ご機嫌いかがでしょうか?「NHK短歌」司会の濱中博久です。
第三週の選者永田和宏さんです。
今日もよろしくお願い致します。
この冒頭の一首もよく知られた歌ですよね。
妻の河野ががんの再発が進んでいって一緒にいられる時間がだんだん少なくなっていくという時の自分としては結構切ない歌なんですよね。
今日は後半介護の歌の話をするのでこの一首を挙げてみました。
後ほどよろしくお願い致します。
今日お迎えしたゲストをご紹介致します。
読売新聞論説委員竹内政明さんでございます。
ようこそお越し下さいました。
こんにちはよろしくお願いします。
竹内さんは読売新聞の一面のコラム「編集手帳」を長年にわたって執筆されていらっしゃいます。
それはこのように単行本にもなっております。
これで二十三集という事はたくさんのご本になっています。
今二十六集まであるんです。
この中でも短歌の事をお引きになったりするという事ですが永田さんはこの名文のファンでいらっしゃるんですね。
僕はね竹内さんのファンでね一度お会いしたいと思ってたんですが初めてファンレター書いたのはね竹内さんだったんですよ。
まだお会いした事なかったので今日は本当に楽しみにしてます。
竹内さんご自身は永田さんの歌はどういうふうに?私永田先生の青春の香りがする恋歌が大好きでして愛唱歌がいくつかございます。
ありがとうございます。
竹内さんねこの番組にお迎えする方には皆さん短歌にどんなイメージをお持ちなのかという事を短い言葉にして頂いておりますがどうなりましたでしょう?私にとって短歌は「夜汽車の窓ガラスである」。
夜汽車の窓ガラス…ふっと映像は浮かぶんですがさて短歌とどういう関係があるんでしょうね。
後ほどどうぞよろしくお願いを致します。
それでは早速今週の入選歌のご紹介にまいりましょう。
題が「持つ」または自由でございました。
永田和宏選入選九首です。
一首目。
今日は「持つ」という題なんだけど「持つのではなく」というところがまず面白いですけどね。
遺影なのでお母さんの遺影を持つと言いたくないという感じですね。
抱いていくんだというそこがとてもいいのと「はにかむ遺影」がいいですね。
お母さん今もはにかんでる。
そのはにかんでるのが生前とそっくりだという感じを大事に抱いてゆくという感じいい歌だと思いますね。
二首目にまいります。
竹内さん伺いましょう。
席を譲られるって初めて譲られる譲られデビューみたいなのはかなりショックだって聞きますし…。
まだご体験はない?それは申しませんけれどもこの方ももしかしたら初めて席を譲られてドキッとしてお礼が言えなかったのかなってそんなふうに思いました。
ヌッと立ったっていうところがいいですよね。
まさか譲ってくれると思ってなかったのが突然ヌッと立ってそれが自分に譲ってくれるんだったというショックですよね。
濱中さんありますか?実はショックを覚えた事があるんです。
嫌なもんですよ。
哀れを覚えられた。
ありがたいもんですけどね。
スマホに夢中な高校生もこういういい子もいるんですよね。
はいそれでは続いて三首目です。
いい風景ですよね。
兄と弟が蝶を採るのに一生懸命だと。
兄さん一生懸命で「空かきまぜて」というのがとてもいいですね。
空をかきまぜるようにして網を振っている。
弟は籠を持たされるだけですごい不満だと。
お母さんだと思うけどそれをほほ笑ましい感じで見ている。
こういうのが記憶に残っていくんだろうなと思いながらお母さんは見てるわけですね。
そこがいいと思いますね。
空かきまぜちゃってますね。
なかなか蝶は捕まえられないのかもしれません。
では次の歌です。
いいですねこれね。
ザ・日本のお母さんっていう感じ。
郷里へ帰るとお母さんがこれ持っていけあれ持っていけと。
ナスとピーマンぐらい東京にもあるんだからって言うんだけど東京にあるんだけどこれ持ってけっていうね。
ここがやっぱり日本のある種の普遍的な原風景という感じがしますね。
若い時になかなかこういう事に気が付かないんですよね。
ありがたい母ナスとピーマン格別の味でございましょう。
続いて五首目です。
これはねお母さんが生前からずっと言ってたんだと思うんです。
