ハートネットTV リハビリ・介護を生きる「私の声で話したい」(1) 2014.09.17

長年衆議院議員を務めた与謝野馨さん。
与謝野さんは2012年下咽頭がんを患って喉頭を摘出。
声を失ったため政界を引退しました。
その後手術を受け喉元を押さえながら話す方法で声を取り戻す事ができました。
全国には与謝野さんのようにがんなどのため喉頭を摘出して声を失った人はおよそ3万人いるといわれています。
空気を入れて…。
(一同)ああ。
入れて…。
(一同)ああ。
一度失った声を取り戻す。
行っているのは声帯の代わりに食道を震わせて声を出す…そしてALS筋萎縮性側索硬化症の男性。
気管切開をしましたが短時間なら話す事ができます。
これついた時…声はその人にとって掛けがえのない個性の一部です。
「私の声で話したい」。
声を取り戻した人々の体験談です。
「リハビリ・介護を生きる」。
今日と明日の2日間は「私の声で話したい」と題しましてタレントの荒木由美子さんとお伝えしてまいります。
よろしくお願いします。
荒木さん私たちってふだんこのように何気なく言葉ってしゃべってますけれども病気などでやむにやまれず声を失ってしまうというのはつらい事ですよね。
本当想像つかないですね。
自分の意思を伝えられないコミュニケーションがとれない訳ですから。
でも声をそういうふうに一旦失ってもまた声を取り戻せるようになってきたんですよ。
今日はその方法をいくつかご紹介したいなと思いますしその中で生きがいをまた取り戻したそういった方たちもご紹介したいなと思っております。
ではゲストご紹介します。
喉の一部分その喉頭を摘出した患者の会…よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
田さんも喉頭を摘出されたそうですね。
はい。
それはいつごろですか?11年前です。
とにかくしゃべれない時はもう自然と内気になって姿勢もこんなんなってそれで暗い気持ちで本当に沈んじゃって…。
それでしゃべれるようになった時はそれはうれしくて急に姿勢も正しくなって…。
へえ〜!姿勢も変わるんですか?背筋が伸びて表情も明るくなるんです。
また田さんのお話は後ほど詳しく伺います。
まずは言葉を取り戻して地域に役立ちたいと元気に活動されている方を取材しました。
ご覧下さい。
東京・江東区の公園。
朝のラジオ体操に大勢の人が集まります。
その中の一人…16年前喉頭がんのため声を失いました。
隅谷さんは地元のラジオ体操サークルの役員を務めていて6時前には準備のため公園に来ます。
あっおはよう。
おはようございます。
隅谷さんは声帯ではなく食道を震わせて声を出しています。
一度は声を失い声を取り戻した隅谷さんは積極的に地域活動に参加するようになったと言います。
ここまで隅谷さんが話せるようになるまでには大変な苦労がありました。
それを見守ってきたのが妻の貞子さんです。
すごくうれしかったですよね。
それこそはっきり言葉にならないですけどやっぱり言ってる事が分かりますからね。
だからすごくうれしかったですよね。
隅谷さんが声をなくしたのは58歳の時。
塗料メーカーの営業マンでした。
そんな時主治医から喉頭を取っても再び話す事のできる食道発声という発声法があると聞かされたのです。
その食道発声を学んだのは喉頭を摘出した患者同士による支援団体の発声教室でした。
空気を入れて…。
(一同)あ。
入れて…。
(一同)あ。
空気を入れて…。
(一同)ああ。
この食道発声は口から一旦空気を食道に入れてその空気を出す時に食道を震わせて発声するというものです。
ちょうど水を一口飲み込む感じで空気を飲み込んでゲップで空気を出す要領です。
でも声を出すには早い人で3か月遅い人だと更に練習を重ねなければなりません。
喉頭を無くし努力の末再び声を取り戻した隅谷さんはこの教室で同じ境遇の人たちに食道発声を教えています。
「私の」吸って「名前は」吸って「三上と」吸って「申します」。
諦めないで話せるようになってほしい。
地域の活動にも力を入れている隅谷さんは自分の声を取り戻した喜びをこう語ります。
しかし口から空気を入れて食道っていうのは分からなかったですね。
普通に話してるうちに…。
