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【社会】

国立解体 不可解対応 入札やり直し 入札前日に費用内訳開封

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 二〇二〇年東京五輪・パラリンピックの主会場として建て替えられる国立競技場(東京都新宿区)の解体工事の入札は「公正性を欠く手続きがあった」(内閣府の政府調達苦情検討委員会)として、十一月にやり直す異例の事態となった。入札参加業者らの証言からは、工事を発注する文部科学省所管の独立行政法人「日本スポーツ振興センター(JSC)」による、ずさんで不可解な対応が浮かぶ。 (清水祐樹)

 解体工事は南北の二工区に分かれる。五月の入札では、各社の入札価格がすべて予定価格を上回ったため、やり直しとなった。

 七月の再入札では、両工区に延べ十三社が参加。JSCは、入札前日から不可解な動きを見せていた。入札参加業者が入札書と工事費内訳書を持参した際、入札前にもかかわらず、JSCの担当者が開封して中身を確認したのだった。

 「いきなり封を開けて中身を見たので『えっ』と思った」。業者の一人は目を疑ったという。内訳書を見れば、業者の入札額が分かるからだ。しかもJSCは同じ日に予定価格を決めた。業者側は「各社の入札額を先に確認してから、予定価格を決めたと疑われても仕方ない」と批判する。

 そして入札当日。両工区とも最低価格を提示したのは都内の業者だったが、JSCは「特別重点調査」の対象として契約は保留。南工区では二番目に低い価格を示した都内の別の業者も調査の対象とした。

 特別重点調査は、過度な安値落札による手抜き工事や「下請けいじめ」を防ぐため、国土交通省が二〇〇六年に導入した制度。過度なダンピングの疑いがあれば、発注側は業者から積算根拠などの説明を求め、合否を決める。国交省によると、同省が一二年度に発注した公共工事約九千件のうち、特別重点調査の対象はわずか五件で、うち失格は一件だけだった。

 調査に対し、両社とも大量の追加資料を提出し、見積もりの正当性を主張したが、失格。「JSCの調査は書類の形式的な不備などを挙げるだけで、具体的な指摘はなかった」と口をそろえる。国交省の担当者は「業者にとっては死活問題なので丁寧に調査する。書類の不備で失格とすることはない」と説明する。

 結局、南北二つの工区で両社の次に低価格を提示した埼玉県内の業者が落札した。落札額は計三十八億七千百八十万円(税込み)。最低価格を提示しながら失格となった業者が、検討委に苦情を申し立てていた。

 検討委は、入札前日に内訳書の事前開封と並行して予定価格を決めた点を問題視。九月三十日に「予定価格の決定が恣意(しい)的に操作されたとの疑いを持たれる行為」との報告書をまとめ、JSCに入札のやり直しを求めた。当初、七月に始まる予定だった解体工事は、十二月中旬以降にずれ込むことになった。

◆「適正な基準で判断」

 特別重点調査の方法や内容について、JSCの担当者は本紙の取材に「国交省と同じ基準で適正に判断している。この低価格では適切な工事ができない恐れがあると判断した場合、失格としている」と説明。七月の入札で二社を失格とした理由については「どこが駄目だったかということは、業者の不利益につながるので言えない」と答えた。

◆国会で疑惑追及を

 五十嵐敬喜(たかよし)法政大名誉教授(公共事業論)の話 五月の入札は業者の入札金額が高すぎてやり直しになったのに、七月の再入札では安い価格を入れた業者を十分な説明もなく失格としており、不可解だ。検討委の指摘は形式的な手続きの問題点にとどまるが、JSCに入札のやり直しを提案したのは、それだけ疑惑が濃いということだろう。国会で追及すべき問題だ。

 

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