(テーマ音楽)
(出囃子)
(拍手)
(桂ざこば)ありがとうございます。
まぁ男の道楽は「飲む打つ買う」。
酒賭け事女性とこういう事ですが私の一番好きなんはやっぱり飲む事ですね。
酒が一番好きです。
その次に好きなんが賭け事です。
ええ。
買うは好きじゃないです。
これははっきり言うときます。
(笑い)賭け事とまぁ酒とがドッコイドッコイですかね。
ええ。
私よりもっとすごい賭け事の好きなんが兄弟子の月亭可朝という方ですね。
(笑い)もうあの人と一緒になるのは嫌なんです。
もう一番かなわんのはね昔伊丹空港であの蛇腹みたいな荷物出てくる所ありますな。
で両端に暖簾みたいなんゴムの暖簾が掛かってまんがね。
それで「あっこへ一遍ざこばパッと乗れ」と蛇腹に。
(笑い)「でズ〜ッと一遍中へ入って出てこい。
5,000円やるわ」言う。
(笑い)「いやもうそんな阿呆な事ようしまへんわ」。
「ほな私するで。
5,000円くれるか?」。
(笑い)「いやほんまにするんかな?」思て「ほな5,000円ぐらいやったら出しますさかいやってみなはれ」言うたらあの月亭可朝いう人はパ〜ンと乗ってゴ〜ッとあの暖簾の中へ入っていきまんねや。
(笑い)でズ〜ッと回って暖簾から出てきて「5,000円5,000円5,000円」言うて出てきまんねや。
(笑い)まぁ変わった人でね。
ええ。
私はそこまで好きやおまへんけどね好きな人は止まらんぐらい好きやそうですけど。
「調子の悪いほんまに負けてもうた今日。
ええ?ここんところズ〜ッとついてないわ。
今日はお前出だしうまいこといっとったんや。
『お〜これだけ勝ってるがちょうどええわもう帰ったろ』と思たらあの八のガキ要らん事言いやがんねん。
『辰っつぁん辰っつぁん。
もうそれだけ勝ってたら十分や。
帰り帰り。
それ以上座ってたら負けるで』て要らん事言いよるねん。
俺あんな事言うたら逆らう性分や。
『このぐらいでお前帰れるか阿呆』言うて続けてやってたんや。
皆負けてもうたんや」。
(笑い)「ええ?着てるお前着物まで持っていかれてもうたがな。
まぁ賭場やさかいな印半纏貸してくれよったけどこんなもんお前博打に負けましたいうて知らせて歩いてるようなもんや。
情けないよほんまに。
笑うな阿呆んだら!しばきかけるぞ阿呆ほんまに。
ムカムカするな〜。
ええ?帰ったら嫁はんまた怒りよるやろな。
嫁はんやったらええで。
『人が好きな事やっとんのんじゃい。
グチャグチャぬかすない』言うたら終いや。
このごろ娘のお光まで文句言いよるねん。
娘に言われるとちょっと辛いもんがあるからな〜。
おい。
今戻ったぞ」。
「どこへ行てなはったんや!どうせ博打に行てなはったんやろ」。
「ゴジャゴジャぬかすなほんまに大きな声で。
とりあえず酒入れ酒」。
「ようそんなのんきな事言うてるなえらいこっちゃがな」。
「どないしたんや?」。
「娘のお光が居らんようになったんや」。
「そんなら捜したらええやないかい」。
(笑い)「捜したわいな。
近所の人にも手伝うてもうて。
どこにも居てへんねやないかいなほんまに。
ええ?これはあんたが悪いんやで」。
「お光が居らんようになったっちゅうのは俺のせいっちゅうんかい?」。
「そうやがな。
あんたな左官屋ちゅう立派な腕ありながら何で働いて家へお金入れてくれへんねん?あんたが家へお金入れてくれへんさかいどないして私やり繰りしてる思うねん。
ええ?ここへ嫁入りしてくる時にまぁちょっとやけど一応箪笥に荷物着物を詰めてやって来たわいな。
あんたがお金入れてくれへんから着物出しては質屋へ持っていてお金に換えてその日その日。
無くなったらまた着物を出してええ?質屋へ持っていてその日その日生活してんねん。
