社会

時代の正体(33)慰安婦問題 日韓学生アンケート(上)目立つ「今更」 歴史への距離感なぜ

 旧日本軍の従軍慰安婦の調査研究に取り組む市民団体「『戦争と女性への暴力』リサーチ・アクションセンター」は日韓の大学生約4千人を対象に慰安婦問題について意識調査を行った。それによると、被害者への謝罪と補償が必要と考える学生は日本でも6割を超えていた。慰安婦問題を教え伝えることを求める声も同程度ある。一方で、「そうは考えない層は3割に上る。社会状況が変われば多数意識は簡単に転換する」との指摘が識者から出ている。

 従軍慰安婦問題で「今後、日本政府は被害者に対する謝罪と補償を行うべきだと思うか」と聞いたところ、日本の学生の66・4%は「行うべきだ」と回答した。「行う必要はない」は12・1%で、「すでに謝罪・補償は終わっている」は21・3%だった。

 一方、韓国では謝罪・補償を「行うべきだ」が、98・2%で多数を占めた。「必要はない」は0・6%、「すでに終わっている」は1・2%といずれもわずかだった。

 謝罪・補償を「行うべきだ」と回答した学生には「日本政府はどのようなことを行うべきだと思うか」と質問した(複数回答可)。

 日本では「教科書などに『慰安婦』問題を記載して、若い人たちに事実を教えるべきだ」という選択肢を選んだ学生が66・7%で最も多く、「国家の法的責任を認め、国家として被害者全員に謝罪・補償すべきだ」が55・1%で続いた。

 韓国では「国家の法的責任を認め、国家として被害者全員に謝罪・補償すべきだ」が87・5%、「教科書などに『慰安婦』問題を記載して、若い人たちに事実を教えるべきだ」が81・5%、「資料をすべて開示し、真相を究明すべきだ」は75・3%だった。

 謝罪・補償は「すでに終わっている」と回答した日本の学生に理由を聞いたところ、1965年に戦後賠償などをめぐり日韓が結んだ「日韓基本条約」を理由とした学生が58・9%で最も多く、次いで第2次世界大戦の戦争犯罪を裁いた「東京裁判」という回答が24・3%で多かった。

 慰安婦問題をめぐっては、朝鮮人女性を強制連行したとした「吉田証言」についての記事を朝日新聞が取り消したことをきっかけに、問題の存在自体を否定する言説が一部メディアで繰り返される状況になっている。

 今回調査を行った「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクションセンター共同代表の西野瑠美子さんは「問題自体を捏造と主張する事実を無視した論調は、人権侵害としての慰安婦問題に向き合わず、強制連行を否定してきた日本政府の姿勢が生み出している」と指摘し、「人権の視点を持たずして慰安婦問題の解決はない。謝罪と補償をするべきだという若者の声を安倍政権は重く受け止めるべきだ」と話している。

◇「メディアに同調せず」

 日韓の学生のアンケートから和解への道筋をどう描くか。横浜市立大の中西新太郎・名誉教授(社会学)は人権の問題として慰安婦問題を捉え直す必要性を説く。

 若者の右傾化が指摘されているが、6割を超える学生が「謝罪・補償を行うべきだ」と回答しており、近年の歴史修正主義的な政治やメディアの動向に必ずしも同調していないことがうかがえる。

 ただし「すでに謝罪・補償は終わっている」「行う必要はない」という回答を合わせると3割強になる。相当の厚みがあり、多数に転じ得る意識といえる。社会状況が変われば簡単に転換するだろう。

 自由記述をみると、謝罪・補償に否定的な声として「いまさら、何が本当か、はっきり分からない」「いまさら過ぎる」「いまさら謝っても遅い」などと書かれ「いまさら」という記述が多かった。「慰安婦は過ぎたこと」「過去を制限なく掘り起こして問題を挙げるのはいかがなものか」と、過去や歴史から心理的な距離感を持っていると考えられる。

 歴史的現実と自分を関係させる視点を持ち得ず、慰安婦問題を過ぎたことと捉えるのはなぜか。

 「戦争に慰安婦問題はつきもの」「戦争なら許される」と、戦争時の行為について善悪は論じられないと考える記述が多い。被害者の苦難を人権侵害とみる視点が乏しかった。戦後の日本が戦争責任と向き合ってこなかったことが理由の一つにあり、若者だけではなく日本社会全体の問題といえる。

 韓国の学生の自由記述からは、被害者の人権が侵害されたことを問題視していることがうかがえる。例えば「慰安婦の方々が現実にこうむった性暴力や被害をしっかりと受け止め、考えたい」という記述がそうだ。

 日本では性暴力や性の尊厳が奪われるような人権侵害と闘っていくという理念が成り立っていない。慰安婦問題を人権侵害の問題という枠組みで捉え直すことが必要だろう。

◆調査の方法

 「戦争と女性への暴力」リサーチ・アクションセンターが日韓の大学教員らを通じて調査用紙を配布し、回収する方法で行った。日本の大学生3007人と韓国の大学生1126人が対象。日本国内での調査は2013年7月から12月までに延べ122大学の授業で実施。韓国では13年3、4月に14大学で実施した。9月27日に都内で開いたシンポジウムで結果を公表した。

【神奈川新聞】