〜あっ!売り上げそんなに落ちてるのか?う〜んこのところたいしたスクープもないしな。
はっ!お前みたいな定年過ぎて似合わねえチョビヒゲはやしてる編集長が嘱託で残ってるってのが問題じゃないのか?それを言やぁお前だって十分ロートルだろうが。
ねぇロートルってなに?あれ?沙織ちゃん何年アメリカにいたんだっけ?ロートルなんて英語ないもん。
え?バカ!ロートルってのはもともと中国語だよ中国語。
あ〜あ万年副編集長だったってのもむべなるかだね。
うるさいよ!俺はな出世の道を蹴っていちジャーナリストとして生きる道を選んだんだよ。
経費使って飲み歩いてるだけがどこがジャーナリストなんだよ!いいかげんにしなさいよ!パパの連載だって危ないんだからね。
そろそろ打ち切りなんて話も出てんだから。
なんだよお前まで!すっかり編集部の人間みたいな口きいて!当たり前じゃない!契約してもう1年です。
どうでもいいけどさその「パパ」ってのやめろ。
とにかくな大井川っていうのはなんか企画としていまいちノリがないのよ!いやこれが最後の連載になるんなら余計やりたいんだよ。
どういうこと?お前覚えてないか?静岡の坂上さん。
ああ彩花ちゃんのお父さん?誰だその坂上って。
うん?俺が商社に勤めてた頃取り引きのあった焼津の水産会社にいた人間だよ。
娘さんが3つのときに奥さん事故で亡くしちゃってさまあ男手一つで子供育ててるってんですっかり仲よくなっちゃってさ。
春休みに遊びに行ったよね。
まあうちが離婚するまでだけどさ。
誰に似たんだよそのしつこさ。
懐かしいな。
河原でさよく遊んだよね。
その坂上が急に言い出したんだよ。
どうしても自分のふるさとの大井川を取材してくれって。
そりゃお前ねダメだよ!そんな個人的な理由でお前。
私はぜひやってほしいな!一緒に取材行きたいくらい。
おい!なんだよ小夜子まで。
大井川流域っていったらなんといってもお茶畑ですからね。
私今ちょうど日本茶インストラクターの講座通ってるんですよ。
なんだそれ?そういう資格があるんです。
お前さいくつ習いごとしたら気が済むんだよ。
女が1人で生きていくのに頼りになるのはやっぱり資格ですからね。
野菜ソムリエ英会話手話に書道にアロマテラピー。
すごい尊敬しちゃう。
ちょっと待った!そうか!日本の茶どころをメインに攻める!これどうだおい!え?茶屋が茶に迫る!ハハハ!いけるいけるおい!ムチャクチャだなお前は!決まりだ決まり!よ〜し編集会議通すぞ!よしっ!ちょっ!あら…。
うん?どうした?ちょっと…いやあのねおお…。
よっと…なんで…。
(小夜子)大井川。
本州の中央南アルプスは間ノ岳を源とし険しい山岳地帯を南下。
静岡県を縦断して駿河湾に流れ込む全長およそ170キロの川。
江戸時代関東への入り口となるこの大井川には東海道を遮り橋も架けられず渡し舟も厳禁とされ通行は大名庶民を問わず人足による川越しでしか許されなかったといいます。
つまり川そのものが江戸を守るための外堀の役割を果たしたのですと。
どれどれ地図は?大井川は関東の入り口ということは関西と関東の分かれ目か…。
あっ千頭川根。
このへんが川根茶か!「箱根八里はよ」「馬でも越すが」越すに越されぬ大井川か。
なにそれ?日本史で習わなかったのか?アメリカの高校の授業に日本史なんてありませんから。
まあどっかの夫婦がうまくいってりゃ娘はちゃんとこっちでそういうこと習ってたんでしょうけどね。
なんだお前その奥歯に物が挟まったような言い方!奥歯に桃が挟まったの?桃じゃなくて物。
鬼じゃあるまいし桃が挟まるか!でもさ天下の難所ってわりにはずいぶん静かな流れじゃない?水の量だってそんな多くないし。
昔はこの10倍くらい水があったそうだよ。
ところが昭和の初めくらいから15くらいダムができちゃってな暴れ川がすっかりおとなしくなっちゃった。
まあこのあたり水量が減りすぎちゃっていっとき問題になったこともあったそうだよ。
へぇなんでも知ってんだね。
さすが旅行作家。
ねえねえねえ!もっと行ってみようよ!せっかく世界一長い木造歩道橋まで来たんだからさ。
ねっ!いや坂上あんまり待たせちゃまずいだろ。
んっ!行かないの?じゃあ走って行ってこい!走って!俺行くから。
待ってよ。
あのすみません坂上さんいらっしゃいますかね?はい少々お待ちください。
坂上さん!は〜い!茶屋のおじさん!お久しぶりです!パパ!ちょっといつまでやってるの?ハハハ!あれ?沙織ちゃん?うわぁきれいになっちゃって。
彩花ちゃんこそ!知らないで会ったらわかんないかもね。
うん!18年ぶりだもん!最後に会ったの私中3だよ。
そう私中1!わぁ懐かしい!アメリカからいつ戻って来たの?去年。
向こうでの仕事は?なんだか日本が恋しくなっちゃって。
で今は契約記者でパパの担当なの。
パパはよせってもう!そうだったの!あっそれで?お父さんは?まだ?ああ何やってんだろ?約束11時ですよね。
うん。
(サイレン)〜ご苦労さまです。
おう。
あの石で頭ゴッツンか。
おそらく。
免許証と名刺がありました。
焼津海産常務坂上友三郎。
(汽笛)〜静岡県警の向島です。
どうぞこちらに。
お父様ですか?はい…。
お父さん…。
お父さん!