今箪笥の中何も無いやないか。
お光っちゃんなこんな生活が嫌になってええ?もう出ていたんや思うわ。
ひょっとしておかしな気起こしてないかいな思て心配してんねや」。
「おかしな気起こして?験の悪い事ぬかすな。
阿呆んだらほんまに」。
「え〜すんまへん。
ちょっとお邪魔致します」。
「ええ?いや取り込んでまんねんああ。
用事あるのやったらまた先にしておくんなはれや」。
「その取り込んでるっちゅうのは娘のお光さんの事と違いますか?」。
「あんた何でそんな事知ってんねん?あんた聞いてたんかい?」。
「いいえ。
聞いてしまへんけど娘のお光さん家へ来たはりまんね」。
「家?家てあんた所どこや?」。
「ええ家は新町の扇屋という廓でございます」。
「あ〜扇屋さん。
いつも壁繕うたりな〜。
昔はよう行ってたんや。
何でそんな所行てんのやろ?ええ分りました。
すぐ引き取りに行きますわ。
先帰っといとくんなはれ。
皆さんにあんじょう言うといとくんなはれ。
ほれ見い見つかったやないかいええ?新町の扇屋行とんのや。
こんなん印半纏で行かれへんわ。
こんなんあかんあかん。
おい嬶その着物を脱げええ?」。
「嫌やがなこれ脱いだら下お腰1枚やがな」。
(笑い)「構へんがな。
こんなもんで行かれへんからそれ脱げちゅうてんねや。
うんうんそれでええわ。
な?ほんならちょっとお光もろうてくるさかい」。
「あんじょう頼むで」。
「分ったあるわいほんまに。
ええ?何で扇屋行きよったんや?松ちゃん所やな〜?竹やん所やったら『おい。
娘邪魔してるらしいなえらいすまなんだ。
おいお光帰ろう』言うてスッと帰ったら終いやけど扇屋さんとなったらそうはいかへんがな。
若い時からええ?修業で壁塗らせてもうたり弁当使わせてもうたりお茶頂いたりしてんねやがな。
難儀なな〜。
旦那さんやったらええで。
男同士やから。
これ奥さんとなったらまた気ぃ遣わんならんがな。
あ〜ここや。
へえこんにちは」。
「まあ〜辰っつぁんやないかいな。
久しぶりやな。
覚えてるか?お静やがな。
何で裏から入ってくるの。
表から入ってきたらええがな」。
「へえ。
そんな事はどうでもええんでっけど奥さんが…」。
「うんそう。
待ってはる早う奥へ通って」。
「へえ。
えらいすんまへん。
ええご無沙汰しております辰五郎です」。
「まあ〜辰っつぁん長い事顔見せへんやないか?一生懸命仕事頼んでるのにちょっとも来てくれへんな。
そない忙しいんかいな。
ええ?いや左官屋のほうやないこっちのほうや。
どや?あんまり良さそうやないな。
ええ?あんた何ちゅう身装してんねん。
それ女物と違うか?」。
(笑い)「あ〜これね。
ええ。
私これ気に入って着てまんね」。
「ようそんな阿呆な事言うてるな」。
「あの〜家のお光が来てるらしい」。
「そうやがな。
ちょっとちょっと待ってなはれ。
お光っちゃんお光っちゃん。
そんな所へ隠れてんとこっち出てきたらええこっち出てきたらええ。
そこへ座りなはれ」。
「お光〜」。
「お父っつぁん」。
「お父っつぁんやあるかい。
来るねやったら来る言わんかい。
お母はん心配しとるやないかい」。
「大きな声出しなはんな。
お光っちゃん何で家へ来たか知ってるか?」。
「いえ。
そらぁ分かりしめへん」。
「そうやろな。
昼間お光っちゃん家へフラフラ〜っと入ってきて『おかみさん。
私の体を形になんぼかお金貸しとくんなはれ。
私の体を買うとくんなはれ』言うてやって来たんやで」。
「えっ?お光が」。
「そうや。
『お父っつぁんこのごろお金が無うてあっちこっち借金して義理の悪い借金をこしらえてもうやけになって博打ばっかり打ってます。
