October 6, 2014
メキシコと南アジアが飢饉に見舞われた20世紀半ば、人々を窮地から救ったのは農作物を専門とする研究者たちだった。メキシコの国際トウモロコシ・コムギ改良センター(CIMMYT)とフィリピンの国際稲研究所(IRRI)が小麦と稲の高収量品種を開発し、飢えを食い止めたのだ。
改良された作物種子や灌漑システム、合成肥料、農薬の導入という栽培方法の飛躍的な進歩によって穀物の収量は向上し、のちに緑の革命と呼ばれるようになった。
過去半世紀の農業生産向上の背景には、このような種類のイノベーション、つまりすでに存在した農地での農作物や畜産物の増産がある。また、それを可能にしたのが農業研究への投資であることを複数の研究が示している。
だが、過去20年間で増産ペースは減速し、アメリカやヨーロッパ各国を含む先進国における農業研究への公共支出は横ばい状態になっている。人口が2100年までに110億人に達するとされ、世界各地で歴史的な・・・
改良された作物種子や灌漑システム、合成肥料、農薬の導入という栽培方法の飛躍的な進歩によって穀物の収量は向上し、のちに緑の革命と呼ばれるようになった。
過去半世紀の農業生産向上の背景には、このような種類のイノベーション、つまりすでに存在した農地での農作物や畜産物の増産がある。また、それを可能にしたのが農業研究への投資であることを複数の研究が示している。
だが、過去20年間で増産ペースは減速し、アメリカやヨーロッパ各国を含む先進国における農業研究への公共支出は横ばい状態になっている。人口が2100年までに110億人に達するとされ、世界各地で歴史的な干ばつが起きている中、これは恐ろしい事態だ。
2012年に「Science」誌に掲載された米国農務省のデータに基づく報告では、農業研究に対する公的支援の縮小が収量低迷や食糧価格上昇の一因である可能性が指摘されている。一方、農薬に強い遺伝子組み換え作物の開発など、民間からの資金提供による農業研究が大半を占めるようになった。
◆農業研究の再活性化を求める声
基礎研究や収量向上の低迷を危惧する科学者や研究グループらは、公的資金による農業研究の重要性を訴えている。
連邦議会は新たに設立された食糧農業研究財団(Foundation for Food and Agricultural Research)に対し、研究助成金向けに2億ドルを割り当てている。健全な動きではあるが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)には150倍の300億ドルが割り当てられており、保健医療研究に充てられる公的助成に占める食糧供給への投資の割合が極めて小さいことも浮き彫りとなった。
世界的な農学研究者らによるコンソーシアム、国際農業研究協議グループ(CGIAR)が先月初めて開催した会合で、世界資源研究所のティム・サーチンガー(Tim Searchinger)氏は迫り来る課題を次のように説明した。
サーチンガー氏によると、予想される食糧需要を満たすためには、地球上に残っている森林をすべて切り倒さない限り、緑の革命があった1940年代から1960年代までの間に増えた収量の3分の4に相当する量を現在の農地で増産する必要があるという。農業研究を再び重要視する動きを率いるCGIARは昨年末、15カ所あるセンターに10億ドルの研究資金を投入することを明らかにした。
◆“効果のある”知識を提供
ティム・フォルジャー(Tim Folger)氏は「National Geographic」誌の2014年10月号に掲載された記事“次世代の緑の革命(The Next Green Revolution)”の中で、農学研究者らが直面する最大の課題は“効果のある”役立つ知識を農家に提供することだと述べている。
より良い農法を農家に伝授する前に、まずは最善の農法を見つける必要がある。息の長い地道な農業研究の出番はここだ。
具体的な研究テーマは、果物や野菜、穀物、家畜の生産、市場や生産に関する情報を共有する携帯電話ネットワークの構築、水の確保と貯蔵や灌漑に関するクリエイティブな構想、無駄を削減し穀物を虫やネズミから守る貯蔵法、太陽光を利用した照明、道路の建設や改良、現地の購買協同組合の設立、資金戦略の策定、農家の資本と収益増加を目的とするグループ市場の開設など。
新たな緑の革命では、元々の緑の革命を特徴付けた飛躍的な大発明に代わり、このような漸進的な研究に重きが置かれるとみられる。
◆必要なのは切迫感
2007年下旬、穀物飼育の肉の需要増大や低迷する収量、エタノール生産へのトウモロコシの転用を背景に食糧価格が高騰した。売る側の農家にとっては好ましい価格上昇だが、買う側となる世界中の貧困層が痛手を受けた。以来、人口や所得の拡大、食糧や穀物飼育の肉の需要増大、穀物に悪影響を及ぼす異常気象事象、バイオ燃料への穀物転用などにより、食糧価格は常に2010年のレベルを上回っている。
50年以上前の“緑の革命”で小麦の高収量品種の開発に取り組んだ際、ノーマン・ボーローグ(Norman Borlaug)氏は切迫感に突き動かされていたという。彼と同じ切迫感を抱き、農業研究を再び最優先事項とすれば、誰もが恩恵を受けられるに違いない。
Phorographs by Jim Richardson / National Geographic Creative