東京都内で開かれた日本最大のブックフェア。
多くの大人たちが長い行列を作っていました。
皆さんのお目当ては意外にも児童文学作品なんです。
大人を魅了する児童文学。
書いているのは…上橋さんの作品は単純な勧善懲悪物ではなく多様な価値観が息づくファンタジー。
異なる歴史や言葉を持つ登場人物たちが互いを認め合う姿が描かれています。
ナホコ・ウエハシ。
上橋さんは今年児童文学のノーベル賞ともいわれる…価値観が多様化する現代。
人々に生き抜くヒントを与えてくれると審査員長は高く評価しています。
今も世界で多くの争いが起きています。
私たちがどうすれば平和に共存できるのか上橋さんは大切なメッセージを投げかけています。
善悪を描こうという気持ちは一切ないですね。
一つの視点で見た事が別の視点になると違う。
上橋さんはなぜそのような作品を書くようになったのか。
そして今後どんな物語を生み出そうと思っているのか。
原点と未来2つの「ここから」に迫ります。
さあ今日は上橋さんにお話を伺えるという事で上橋さんの卒業なさった品川区にある高校にやって参りました。
あっいらっしゃいました。
こんにちは。
すいません。
お忙しいところ。
初めまして上橋です。
よろしくお願い致します。
斉藤です。
光栄でございます。
こちらこそ光栄です。
よろしくお願いします。
上橋さんが青春時代を過ごした母校の香蘭女学校です。
あっそうそうそう。
これにもよく登ったんですよ。
これにも登って…。
足が掛けられる所があるでしょ?これに登って…。
懐かしいですね登った日が。
木登り好きだったんですよ。
すごい。
身軽〜!ジャンプして。
作家のイメージがガラガラガラと変わってる瞬間だと思いますが相当活発な女の子だった訳ですね。
いえいえ体弱いんですけどでも活発ではあったかもしれないですね。
よく体育の先生に出席簿で頭たたかれてましたから。
「いけないだろ!」ガツンってやられて。
カチンって…。
高校時代毎日のように通った図書室でお話を伺いました。
まずは受賞おめでとうございます。
本当にありがとうございます。
しばらく時間がたってどうですか?以前と変わりました?やっぱりタヌキに化かされてはいないかなという気持ちにちょっとなってきました。
最初信じられないと…。
最初信じられなかったんですけれどね。
本当に受賞したんだなっていう感じがしてきました。
身の回りで一番変わったなというところはどんなところですか?変わったって思うような暇もないくらい忙しいです。
「精霊の守り人」。
随分古い本ですね。
「守り人シリーズ」の第1作ですね。
拝読しましたが子ども向けじゃなかったですね。
私が書く物語よくファンタジーとか児童文学とかいわれますけれど私自身は最初にそういう事を考えてないんですね。
子どもにも届き大人にも届きだったらいいかなと思っているというだけであってそれは子どもだけに届かせようという気持ちはないです。
上橋さんの代表作「守り人シリーズ」です。
児童文学としては異例の370万部を売り上げ世界7か国語に翻訳されています。
主人公は架空の国の皇子。
自分の国の常識や神話だけを信じて生きてきました。
しかし父に命を狙われ女用心棒と共に外の世界へ旅に出ます。
その中で敵対する国々や異なる価値観を持った人々と出会っていきます。
そうした出会いを通じて皇子はこれまで否定してきた考え方を受け入れながら成長していきます。
世界には善悪に分けられない多様な価値観が存在する。
物語に込められたメッセージです。
そもそもファンタジーっていうとかっこいいヒーローが出てきて悪者やっつけて明るい未来を切り開くというような話を想像していたんですよ。
この表紙からいっても。
結局いろんな正義は出てきますけどどれが善悪にしないじゃないですか。
これは何かこだわりがあるんですか?もしこの世の中にまったき悪というようなものがあってその悪に対して人が何かをすればよいのであったらこんなに楽な事はないなと子どもの頃から思っていたんですね。
どの人も悪くないですよ。
みんな一生懸命生きてるし一生懸命幸せになろうとしてるし。
でもそれがうまくいかないという事の方が私にとって深刻な問題なんですね。
プロブレムなんですよ。
なので善悪を描こうという気持ちは一切ないですね。
むしろ万華鏡のように一つの視点で見た事が別な視点になると違う。
一番もし怖い事があるとしたら固定する事です。
ある一つの立場に止まってしまう事の方が私は怖いです。
その立場は動かしたら変わりますっていつも思ってしまう。
上橋さんはなぜ価値観が多様である事を描きたいと思ったのか。
残ってるんですか?残ってますよ。
すごい!見たい!何で?老眼なんで…。
図書室にそのヒントが残されていました。
36年前の図書カードです。
上橋さんは中学高校時代歴史やファンタジーなどさまざまな本を読んだといいます。
上橋さんの原点「ここから」。
それはここで出会った一冊の本でした。
「第九軍団のワシ」。
イギリスの児童文学作家ローズマリ・サトクリフが古代ローマを舞台に描いた歴史大河小説です。
