マレーシアのファストフード店に掲げられたこのマーク。
巨大なイスラム市場攻略の鍵を握っています。
人口が急増し、2030年には20億人に達すると予測されるイスラム教徒。
経済成長に伴って中間層が拡大しイスラム市場は将来1000兆円規模になるともいわれています。
その市場に参入するための重要な条件。
それがイスラム教の戒律に従って作られたことを示すハラルの認証を得ることです。
ハラルはイスラム教で禁じられた豚やアルコールを一切含まないなど、厳格な基準をクリアしなければなりません。
ハラル市場にチャンスを見いだし次々と進出する日本企業。
しかし、イスラム教を深く理解し製造工程も見直さなければならないなど試行錯誤が続いています。
巨大市場を前に日本の企業はハラルとどう向き合うのか。
ビジネスの最前線からの報告です。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
ハラルとは、イスラム教で許されたものという意味です。
イスラム教ではアルコールや豚由来の原料を含んだ食品や化粧品などはハラルではないとされイスラム教徒は口にしたり触れたりすることが本来、禁じられています。
世界のイスラム教徒の人口は2010年16億人2030年には20億人を超えると見られ世界の4人に1人がイスラム教徒になると予測されています。
イスラム教の戒律で認められた原材料を使い、適切に処理や加工、製造されたかどうか。
つまり、ハラルか否かが売り上げを左右するとして今、イスラム教徒が多く住み急成長する国々例えばマレーシアやインドネシア中東の湾岸諸国の市場に向けて各国企業がハラルを意識したマーケティングを活発化させています。
ところがイスラム教を基礎とするこのハラル。
輸入品が増える中イスラム教徒であっても何がハラルで何がハラルでないか分からないことが多く判断は宗教家に委ねられています。
イスラム教になじみの薄い日本にとって非常に難しい制度です。
こうした中で、10年ほど前から世界各国のイスラム教団体がハラルかどうかを独自に審査して承認する制度を次々に作っています。
ハラルを理解し、成長する巨大な市場に向けて食い込んでいきたい日本企業。
どうやって日本の商品の魅力を伝え、イスラム教の人々にアピールをしていくのか。
ビジネスの最前線をご覧ください。
アラブ首長国連邦・ドバイ。
近年、海外から多額の投資を呼び込み中東での貿易の中心地となりました。
暮らしは豊かになり人々の購買力が高まっています。
スーパーに並ぶ大量の輸入品。
イスラム教徒の買い物客が特に気を配るようになったことがあります。
イスラム教の戒律に基づき商品が作られたことを示すハラルのマークです。
ハラルへの対応はレストランでも始まっています。
ドバイにある日本料理店です。
こちらになりますね。
人気メニューはイスラム教の戒律に基づいて処理された高級和牛です。
200グラムで1万6000円ですが注文が殺到しています。
急拡大するイスラム市場。
そこに参入するためには厳しい条件をクリアしなければなりません。
オーストラリア南東部ダボ。
中東などに羊の肉を輸出している会社です。
この会社ではハラルに対応するためイスラム教の戒律に従って肉を処理しています。
天井には、聖地・メッカの方角を示す矢印。
羊の頭をメッカに向け祈りのことばを口にします。
処理をするのはイスラム教徒の作業員。
こうした手順をすべて満たしようやくハラルと認められるのです。
今、日本企業もイスラム市場への進出を加速させています。
特に注目しているのがインドネシアです。
この国のイスラム教徒は2億人を超えます。
およそ5%の著しい経済成長を続ける世界最大のイスラム市場です。
インドネシアでは中間層が増える中、食が多様化。
今、和食がブームとなっています。
この5年で日本食レストランの数は3倍に急増したといいます。
このブームにチャンスを見いだしインドネシアに参入した日本の中小企業があります。
東京に本社を置くみその製造会社です。
工場長の赤池浩三さん。
みそでハラル認証の取得を目指し去年から現地生産を始めました。
しかし、ハラル認証を取るうえで大きな課題がありました。
みそにはイスラム教で禁じられているアルコールが含まれるからです。
まず一つは、発酵の過程で自然に発生するアルコール。
もう一つは、袋詰めの直前品質を保つために加えるアルコールです。
半年にわたる研究の末赤池さんは、まずアルコールを添加しない製造方法を開発しました。
これが、その試作品のみそです。
残る課題は、発酵過程でどうしても自然に発生してしまうアルコール。
これをどこまで減らせばハラルとして認められるかです。
インドネシアでハラル認証を取得するには専門の宗教機関の厳しい審査に合格する必要があります。
商品は最先端の施設に持ち込まれアルコールが含まれていないか成分の分析が行われます。
しかし、発酵によって発生するアルコールは宗教的に問題がないとして許される場合もあります。
ただ、具体的な数値基準はなく最終的には、宗教指導者の判断に委ねられます。
発酵を極力抑えアルコールを限りなくゼロに近づけた赤池さん。
ハラル認証を申請しましたがみそは前例がないため不安を抱えています。
この日、赤池さんは味が現地の人たちに受け入れられるのか試食会を開きました。
ハラルの審査の結果が出るのは早ければ来月。
赤池さんは、認証を得られればインドネシアの中間層に販路を広げたいと考えています。
今夜のゲストは、イスラム市場とハラル認証にお詳しい、帝京大学教授、並河良一さんです。
ハラル認証を意識する現地の消費者も増えているようですし、また進出、日本側もこのハラル認証、意識し始めて、なぜこのように広がってきたんですか?
