国や自治体が蓄積した膨大な情報。
今、それを活用するサービスが次々と生まれビッグビジネスとして注目されています。
背景にあるのは行政情報のデジタル化。
これは厚生労働省の介護事業所のデータを使ってニーズに合った施設を見つけ出すサービスです。
介護現場の負担を大きく減らしています。
行政情報の積極的な開放「オープンデータ」でアメリカでは新たなビジネスが続々と誕生。
中には警察の持つ過去の犯罪データをもとにどこで、どんな犯罪が起きるのかを予測するサービスまで登場しました。
次々と公開される行政の情報は社会をどう変えるのか。
その可能性を考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
優れたビジネスが生まれるきっかけとなったり地域住民の問題を解決する手がかりとしても注目されているのが国や自治体などが保有している多種多様なデータです。
公的な機関が持つデータを誰もが使いやすい形で公開し利用できるようにすることで生まれるアイデアやビジネスに今、世界各国が注目していまして積極的なオープンデータ政策が60か国以上で進められています。
例えば地方自治体が把握しているリアルタイムのバスの運行情報。
これが公開されアプリが作られることで停留所でバスを待っているとき情報端末を使って運行情報を知ることができます。
国勢調査や家計調査各省庁の持つ統計などの公共のデータ。
これらを分析し付加価値をつけることで新しいサービスが生まれたり暮らしが便利になったり安全になったりさらに行政のコストが下がるなどさまざまな可能性が期待されています。
積極的なオープンデータの活用が叫ばれていますが日本のデータの公開そして利用は遅れているのです。
公共機関が持つデータはどのように活用され新たなサービスを生み出しているのか。
まずはご覧ください。
福岡市でケアマネージャーとして働く永田やよいさんです。
介護を必要とする人や家族の相談に乗り希望の条件に合う介護事業所やサービスを探しています。
施設の連絡先など基本的な情報が提供されていることは知っていましたが具体的な内容は一軒一軒問い合わせていました。
施設を1つ探すのに丸3日かかることもありました。
こうした介護現場の課題に着目しサービスを開発した介護ベンチャー企業です。
この企業が活用を考えたのは厚生労働省が公開した全国介護事業所のデータです。
施設の住所や介護メニューの基本的な情報でこれだけでは使い勝手がよくありません。
この企業は厚労省が公開した情報を自社のシステムに取り込み独自に180もの項目を追加しました。
例えば介護事業所の空き状況などの情報を加えます。
市内の介護事業所に呼びかけこのサービスに登録してもらい最新情報をリアルタイムで更新してもらいます。
ケアマネージャーは「木曜日、足のリハビリに空きがある事業所は?」などと検索すれば条件に合う事業所をすぐに探し出せるようになったのです。
こんにちは。
このサービスのおかげでケアマネージャーの永田さんの仕事の進め方は大きく変わりました。
歩行訓練の平行棒で検索。
5件ある。
介護事業所探しにかかる時間は3日から僅か30分と大幅に短縮できました。
また受け入れ先を早く見つけられることでその分、家族の介護の負担を軽くすることができました。
眠っている行政データを掘り起こし新たなサービスに活用するオープンデータの取り組み。
日本ではまだ始まったばかりです。
その一方、オープンデータをビジネスに取り込む動きが過熱しているアメリカ。
アメリカ政府は5年前から行政データの公開を始め今や、その数は40万件。
それを使って新たなビジネスを生んだり社会的な課題解決につなげようとしています。
目覚しい動きのひとつが犯罪捜査や防犯の取り組みです。
アメリカの警察はいつ、どこで、どんな犯罪が起きたのかという犯罪データを次々に公開しています。
このデータをもとに社員40人のITベンチャー企業では犯罪が将来どこで発生するのかを予測するサービスを開発しました。
ひとつの警察署で数百万件に達するという犯罪データ。
過去数年分のデータを独自に開発した高度な解析法で計算します。
すると、その地域で犯罪が再び起こる可能性のある場所とその種類が浮かび上がります。
さらに、日々起きている最新の犯罪データを入力。
すると150メートル四方の中でその日発生する可能性の高い犯罪をピンポイントで知らせることができるとしています。
このサービスを始めるや否や全米各地の警察がパトロール活動に導入。
イギリスや南米の警察も契約を交わしました。
2年前からこのサービスを導入しているカリフォルニア州のアルファンブラ市警察です。
パトロールする地区の地図に強盗が起こるとされる赤色の四角いマークが示されました。
パトロールはその指示されたエリアを重点的に行います。
効率よくパトロールできるようになったためこの地域では強盗が年間20%以上減少し治安がよくなったといいます。
続々登場する新ビジネス。
農務省と国立気象局が持つ過去60年分のデータからは天候のリスクなどを予測して農家向けの保険が作られました。
悪天候などが原因で不作になった場合農家の収入補償を細かく行うというものです。
アメリカでオープンデータを活用することで生まれたビジネスは500以上。
今後、この動きは加速し続けると見られています。
今夜はオープンデータ政策にお詳しく、国の電子行政に関するタスクフォースにも参加されてこられました、国際大学グローバルコミュニケーションセンターの庄司昌彦さんをお迎えしています。
介護、そして犯罪捜査、さらには農業保険、本当にいろんな多種多様なビジネスが生まれる可能性がある、どんなことに注目されてますか?
