町の体操クラブ。
楽しそうに準備運動する小さな男の子。
見事なバク転も披露します。
この男の子が後に世界を驚かせます。
体操白井健三選手18歳。
去年初めて出場した世界選手権のゆかで優勝を果たしました。
持ち味はまるで弾丸のように空気を切り裂くひねり技。
愛称は…2年後のオリンピックそして6年後の東京へ期待が高まっています。
間違いなく…さっそうと現れた体操界の新星。
しかし白井選手は自分の力に満足していませんでした。
自分の中でもやっぱりすごいゆかと跳馬だけだと思ってるし。
体操ニッポンのエースたちが手にしてきた…それが6種目全てで演技の完成度を競う個人総合での金メダルです。
今白井選手の目標は代々の王者の後を継ぐ事。
しかし…。
個人総合は体操に必要なあらゆる能力を極めなくてはなりません。
苦しい戦いを支えるもの。
それは幼い頃誓ったオリンピックへの思い。
毎日毎日少しずつ進歩があるので…。
一年一年積み上げた結果6年後に一番いいものが出ればいいかなと思います。
体操の王者への第一歩を踏み出そうと挑んだこの夏。
18歳成長の日々を見つめました。
白井選手は高校3年生。
地元横浜の県立高校へ通っています。
おはようございます。
(2人)おはようございます。
世界チャンピオンも学校の中では普通の高校生。
(教師)はい。
自分のカード持って。
今日中とか言われたら困るんだけど。
絶対無理だよ。
早起きは得意ではありません。
あ〜ごめん。
あ〜もう。
まだ少し眠いのかな?授業が終わって向かうのが実家が経営する体操クラブです。
(取材者)こんにちは。
こんにちは。
ありがとうございます。
よろしくお願いします。
白井選手週に6日はこの場所で過ごします。
体操クラブに通うのは幼児から高校生までの地元の子どもたちです。
クラブを設立したのは父勝晃さん。
元体操選手です。
子どもたちに体操の楽しさを伝え続けています。
ここに集まる仲間たちは幼なじみばかり。
白井選手は勝晃さんが建てたこの小さな体育館で練習に励んできました。
いつもどおりで頑張ります今日も。
はい。
この体操クラブから初めての日本代表となった白井選手。
その世界デビューは鮮烈でした。
種目別ゆか。
オリンピックのメダリストたちに大技で挑みました。
(実況)世界を驚かすためにベルギーにやって来ました17歳白井健三。
まず1本目。
(解説)後方の3回半ひねりから前方の2回ひねり。
(実況)止めた!繰り出す全ての技に得意のひねりを加えます。
(解説)3回ひねり。
C難度プラスF難度です。
(実況)F難度につなげてみせました。
日本白井健三フィニッシュのF難度4回ひねりへと…。
圧巻は最後の技でした。
(実況)白井金メダルへひねりきれるか!?僅かに一歩!ガッツポーズが出た!僅か1秒の間に高速のひねりを4回。
世界の誰もがなしえなかった大技はシライと名付けられました。
この時17歳。
日本選手で史上最年少の世界王者となりました。
帰国したニューヒーローを一目見ようと大勢の人が駆けつけました。
(拍手)
(場内アナウンス)「金メダリスト白井健三選手です!」。
プロ野球日本シリーズの始球式などさまざまなイベントに引っ張りだこ。
はい大丈夫です。
付いたニックネームはひねり王子。
一躍体操界の人気者となりました。
白井選手がいつも練習前にする事があります。
トランポリンです。
小学生の頃から大好きだったトランポリン。
難しいひねり技もここなら簡単。
夢中になりました。
遊びの延長から自分なりの工夫を加えいつしか白井選手にしかできないひねり技が生まれたのです。
自分の体操を象徴するものであって自分を最大限に際立たせる事ができる一つの道具って言っていいと思います。
多分ほかの人に比べたら長い年月をかけて覚えたしやっぱり質にもこだわって覚えたのでそういうところはそのまんまゆかの成績につながってるんじゃないかなと思います。
現役時代ゆかが得意種目でした。
人から教わる事の難しい空中感覚も白井選手が遊びの中で続けてきたからこそ身についたものだと言います。
本当にひねりだけに特化してるなって思ったんですよ。
得意なものにしっかり目を向けてそこを伸ばせるっていうのがなかなか簡単なようでできない事だと思うのでそれがやっぱりすごいですよね。
鮮烈な世界デビューを果たした白井選手。
今年新たな目標に向け動き出していました。
それは6種目で競われる個人総合への挑戦です。
個人総合に取り組んでまだ3か月で迎えた試合。
最初の種目はつり輪。
一つ一つの技で体を止め美しい演技が求められます。
しかし大きくぐらついてしまいます。
つり輪の得点は36人中の33位でした。
続く跳馬でも精彩を欠きます。
結局個人総合で15位に終わった白井選手。
体操の王者への道のり。
その険しさが浮き彫りとなりました。
今日は全然駄目でしたね。
やっぱりつり輪跳馬が少し自分のリズムから外れた状態で演技してしまったので…。
次回からは1種目目が何であろうとしっかり自分のリズムに乗れるようにしていきたいと思います。
白井選手が目指す個人総合。
日本はこれまでオリンピックなど世界のひのき舞台で数々の金メダルを獲得。
輝かしい実績を積み重ねてきました。
個人総合は6種目の合計得点で争われます。
腕力や背筋など強い上半身の力でピタリと体を止めるつり輪。
全身のバネと空中感覚が必要な跳馬。
あん馬では足先まで神経を行き届かせる繊細さとバランス感覚が求められます。
更にゆか平行棒鉄棒と全6種目を立て続けに3時間の試合で戦います。
長丁場を耐え抜く持久力。
そしてどんな状況にも動じない精神力を持ち合わせていなければなりません。
全ての種目を完璧に演じきる。
まさに究極のオールラウンダーとしての能力が必要なのです。
去年の世界選手権。
白井選手が目の当たりにしたのが体操ニッポンの系譜を受け継ぐ先輩たちの姿でした。
(実況)振り上がり倒立。
世界のトップ選手を相手に個人総合で上位を独占。
(実況)あとは違いを見せつけるのは着地!