(泣き声)どうしてこんなことに…。
千頭から大井川の上流200m付近の河原に倒れているのを今朝散歩中の住人が発見しました。
死亡推定時刻は昨夜の10時から12時の間。
後頭部に2つ重なるように打撲痕があり頭蓋底骨折により死にいたったようです。
河原の石に血痕が認められていますし死亡時刻や死因からみて事故とは考えづらいでしょうね。
殺人事件だと?その可能性が高いです。
お父さんがなぜ千頭に来ていたかはわからないわけですか。
はい。
出かけたのは?おとつい…土曜日の朝です。
そのときどちらに行くとかは?いえ。
ただ今朝には焼津に戻ってくるということだったんですけど…。
そんなもんですか。
ふた晩も留守するのに行き先も聞かないとは…。
それは…。
そんなもんですよ!お互い子供じゃないんだしいちいち詮索したりなんかしませんよ。
2人っきりの親子だからこそお互い信頼し合ってるってことじゃないんですか?違いますか?申し訳ない。
私独り身なもので。
あの…彼の携帯電話かなんか残ってなかったんですか?財布も含めてなくなったものはないようですから物取りの犯行ではないでしょう。
そのケータイの通話記録からなんかわかるんじゃないですかね?被害者の所持していたケータイは水に濡れてデータが全部とんでいます。
でも電話会社に問い合わせをすればデータなんかすべて…。
あなたに言われなくても調査は依頼してますよ。
しかし通話記録の解明には時間を要するんです。
千頭付近の旅館の聞き込みかなんかは…。
彼車使いませんから電車もないそんな時間にそこにいたってことはおそらく近くに宿をとってたんじゃないかと思うんですが…。
もちろんそれも今調べてます。
ああ千頭付近にいたるまでの足取りも追う必要があるな。
大井川鉄道を使ってたとすると駅員の中に彼を見た者がいるかもしれないし。
だからやってますって!警察をバカにしないでください。
それともあなた我々の同業者かなんかですか?いやただの旅行作家です。
旅行作家?ご存じないですか?茶屋次郎っていうんです。
茶屋次郎?あ…『週刊ロイヤル』でいつも川の話書いてるあの茶屋次郎?あなたが?私担当編集者の袋田と申します。
あ〜いつも読んでます。
あれですよね?行く先々で事件に出くわす旅行記の体裁をとった推理小説もどき。
れっきとした旅行記です。
いやでもそう都合よく事件には出くわさないでしょう?その件に関しては半分フィクションですよね?いえフィクションなんて1つもありません。
すべて実際に起こったことなんです。
はぁ?要するに事件を嗅ぎつけてネタにしようとくっついてきたんですか?ネタってキミね。
なんであなたまでこんな人を?この方たちは親戚と同じなんです。
父もずっとそう思ってました。
彩花ちゃん。
(中田)向島さん!おう。
被害者の宿泊先がわかりました。
千頭駅近くの清水館という旅館です。
今泊まり客が姿を消したといって女将が署に来ました。
その客が坂上友三郎なのか?ええ宿帳は偽名でしたが写真で確認しました。
偽名?〜どうしてこんなところでお父さんは…。
誰かと会ってたってことかな。
呼んだのか呼び出されたのか。
人目につかない時間と場所を選んだ。
彩花ちゃんホントに何も心当たりないの?そうですか東京から大井川のご本を書くために?いわゆる観光ホテルってやつはなんだか落ち着かなくてね。
それはそれはありがとうございます。
でもなんだか大変だったみたいですね。
まさかうちに泊まられてた方がねぇ。
今朝いなくなったことに気づかれたんですか?そうなんです。
警察にも話したんですけどゆうべ食事を済まされて10時頃出かけられたんです。
玄関だけ開けておいてくれって。
こんな時間にどこに行かれるのかと思ったんですけどなんでも夜の川を見るのがお好きだとかで。
あのその方は何度かこちらに?いえ2〜3年前に一度来られて気に入っていただいたということでした。
それで今回はご家族とご一緒に。
家族?1人じゃなかったんですか?ええずいぶん若い方でしたけど奥さんだっていうことでした。
まだ小さな赤ちゃんもご一緒に。
赤ちゃん!?そのご家族今朝はどうされてるんですか?ご家族の方は昨日帰られてますから。
もともと皆さん1泊のご予定だったんですよ。
それがご主人だけが急にもう1泊されることになって。
あらあら…私ったらなんだかペラペラしゃべっちゃって。
すみません。
それではどうぞごゆっくり。
なんだって!?大丈夫ですか?あいたた…。
さすがに今回は喜べんなぁ。
今回はっていうのは何だ?いつもだって喜ぶようなことじゃないんだ。
人が死んでるんだぞ!いやすまんすまん!すまんって…。
(電話が切れる音)〜ほら沙織!あんまり川のほうに行くんじゃないぞ。
彩花お前お姉ちゃんなんだから沙織ちゃんのことちゃんと見てあげなよ。
は〜い!沙織ちゃんこっち来て。
うん!いくよ。
ハハッ彩花ちゃんのショック二重になっちゃったね。
坂上のおじさん別に家庭を持ってたってことなのかな。
昨日になってもう1泊することになってたって言ってたよな。
うんどういうことだろう…。
あの河原で誰かに会うことがこっちに来てから急に決まったってことだよ。
その誰かに殺されたってこと?ひとつ気になってることがあるんだ。
