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全医科大学に老年医学講座を−日本学術会議が「これからの医療」提言

医療介護CBニュース 10月1日(水)16時22分配信

 日本学術会議の臨床医学委員会老化分科会(委員長=大島伸一・国立長寿医療研究センター名誉総長)は、「超高齢社会のフロントランナー日本:これからの日本の医学・医療のあり方」と題する提言をまとめた。臓器単位の治療を中心とするこれまでの「治す医療」から、生活の質(QOL)の最大化を目指す「治し支える医療」への転換を求め、具体策として全医科大学における老年医学講座の設置や、後期高齢者の治療・予防の研究推進などを訴えている。【大島迪子】

 提言では、今後も進行する高齢化に対応するため、老年医学の専門家の育成について、必要性を強調。その理由として、高齢者と若年者では医療の考え方が根本的に異なることを説明している。
 具体的には、若年者は一臓器、一障害という病態を取ることが一般的であり、健常な成人における臓器機能の平均値や臓器の形を「正常」ととらえる。一方で高齢者は、複数の臓器の機能低下がみられる場合が多く、「正常」を定義するのが難しい。
 合併症や加齢による原因不明の症状も多く、治療法や治療薬の開発には「多面的病因論」「複雑病因論」に基づくアプローチが必要だとしている。骨粗しょう症、認知症、動脈硬化性疾患、感染症など高齢者に多い「老年疾患」は、回復が遅く、患者の自立を妨げ、QOLを大きく下げるという特徴もあり予防が重要になってくるが、エビデンスに基づいた予防法は確立されていないという。

 現状の改善には、高齢者の診断や治療に精通し、多職種と連携する能力を持った「老年病専門医」の養成が不可欠だが、現状では全国の医科大学のうち高齢者医療・教育に特化した部門を持つ大学は3割ほどしかなく、この分野の教育を全く行っていない大学が多数。在宅・老年の専門看護師も60人しかいない。提言では、全医科大学への老年医学講座の設置のほか、老年病専門医が地域の中核病院でかかりつけ医などへの教育を行う卒後教育の仕組みの整備、出産や育児で離職した女性のこの分野での復帰促進などを提示している。
 研究分野でも、複数の疾患を持つようになる75歳以上の後期高齢者に焦点を当てた疾患の解明や、診断法、治療法、治療薬、予防法の開発が重要だと指摘。このほか、「治す医療」から「治し支える医療」への転換を、医学界をはじめ、国民に啓発する必要性なども強調している。

最終更新:10月1日(水)16時22分

医療介護CBニュース

 

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