食道発声なかなか分かりづらいと思いますのでこちらの図を使って説明したいと思います。
通常は気管にある声帯を使ってその声帯を震わせて声を出しています。
喉頭がんや下咽頭がんといった喉のがんにかかりますと喉頭部分を摘出する事になるんですね。
つまり声帯も無くなってしまうんですが気管と食道がこのように完全に分離されてしまいます。
ですので呼吸はといいますと喉元の孔気管孔からする事になるんですね。
そして食道発声はといいますと食道のこの辺りを震わせて声を出しています。
まず話す際なんですが口から食道に空気をグッと取り込みます。
そしてその空気を外に出す時に食道を震わせて声を出すというのが食道発声。
「こんにちは」という事になるんです。
難しいと思いますけど…。
食道を震わせる。
震わせる感じが感じられる訳ですか?食道の粘膜が振動して言葉になる。
これ以前からある発声方法なんですか?そうですね。
これは結構できるできないは別として歴史はもう随分古いです。
患者同士が昔編み出したというか…。
患者さんたちが生み出したんですか?そうです。
それで自分の経験をこうやって新しい人たちにつなげていってるって事よ。
へえ〜!田さんも患者の会をやってらっしゃいますけれどもそういうようなみんなで一緒なんだっていう心強さというのはあるんでしょうね。
私もここ行ったんですけどね。
あっそうですか。
一番行ってありがたかったのは自分だけこの病気になって落ち込んでる時にこの教室に行って大体200人ぐらいいてそれを見ただけですごい励みになったんです。
一人じゃないんだ。
自分だけじゃないと。
ちょっとこちらのVTRご覧頂きたいと思います。

(歌声)カラオケの大会なんですけれども去年11月に行われました喉頭を摘出した人たちの歌のカラオケの大会のもようです。
食道発声でこういった歌声を披露されたという事なんですよね。
すご〜い。
話せる事も大事なんですけど歌を歌えるっていうのはこれまたうれしいですもんね。
うれしいです。
本当に楽しみでもありますし発声の練習にもなりますし。
この食道発声できる方ってどのぐらい訓練したらできるものなんでしょう?今3か月から半年と言ってましたけどそれはできた人であって10年たってもできない人はできない。
私は隅谷さんのように食道発声上手にできなかったんですけど…。
初めて声に言葉になった時というのはどういうお気持ちだったんですか?いやもう…このつらい事全部忘れてね。
それで生活感が全く変わったんです。
生活感が変わった?しゃべれないという事はうちにいても電話は出ないし玄関に人が来ても居留守使っちゃうし。
とにかく人に会うのが…。
会いたくないと。
私は手術して退院する時外出が怖くていつもこういうの作って持ち歩いてたんです。
これ常に持って…。
常に持ってる。
ただ幸いに使う事はほとんどなかったです。
…という事は非常に世間の皆さんは障害者について温かい扱いをして頂いたと。
その田さんなんですが先ほど話にもありました食道発声というのはなかなかうまくいかなかったんですが今はシャント発声法という方法で発声されています。
そのシャント発声法というのはどういった方法なんでしょうか。
ご覧下さい。
訪ねたのは田さんが会長を務めている喉頭を摘出した患者の会悠声会の集いです。
皆さんご起立をお願いします。
ではついてきて下さい。
あ〜。
(一同)あ〜。
この毎月の勉強会は基本の発声練習から始まります。
かきくけこ。
(一同)かきくけこ。
さしすせそ。
(一同)さしすせそ。
なにぬねの。
(一同)なにぬねの。
私がこんなふうになると夢にも思ってなかった事だし…。
去年の7月喉頭がんが見つかりました。
突然のがんの宣告と迫られた摘出手術。
でも松田さんは家族からシャント発声の存在を教えられた上で喉頭の摘出をしました。
しかし術後の経過が悪くシャント発声のための手術ができなかったため半年間声を失ったままでした。
毎日…。
いらだってましたね。
毎日ね。
そして今年の4月シャント手術を受け再び声を取り戻せたのです。
急に私が「おうおう」。
それから「おはよ」。
「おはよ」。
それが出てね。
「本当声出た!」って感じでもううれしかったですね。
本当に涙出たね。