一つは先ほどの説明にもありましたけれども、イスラム諸国っていうのが、経済的に成長している。
したがって、輸入食品だとか高級食品、こういうようなものを求めている、こういうのがあります。
その結果、自分たちがかつて食べたことのないようなものが入ってくる。
したがって、それについてはチェックする必要があるというのが一点です。
第2点は、日本側の事情ですけれども、日本の食品市場というのはほとんどもう飽和状態になっています。
一方、イスラム市場というのは成長していて、そこに参入すれば、新たな先行者利益を大量に取ることができる。
これがあると思います。
一種の今、ブームになってきているというようなんですけれども、日本企業にとってのこのハラル市場を狙う難しさというのはどこにありますか?
1つは技術的に宗教の求める基準に合わせなくちゃいけない、ハラルというのは2つの概念、宗教的に厳格な部分と、それから安全とか衛生とかこういった部分で構成されているんですが、いずれも技術的にクリアしなければならないということがあります。
もう1点の難しさは、国によって制度が、互換性が取れていない。
ある国でハラル認証を取っても、他の国へ持っていくと、自動的に認証扱いにはならないということがあると思います。
これが非常に難しい点です。
でも、宗教家が最終的な判断をするということですけれども、例えば今、インドネシアで現地生産を試みてらっしゃいますみそメーカー、あの発酵の過程の中で、アルコールがやはり出てくること、こういったことはそういう少しのアルコールも許されないんですか?
原則として、アルコール、それから食肉処理の方法、それから豚、これについては非常に厳しいっていうのがあります。
ですから、ビデオにもありましたように、非常に難しいところですね。
ただし現地の発酵食品の中には、アルコールを自然に含んでいる、こういうものもあります。
これらについては、イスラム諸国においても流通していることがあります。
ですから、ある程度の余地はあるっていうことですね。
あるいは医薬品について見れば、医薬品っていうのは、命を守る。
その場合には、場合によってはハラルの基準を満たしていなくても、特に問題ないと、こういうことがあります。
この3つのものって、イスラム教徒からするとどういったものなんですか、感覚的に?
ちょっと適切な例か分からないんですけれども、不浄である、汚物とは言いません、ですがそういうイメージですね。
私なんかでも、例えば汚物のついたお皿は、あといくらきれいにしても使いたくないですね。
それに近い概念を、彼らは感じている可能性があります。
ただそのイスラム教徒の多い国々に行ってみると、時々、スーパーマーケットにアルコール類が目に見える所に並んでいたりはするんですけれども。
消費者の意識っていうのも、国によってかなり違います。
例えばインドネシアの場合ですと、スーパーマーケットに入りますと、正面の一番いい所に、アルコールが置いてあることもあります。
他方、マレーシアへ行きますと、それは必ずアルコールっていうのはノンハラル、いわゆる不浄なものの売り場に置かなければならないということで、それは消費者がそれを認めるかどうかっていうことなんですね。
だから消費者の意識にも大きな差があるというふうに感じます。
それらの国々に対して、対応していかなければいけないと?