なんぼかそれで私の体を買うとくんなはれ』言うてお光っちゃんやって来たんやで」。
「左様か。
それでなんぼで買いはったんです?」。
(笑い)「阿呆かお前は。
ようそんな事言えるな〜。
なんぼお金あったら真面目に働けんねん?ええ?なんぼあったら真面目になれるねん?」。
「おおきに。
まぁそこまで言われたら辛うおますけどそんなら30両30両都合してもらえまっか?」。
「30両でええのか?」。
「お父っつぁん。
そんなんでは足らんのと違うの?酒屋米屋あっちこっち義理の悪い借金あるやないか?30両では足らんのん違うの?」。
「お前はん何でもよう知ってるな」。
(笑い)「ほんならえ〜い50両貸してもらえまっか?50両」。
「50両でええのか?よっしゃ。
手文庫こっち持っといで。
さぁ50両入ったある。
これ貸したあげる持っていき」。
「ええ。
間違いないと思いま」。
「お金のこっちゃ。
よう調べ」。
「あっ間違いなく50両入ってます」。
「それでそれいつ返してくれる?」。
「えっ?これ返さなあきまへんの?」。
(笑い)「当たり前やないか。
50両貸して誰がそんなもん要らん言える?。
いつ返してくれる?」。
「そうでんな明後日返しに来まひょうか?」。
(笑い)「お前は阿呆か。
ようそんな気楽な事が言えるな〜。
そんなら私が日にち切ったあげるな?今年の大晦日まで待ったあげる。
な?それまでお光っちゃん家へ預かりまっせ」。
「いや。
それでは話が違いまんがな」。
「別に見世へ出す訳やないがな。
私の身の回りの世話をしてもらう。
行儀いろいろ習うてもらう。
な?それはな今年の大晦日までやで。
一日でも遅れたら私も鬼になりまっせ。
お光っちゃん見世へ出しまっせ。
これだけの器量のええ子や。
ぎょうさんお客さんつくやろと思う。
けどなお客さんの中にもいろんな人が居てる。
ひょっとけったいな病気もろておかしな体になっても私を恨むねやないで」。
「うっ分かりました。
必ず大晦日までには50両返しに来ます」。
「お父っつぁん頑張って働いてな。
真面目になってほいでお酒飲み過ぎてお母ちゃん叩いたりせんといてな。
私あれ見てるの一番辛いんや。
私が小ちゃい頃お父っつぁん木菟念寺さんの壁塗りはった時あったやろ?和尚はん褒めてはったで。
『大坂広しといえどこれだけ見事に壁塗れる男は辰五郎しか居らん。
辰っつぁんは名人やな名人やな』言うて褒めてはった。
私うれしいてな小ちゃかったけどお友達ぎょうさん連れていって『ここの壁な家のお父っつぁんが塗ったんやで。
上手に塗ってあるやろ?ここの壁家のお父っつぁんが塗ったんや』言うて自慢してたんや。
な〜お父っつぁん真面目に働いてまた自慢させて」。
「分かった。
間違いなく真面目になる。
それで大晦日までには必ず迎えに来るよってかわいがってもらえよ」。
「うん。
お母ちゃん大事にしたってな」。
「うん」。
辰五郎50両の金を懐へ入れます。
東門をポイと出まして瓢箪橋を渡ります。
東へ東へ長堀橋までやって来よった。
「チェッいつまでも子供や子供や思てたらフン一丁前の娘になりやがるねん。
親として情けないわほんまに。
誰や?誰や?欄干またいどるやないかい。
ええ?身投げか?おい。
こらっチョッチョッチョイちょっと待てちょっと待て」。
「放しとくんなはれ。
放しとくんなはれ。
助けると思うて死なせておくんなはれ」。
「阿呆か助けると思て死なせるかい。
下りてこい」。
「痛いな〜何しなはんねあんた。
無茶しなはんな。
怪我しますやないか」。
「お前は阿呆か」。
(笑い)「今から死のう言うてるのに怪我するもへちまもあるかい。
ああ〜?お前見たところ職人やないな。
どこか大店の手代か何かやな。
腰に矢立差して。