ん?気づかなかったか?坂上の手。
手がどうしたの?なんかおかしな格好してたな。
何か伝えようとしてたんじゃないのかな。
ダイイングメッセージってこと?あぁ。
いや偶然じゃない?うん…。
ねぇ私彩花ちゃんの部屋で寝るね。
今夜はそばにいてあげるわ。
あぁ。
俺はとにかく明日坂上に紹介してもらうはずだった製茶会社に顔出してくるわ。
すみません彩花です。
はい。
彩花ちゃん今そっちに行こうと思ってたの。
今夜は一緒に寝よう。
ありがとう。
でもちょっと話しておきたいことがあって…。
ん?あぁどうぞ。
ありがとう。
どうぞ。
ありがとう。
茶屋のおじさん。
うん。
あの…。
お父さんと一緒にいた女性のことなんですけど。
うん。
実は私心当たりがあって…。
え?あの…。
(彩花)お父さんが家で携帯電話を受けるなかで…。
発信者を見るといつも離れた場所に行って私に聞こえないようにコソコソ話していることがあったんです。
私どうしても気になってある日お父さんのケータイをこっそり調べたんです。
そしたら覚えのある時間の着信はすべて同じ美鈴という名前で。
たぶんそれがここに一緒に泊まった女性だと思います。
あぁ…。
そんな人がいるんなら私に隠さなくたってねぇ?私お父さんが幸せになるなら…。
〜今朝の新聞を見て驚きました。
坂上さんがまさかあんなことに…。
ホントだったら一緒にお邪魔するはずだったんですが。
あっこちらです。
失礼します。
改めまして岡本です。
岡本浩介と申します。
あぁどうも。
茶屋です。
ありがとうございます。
どうぞお座りください。
はい。
どうぞ。
楽しみにしてたんですよ。
坂上さんから茶屋先生のことをお聞きして何でも協力させていただきますと申し上げてたんです。
ねぇ?えぇ。
お名前のせいもあって先生のファンが多いのがこの業界ですから。
ハハハッ。
実を言うと坂上と仲よくなったのもこの名前のせいなんですよ。
あっいや…。
実は私ももともとは茶屋なんですよハハハッびっくりしてたら何のことはない。
茶農家の出身だということで。
そうなんです。
坂上さんの実家は川根で茶畑を。
あぁ。
川根っていうと千頭のあたりですか?えぇ。
あなたの実家も川根になるのよね?えぇ。
まぁかなりはずれになりますけどね。
両親がそちらのほうで林業を営んでます。
え?あの息子さんじゃ…。
あっこの人は娘の婿です。
つい半年前一緒になったばっかり。
いやぁてっきり私…。
どうも失礼しました。
いえいえすみません。
この人最初は静岡の大学から派遣されてうちには研究のために来てたんです。
それがブレンドの仕事がおもしろくなっちゃって…。
お茶もブレンドするんですか?えぇそうなんですよ。
いろいろなお茶の葉っぱを選んでそれを合わせてひとつの製品にするんですね。
2年前には日本茶品質鑑定士の資格も取ってくれたんですよ。
品質鑑定士?えぇこれです。
お茶に関する高度な知識やなにより味や香りに対して飛び抜けた感覚が要求される資格で全国で39人しかいないんです。
もちろんうちの会社では初めてでした。
まぁ新聞にも取り上げられていい宣伝になりました。
アハハッ。
まぁもういいじゃないですかお母さん。
山下?何やってるんだ?いえ…。
どうしたんだ?お前昨日保養所から帰ってきてから少しおかしいぞ。
別に何でもありません。
はい。
(ノック)どうぞ工場のほうに。
まいりましょうか。
はぁ。
どうぞ。
それぞれの土地でお茶の生葉をもみ込んで乾燥させた荒茶と呼ばれるものをここで更に焙煎などの二次加工をして製品にするんです。
これらが各地から集められた荒茶です。
荒茶を入れお茶に仕上げていきます。
工程はオートメーション化されておりコンピューターで管理しています。
お茶の味が決まる焙煎工程です。
火入れが弱いと青臭く逆に強いと香りが飛んでしまいます。
まろやかなお茶を作るための火加減というのはこれはもう経験と勘でしかありません。
このあたりのお茶というのは川根茶島田茶金谷茶ですがそれぞれの茶農家によって差が出てきます。
どうぞ。
ですのでよい荒茶を手に入れるというのがまず我々の最初の大事な仕事になってきますね。
昔の坂上さんのところの茶葉は優秀でした。
なんだかすぐに坂上さんの話になってしまいますね。
彼とはそのずっと親しくされてたんですか?それが25年ほど前でしょうか坂上さんの紹介で女性を1人雇うことになってそれ以来ですねよく顔を見せられるように。
坂上が女性を?少し事情のある人でしたが蒼井葉子さんというお茶のことをよく知ってる貴重な社員でした。
でも4年前にまだ50前で亡くなってしまって。
それまではこの木原君と2人でブレンドしてもらってたんです。
あっあなたもブレンドなさるんですか?いえ今はもう船井さん…。
あいや…岡本専務に全部お任せです。
茶葉の鑑定ではとてもかないませんから。
いやとんでもない。
さあどうぞご案内します。
こちらへ。
そちらが川根茶。
こっちが金谷茶と島田茶。
ちょっと触ってみてください。
あいいんですか?はい。
ほう…やわらかいんですね。
はい。
川根茶はすっきりとした味わいでこの2つは深く蒸してるのでまろやかな味わいなんですね。
