、携帯電話などに爆発的に使われるようになった。

 さらに半導体レーザーに道を開き、記憶容量の大きいブルーレイディスクが実現した。

 今年のノーベル物理学賞は、LEDの中でも最も難しかった青色LEDの実現で世界に貢献した3人の日本人研究者に贈られることになった。社会に役立った研究者に賞を贈ろうというノーベルの遺志に沿うものだ。

 赤崎勇・名城大教授と天野浩・名古屋大教授の師弟は、名古屋大で明るく輝くLEDに欠かせない良質な結晶を作った。世界の多くの研究者があきらめた窒化ガリウムという物質にこだわり続けた末のことである。

 中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授は、徳島県の企業研究員時代に、失敗に失敗を重ねながら結晶を大きくする方法を開発し、青色LEDの製品化にこぎつけた。

 赤、緑、青の光の三原色のLEDができれば、光革命が起きることは世界中の研究者がわかっていた。しかし、青色だけは困難を極め「20世紀中には不可能」とまで言われていた。

 3人に共通するのは、愚直なまでに一つの道を追求し続けたことである。

 その粘り強さをたたえる一方で、今の日本でもこうした地道な研究が実を結ぶだろうかと心配せずにいられない。

 目先の成果を追い求める風潮が強まる一方で、企業研究者の貢献が軽視される傾向が、あちこちで見られるからだ。

 大学では、研究資金の配分に競争の要素が色濃くなって、短期的な成果が求められるようになった。今でも赤崎さんや天野さんのような研究に、成功までの時間が与えられるだろうか。

 中村さんは世界的発明にもかかわらず、所属企業で厚遇を得てはいなかった。

 中村さんは企業を辞め、米国の大学へ転出。自らの特許権にもとづく「相当の対価」を求めて古巣を提訴し、最終的に8億4千万円の支払いで和解した。

 中村さんの異議申し立てから約10年。果たして、企業は社員に十分、報いるようになっているのだろうか。

 イノベーションを掲げながら芽を摘んではいないか、喜ぶだけでなく施策も点検したい。