何で今飛び込もうとしたんや?お前店の金使い込んだな?博打やろ?今日日な博打で金使い込むてろくな奴っちゃないで」。
(笑い)「私なにもそんなもんせえしまへん」。
「ほな何やね?女かい?酒かい?」。
「違いま。
そんな事どうでもよろし。
もう死なせてとくんなはれ」。
「ちょっと待てっちゅうねん。
いつでも死ねるやないかい死ぬ気になったら。
ええ?話聞いて納得したらなんやったら私後ろからポ〜ンと突いたるわい。
な?訳を話せ訳を」。
「もう訳なんかどうでもよろし。
どうぞもうほっといとくんなはれ。
どうぞ関わらんといとくんなはれ」。
「俺も関わりとうないわい。
関わってもうたんやないかい。
しゃあないやないかい。
それやったらお前何でこの橋から死のうとしたんや?向こうのほうになんぼでも橋あるやないかい」。
(笑い)「向こうで飛び込んでくれたら俺関わらんで済んだんや。
俺も何を思てこんな所通ったんやほんまにクソ〜ッ。
理由を言え理由」。
「それやったら言わせてもらいますけど実は家の店中船場に大きなお店があって鼈甲問屋をやっております。
そこのご主人に『池田屋さんへ50両集金に行といで』言われて50両池田屋さんで集金してきたんです。
でこう懐へ入れて歩いてたら向こうからタッタッタッと小走りで来る人がある。
『あ〜こんな人がひょっとしたら懐を狙いはんの違うかな?』思てたらポ〜ンと当たってパッと向こうへ行きはったんです。
『えっ?もう居たはらへんどないしたんや?』と思て手入れたら50両がもう無いんです。
50両無かったら店へ帰られしまへん。
死なせとくん…」。
「お前は阿呆やな。
ええ?こんな奴が懐を狙う思たら何でパッとこう大事にグッと締めへんのじゃ。
阿呆んだらほんまに。
お前所のその旦那っちゅうのはええ人か?えぐい人かどんな人や?」。
「優しい人です。
ああ身寄り頼りの無い私を丁稚からこの手代まで上げてくれはったええ旦那さんです」。
「よっしゃ一緒に行ったろ。
私一緒についていたるわ。
であんたの所の旦那さんにな?『この男50両集金してきてどうも盗まれよったらしい。
堪忍してやっとくんなはれ』言うて謝ったるわ。
一緒に帰ろう」。
「もうええんです。
これが初めてやないんです」。
(笑い)「これが初めてでない?どういうこっちゃい?」。
「いや前にも3両集金してきてそれ落として店帰って旦那さんに『3両落としました』言うたら『3両いうたら大金やど。
けど落としたもんはしょうがないな?その分一生懸命頑張って働け』言うて堪忍してくれはったんです」。
「ええ旦那さんやないかい。
な?一緒に行たろ」。
「いや。
もうええんです」。
「えっ…。
阿呆!お前ここで死んで50両戻ってくるのか?どうしても50両要るんかい?」。
「どうしても50両要るんです」。
「チェッ難儀な奴っちゃなこいつ」。
(笑い)
(笑い)「俺なここに50両持っとんねん。
お前のを盗んだんと違うぞ。
見てみい。
色違うやろ財布の色が」。
「どうしても50両要るんかい?」。
「どうしても要るんです」。
「それ20両にまかれへんか?」。
(笑い)「まかりまへん」。
「まかりまへん?何言うてけつかんねほんまに。
どうしても死ぬんか?」。
「死にます」。
「チェッハア〜家の娘は死なへんねん。
けったいな病気もらうぐらいや」。
(笑い)「クソ〜ッほんまに」。
「この50両お前にやるわ。
な?死ぬな。
この金はな新町に扇屋っちゅう廓がある。
そこへ娘を形に借りてきた50両や。
これお前にやるわ」。
「そんな大事なお金要りまへん」。
「ええ。
俺ここでお前助けてやらなんだらな生涯頭に残る。
どの橋渡ろうとしても『あの時俺50両持ってたんや。
