「アジアでトップクラスの英語力を目指すべきだ」。文部科学省の有識者会議が、そんな英語教育の提言をまとめた。

 英語教育の目的とは何か。

 日本の英語の国際的なテストの平均点は確かにアジアで最低レベルだ。だが、最も肝心なのは国のランクではない。子どもたちが異なる文化に触れ、さまざまな価値観の人々と出会い、その世界を広げることだろう。

 カギを握るのは教員の力だ。

 提言は、小学5年からの「外国語活動」を中韓と同じように小3から始め、小5からは英語を教科として教えるという。

 小学校の教員免許には英語は含まれていない。教科だと専門の知識が必要となるが、小学校の教員で中学校外国語科の免許を持つのは4%に過ぎない。

 韓国は小3から英語を導入するとき、担当教員に120時間の研修をした。日本でも、きちんとした研修が必要だが、多忙な教員たちがふだん、ゆとりを見つけるのは難しいだろう。

 有識者会議は、「読む」「書く」「話す」「聞く」の力を測るため、大学入試でのTOEFL(トーフル)など外部の資格・検定試験の活用を提案した。

 試験は既に3分の1以上の大学が利用しているが、留学用、ビジネス用など目的が違い、高校の授業や生徒のレベルに必ずしも合っているわけではない。

 受験料も5千円台~2万5千円台と気軽に受けられる額ではない。受験会場も多くない。今のままだと地方の高校生や家庭の豊かではない生徒に不利だ。

 これらの課題は、大学や試験団体などの協議会で検討する。当面はやむを得ないが、国が試験を開発し、何度も受けられる環境をつくるのが筋だろう。

 今回の提言は、決め方にも問題をはらむ。英語教育は、コミュニケーション力を重視するか、文法か、何歳から始めればよいかなどでさまざまな考え方があり、多くの論争がある。効果の検証も十分ではない。

 なのに昨年4月、自民党が教育再生実行本部で「抜本改革」を掲げると、その翌月、政府の教育再生実行会議が「小学校英語の早期化」を提案。さらに年末には、文部科学省が実施計画を発表した。

 有識者会議で、それらの方向の是非をめぐる議論は十分にはされなかった。識者の会議が政党や国の方針に追随するだけでは意味がない。

 具体的な授業の時間数や評価のありかたは、この秋から始まる新しい学習指導要領の審議のなかで検討される。学校現場の実態をくみ上げる議論を望む。