そういうことですね。
この10年の間に、世界中で次々と認証機関が設立をされ、そしてその数は150以上に上っています。
こうした中で、政府主導でいち早くハラル認証の制度を確立し、ハラルをてこに、外国企業の誘致を積極的に進めてきたのがマレーシアです。
マレーシアを足がかりにして、世界のハラル市場へ進出しようという企業の動きを、次にご覧いただきましょう。
人口の6割がイスラム教徒のマレーシア。
ことし4月、ハラル商品の国際見本市が開かれました。
韓国からは、ハラルのキムチ。
イタリアからは、ハラルチーズ。
世界からマレーシアのハラル認証に注目する300社以上の企業が集まり商談を行いました。
マレーシアはハラル認証制度を生かした国家戦略を打ち出しています。
宗教の概念であるハラルを世界で初めて工業規格のように英語で文章化。
商品の原料や製造工程に至るまで細かな規定を設けました。
イスラム教になじみのない企業でも対応できるようにしたのです。
マレーシア政府でハラル戦略を担当するノラ議員です。
外国企業を誘致しマレーシアを世界のハラル商品の一大生産拠点にしようと考えています。
マレーシア政府は東京23区よりも広大な熱帯雨林に州政府と共に600億円を投入。
農場や養殖施設さらにはハラルの研究施設まで作る予定です。
完成は2020年。
マレーシアのハラル認証を取得すれば世界のイスラム市場に打って出られるとアピールしています。
すでに進出した企業もあります。
ここでは台湾の企業がハラル認証の取得を目指し魚やえびの養殖を行っています。
豚由来の成分やアルコールが入っていない餌を開発。
マレーシア国外への輸出も目指しています。
マレーシアは、さらにハラルの対象を商品だけにとどまらず物流の分野にまで広げています。
ハラル商品の信頼性を高めるためだとして去年から始めた物流のハラル認証の制度です。
日本の大手物流会社は、ことしハラル専用のトラックを用意。
ハラル商品を、ほかの品物と分けて運ぶビジネスを試験的に始めています。
運送を担うのはイスラム教徒に限っています。
集荷の際、こん包の状態を細かく確認することがハラル商品の運搬には欠かせないとしています。
トラックの洗浄にもイスラム教の戒律を取り入れています。
体や物を清める宗教儀式にならった方法です。
化学物質を一切含まない粉末状の粘土を使います。
これを水と混ぜて噴射。
高い殺菌作用があるとしています。
その後、水で洗い流します。
認証では、合計7回行うことを義務づけています。
この会社は早ければ来月にもハラル認証を取得する見込みです。
今後はマレーシアを起点にハラル商品の物流を世界のイスラム市場にまで広げようと考えています。
輸送の部分にまでマレーシアでハラル認証を取ろうという企業が出てきたわけですけれども、そのマレーシアの厳格な制度、マレーシアのねらいはどう見られますか?
マレーシアは、直接投資、日本の例えば工場を誘致するときに他の人口の大きな国に対して、非常に不利な条件があります。
したがって、それをカバーする手段として、ハラルというのを前面に出して、マレーシアに投資をすれば、世界のイスラム市場、16億人、全部取れますよと、こういう言い方をしているんです。
つまり人件費がほかの国より高い?
人件費も非常に相対的に高い、それも不利な要件になります。
で、国家戦略として政府が外国を誘致するために、この認証制度も利用していると?
活用しているという側面もあると思います。
なるほど。
これに対して、しかし日本企業からすると、いろんな面でコスト高につながりそうな気配もあるんですけれども、マレーシアに対する日本企業の動きはどうですか?
マレーシアに先ほどの説明にもありましたけど、分かりやすい制度になっていますので、そこで生産をして、それから販売をすれば、いろんなノウハウを取ることができる。
英語でマニュアルができてるわけですね。
それが一番大きな理由ですね。
もう一つは、なんと言いますかね、日本国内でハラル認証を取るというのは非常に難しいんですね。
それは、原材料がハラルかどうか分からない。
仮にそれがハラルだと言われても、その先がまた分からないというふうに、あるいは輸送もハラルかどうか分からない。
いろんな問題があって、マレーシアに行くっていうことになります。
で、現地で生産すれば、かなり容易なんですか?ハラル認証を取るのは。
現地っていうのは、例えば中小企業であっても、マレーシアの会社は皆、簡単にといいますか、ハラルを取ってるわけですね。
ですから、日本企業が行って取れないわけがない。
それに、現地に行けば基本的にはハラルのものが原材料が流通している、先ほどのように、輸送もハラルのものが簡単に調達できるということで、ハラルを取るっていうのはきわめて容易ということになります。
ですから、工場を現地に作るっていうふうになります。
しかし、日本はイスラム教徒とあまり接したこともありませんし、イスラム教とのなじみが薄い国であるかと思うんですね。
その新しい大きな巨大市場、そこの先行者利益を取ろうと、今、企業の意欲が高まっているということですけれども、本当にこうしたハラルの壁を乗り越えることができるのか。
うまく進出していくうえでの鍵となるものはなんでしょうか?
技術的には日本はほとんど問題がないんですね。
大事なことは、ハラル制度っていうのは、国の規制とか、基準ではなくて、あくまでも宗教だと。
心の問題なんですね。
イスラム教徒の中に占める宗教の大きさというのが日本とはかなり違う。
したがって、そこを理解して、それに合わせていく、こういう姿勢が大事かと思っております。
企業の担当者は社内で説明するときに、苦労するということはありませんか?
そうですね。
そういう理解が日本の、例えば会社の中枢では理解されていないと、いくら設備投資をして、ラインがもう一ついるんだ、ハラルとは違うラインがいるんだと言っても、なかなか理解されない、こういう悩みは皆持っておら2014/09/22(月) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「イスラム圏に商機あり〜“ハラル”市場を狙う日本企業〜」[字]
イスラム教徒向けの“ハラル”と呼ばれる商品の市場が急拡大。豚肉やアルコールが含まれないなど、イスラムの戒律に基づいて生産された商品だ。参入する日本企業を追う。
詳細情報
番組内容
【ゲスト】帝京大学教授…並河良一,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】帝京大学教授…並河良一,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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