物語ではローマ兵とその支配下にあったケルト人の青年が2人で旅をし互いの理解を深めていきます。
そうそうこの「第九軍団のワシ」が大好きで大好きでね。
多分私の原点ですね。
お互いの抱えてきたあるいは経てきた歴史すごく大きく違う訳ですよ。
片方は征服者であり片方は被征服者である。
人生の経験も違う。
現在の立場も奴隷とローマ兵士官だというようなこの2人が出会って人間対人間として出会った時に話し合いをしていく間に次第に彼らが自分たちの違い文化の違いであったり歴史の違いであったりを乗り越えようとする努力を始めるんですね。
それが私にはものすごく面白かった。
それを読んだ時にあれほど私が心を引かれた理由というのはやっぱり異なる立場異なる文化異なる歴史それを抱えている人々が集団として出会うとどうしても争いが起きざるをえなくてなかなか理解しようとする事ができない。
でもサトクリフが書いている言葉にその大きな溝を人と人とだったら越えられるかもしれないという事を書いてるんですよ。
本を読んでいてもどちらかの側しか書いてなくてどちらかの側だけに都合がいい話が苦手なんですよ。
読んでいる間に何か「はあ〜これは主人公にとっては都合がいいけれどやられた側はたまったもんじゃないよな」という気持ちがあるとちょっと引いちゃうというか気持ちが離れちゃうところがあるんですがサトクリフの本を読んでた時にそれが全くなかったんですよね。
それは実生活の中で一つの見方で物事を押し切れるほど単純じゃないというのを何か経験したり疑問に感じてたりしたんですか?それはあんまりないと思うんですよ。
そこまで人生経験豊富な子どもじゃなかったので経験があればそれを語りたいですけれどそういう事では多分なかったんだと思うんですね。
私はむしろ多分本を読んでいるうちにあるいはいろんな物語に出会っていくうちにそういう感覚を物語からもらったのかもしれないですね。
自分もさまざまな価値観を認め合う世界を描いてみたい。
上橋さんはその思いを更に決定づける経験をします。
文化人類学を専攻していた大学院時代です。
研究のために訪れたオーストラリアで一人のアボリジニの女性と出会いました。
白人からもアボリジニからもとても尊敬されているおばあちゃんだったんですね。
とてもみんなから親しまれてる人だった。
おばあちゃんに話を聞いた時に私はほかの人が信じている事例えばキリスト教であったりあるいは白人系のオーストラリア人の物の考え方というのを最初から否定するような事をしたくないと言われて。
みんなそれぞれ考える。
もちろん私たちも否定されたくはないけれどもそれぞれみんないろんな考え方を持っている。
一つの社会に一緒に生きてこの一つの世間に一緒に生きているんだからお互いがお互いの立場をいろいろ考えながらやっていかなきゃと思うんだよという事をとてもね力みのないそういう生活をしてきたんだろうという話し方で話をしてくれたんですね。
私にとってはもうそれはすごく大きな衝撃で図式的に先住民白人プロパガンダのようなもので動く人たちもいます。
いますけどそうでない人たちもいる。
生活者としての多文化な多民族の中で生活をしていく人たちの実感の中でこういう考え方もありえるんだなというのは私にとってはすごく大きかった。
そう考えると少女時代に図書館で読んだあの「第九軍団のワシ」の第一の「ここから」を初めて実体験の中で…。
実体験の中で感じたんですよね。
まさにそうですね。
考えてみると確かにそうで。
先住民であってそれこそ本当につらい事もいろいろ体験している方が白人の人たちと仲の良い友達になって一つの社会で和気あいあいと暮らすようになって。
そういうふうになっていくためにはどういう尊重のしかたをしてるかというのも生で見る事ができた訳ですよね。
それはすごく貴重な経験だったし私にとっては一つの人間の理想的な在り方ここまではいけるかもしれないと思えるとても現実的な理想の在り方っていうかなそういうものに出会った気がしました。
この経験が上橋さんの作品の土台になっています。
代表作「守り人シリーズ」でも異国を旅する主人公の皇子に異なる民族の老婆がこう語りかけます。
「私はよその国の神話だからといってそれを頭から否定するほどバカじゃない。
どこの国の人でも皆気が遠くなるほど長い年月をかけてこの世の本当の姿と成り立ちを知ろうとしてきた」。
異なる考え方を認め合う上橋さんの世界。
今多くの大人たちが引き込まれています。
今年就職のため上京し1人暮らしを始めた…新たな人間関係を築く上で悩む事も少なくありません。
そんな時いつも手に取るのが上橋さんの本。
登場人物たちが互いを尊重して生きる姿に教わる事が多いといいます。
上橋さんの本って…理解できるようになるのかなって思いますね。
大人の方がね私たち取材してるとかなりこの本に救われたという方多いんですね。
私ね基本的には物語って絶対何かの役に立とうと思って書いちゃいけないと思ってるんです。
物語の命は面白い事…私にとってのですよ。
私にとっての物語の命はとにかく面白い事。