先ほどの農業保険に表れていますように、データとデータとデータを組み合わせることで、知恵で新しいビジネスを生み出しているというような、そういったデータに基づいたビジネスというのに注目をしています。
気象や土壌、そして収穫のデータをもとに、農家の方々が不作のときに、所得が補償される仕組みですよね。
そうですね。
農地ごとに作物ごとに、非常にきめ細かいリスク計算をして、農家の心配の種である、その収入の波というのをなくしていくというですね、非常に農家の立場に立ったサービスができていくというふうに思います。
ほかに日本から生まれて、よく使われているものってありますか?
そうですね。
ごみ出しアプリというのが今、日本で広がっています。
これは行政に対する問い合わせの中で、ごみに関するものっていうのは非常に多いそうなんですけれども、どのようなごみを、どの分類に出せばいいのか、どの地域にどの収集車がいついくのかといった情報を行政が提供して、民間の力ですばらしいデザインで、使いやすいアプリを作って提供するということが行われていまして、それが非常に使いやすいということで、いろんな地域に広がっているという事例があります。
行政にとっては、その行政の孤立化にもつながるサービスだと思うんですけども、こうしたオープンデータっていうことのその一番の意味というのは、どう捉えたらいいんでしょうか?
データの活用といいますと、個人について、いろんなことを深く知って、個人のことを明らかにしていくというようなアプローチもありますけども、社会に関するいろいろなデータを使っていくことで、個人を取り囲む環境について、より詳しく知ることができるようになるというアプローチもあると思うんですね。
そうして個人が自分の周囲の環境をよく理解することで、自分に合ったサービスを選んでいくとか、自分らしい行動を取るとかですね、そうした市民とか消費者としての個人の意思決定を支援するというようなデータの使い方というのができるんじゃないかなというふうに思います。
そうしたサービスを提供しようという機運は今、日本全体でどの程度ありますか?
例えば、インターナショナルオープンデーターデイというオープンデータを使って、地域の課題の解決だとか、ビジネスの創出をしようという世界で一斉に行われるお祭りがあるんですけど、日本はその開催地の数が数が世界で2番目に多いと。
2番目に多いんですか?
であるとか、税金の見える化をするサービス、これが世界で一番多く作られているとかですね、民間の側でこうしたチャレンジをしようという機運というのは、非常に高まってきているというふうに思います。
ただ、国や自治体から提供されているデータは、ほかの国に比べると、まだまだ少ないといわれてますし、行政側の取り組みにおける課題はなんだと思われますか?
そうですね、まず、オープンということばに関する認識を変えていく必要があると思います。
今まではオープンといえば、データを見せることというわけだったのが、ここで言っているオープンデータというのは、自由に使える編集加工してビジネスにできるという、活用というのに重点を置いているというところが新しいところだと思います。
そうしたところに向かって、データというのは、そもそも公共財であるという認識を持っていくということですとか。
自治体側では、そこが少し足りないですか?
そうですね、まだニーズがあれば、問題がなければ、出していこうという形で、そもそもみんなのものという発想に、まだ十分に変わりきれてないということはあるかなというふうに思います。
そして使いやすい形でデータは出されているんでしょうか?