(実況)屈伸ダブル。
白井選手はゆかと跳馬の2種目しか出場できなかった自らとの違いを痛感。
個人総合を目指すようになったのです。
もちろんオールラウンダーっていうのを第一に目指していきたいですし…。
ひねりだけしかできないみたいなイメージがあるので。
やっぱりもちろん日本が重視しているのはオールラウンダーの選手ですしやっぱり航平さん凌平さんみたいなオールラウンダーの選手を見ててもすごいかっこいいし憧れる存在なのでそうやって「憧れの選手は?」って聞かれた時に「白井健三です」と言ってもらえるような選手になりたいです。
どうすれば究極のオールラウンダーになれるのか。
特訓が始まりました。
身長1m61cm体重53kg。
体操選手としては細身の白井選手。
まず手をつけたのが筋力の強化でした。
体を揺らされても片手で倒立し続けるトレーニング。
次に倒立しながら腕立て伏せを5回。
これは静止した状態から上半身の力だけで倒立。
腕力と腹筋背筋を強化します。
地道なトレーニングの結果筋肉がおよそ2kg増えました。
しかし試合本番をイメージした練習の時でした。
体を支えきれません。
まだまだ筋力が不足していました。
1つの種目を終えるとすぐに次の種目へ。
一日5時間の練習で個人総合に必要な持久力も強化します。
ふだんあまり弱音を吐かない白井選手。
厳しい現実を実感していました。
白井選手が体操を始めたのは3歳の時。
2人の兄の影響でした。
「12…」。
これはえん馬と呼ばれる台の上で回る回数を競う遊び。
兄たちに負けまいと夢中になって回ります。
「14151617…17」。
「1011…」。
しかし2人の兄に負けたまま終わりそうになったその時。
「1819…」。
「よっしゃ勝った!終わりだよ」。
「待って最後!」。
「駄目駄目駄目。
誰からやった?」。
「ケンケンからでしょ?」。
「違う!」。
「そうだよ!俺が最後だよ。
何言ってるの?」。
「そうだよ!ケンケンが最後じゃないよ」。
勝つまでやめようとしませんでした。
お兄ちゃんができるじゃないですか。
ちゃちゃ入れるんですよね。
「お前なんかまだできないだろ」みたいな。
これが悔しいんですよね。
この負けん気の強さと諦めない気持ち。
それが白井選手を1歩ずつ成長させていったのです。
オールラウンダーとして結果を出したい。
白井選手は8月の高校総体に目標を定めていました。
苦手のつり輪のレベルアップが最大の課題でした。
手にしているのはゴムチューブ。
チューブの力で体を支える負担が減る分体を静止させる力の入れ方に集中できます。
腕胸背中どこを意識すれば止める事ができるのか。
体格や筋肉のつき方によっても違うその僅かなポイントを懸命に探していました。
体の止め方に試行錯誤する白井選手。
欠かさず続けている事があります。
日々の練習で気付いた事を書き留めた練習ノートです。
体操は繊細な感覚が必要な競技。
言葉にしづらい事はイラストで残します。
これはつり輪なんですけどとりあえず…多分ビデオ見て思って書いたんだと思います。
スイングを大きくして力強く止めにいった方が案外止まるっていう事にこの日多分気付いて。
絵的にこの矢印がちっちゃいのと大きいので表されてるんですけど。
ノートに書いた事はすぐに実践。
繰り返します。
自分の感覚は本当に正しいのか手探りで進む白井選手。
練習の成果が試される大会が2か月後に迫っていました。
僕がリオデジャネイロのオリンピックの時に19歳か二十歳で内村君が27歳ぐらいの時に一緒に出れたらいいねって言われました。
そんなにやっぱり年の差がないんで一緒に出れたら出たいなと思って。
7月下旬。
日本代表の合宿。
去年の世界選手権の個人総合王者内村航平選手や2位の加藤凌平選手など日本のトップ6人が集結しました。
白井選手は代表では最年少唯一の10代です。
合宿は1週間。
苦しい状況を打破するきっかけを得たいと探していました。
この日全体練習のあと一人課題のつり輪を練習していた白井選手。
声をかけた選手がいました。
内村航平選手です。
内村選手はつり輪で悩む白井選手の指導役を買って出ました。
手本を見せたのが中水平という技。
水平の状態で静止するために筋肉の使い方が複雑です。
これができればほかの高度な技でも止める感覚が身につくというのです。
白井選手はこれまでこの技を試合で行った事はありません。
内村選手は止めるために意識しなければならない筋肉に触れ言葉にしづらい繊細な感覚を根気よく伝えていました。
力技のアドバイスをしてただけですね。
はい。
感覚的なものです。
伝えづらいです。
はい。
内村選手は自らの練習の手を止めてまで指導していました。
その裏にはある思いがありました。
高校時代の内村選手です。
今でこそ体操の世界王者ですがこのころはつり輪で体を止める事ができず得点を伸ばせずにいました。
(拍手)頑張れ!