何であの男を助けてやらなんだんや』いうてな生涯ここへ残るわ。
お前は死ぬねん。
娘は死ねへん。
おかしな病気もらうぐらいや」。
(笑い)「そやからもうええ。
持っていけ」。
「お所…」。
「所?名前?そんなもん聞かんでもええわい。
これ持って帰って『集金してきました』言うて帰れ」。
「親方親方。
あ〜行ってしもた。
チェッ何が50両や。
あんな身装した人が50両てなお金持ってる訳ないがな。
どうせ石ころかなんか詰めてあれしたんね…。
ほほほんまの50両や。
親方〜」。
「違う。
博打なんかしてない。
娘を形にして借りてきた50両そんなもんで博打を俺すると思うか?」。
「あんたはそういう人や働くの嫌でええ?倍にしてそれでシュッと返そうと思てんねん。
あんたはそういう人や」。
「こらっ見損なうなよ!お前俺の気性知っとるやろ!娘を形に借りてきた50両で俺博打打つ思とんのんかい。
違う。
『集金した50両を盗られよってな店帰られへん橋から飛び降りて死ぬ』っちゅよる訳や。
私そいつに50両をやって助けてやったんや。
博打なんかしてないっちゅうねん」。
「博打してるの決まったあるわ」。
「もう堪忍してくれ。
これ一日中言うてるやないかこんな事」。
(笑い)「俺もうくたくたや寝かせてくれ」。
「よう寝れる気になるな」。
「もう堪忍してくれちゅうねん」。
「え〜ちょっとお邪魔を致します」。
「はい。
えっ?どどちらはんでっか?」。
「私中船場は鼈甲問屋をやっておりますそこの主で伊勢屋藤兵衛という者でございます」。
「ええ?鼈甲問屋?そんなもん家関係あれへんわ。
鼈甲ってなぁ。
あんた家間違うてる。
ちょっと他所行き。
家が違う他所当たり」。
「あの〜左官屋の辰五郎親方の家はこちらですな?」。
「ああ左官屋の辰五郎っちゅうのは家や」。
「それやったら間違いございません。
ちょっと中へ入れさせて…」。
「ちょっと待てちょっと待て勝手に入ってくるな。
おう。
お腰その…」。
(笑い)「衝立の向こうへ隠れ顔出すな格好の悪いほんまに。
黙ってぇよ。
ええどうぞ入っとくんなはれ」。
「え〜お初にお目にかかります。
私鼈甲問屋をやっとります伊勢屋藤兵衛という者でございます」。
「ええ。
それが何か家ぃ用事でっか?」。
「ちょっと待っとくんなはれ。
この男をご存じですか?文七こっちおいでこっちおいで」。
「親方」。
「お前やお前や。
俺昨晩お前に50両やって身投げするとこ助けてやったな?」。
「親方のおかげで死なずに済みました」。
「どうじゃこら聞こえたか?」。
(笑い)「ええ?何言うてるねや。
分からなんだ?もう一遍繰り返す」。
(笑い)「そこのところ大きい声で言うてくれ大きな声で。
俺お前身投げするところ50両出して助けてやったな?」。
「へえ。
親方のおかげで死なずに済みました」。
「見てみい聞こえたか阿呆んだら!そうかそりゃ良かった」。
「でこの50両は私お返しに参りました」。
「あ〜そんなん返す要らん。
そんなん返す要らん」。
「いえ。
実は昨晩家の文七の帰りが遅いんで『どうしたんやろかな?どないしてたんかいな?』思たら池田屋さんがやって来ましてね50両をば持って『これ文七さんに集金で渡したお金や』言うやおまへんか。
『これどどういう事や?』っちゅうと50両渡したあと囲碁を致しましてな碁を。
その時この文七っつぁんが碁盤の下へ忘れたんやそうです。
でそのまま帰りはって片づけようとしたら50両出てきたんでこれお返しに上がりました」。
(笑い)「お前阿呆か」。
(笑い)「よう50両ってな大金碁盤の下へ忘れるな〜。
あんたもあんたや。
ようこんな頼りないのを使とるな〜。
文七いうんかい?もう一遍…飛び込んでこい阿呆んだら」。