自治体ごとに、まだばらばらに提供されている、国の機関ごとにばらばらに提供されているというのが実情です。
データの形式がそろっていくと、全国規模でサービスを作るということができたりしますので、自治体を超えた動きを作っていくためには、データの形式をそろえていくということが必要だと思います。
大きな可能性を秘めていますこのオープンデータですけれども、多くのデータが出回ることによる課題もあります。
今アメリカの不動産業界ではオープンデータをフル活用し住宅情報をきめ細かに提供するサービスが行われています。
担当者が出してきたのは周辺住民に関する情報。
世帯収入はどれほどなのか。
どれくらいの人たちが結婚しているか。
そして住民の学歴や学力レベルまでデータで提示します。
オープンデータによって地域の生活水準を浮き彫りにすることで物件に付加価値をつけるのがねらいです。
さらに顧客の要望があれば会社が独自に入手した登記簿情報や住宅価格などよりプライベートな内容も提供しています。
新しいビジネスが急拡大する一方で去年、アメリカ政府はオープンデータの活用に警鐘を鳴らしました。
複数のデータを組み合わせることで個人が特定されるモザイク効果を考慮する必要があるとしたのです。
オープンデータ研究の第一人者ニューヨーク大学のジョエル・グリンさんもデータの組み合わせについて注意を促しています。
性別や年齢などオープンデータそのものは匿名化が前提となっているためプライバシーが明らかになることはありません。
ところが、さまざまなオープンデータを重ね合わせさらに独自に入手したブログなどの情報を組み合わせていくと個人が特定されていく可能性があるというのです。
日本でも利用価値の高いデータを公開しながらプライバシーをいかに守るかその検討が始まっています。
福島県会津若松市は2年前から市内全域にある消火栓の位置やバス停までのルート検索などを公開しオープンデータ化を積極的に進めてきました。
今、新たに公開を検討しているデータがあります。
市民がどこに住んでいるかを緑色の点で表した人口分布図です。
世帯人数や空き家が一目で分かるため幅広い市民サービスや新たなビジネスへの活用が期待されています。
しかし課題となっているのはデータをどこまで細かくして公開するかということです。
市は白地図を格子状に区切りそれぞれの区画の人口を公開しようと考えました。
区切りを細かくすればより詳しいデータが得られます。
ところが白地図に住宅地図を重ね合わせると区画によっては世帯人数が明らかに。
住所とともに家族構成もおぼろげに見えてきます。
市はこの課題を直接市民に問いかけ意見を求める活動を繰り返しています。
その一方で地域経済の活性化にはより詳しい情報ほど有効だという声も上がりました。
プライバシーを守りながらいかにオープンデータ化を進めていくか。
検討は始まったばかりです。
個人が特定できない統計を出した行政側、しかし、ほかにいろんな情報が積み重なっていくと、いつの間にかプライバシーが明らかになってしまうっていうのは、ちょっと怖いですね。
そうですね。
オープンデータというのは、基本的には個人を特定するような情報ではない、公開が可能な情報を活用していこうという話ではあるんですけれども、非常に隣接した領域で、あるいは統計データの目を細かくしていくことで、そういったリスクが生じてくるということは確かにあるというふうに思います。
またアメリカの事例でありましたけれども、独自にオープンデータではない所から入手したデータをかけ合せることでいろんなことをしていくという事例が出てきているのも、注意が必要だというふうには思いますね。
どんなルールが必要ですか?
完全に匿名性を保つということは、なかなか難しいということを前提として、では、個人に関するデータを扱う人たちは、どういった振る舞いをしなければならないのか、何をしてはいけないのかというようなことを考えたり、あるいはもし問題が生じたときには、誰がそれを守るのかというような仕組みを作っていくという、そういう個人情報保護、パーソナルデータの議論というのが必要になってくると思います。
ビジネスをされる方には、その情報をどこから入手したのか、追跡可能な形にすべきではないかという話も聞こえてきますよね。
そうですね、そうしたルール作りが今、政府で進んでいまして、パーソナルデータ、個人情報保護の問題というのも、非常に注意を払っていく必要があるというふうには思いますね。
しかし一方で、ずっとお話していますように、そのデータを使うことによって、新たなビジネス、あるいは社会問題の解決につながるということになりますので、それをもっと加速していくうえで、行政がしなければいけないこと、あるいは民間がしなければいけないことはなんでしょうか?
民間の側は、創意工夫を凝らしていくということ、それから必要なデータがあれば、ニーズを発信していくということが必要だと思います。
それから行政のほうは、ああした安心して使えるようにするためのルール作り、ブレーキを作っていくというのも大事ですし、同時にアクセルを踏んでいくということも大事です。
特にやっぱり行政のマインド、使うということに公共財を使おうということにマインドを変えていくこと、そして官民のコミュニケーションを深めて、どういうデータが必要なのか、どういう使い方をしていくのかということを、理解を深めていくことが必要だと思います。
2014/09/17(水) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「公共データは宝の山〜社会を変えるか?オープンデータ〜」[字]
行政に眠る膨大データをビジネスに活用するオープンデータ。経済効果は世界で17兆円。500社以上の企業がひしめく先進地アメリカの事情も踏まえ、活用のあり方を考える
詳細情報
番組内容
【ゲスト】国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 主任研究員…庄司昌彦,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 主任研究員…庄司昌彦,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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