シャント発声をするためにはこの人工鼻と呼ばれる器具をつけます。
人工鼻は呼吸する喉元の気管孔から肺や気管にほこりが入るのを防いだり乾燥を防止する役割があります。
松田さんは毎朝15分ほどかけて人工鼻を取り付けます。
これでお話ができる。
シャント発声とはどんなものなのでしょうか。
松田さんが手術を受けた病院を訪ねました。
シャント法による発声法っていうのは欧米ではもう一般的な方法で喉頭を失った患者さんの約7割が欧米では行っていて日本ではまだまだ普及率としては5%程度になっております。
シャント発声をするにはこのボイスプロテーゼと呼ばれる特殊なチューブを手術で埋め込む必要があります。
喉頭を摘出すると気管と食道は完全に分離されています。
この気管と食道の間をボイスプロテーゼでつなぎます。
話す時人工鼻を押す事で気管孔を塞ぎ肺から大量の空気を食道に流し込み食道の粘膜を震わせて声を出します。
また人工鼻を手で押さえなくても話す事のできるハンズフリーというタイプもあります。
このシャント法をやる事によって音声の獲得率が約9割獲得できます。
よりQOL生活の質を向上させる目的で機能回復できるこのシャント法っていうのがより患者さんにとっては求められているものだと思います。
しかしボイスプロテーゼは年に数回交換しなければなりません。
ほかにさまざまなメンテナンスのための器具や費用もかかります。
それでも話す喜びは何物にも代えられないと悠声会のメンバーは語ります。
しかしVTR拝見してても言わなければ聞かなければ分かりませんよね。
そうですね。
訓練は食道発声と比較すると少なくて済むという事ですね?シャントの場合は取り付ければ大体96%の人はその場で話ができるようになります。
(2人)その場で?ええ。
極端には翌日からできると。
だけど残りの5〜6%の人はちょっと要領をつかめないで言語聴覚士の先生にリハビリの訓練を受けるという事があります。
先ほど食道発声は1回に飲み込んだ空気の量をまた出す時に震わせる訳で肺の空気の量の方がシャント法の方がより吐き出す空気の量というのは多いですよね?食道発声の場合は意図的に無理して口から空気を飲み込んで途中でそれを吐きながらしゃべると。
シャントの場合は肺の空気をじかに気管から食道のこのボイスプロテーゼを通して空気流すから空気の量は絶対的にあるから長い言葉もちゃんとしゃべれると。
メンテナンスだったり月々の費用だったりこの辺りどうなんですか?シャントの場合は今言うように…逆にデメリットとすれば4か月に一遍ぐらいさっきの説明にあったボイスプロテーゼ病院に行って付け替える必要があると。
1か月に大体平均して2万3,100円。
毎月ですか?毎月。
これは負担になりますね。
ええ。
ですから…現在33の自治体がOKになってて今年も17か所陳情に行ってきました。
声を失うという事はほかにもいろいろな事を失ってしまう事はあるかもしれない。
中には手術をためらう人もいるかもしれませんね。
あるんです。
これが一番大きい事です。
しゃべれなくなるっていうんで私もそうだったけど大体がね…。
私は66の時でした。
この年代になるとね…一旦はそういう気持ちになるんです。
だけどほとんどの場合家族が「そんな事言わないで」とインターネットの中でいろいろ調べて私たち悠声会に見学に来て……という人が結構いるんです。
同じ病気でも人によっていろいろ違うと。
まだ現役で働いてる人にとってみればお金が多少かかっても声が出せないと職を失う。
事業をしてる人は会社を失っちゃう。
こういう人にとっては経済的負担がかかってもしゃべりたいというのはあると。
あるいはもう年取ってもう世間にも出ないからこれから毎月2万もお金かけてしゃべれなくたっていいという人もいるでしょう。
それぞれの長所短所を説明して患者が選ぶという方法にしなければならないと。
ためらってる人たちにとっても背中を押すっていう事にはなるでしょう。
教えたいと思います。
教えてあげたいと思います。
さて声を失うというのは喉頭を摘出する人だけではないんですよね。
病気のために気管切開を余儀なくされた人も言葉を話す事ができなくなってしまいます。
東京・練馬区に住む…岸さんは60歳の時全身の筋肉が萎縮し衰えていくALSを発症。
今は手も足もほとんど動かせません。