これらのお茶っ葉をブレンドして島田製茶のお茶を作るんです。
腕の見せどころってやつですね。
そうなんです。
亡くなった葉子さんも優秀だったわ。
あ…坂上が紹介したっていう女性ですか?そうです。
そうだ!この右側の女性です。
葉子さんはなんでも坂上さんとは幼なじみで女手ひとつ赤ちゃんを育てて苦労してるので助けてあげたいとやってこられて。
そのときの赤ちゃんがこの左側にいる子です。
1年半ほど前までうちで働いてたんですけど。
辞められたんですか?ええ。
坂上さんはずっと面倒見られていたようですけど。
その方今どちらに?たしか…。
山下君!はい。
彼同期入社で仲がよかったんです。
美鈴ちゃん今たしかお茶の郷で働いてるのよね?えええ…。
美鈴という名前で…。
たぶんそれがここに一緒に泊まった女性だと思います今たしか美鈴ちゃんと?ええ蒼井美鈴という名前です。
その人まだ小さなお子さんが?あら…。
どうしてそれを?いや坂上からそんなこと聞いたような気がしたもんですから。
そうなんです。
いわゆるシングルマザーっていうんですか。
妊娠がわかってうちを辞めていきました。
子供の父親が誰か詮索されるの嫌だったんでしょう。
じゃあ次ご案内しましょう。
どうぞ。
あはい。
いらっしゃいませ!こんにちは。
あすみません。
蒼井美鈴さんて方いらっしゃいますか?はい。
あっ少々お待ちください。
いただきます。
ごちそうさまでした。
蒼井美鈴さんですよね?え?あっ私あの…旅行作家の茶屋次郎といいます。
そうです。
坂上友三郎さんの友人です。
あの坂上さんが亡くなったことはご存じですよね?どんなことでもいいんですがあなたなら何か知ってるんじゃないかと思いまして。
どういうことでしょう?あ〜もう無理!ねぇあの…事件現場の近くの旅館に坂上さんと一緒に泊まってたのあなたなんでしょ?それは…。
ねぇなんで坂上さんは次の日もあの旅館に残ったの?でなんであんな時間にあの河原に行ったの?あなた知ってんでしょ?おい!私は何も…。
これですべて終了ですので失礼いたします。
あっ痛い!あんな言い方したら怯えるに決まってるだろう!だってもう足しびれすぎて爆発しちゃったのよね。
〜よいしょ。
ありがとうございました。
〜誰?島田製茶の従業員だ。
どういう関係なんだろう?同僚だったと言ってた。
まさかあの人が子供の父親ってことないよね?よいしょ。
懐かしいな。
わぁいらっしゃい。
お久しぶりですようこそいらっしゃい。
私会ってみます。
その蒼井美鈴という女性に。
い…いやまだ会ったりしないほうがいいな。
お父さんと彼女がどんな関係であれまだ何もわからないから。
ねっ。
でも…。
そのうちちゃんと会わなきゃいけないときが来るかもしれない。
あの…その赤ちゃん本当にお父さんの子供なんでしょうか?う〜んまだわからないし決めつけないほうがいいと思うよ。
でも千頭の旅館に家族として泊まった女性と子供であることは間違いないと思います。
あの…お父さんから茶屋のおじさんには絶対に言うなって止められてたし今更もう話す必要もないと思ってたんですけど…。
何?あの…実はお父さんずっと体調が悪くてひと月前検査入院したんです。
そうなの?そしたら肝臓に腫瘍が見つかって…。
そう…。
もう手術もできないって。
それからお父さんいろいろと整理を始めてたみたいで茶屋のおじさんに大井川に来てほしいって言ったのもきっとそういうことだと思うんです。
千頭の旅館に泊まったのも家族としての最後の思い出作りなんじゃないかって…。
どうも茶屋先生。
お待たせしました。
いやぁそんなに興味を持っていただけるなんて思っていませんでした。
あぁいやいや。
もともと今回の取材は大井川流域のお茶をメインに進めるつもりでしたから。
えぇ。
どうでしょうもしよろしければうちの茶葉を味わっていただけないでしょうか?えっ?用意させましたんでどうぞあちらのほうへ。
どうぞ。
はい。
(浩介)こちらです。
あっお待ちしておりました。
あっ家内です。
理沙と申します。
茶屋です。
なんだか今回はお手数おかけしてしまって。
茶屋先生にうちのお茶をふるまえるなんて光栄です。
いやとんでもない。
じゃああとは彼女に任せてありますので…。
はい。
うん失礼します。
どうぞ。
全部入れちゃっていいんですね。
(理沙)はい。
これはお茶碗を温める効果とお湯を冷ます効果があります。
そして蓋をしていただいて40秒ほどお待ちください。
お茶碗に注いでいただきます。
はい。
このとき揺らさずに静かに最後の一滴まで注いでください。
これで一煎目のお茶の完成です。
どうぞ召し上がってください。
はいいただきます。
あぁ〜確かに上品なダシのような旨みがありますね。
おめでたなんですね。
何か月ですか?6か月です。
そうですか。
いやあなたお美しいしお幸せそうです。
ハハハ!皆さん仲がよくてお幸せそうだ。
はい。
祖父の代から従業員は皆家族だというのがうちのモットーなんです。
千頭に保養所があってそこなんかもよくみんな誘い合って利用してます。
千頭?ええ。
この前の週末も研修を兼ねて若い人たちが大勢泊まったはずですよ。
あぁ〜。
蒼井美鈴さんはあの…。
警察の方がいらっしゃって…。