(拍手と歓声)苦しむ内村選手を助けたのはアテネオリンピック金メダリストの…日本代表となってもなお体を止める感覚がつかみきれずにいた内村選手。
冨田選手が教えた技それが中水平でした。
先輩の教えを胸に内村選手は練習に励みます。
完成度の高いつり輪をものにしロンドンオリンピックで王者に上り詰めました。
今内村選手は7歳年下の白井選手に自らが歩んできた道を一つ一つ伝えています。
体操ってそんなすぐに力になるスポーツじゃないんでやっぱり経験も必要ですし技術ももちろんそうですけど一年一年進化し続けていけば個人総合でも日本で3番以内になれると思います。
間違いなく世界ナンバーワンのひねりの技術だと思ってるのでこれからもそこは伸ばしていってほしいしずっと世界の代表になっていって一緒に戦いたいっていうのもあるし…。
あとはほかの種目をどうやってやっていくかが問題なんですけどそこはずっと代表になっていって僕が教える事だと思うので。
白井選手が再びつり輪に向かいました。
進化を問う戦いの日は目前です。
8月大会当日。
高校ナンバーワンを決める高校総体です。
試合の直前まで白井選手は内村選手から教わった中水平を確認していました。
前の試合で悔しい思いをした白井選手。
成長を証明できるのか。
6種目で競う個人総合が始まりました。
最初の種目は平行棒です。
(拍手と歓声)ミスなく演技をまとめました。
得意のゆか。
はいお願いします!
(観客)健三ガンバ!ひねり技を次々と決めます。
最後の後方宙返り4回ひねり。
(拍手)会心の演技でした。
(拍手と歓声)自己最高得点。
順調に試合を進めます。
ところが試合後半4種目目のあん馬。
試合開始からおよそ1時間。
疲れが見え始めていました。
この種目14位に終わります。
白井選手立て直せるのか。
最大の難関つり輪に向かいます。
はいお願いします!うまく体を止める事はできるのか。
中盤に入っても一つ一つの技で体を止めます。
そして最後の倒立。
(拍手)内村選手から教わったあの中水平もしっかり静止ができています。
失敗を繰り返した頃とは見違える成長でした。
6種目全てを終え総合得点はこれまでの自己最高でした。
(勝晃)健三!健三!ベストやろ?90いったやろ?89.9。
よかった。
オールラウンダーとしての手応えをつかんだ初めての大会となりました。
課題は残ったんですけど今日のところは満足できる演技だったかなと思います。
また新しいものを吸収して少しでも先輩のいいところを取り入れて自分の体操に生かしていけたらいいかなと思います。
大会後間もなく。
実家の体操クラブに白井選手の姿がありました。
次に個人総合で出場する大会は来年5月の全日本選手権。
更なる高みを目指す日々が始まっています。
本当にやっぱり一年一年っていう単位で見るのも大きすぎるほど毎日毎日少しずつ進歩があるので本当にそういう一日一日の新しい発見が1年後想像もしてなかった自分に進化する一番の近道なんじゃないかなと思います。
体操白井健三選手18歳。
果てしなく遠い王者への道。
一歩一歩歩んでいきます。
2014/09/18(木) 01:30〜02:15
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「一歩ずつ王者へ 体操 白井健三」[字]
去年の体操世界選手権、ゆかで前人未到の4回転ひねりを成功させ優勝した白井健三選手。2年後のリオ五輪を視野に個人総合でも王者を狙う。18歳の新たな闘いに密着する。
詳細情報
番組内容
白井選手が個人総合でも王者を目指すきっかけになったのは、内村航平選手との出会いだった。全種目で指先まで意識の通った美しい演技を見せる姿に自身の未熟さを痛感したからだ。しかし白井選手は筋力が乏しく、倒立など基礎的な技術に弱点がある。それは特に筋力が必要なつり輪の完成度が低いことにも表れている。それでも“真の王者”になるためにひたむきに目標に挑む18歳の闘いを見つめる。【語り】萩原聖人
出演者
【語り】萩原聖人
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – その他
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