(笑い)「聞いてムカムカムカムカしてきたわいほんまに」。
「いや〜お怒りはごもっともでございます。
とりあえずこれはそういう事で出てきたお金なんでお返し致します」。
「返す要らん返すって要らん。
俺はそんな人間やない。
人に一遍やったもん出てきたからいうて返してもらう?そんな性格やない。
この界隈でもな勢いのええああ辰五郎で通っとんじゃこんな金要らん。
持って帰ってくれ持って帰ってくれ。
気分悪い。
引っ張るな引っ張るな引っ張るなっちゅうねん」。
(笑い)「分かってるがな段取りがあるやろ段取りが」。
(笑い)「いや返す要らんて。
そんなもん一遍…。
ええ?何?う〜ん?『受け取ってもらわな困ります』?あんた困るんか?」。
(笑い)「俺は何が嫌やいうたってな人を困らすの一番嫌やで」。
(笑い)「ほんならあんたが困らんようにこれもろたるわ。
な?これでええやろ?な?」。
(笑い)「あ〜おおきに」。
「ええ。
それからこれお礼のしるしに角樽を持って参りました」。
「お〜酒。
これはもう遠慮なしに頂戴致します」。
「それで当てのほうも」。
「ええ?当てまで。
え〜えらいすみませんな」。
「乗り物をこれへ」。
駕篭が辰五郎の家の前へ着きます。
垂れをパ〜ンと上げますと中から出て参りましたのがお光っちゃんでございます。
頭を高島田に結いましてえらい豪華な着物を着て。
「お父っつぁん」。
「お光。
どないしたんや?」。
「こっちの旦那が私50両で身請けしてくれはったんです。
お母はんが『よかったなきれいにして帰り』言うて頭を島田に結うてくれはって『私が若い時着てた着物や。
ええ物やさかいこれ着て帰り』言うてそれで帰らせてくれはったんです」。
「そうか。
こらぁ受け取れへんわ。
こらぁあかんわ。
これはあかんあかん。
受け取れへんわ。
いやいやあんたが先立て替えてな?身請けしてくれたんや。
あとで私暮れまでに50両をこしらえて持っていかなあかんねん。
そやからこれはあんたに。
もうこれは要らん。
もう受け取れんわ。
引っ張るなっちゅうねん分かってるねん」。
(笑い)「いや分かってるっちゅうねん。
段取りがあるやろいろいろ」。
(笑い)「いやいやそれは受け取れん。
ええ?受け取ってもらわな困る?あんた困るの?」。
(笑い)「辛いな〜俺人困らすの一番嫌やねん。
ほんならあんたが困らんようにこれ受け取らせてもらう。
これでええやろ?な?これでええやろ?」。
「お父っつぁん。
お母ちゃんは?」。
「ええ?お母ちゃんか?2014/09/22(月) 15:00〜15:30
NHKEテレ1大阪
日本の話芸 落語「文七元結」[解][字][再]
米朝一門の重鎮で上方落語界のベテラン、桂ざこばさんの出演で「文七元結」をお送りします。(平成26年7月3日、第343回NHK上方落語の会で収録)
詳細情報
番組内容
米朝一門の重鎮で上方落語界のベテラン、桂ざこばさんの出演で「文七元結」をお送りします。(あらすじ)職人の辰五郎は腕はいいが、博打にこり家は貧乏だ。娘のお光が新町の扇屋に自分の身を売って急場をしのぎたいと駆け込む。辰五郎は五十両を受け取るが安堂寺橋まで来ると若者が身投げをしようとしている。訳を聞くと、伊勢屋の手代の文七で集金の帰り、怪しげな男に突き当たられ五十両を奪われたという…。
出演者
【出演】桂ざこば,大川貴子,桂米輔,桂米左,桂そうば
ジャンル :
劇場/公演 – 落語・演芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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