お父さんにね帽子持っていかせるの忘れたよって。
困ってるだろうなと言ってた。
それをお母さんが亡くなった時に帽子と一緒に送り出したというそういう歌でねしみじみとしていい感じですね。
では次が六首目です。
ブーニンってロシアのピアニストだけど演奏が終わってみんなから拍手を受けたあとでスーッと舞台から去って行く時にスッと手に眼鏡を持った。
ピアノの上に置いてあったんだと思うんですね。
そういうさりげない画面の隅にあるような事に作者は気が付いた事…そこが手柄ですね。
初句の「きらめける」がない方が歌としては良くなりますね。
そこがちょっと惜しいけどいいと思います。
次が七首目です。
竹内さんこの歌はどう鑑賞されますか?「っていうか」っていうのが私もよく耳にしますし自分でも使いますけれどもなかなか活字の形で残そうかなという言い回しではないんですがこうやって読んでみると歌の中に収まっているのは確かでしょうし短歌っていうのは懐が広い文芸だなと思いましたね。
っていうかこれも短歌なんですね。
すごい大胆な歌で若い人の作品だと思いますけれども最初の方「それあげる。
同じのもひとつ持ってるし」というのは恋人に言った言葉ですよね。
持ってるからあげるよという。
括弧の中は作者の本心であなたにも自分の持ってるものと同じの持っていてほしいしという感じでね。
その中で「っていうか」というのがなかなか使いづらい我々の世代ではとても使えない言葉ですけど面白いですね。
本音が括弧の中にうまく入ってますね。
これは恋歌ですね。
恋歌です。
何をか言わんやでございますがね。
八首目です。
これは買い物帰りの歌で左手に持ったり右手に買い物袋持ち替えたりして楽しく歩いている。
重いから持ち替えたというよりは楽しげに持ち替えてるという軽やかな感じがする。
十分ぐらい歩いてそこの横に猫じゃらしが揺れているという気持ちのいい歌ですよね。
日常何でもない歌だけど「右手に袋持ち替えて」というところでこの歌生きてきたというそんな歌ですね。
さて次がおしまいの歌九首目です。
竹内さんから伺いましょう。
実は私も小学校1年生の時から眼鏡をかけ始めてクラスで一番最初の子だったんですけどやはりついた渾名はめがね猿だったですね。
半世紀昔と今も変わらないんですね。
ただ私もめがね猿って渾名ついて嫌じゃなかったっていう記憶が残ってましてこれを詠まれてる先生も何かうれしそうな感じが伝わってくるのがいいですね。
高学年から1年生に変わった途端に子供たちが「あっめがね猿や」って言ったというね遠慮なく言っちゃうわけですね。
作者もそれを結構喜んでるというか面白がっているというそういう歌ですね。
いい教室になりそうですよ。
以上入選九首でした。
ではこの中から永田さんの選んだ特選三首です。
まず三席からです。
三席岩崎幸子さんです。
続いて二席です。
藤本一城さんを選びました。
さあいよいよ一席の発表です。
一席望月勝子さんを選びました。
さっき言ったようにお母さん生前からずっと持っていってやらなきゃと言ってたんだけどそれを今柩に入れて送り出す。
お母さん送り出すのは悲しい事なんだけどお母さん向こうで父さんと仲良くやれよとかねお父さんに今届けてるよという事で家族がその悲しみからどこか救われるような感じがある種ほほ笑ましい感じがそこがこの歌のいいところだと思うんですよね。
悲しい歌だけどどっかほほ笑ましいという歌ですね。
お父様お母様の関係もよかったなという感じがほのぼの見えてきますよね。
ようやくお父さんの所行ったねというね。
以上今週の特選三首でした。
今日ご紹介しました入選歌とその他の佳作の作品はこちら「NHK短歌」テキストにも掲載されます。
是非ご覧下さい。
では続いて「うた人のことば」をご覧頂きましょう。
わりと明るく言ってるんですが実際の生活は非常に暗い。
どうやって自分自身は歌人として再起していくかという事で苦労していたところだと思いますね。
ギリシャのホーマーの海洋海に関係したオデュッセウスなどを読もうじゃないかと。
「読まばや」というのは読んで自らを励ましたいというか元気になろうじゃないかという意識が実際にはあるんでね。