えっ?警察…。
〜あっ!何やってるんですか?こんなところで。
いやまぁちょっと取材の途中で通りかかったもんだから。
取材って川じゃなくて事件の取材でしょ?ハハハ当たり。
我々出し抜いてずいぶんあちこち顔出してるみたいですね。
千頭の旅館に島田製茶。
蒼井美鈴のことももうすでに突き止めてるとか?昨日会いに行ったんですよね?本人から聞きましたよ。
彼女来てるんですね。
はっ?いやたいしたもんだな。
もうそんな情報まで。
まぁいいじゃないですか。
それでなんかわかりました?あなたに教える筋合いはないでしょ。
あぁまあね。
いや私がこんなところにいることでわかってくださいよ。
私ねずっと狭い部屋の中にいるともう息が苦しくてたまらんのですわ。
ハハハハ…そうですか。
じゃあどうも。
あっ…茶屋先生。
はい?本当に何度も事件を解決されてるんですってね。
あぁ〜まあね。
どうでしょうお互いに協力し合うというのは。
先生のお力をお借りできれば心強いんです。
高くつきますよ。
冗談ですよ。
ハハハ…むろんこちらも先生の取材には協力します。
今回も事件のこと書かれるんでしょ?いやそれは職業上の秘密ですね。
蒼井美鈴は今のところ何も知らないの一点張りです。
何も知りません。
坂上友三郎さんは母が生きていたときからお世話になっていた方です…とだけでね。
なるほどね。
(向島)もう一つお教えしましょう。
彼女の娘なんですが子供の名は友美といいます。
坂上友三郎の「友」の字と蒼井美鈴の美しいという字で友美です。
ちょっと気になってることがあるんだ。
なに?うん…。
坂上が蒼井葉子さんを島田製茶に紹介したとき葉子さんは産まれたばかりの美鈴さんを腕に抱えてた。
何が言いたいの?例えば美鈴さん…。
坂上の子供だったとしたら。
ちょっとパパなに言ってんのよ!しかし可能性としちゃあるだろう。
だったらどうしてそれを隠す必要があったっていうのよ?坂上のおじさんその頃はもう奥さんいなかったんだし再婚だってできたわけでしょ。
そうなんだけどね。
もしもよパパの言ってるとおりだったとしたらあの赤ちゃんはいったい誰の子供だっていうのよ?うん…結局カギになるのはそこなんだよな。
どうもどうも!早速のご協力ありがとうございます。
先生確かに山下繁之は事件当日千頭にある島田製茶の保養所にいたことは確認されてます。
そうですか。
行きますか。
ちょっといないようですね。
向こう…。
どうぞ。
あれ?いないみたいですね。
木原さん今日山下は?ああそれがまだ来てないんですよ。
風邪でもひいたのかと思ってケータイにかけても出ないし。
何か?いやいやどうしましょうか?彼の家は?たしかうちの従業員寮だったよな。
ここです。
(玄関チャイム)山下!山下!山下!留守みたいですね。
何か臭いませんか?えっ?ガスだ!手を貸してくださいせ〜の!おい!
(パトカーのサイレン)睡眠薬ですかね。
ああ。
引き出しにこれが。
ストーカーですかね。
茶屋先生検視によると死亡推定時刻は明け方5時から朝7時の間。
死因はガスが充満したことによる窒息死です。
パソコン上に残されていたのはやはり遺書でした。
「坂上友三郎を殺したのは私です。
私は蒼井美鈴さんと入社当時付き合っていました。
愛し合っているつもりでした。
坂上は美鈴さんと強引に関係を持ち子供まで産ませました。
私は許せなかった。
あの日私は千頭にある会社の保養所にいました。
偶然美鈴さん親子が坂上と一緒にいるのを見かけました。
翌日やってきた坂上に伝えました」。
もう二度と美鈴さんには近づくな。
美鈴さん親子の面倒は俺がみる!キミに何ができる?くっ…クソッ!うっ!
(山下)「いったん倒れた坂上は再び立ち上がり…」。
「とんでもないことをしてしまいました。
死んでお詫びします」。
被害者に打撲痕が2つあることは公表されていません。
犯人しか知りえない事実が書かれていますから信じるに足るものでしょう。
(中田)ただ今戻りました。
おうどうだった?同じ寮に住む従業員たちなんですが隣の部屋の男が今朝7時に鳴り続ける山下の目覚ましを聞いています。
そのときにはもう死んでいたんでしょう。
それと2階の女子従業員が夜の11時頃山下の部屋を訪ねる男の姿を見たというんですが。
なにっ!?それが…。
確かに訪ねました。
でも呼んでも出てこなかったので寝ているものと帰ったんです。
そんな夜中にですか?よく酒を持って訪ねるんです。
まぁ遺書もあることだし自殺であることは間違いないだろう。
ドアにチェーンもかかっていたし窓もしっかりロックが下りていたんだからな。
ありがとう。
いろいろありがとうございます。
明日お父さんが戻ってくると警察から連絡がありました。
そう。
アイツようやっと戻ってくるか。
はい。
あとは私が美鈴さんと会って真実を確かめるだけです。
いや…どうもまだ腑に落ちないことがあるんだよな。
何なの?ん?山下の部屋で目覚ましが鳴ったっていうんだよ。
自殺しようとする人間が目覚ましなんかセットするか?それに遺書をパソコンに残すってのもなぁ。
もう古いなぁ。
だいたい完全な密室だったんでしょ?自殺以外考えられないじゃない。
そうかなぁ…どうだろう。
このたびはご愁傷さまです。