徐々に自分の力で体を動かす事もできなくなっていった岸さんにとって家族と話す事が大きな安らぎの一つでした。
しかし5年前気管切開をしたため岸さんは話す事ができなくなりました。
今は昼も夜も人工呼吸器を使用していますが短時間なら自発呼吸ができるためスピーチバルブという器具をつけて会話ができるのです。
はいどうでしょうか?もっと枕低くしますか?いや大丈夫でしょう。
あっ声が出ました。
いい声です。
(取材者)練習とかっていうのはいるんですか?最初だけ。
明瞭な言葉が出ました。
声帯があるので声は明瞭です。
スピーチバルブをつけて気管切開孔を塞げば普通に話す事ができるのです。
しかし5年前医師から気管切開の選択を迫られた時の絶望感は例えようのないものでした。
気管切開した方がいいんじゃないかと言われたけどそのかわり言葉を失いますと。
それで言葉を失っても今死ぬ訳にはいかないと…。
岸さんが迷った末に気管切開を決意したのには理由がありました。
母親のはなさんとの約束があったのです。
実はおふくろがまだ元気なんですよ。
当時94歳でした。
「私より先に逝くんじゃないよ」って言われてましたから。
それで泣く泣く気切をお願いしたんです。
声を失っておよそ1か月がたった頃病院が気管切開した部分にスピーチバルブをつければ話せるようになると教えてくれたのです。
うれしいです。
それまで口パクとか文字盤とかで要求を聞こうとしてもなかなか私が理解できなくて…。
出た時は本当にうれしかったですよ。
これついた時言葉が出た。
生き返りましたよ。
言葉が話せるほどすごい事はないですよ。
一度失ってみれば分かる。
本当にこれほどつらいものはないです。
でも本当に言葉がなくなった時のつらさあとは手術に踏み切ろうと思った時のお母様の言葉とか…。
「先に逝かないで」って。
すごい…。
手術も多分勇気がいったと思うんですよ。
いろんな事考えながらでも踏み切ったっていうのはお母さんの事もあったでしょうしまたやっぱり自分の声を取り戻してもう一回人生をやり直したいっていう気持ちもあったでしょうし声を失ってみないと分からないという部分は田さんあるんでしょうね。
全くそのとおりですね。
ただ生きるだけだとしゃべれなくても生きれるけど人間として人間だけが持つコミュニケーションこれをいきなり失っちゃう訳ですから本当にショックが大きいです。
想像以上ですね。
たくさんの方の…今日は田さんも含めてお話伺ってきましたけども本当に言葉って改めて大事だなって荒木さん思いましたよね。
そうですね。
コミュニケーションとる。
自分の意思を誰かに伝える。
やっぱり全てがこの言葉だったし喉頭を無くすっていう事でそんなにたくさんの大変さがあるっていう事も知りませんでしたのでね。
田さんこれからもますますお元気で。
そしてたくさんの人に勇気を与えて頂きたいなと思います。
ありがとうございます。
今日はどうもありがとうございました。
2014/09/17(水) 20:00〜20:30
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV リハビリ・介護を生きる「私の声で話したい」(1)[字]

1)自分の声を取り戻す ▽がんなどの病気で声帯を摘出、声を失った人は約3万人と言われます。でも声は取り戻す事ができます。自分の声で話せる喜びの「声」を伝えます。

詳細情報
番組内容
全国にはがんなどのため喉頭を摘出、声帯を失った人は約3万人といわれています。でも声は取り戻すことができます。その一つの方法が、失くした声帯の代わりに食道を振るわせて声を出す「食道発声法」です。ある程度の訓練をすれば「自分の声」で話せるようになります。分離した気管と食道を器具でつなぐ「シャント法」もあります。体験談を通じて、声を失った辛さと苦しみ、そして自分の声を取り戻した喜びの「声」に耳を傾けます
出演者
【出演】荒木由美子,NPO「悠声会」会長…土田義男,【司会】山田賢治

ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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