ノアというのは「ノアの方舟」のノアですね。
「旧約聖書」の「創世記」の初めの方5章ぐらいかな?あの辺に出てくるんですけどこの鴿は大洪水のあとノアによって放たれてオリーブをくわえてくるあの鴿なんだよ。
ノアも鴿も大洪水前の状況には何の予感もしないで平和にいたんだよねというそういう歌なんですけどね。
さあ続いては「入選への道」のコーナーです。
皆さんから頂くたくさんのご投稿歌の中から一首永田さんが取り上げまして手を入れて下さいます。
どんな歌でしょうか?MRI検査の歌このごろ特に多くなってきてるんですけど自分が受ける歌ばっかりで妻が受ける歌はわりと珍しいですね。
金属類置いておかなきゃいけません。
奥さんを心配して旦那さんが金属類を持って待っていると。
歌はとてもいいんだけど下句がちょっと窮屈で「MRI検査終へる妻まつ」というところが何となく言葉が詰まってる感じがするのでこういうふうに直します。
「終へる」と言わなくたってどっちみち終えるのを待つんだから「妻を待ちをり」でそれは十分出るので言葉というのはね言葉と言葉の隙間をできるだけ作るような作り方をしてほしいと思います。
どうぞ皆さんも歌作りの参考になさって下さい。
さあそれでは次回の投稿のご案内を致しましょう。
さあでは続いて選者のお話です。
永田さんの年間のテーマ「時の断面あの日、あの時、あの一首」今日は「介護の日々伴侶とともに」というお話です。
草田さんの旦那さんはまだそんなに年じゃなかったけど脳梗塞で倒れられて入院されたんですよね。
それを介護に行っている時の歌なんですけれど旦那さんにとってもショックだし奥さんにとってもショックで会話をつなぐために元気づけるために「あなたいいわねあんな若い看護婦さんが面倒見てくれて。
ちょっと見てごらんなさいよ」とか言ってるわけだよね。
その時に妻も精いっぱいのジョークからかいをする。
それに旦那さんも目を開けてちょっとほほ笑んだという旦那さんもうれしいわけではないんだけど妻がこう言ってるからそれに応えようというのでほほ笑んでくれたという。
そこに介護する方される方それぞれにしんどさをジョークの中に何とか紛れ込ませようとしているある種のけなげさというか切ない歌ですね。
今高齢化社会が進んでこういう介護の歌が今歌壇全体で多くなっているんですけれどもお互いがつらいところをこんなふうに歌にしていく事で何とか乗り越える事はできないまでも自分たちで気持ちを和らげるというそういう感じがする歌ですね。
選者のお話でした。
それではここからゲストにお迎えしている竹内さんにも入って頂きましていろいろお話を進めてまいりましょう。
竹内さん冒頭短歌のイメージを短い言葉にして頂きましたね。
もう一度お見せ下さいますか?私にとっての短歌は夜汽車の窓ガラスである。
この事の意味合いですがどういう事でしょうか?私夜行列車が好きでよくそれで旅をする事がありますけども夜行列車というのは夜外は暗く車内は明るく窓ガラスがちょうど鏡のようになる事がありますね。
本なんかを読んでおりますとねぽっと顔を上げた時にそこに自分がいるのを見つけてあっこんな所に俺がいたってドキリとする瞬間がございます。
私短歌を鑑賞するのもちょっとドキリとする瞬間の楽しみみたいなところもございましてどなたが詠まれた歌でもあっこの気持ちは自分も味わったぞとかこの腹が立つ気持ちはあ〜あの時自分もあったなっていう他の方が詠まれた歌なんだけどその中に昔の自分の自画像とか今の自分の自画像を見つける事があるんですね。
その時にあっここにこんな所に自分がいたのか俺を見つけたぞというような驚きといいますかそれが何か夜汽車で窓をふと見た時にあっ自分がいたっていうこの気持ちと似通ってまして夜汽車で旅をする楽しみと短歌を鑑賞する楽しみってちょっと似てると思います。
作品の中にある種の共感を覚えるという事ですね。
読む方から言われたけど作る方も結構そうなんです。
歌を作ってしまうとあっこんな事考えてたのかという自分に気が付く事があって今おっしゃったように夜汽車のくっきりした輪郭じゃなくてどこか透き通ってるみたいで向こうもあるそんな感じですね。
今日是非竹内さんにおいで頂きたいと思ったのは実はこういう本があるんですね。