(鈴の音)〜
(鈴の音)お顔を拝見させていただいてもよろしいでしょうか?どうぞ。
〜ありがとうございました。
今日はありがとうございました。
山下さんは犯人じゃないと思います。
美鈴さんそれどういうことですか?彼と私がつきあっていた事実もありません。
警察にもそれは伝えました。
あの…。
茶屋が茶畑を行くか。
バカ山倉みたいなこと言うな。
でも小学校の頃はよくからかわれたな。
茶屋なんて名前でさ。
えっ?だから中学生になって名前が変わったときはママに感謝したな。
執念深い女は嫁のもらい手がないぞ。
えっ!?すみませんこのあたりにいた坂上さんって方ご存じないですか?ああけど坂上のとこはもうみんないなくなっちまったからな。
友三郎さんっていう息子さん覚えてらっしゃいます?ああ死んだんだってな。
新聞で名前見てびっくりした。
この荒茶工場も坂上の家が中心になって建てたんだ。
友三郎のヤツも高校を出るまではここでよく手伝ってた。
ここらあたりの茶農家が協力して自分たちの荒茶作ろうと始めたのさ。
製茶会社に買い叩かれんようにな。
あの…。
蒼井さんという方もこのあたりの方なんでしょうか?ああ蒼井な。
あれも坂上のとこから畑借りてやってたんだが一人娘がいなくなって継ぐ人間がなぁ。
いなくなったって?その坂上のとこの友三郎と何かあったらしいが…。
詳しいことは大泉院の住職に聞きゃええ。
坂上とは中学まで同級でしたからねヤツのことはよく知ってます。
確かに蒼井葉子とは小さい頃から仲がよかった。
妹みたいによく面倒見てましたよ。
まあ葉子の耳が不自由だったこともあったんでしょうが。
耳が?少し事情のある人でしたがでも明るくてね。
ろう学校を卒業して坂上のとこが作った荒茶の工場で働くようになって香りの感覚が鋭いとかで重宝されました。
その頃坂上は東京の大学を卒業して焼津で就職してすぐ結婚したんですが奥さんを交通事故で亡くしたとかで休みになると頻繁に小さな娘さんを連れてこっちに帰ってくるようになりましてね。
それで蒼井葉子さんとは?ええ…。
我々から見てもその頃の2人は急速に接近したようでした。
町でもかなりの噂があって私は結婚するものだと思ってましたが坂上は首を横に振るばかりで…。
それから2年くらいしてからでしょうか。
なぜか葉子は姿を消して坂上もまたこの川根に帰ってくることはありませんでした。
美鈴さんはおそらく坂上と蒼井葉子さんとの間にできた子供だな。
耳に障害のあった葉子さんは娘に美しい鈴と書いて美鈴とつけた。
なんか思いがわかるような気がするね。
その美鈴さんは自分の娘に坂上から一字もらって友美と名づけた。
それを周りの人間はみんな誤解してたってことよね。
美鈴さんは子供の父親のことを誰にも話そうとしなかったから。
まあこれは想像だがたぶんなんか許されない関係だったのかもしれないな。
しかしあえて彼女は子供を1人で産んで育てようと決心した。
坂上としてもそんな美鈴さんを黙って見守るより他なかった。
それを勘違いされて嫉妬に狂った男に坂上のおじさん殺されたってこと?そんなの悲しすぎる。
いや今度のことはそんな簡単なことじゃないと思うんだ。
私に妹がいたんだ。
私が8つくらいのときだったかな。
お父さんが言ったことがあって。
なあ彩花。
新しいお母さん欲しくないか?嫌だ。
どうして?嫌だ。
嫌だ嫌だ!嫌だ…
(泣き声)
(彩花)それきりお父さんそのことを言わなくなりました。
きっとそれが葉子さんのことだったんですね。
お父さんは私の気持を考えて再婚を諦めたんだと思います。
全部私のせいですね。
そんな…。
まあそれが坂上の父親としての責任の取り方だったんだろうな。
彩花にはもう私しかいない。
あの子が私のもとから去る日が来るまで私は父親としての責任を果たしますそれを坂上から聞いたときに頭が下がったね。
俺は投げ出したからな。
この男にはかなわないと思ったね。
お母さんが亡くなったあと川根のお父さんの実家によく行ったことも覚えています。
そういえば…。
お父さんが女の人と身振り手振りでやりとりしてるのを見てそれが何なのか聞いたことがあって。
ああ手話っていってね耳が聞こえない人と話すときに使うんだ坂上手話をやってたの?はい小さい頃に覚えたって。
(沙織)きっと葉子さんとコミュニケーションをとるためだったのね。
手話…。
アイツまだいるかな?じゃすぐ送ってください。
私これから英会話ですから。
プリーズハリーアップ!よし。
動かないでよ。
ああ…これ船ですね。
えっ?船?ええ船を表す手話です。
そんな形してるでしょ?船?ああ。
しかし何か伝えようとしたのかな?何か犯人につながることなんでしょうか?ああそんな気がするんだけど…。
船に何の意味があるのか…。
船…。
(向島)死体の手?ええ。
おかしな形してたの覚えてませんか?何ですか急に。
はぁ…。
おい坂上さんの写真。
(中田)ああはい。
これです。
これが何か?あ…。
その手の形手話で船を表すんだそうです。
手話?ええ。
ああこれが2年前の静岡日報の記事です。
(向島)船井…。
船!!島田製茶の専務岡本浩介の結婚前の姓は船井です。
おい!参考人で引っ張るぞ。
はい!あっまだ早い!
