2014年10月5日日曜日

りふれ派はスウェーデンに触れてはいけない

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スウェーデンがマクロ金融政策で労働需要を増やし完全雇用を目指しているかのような話がマルクス経済学者の松尾匡氏のSYNODOSの記事に書かれていて、その内容を左派リフレ派を名乗る人がツイートしているのを見かけたのだが、どうも上手く騙されていて面白い事になっている*1。書かれているように、1993年に通貨防衛政策を諦めたので、その時に金融緩和になったのは間違いないのだが、雇用水準を目標に置いているわけではなく、たまたまに思える。また、財政的にも総需要管理政策を取っているようには思えない*2

まず、中央銀行であるスウェーデン国立銀行(リクスバンク)のミッションを確認してみよう。物価の安定と決済システムの維持(Sveriges Riksbank)で、日銀と基本的に同じものだ。また内閣には総裁や役員などの解任権などは無いように思える。りふれ派が嫌う中央銀行の独立性は高いようだ。時の政権があれこれ指示しやすいように思えない。

次に、金融政策で完全雇用を目指しているわけでは無い。1990年に1.73%だった失業率は、バブル崩壊と通貨防衛のための、一時は短期貸出金利500%と言う金利引き上げの影響で、1993年に8.2%に達した。変動相場制に移行して金利を引き下げるわけだが、1995年にはまだ失業率が8.80%なのに政策金利を引き上げている*3。雇用への配慮は薄い。

さらに、失業率が高いこの時期に、財政的にも緊縮政策を取っている。1990年から1991年の税制改革で法人税率と個人所得税率の引き下げによって公的債務が拡大する一方で、消費が落ち込む非ケインズ効果が観測されたそうだ。1992年に緊縮財政が策定されるものの、1994年に財政再建を掲げた社会民主党政権が政権を奪取。財政再建が本格化する*4。なお「社民党の場合、金融緩和政策を通じた総需要拡大政策もその重大な一環をなしていた」とあるのだが、政権奪取後は政策金利は上昇しているから。

結果は、そう悪くない。1990年から1993年まではマイナス成長だったのだが、1994年から2000年までは4%成長を4回記録するなど高いパフォーマンスになっている。財政収支も順調に改善していき、2000年には黒字になった。通貨切り下げによる経常収支の改善が寄与したのは間違い無いが、緊縮政策による財政再建と経済成長を両立させたのは間違いない。ただし、失業率は1%台に戻ることはなく、ここ20年間でもっとも低い2000年でも5.6%だった。

まとめると、スウェーデンの中央銀行は雇用目標を持っておらず、政府は緊縮財政によって財政再建と経済成長を両立させた。しかも非ケインズ効果まで出てきている。リフレーション政策がインフレ目標政策と量的緩和の組み合わせだと考えれば、インフレ目標政策の妥当性を表すものとも言えなくないが、リフレ派を名乗る人は増税反対なケースも多いので都合が悪そうだ。

何はともあれスウェーデンと言う国は、ミクロの労働政策的には再就職支援が手厚く長期失業者が少ない*6わけだが、マクロ的には安定志向の俗に言うシバキに近いものでは無いであろうか。研究に値するとは思うものの、りふれ派の皆様が喜ぶような結果は出てこないように思える*7

*1以前に見たときは私も気づかなかった(関連記事:あるマルクス経済学者のプロパガンダ(8) )。

*2松尾氏の元記事には、財政政策についての言及は無い。

*3スウェーデンの人口・就業者・失業率の推移 - 世界経済のネタ帳」と「スウェーデンの政策金利の推移 | 政策金利の推移」を参照。

*4スウェーデンの財政再建の教訓 ~経済成長と両立する財政再建がなぜ可能だったのか~」を参照。

*5スウェーデンの財政収支の推移 - 世界経済のネタ帳」を参照。

*6北欧にみる成長補完型セーフティネット ―― 労働市場の柔軟性を高める社会保障政策 ――」を参照。

*72011年に早々に金利を引き上げる一方で、失業率の回復が進まなかった事の方は、主義主張を肯定する材料かも知れない。

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