「名文どろぼう」という。
「どろぼう」とは?どろぼうなんですけどね。
これはいろんなジャンルから名文と竹内さん思われるのを引いてこられてそれを紹介しておられるんですよ。
ほんとにニヤニヤしながら読んでいくんですけどね名文だけがリストアップされててもちっとも面白くない多分。
そんなんあるのか?ぐらいなんだけど竹内さんの語りの中にこの名文がそこに収められる事でそれが名文となって立ち上がってくる感じですね。
読んでると人の文句を紹介しておられる部分がかなり大きいんだけどでもやっぱりそこに作者というか竹内さんがすごく感じられるのがとても好きなんです。
ちょっと長くなるけど紹介させてほしいんだけど大体ね笑ったりニヤニヤしながら読むんですけど突然泣かされるとこがあってね「母親と涙腺」という一節にこういうのが紹介してあって「修学旅行を見送る私に『ごめんな』とうつむいた母さん。
あの時僕平気だったんだよ」という一節があってこれはね日本一短い手紙の中の一節なんですけどね今読んでもうるうるきちゃうんだけどこういう何でもないのが紹介されてあってすばらしい本だと思って読まないと損ですよって感じです。
竹内さんこのご本の中にも名文として短歌をお引きになる事があったりあるいは「編集手帳」の中にもよく短歌をお引きになるという事。
「編集手帳」多いですよね。
その短歌をお引きになる魅力をお感じになるのはどういう事でしょうかね?「編集手帳」っていうのは短いコラムでしてね458文字しかないんですよ。
原稿用紙1枚ちょっとぐらい。
その中で短い言葉で読者の胸に響くものを書かないきゃいけないといつも考えてるわけですけれどもどうしても自分の能力には限界があるもんですから胸に響く助っ人というのが必要でしてねしかしそんなに小説の一節とか長いものは引用できない。
どうしても短くて凝縮されたいいものをってなるとどうしても短歌になってしまうんですね。
その感じよく分かりますね。
僕らも文章書く時短歌を引用するとその歌が自分の書くのを導いてくれるみたいなそんな感じありますね。
そういうところございますね。
竹内さんは随分と河野裕子の歌も引いて頂いて僕の歌なんかも引いて頂いた事あるんだけどとてもいいんですね。
それが文章の中に入ってくると。
先ほど夜汽車の窓ガラスのお話も頂戴しましたがそうやってお引きになる短歌の中にもご自身の思い言いたい事が入ってるという事自画像をご覧になるという事がやはりあるという事でしょうか?私は人生吟というんですか人生詠というんですか人生がそこの中ににじみ出てるような短歌が好きですね。
竹内さんこう決まった字数で書かれるっていうのは我々が歌を作る時に31音で格闘してるのと同じようなわりと同じような苦しみがあるんじゃないかと思うんですけどどうです?31文字と458文字じゃ随分違いますので私の方が楽してると思います。
それにしましても言葉を凝縮していらっしゃるわけですから竹内さんご自身の自作が「編集手帳」に登場するのを期待したいですね。
お待ちしております。
ありがとうございます。
多分出ないと思いますけど。
今日は読売新聞論説委員の竹内政明さんをお迎えして興味深いお話を伺いました。
どうもありがとうございました。
では「NHK短歌」時間でございます。
ごきげんよう。
2014/09/21(日) 06:00〜06:25
NHKEテレ1大阪
NHK短歌 題「持つ」[字]
選者は永田和宏さん。ゲストは新聞社論説委員の竹内政明さん。「編集手帳」を執筆する竹内さん。短歌の引用が多い。沢山の本を読み使える言葉を常にファイルしているという
詳細情報
番組内容
選者は永田和宏さん。ゲストは新聞社論説委員の竹内政明さん。「編集手帳」を執筆する竹内さん。短歌の引用が多い。たくさんの本を読み、使える言葉を常にファイルしているという。【司会】濱中博久アナウンサー
出演者
【出演】竹内政明,永田和宏,【司会】濱中博久
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
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