ただもし何かそういう意味で読んでる人たちに力を与える部分があるとするならばそれはある困難な状況の中を生きる人の姿を私はかなり誠心誠意こういう状況の中だったらこういうふうにして生きたらこうなったっていう事を書いてるんですね。
人はみんな自分の人生しか生きられませんが物語の中で別の人がたどっていくその人生を生きる事ができるのでそれこそ食べる物の味からありとあらゆる事がそこで暮らしているようなその人になったような気持ちで生きてくれたらそのあと得る感覚というのがああもしかしたらこうするべきなのかもしれないあるいはこうしてしまったらこうなるのかもしれないという事に対する視点を与える事はあるかもしれない。
上橋さんは児童文学のノーベル賞ともいわれる国際アンデルセン賞を受賞。
今月メキシコで開かれた授賞式に出席しました。
こんばんは!そういう思いです。
大きな節目を迎えた上橋さん。
未来に向けてここからの作家人生では何を描こうとしているのか伺いました。
受賞なさって読者も増えてプレッシャーももちろんねあるとは思いますが。
ここからどうでしょう?いろんな人に影響を与える立場になってどんな作品を生み出していきたいなという…。
実はこの次は未来はどうなさいますかって聞かれる度に「すいません上橋もう終わりました」とか言って「もう何か一つの坂の峠まで来ちゃった気がします」ってよく言ってたんですね。
あとはもう年齢も年齢だし。
まだお若いですよ。
若くないですよ。
人生50年かもとかって思って50過ぎたしって思ったりして。
何かここから先はというような気持ちがすごくあったんですね。
今度は私は自分の人生を残りの人生というものはやがて閉じていく訳ですよね。
誰もが皆同じですけれど。
もしかしたらとても長いかもしれないその老いに向かって歩いていく人生の中で生きているという事は結局どういう事なんだろうというのにもう一回きちんと向かい合ってみたいなという…。
その気持ちにちょっとなってきた。
それまでは人と人々人々と世界多様な文化というような事にすごく興味があったのがだんだんねそれプラス生き物としての人間という多様な生き物に満ちている世界の中での小さな命としての人間というものに今度はすごく興味を引かれるようになってしまいまして。
逆説的な質問になるかもしれませんが今後生きていく事とか命について向き合いたいと思ったっていうのはこれだけいろんな価値観と言うと固いですけどいろんな考え方とか生き方を持った人に向き合った人に私は今まで会った事ないので何ですかね…。
そこへのいとおしさみたいなものをこれから…。
書いている時にそういういとおしさが関わってくるかもしれないですね。
自分でいとおしいなと思ったところが出ていく部分があるのかもしれないです。
私物語はやっぱり願いをどこかに輝かせたいなって思うんですけれどああこうあれるかもしれない。
こういう生き方もあるかもしれない。
夢かもしれないけれどでもやりたいなと思う。
そういうものを描く時に私の心の中に今まで出会ってきたそういういとおしい人生があるからそれはただ夢見がちの子どもが夢として見るだけではなくて実際にあるかもしれないものとして考える事ができる。
作家上橋菜穂子さん。
原点となった一冊の本との出会いから36年がたちました。
子どもの頃愛したイギリスの児童文学で私が作家への道を歩んだように自分の物語が今は英語になってあるいはフランス語になってさまざまな所で子どもたちが「え〜!」と思って読んでるのかと思うと不思議な気がしますね。
どんな気持ちで読まれるのだろうと思うと襟を正す気持ちもありますね。
なまはんかな気持ちでは絶対やっぱり書いてはならないものだなという気がします。
私はやっぱり今生きている人間として今の歴史の中での一点の中に生きている人間として自分が考えられる一番深い所まであるいは一番広い所まで届くように考えたいなと思ってそこから生まれてくる物語を書いていけたらいいなとは思うんですけどね。
2014/09/24(水) 03:31〜03:54
NHK総合1・神戸
インタビュー ここから「児童文学作家・上橋菜穂子」[字][再]
国際アンデルセン賞を受賞した作家・上橋菜穂子さん。彼女が描く多様な価値観の原点とは?そして今後生み出そうとしている物語とは?
詳細情報
番組内容
児童文学のノーベル賞とも言われる国際アンデルセン賞を受賞した作家・上橋菜穂子さん。彼女が描くのは単純な勧善懲悪モノではなく、多様な価値観が渦巻く世界で不器用に成長する未完成な主人公。なぜそんな世界を書くのか。原点は少女時代に図書室で読んだ一冊の洋書と、少数民族・アボリジニとの出会いにあった。そして多くの読者を獲得した彼女は今後どんな物語を生み出そうとしているのか。
出演者
【出演】児童文学作家/大学准教授…上橋菜穂子,【きき手】斉藤孝信
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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