欧米各国や豪州、アジアの若者たちが続々と中東に渡り、イスラム過激派のために戦う。戦闘員として経験を積むと、今度は母国に戻って、市民社会を標的にテロを準備する――。

 このような悪夢が、イラクとシリア国境地帯を本拠とする組織「イスラム国」の伸長で、現実のものとなりつつある。危機感を募らせた欧米などの主導で、国連安全保障理事会は、テロに対する措置を各国に求める決議を全会一致で採択した。

 ただ、テロリストを摘発しようと治安対策ばかり強化しても、根源的な解決は導けない。なぜ若者が過激派に走るのか。その土壌となっているそれぞれの国内問題に取り組み、「テロリストを生まない社会」を築く努力が必要である。

 そのためには、心理学者や宗教者、教師、カウンセラーら、若者たちと接してきた専門家との協力も求められるだろう。幅広い知恵を結集し、息の長い取り組みを続けてほしい。

 「イスラム国」には、約80カ国から1万5千人以上が戦闘員として合流したとみられる。フランスや英国、ドイツなどからは数百人単位に達するという。

 それぞれの国のイスラム系移民社会の出身者や、キリスト教からの改宗者が目立つ。多くは、貧困や失業に直面し、差別や偏見を受けて、母国で疎外感を抱いた若者たちだ。彼らに対して、過激派の巧妙な勧誘と宣伝が功を奏している。

 安保理の決議は、このようなテロリストが国境を越えて移動するのを防ぐよう、各国に要請した。

 確かに、テロを防ぐ司法・治安対策と、それに向けた各国の連携は必要だ。ただ、取り組みを進めるうえでは、細心の注意が求められる。目的を追求するあまり、それぞれの国が培ってきた市民の自由や人権が損なわれてはならないからだ。

 テロ組織は暴力的で、動きも見えにくい。そのような相手に民主的な手法で対抗するのは、極めて難しい作業だ。

 だとしても、欧米がテロ組織と同じレベルに立って力で応じれば、民主国家としての存在意義が問われるだろう。

 ジレンマを抱えての、難しい戦いである。民主国家の耐久力が試される。

 自由や人権の確保と、テロ対策とを、どう両立させるか。開かれた議論を重ねつつ、解決策を探る姿勢が欠かせない。

 ボーダーレスのいま、日本人が攻撃に遭う可能性もある。テロと向き合う国際論議に私たちも積極的に参加すべきだ。