(向島)えっ?それだけでは犯人を特定する証拠とはなりません。
それに山下の自殺の件はどうなりますか?あと遺書の中身は?例えばこの船井…いや岡本浩介がすべてを偽装し山下に罪をかぶせようとしたら?その根拠は?いや…それは…。
しかし山下が残した遺書でちょっと気になることがあるんですよ。
遺書に?使われているフォントつまり文字がパソコンに残っている他の文書と一つだけ違うんですよ。
他のものはすべてゴシックなのにこれだけが明朝です。
う〜ん…。
でもそれだけでこの遺書が山下の手によるものでないとするにはちょっとね。
第一密室の件はどうなります?あの…私にちょっと任せてもらえませんか?えっ?ゆっくり回してあげてください。
茶葉が抹茶に変わってきます。
美鈴さん。
(沙織)昨日父と2人であなたのお母さんの生まれた川根の町に行ってきました。
坂上友三郎さんはあなたの父親だった。
そうですよね?お母さんとの間にあなたができて2人は川根の町を離れていった。
そして25年後坂上さんは何者かに命を奪われた。
何がおっしゃりたいんですか?坂上さんはどうして命を奪われなければならなかったんでしょうか?あなたそれを知ってるんじゃないですか?いいかげんにしてください。
待ってください!大事なことなんです。
この意味葉子さんの娘のあなたならわかりますよね?坂上さんが最後に残していったサインです。
手話で船を表すそうですね。
坂上さんは最後にこれを伝えようとした。
教えてください。
坂上さんが最後に伝えたかったこと。
私…仕事がありますので。
はい。
〜話したいことって何なんだ?警察に行って。
私もう限界。
何言ってんだ!だいたいなんでこんなところで…。
あなたが坂上友三郎と会った場所だから。
あの日まで父はこの子が誰の子か知らなかった。
私この子を産むときに決めたから。
そのことは一生誰にも言わないって。
でも父にはもう時間がないとわかったの。
それが何なんだ?だから初めて話した。
あなたのこと。
それを聞いて…父はあの日あなたをここへ呼んだ。
せめて友美には父親であることを告げてほしい。
どうかあの子のことを認知してやってくれ。
頼む!何を根拠に…。
ここであったことは全部見られていた。
何?私山下君が死ぬ前に彼から全部聞いたの。
山下君千頭で私たちと遭遇して翌日の夜旅館から出かけていく父の姿を見たんだって。
彼は私と父の関係を誤解していて父のことを憎んでた。
父を私から遠ざけるため自分の気持をぶつけようとそのあとを追った。
許してください。
美鈴さんは僕とのことはすべて忘れる。
そう約束して子供を産んだはずです。
しかし男としての責任…父親としての責任はどうする?その話はもうそのときに済んでますから。
そうかムダだったようだね。
キミの義理のお母さんに聞いてもらうしかないな。
えっ?彼女ならきちんとしたかたちをとってくれるだろう。
ちょっとちょっとちょっと!ちょっとそれだけはやめてください!放すんだ!ちょちょっと待ってください…。
放せよ!待てよ待てよ!彼は自分が見たことをあなたにも話したんでしょ。
だからあなたは彼を殺して自殺と見せかけた…。
違うそれは違う!アイツの死に俺は関係ない。
何が関係ないの?どうして山下君が警察に行かなかったかわかる?私を事件に巻き込みたくなかったからだって彼はそう言ってくれたわ。
私もそのことは一生自分の胸のなかに閉じ込めておくつもりだった。
それはあなたがこの子の父親だから。
でも警察に行くわ。
もっと早くにそうするべきだった。
ちょっと待てってちょっと待て…。
やめてよ!ちょっと待て!待てよちょっと待て!やめなさい!岡本浩介さん署までご同行願えますか。
なんでなんでだよ…。
お前がその子さえ産まなければなこんなことなんなかったんだよ!お前の父親だって死ななかっただろうよ。
よくもそんなこと…。
何も解決してない?ちょっと雲行きが怪しくなってきてるの。
だって岡本浩介は坂上の殺害を認めたんだろ。
うん美鈴さんが山下から聞いたとおりみたい。
でも山下の自殺偽装に関しては絶対に知らないって言い張ってるの。
いいかげんにしろ!お前が山下殺したんだろ?殺してません。
〜どうですか?ええ口を割ろうとはしません。
岡本の自白がないと密室の謎は残ったままで山下の自殺を覆すことは…。
それと坂上さんの傷が2つあったことは伏せて岡本を聴取してるんですが坂上さんは一度倒れただけだという証言は変わりません。
なのに遺書には2つの傷の説明がちゃんとなされている。
「いったん倒れた坂上は再び立ち上がり私は思わずその後頭部を石で殴りつけました」。
つまりこれを書いたのが坂上友三郎殺害の真犯人である可能性が高いということです。
ですね。
はい。
あそれとその遺書なんですがたぶん山下が書いたものじゃありませんね。
はい?山下が書いた他の文章類と比較すると一目瞭然です。
ほぼ間違いありません。
あそれ読んでみてください。
その遺書には接続詞というものが一切使われていません。
例えば「しかし」とか「それで」とか「だから」とか「そして」とか…。
ああホントだ。
しかし山下の他の文章にはきちんと使われています。
あ確かにそうだ。
人の文章ってのはそう簡単に変わるもんじゃないですからね。
さすが作家さんですね。
いやいや。
ただそれがわかったところで何ひとつ解決してませんから。
密室は残ったままですしね。
あ〜。
実際に坂上を殺した犯人は岡本でも山下でもなく他にいるような気がするんですがね。
あ〜…。
おい窓開けてくれ。
はい。
あ…。
どうしました?なんでこんなこと気づかなかったんだろう…。
えっ?密室の謎がたった今解けましたよ。
いったい何なんでしょう私仕事中なんですが。
いえねやっと解けたんですよ。
山下さん殺害事件の謎が。
殺害事件?山下は自殺なんじゃ…。
あ確かに密室のなかで死んでれば自殺以外考えにくいですよね。
ただその密室をつくることができた人間が1人だけいたんです。
木原さんあなたですよ。
何を言ってるんですか?思い出したんです。
我々が部屋に飛び込んだとき真っ先に窓を開けたのが誰だったのか。
おい!あのとき窓に最初から鍵がかかっていなかったとしてもあの状況でそれに気づく人間なんていませんよね。
あなたが山下さんを訪ねたと言ってたあの夜応答がなかったっていうのは嘘です。
あなたちゃんと部屋に入り彼に会ったはずだ。
そして…。
相変わらずよく飲むな。
先輩ほどじゃないですよ。
ちょっとトイレ。
おう持ってきたウイスキーに睡眠薬を入れ彼に飲ませた。
そのあと睡眠薬のビンを置きパソコンに遺書のデータを移し…。
そしてドアに鍵をかけ…。
ガス栓を開けた。
たぶんあなた翌日従業員の誰かと一緒に部屋を見にいきそこで死体を発見するつもりだったんでしょう。
ところが思いがけなくそこに警察と私が現れた…。
あなた逆にしめたと思ったんでしょう?乱暴なトリックでしたがうまくいきましたよね。
木原さん!あのままなら坂上を殺した山下繁之の自殺ということで事件は幕を下ろすはずでした。
しかしあなた…大きな間違いを犯した。
偽造した遺書に山下が知るはずもない事実をご丁寧に記してしまったんですよ。
なぜそれが私なんです?すべて想像にすぎないじゃないですか。
あぁ確かにそうですよ。
なによりその動機がわからない。
バカバカしい…。
証拠もなく人を犯人と決めつけておいて。
(向島)木原俊介さん!家宅捜索の令状が下りました。
えっ?今からお宅に同行していただいて証拠となる品を押収させていただきます。
証拠…いったい何を?パソコンお持ちですよね?ちょっと調べさせていただきたいんですよ。
くだらない!私のパソコンに何があるというんです?かまいませんどうぞ。
持ってってください。
私もあまり詳しくはないんですがね一度作成した文書などはいくら削除してもパソコンの中に残ってるそうですね。
〜山下が千頭の町で坂上と美鈴さんたちを見かけたとき木原も一緒にいたそうだ。
そして翌日の夜外で1杯やってきた木原は保養所に戻る途中で坂上を追う山下を目にして怪しいと思いあとをつけて事件をすべて目撃した。
〜どうしてそんなことを?岡本浩介を殺人者にするためだよ。
木原にとって浩介君は目の上のこぶだった。
茶葉のブレンドの仕事も取って代わられ社長からほのめかされていた婿の座も奪われてしまった。
その跡取りが自分が坂上を殺したと思ってる。
それを知ってると脅かせば木原はこの先浩介君を操り島田製茶の実権を握ることができる。
じゃあお父さんは本当の犯人を知らないまま船井浩介の名前を伝えようとしたんですね。
その坂上の懸命なダイイングメッセージが危うくミスリードになるところだった。
でも山下さんが亡くなったのは?山下が警察に通報するのを木原は阻止しなきゃならなかったからね。
専務が犯罪者となったら世間体から考えて会社の経営は大きく傾く。
それじゃ木原に旨みはない。
おまけに山下を犯人に仕立て上げれば事件は解決したことになりすべて思惑どおりに事が運ぶ。
それで自殺に見せかけて…。
あぁ。
木原のパソコンから山下の部屋にあったものと同じ遺書が復元されてね。
それが決め手になった。
そうですか。
大好きな茶屋のおじさんに事件を解決してもらえてお父さんも喜んでると思います。
(沙織)彩花ちゃん!〜
(友美の泣き声)「川根の茶畑に赤ん坊の泣き声が響き渡った」。
アハハハハ!よ〜し。
今回もいい話になった。
アハハハ!お前が登場しないおかげでな。
バカ!俺が活躍すりゃ事件はもっと簡単に解決してたんだよ。
小夜子!お前な…これは最高級の川根茶なんだから大事に飲まんか!ねぇパパも坂上のおじさんみたいにどっかに私の知らない妹とかいたりしないの?何を言ってんだ?お前…。
私子供は大好きなんだけど結婚するつもりはないのよね。
だからなんなの?甥っ子とかが理想なのよ。
だからどっかに知らない妹がいて子供でも産んでてくれたら渡りにフナなんだけどな!フナじゃないのよ。
渡りに船!船!船よ!覚えましたね。
少しは元気になったじゃねえかおい!よかったよかった!安心したよアハハハハ!!それじゃあなこれ持って帰るか。
これで売り上げ伸ばすぞ!う…うぅ〜!イテテ…また!どうしたの?あぁギックリぶり返し?大丈夫か?イタタタタ!先生!彩花さんです。
はいもしもし茶屋です。
うぅ…。
えっ?うぅ…。
あぁなんだかね近所の野良が迷い込んできちゃって。
あの…頭の薄い野良なんですよこれが。
それであの…美鈴さんとは?うぅ〜!えぇえぇあぁ…。
うぅ〜!うるさいよお前は!イテテテ!ハウスうるさい!2014/09/17(水) 21:00〜22:48
テレビ大阪1
水曜ミステリー9「旅行作家・茶屋次郎