高橋克彦サスペンス「ミイラが呼んでいる」 2014.09.17

うっあぁ…。
うっ…。
あ〜!あ〜あ〜!
(監督)カット!OK!
(助監督)お疲れさまでした。
(信子)お疲れさまでした先生。
おかげさまで無事にクランクインできました。
本当にありがとうございました。
(長山作治)手間ヒマかけた面白い映画になりそうだな?なぁリサ。
先輩の原作とは思えない豪華キャスト。
ウキウキしてきたわ。
俺も最高だぜ。
ホテルに帰って祝杯だ。
調子に乗らないのチョーサク!ヤダ!先輩ったらすぐ調子に乗るから。
いいじゃないか仲間なんだからなぁ信子さん。
うらやましいわ二人の微妙な関係。
微妙じゃないです。
明確な先輩と後輩。
でも信子さん大変ですね。
プロデューサーってどんとしてて楽そうに思ってました。
好きでやってる仕事ですから。
どうしました監督?あぁ信子さん。
松本君が妙なものを見つけてな。
(松本昭二)どうでもいいけど誰かつまずくと面倒だからよ。
う〜ん?お地蔵さんの頭じゃないですか?さっきの雨降らしで泥が流れて埋まってたモノが顔を出したんじゃない。
意外と円空の幻の彫刻だったりして。
だとしたら世紀の新発見だ。
お宝鑑定団絶賛の超高値で一気に百万長者だぞ。
まさかでも気になるわね。
よ〜し掘ってみよう。
誰かシャベル持ってきてくれ。
〜その辺でいい引き出してみろ。
それがまだ下に何か埋まってるみたいで…。
足が大きな板とくっついてて抜けないんです。
ホントだ。
仏像自体が何かのふたの飾りになってるってことかしら?それにしても随分デカそうな木の箱だな。
徳川の埋蔵金でも隠されてるのか?面白くなってきた。
百万どころか億万長者も夢じゃない!俺にも手伝わせてくれ。
よ〜し掘れ掘れ!〜よいしょ!何これ!「パンドラの筺」みたいで気味が悪いわ。
今どき悪霊を閉じ込めた箱もねえもんだろう。
冗談抜きで大判小判がザックザクって気がしてきた。
鬼が出るか蛇が出るかワクワクするぜ。
開けてみますか…先生。
いってみますか…。
よしご開帳だ。
せ〜の!あっ!ここれは…。
ミイラ!ミミ…。
即身仏だ!ウソ!とにかく警察に連絡しろ!ハイ!〜
(塔馬双太郎)月山羽黒山湯殿山。
山形県北西にそびえるこの3つの山をあわせて出羽三山と呼び古くから東北の民衆信仰の聖地として知られています。
中でも湯殿山一帯に見られる即身仏信仰は山村正夫の湯殿山麓呪い村や手塚治虫の火の鳥などでも扱われ全国的に有名になりました。
即身仏とは主に江戸時代の中頃から後期にかけて民衆の救済を願うために密教の行者が生きたまま柩に入り土の中へ身を埋めてミイラになって死んでいったというきわめて珍しい信仰のかたちでその厳しさから悲しくも感動的なエピソードが…。
先生…?ハイ!という具合にお鈴の音が聞こえなくなって3年3か月。
千日がたって掘り出されたミイラに漆や柿の渋などを塗る永久保存の方法をほどこして厚い信仰の対象となる即身仏が完成するわけですが…。
実はこの即身仏が学問的に注目されるようになったのはここ数十年でまだ分からないこと謎の部分が多く残されているというのが現状です。
(奈津子)戻ってらっしゃいました。
今替わります。
先生ディープリバー出版の名掛さんから。
ハイ塔馬。
どう湯殿山の様子は?見つかったの即身仏が!えっ!新発見よ。
長い間封印されていた謎のミイラ!何だって!「暴くなかれ見るなかれ」…。
まさかジイさんから聞かされていた即身仏が…。
今のうちに何とかしねば必ず悪いことが起こるぞ!ゆうべからそれで大騒ぎなの。
村の人たちも舞い上がっちゃって収拾つかなくって。
ホントに見つかったのか即身仏が!本当よ!で映画の撮影までストップしちゃったの。
うん?・冗談じゃねえぞ!何でいきなりロケ協力できねえって話になるんだ。
(千崎完三)だからこのミイラが出てきたことは仙人村には100年に一度の大事件なんだよ。
(雲海)「暴くなかれ見るなかれ」言い伝えの即身仏は決して掘り返してはならん。
村には先祖伝来の固い戒めがある。
バカバカしい。
八つ墓村じゃあるまいし今どきそんな迷信を信じるヤツがどこにいるんだよ。
雲海さん千崎さんプロデューサーの私からもお願いします。
今回のことと映画の撮影のこととは…。
ダメだ。
これ以上の協力は打ち切りだ。
千崎さん!悪いがこれは自治会で決めた村の総意でな。
考え直してもらえませんか?やっとの思いでここまでこぎつけた作品なんです。
ねぇこうなったらトーマだけが頼りなの。
お願い!今すぐこっちにきて助けて。
分かった!奈津子くん急な出張です。
午後からの授業は休講にしてください。
2〜3日戻らないかもしれない。
先生!〜あっトーマこっち!あ〜よかった〜。
迎えに来てくれたんだ。
あれ荷物は?あこれだけ…。
変わらないね…。
さっ行こうか。
あれからますます事態こじれちゃってさぁ。
とりあえず監督さんと役者さんは東京に戻って待機することになったの。
謎のミイラをめぐる騒ぎが収まらないうちはねぇロケ場所を貸してもらえないみたい。
リサの伯父さんがいてもダメか。
自治会長の立場が逆にアダになっちゃってこっちの味方ってわけにはねぇ…。
ガッカリしてるだろうなぁチョーサク。
自分の小説が生まれて初めて映画になるってまるで子供みたいに喜んでたから。
5年ぶりか…。
そんなに会ってなかった?あああの日以来一度も。
そうか…。
車で来てるの行こう!〜すみません皆さん紹介します。
大学時代の同級生で京南大学助教授の…。
塔馬双太郎です。
よろしくお願いします。
トーマ。
よお。
リサお前が呼んだのか?う〜ん久しぶりだね。
ふざけるな。
お前も5年前の絶交宣言の現場にいたはずだ。
こんなヤツ顔も見たくねえ。
いいからけんかの続きは後にしてね。
トーマ早速だけど箱の中身見て。
失礼します…。
何かあったんですか伯父さん?あぁミイラ…即身仏が消えてしまったんだ!?何ですって!ゆうべのうちに盗み出されたらしくてさっきふたを開けたらミイラの姿が…。
何という罰当たりなヤツが…。
あんなもの盗むヤツがいるなんて誰も思わねえ。
そこの窓を破ってまんまとな。
(山影係長)それにすても前代未聞の窃盗事件ですな。
この傷は?この傷はゆうべ即身仏を運びこんだときに?おかしいわね。
ここに運びこんだときには細心の注意を払ったのに。
そうでしたよね。
ゆうべは暗くて気がつかなかったけどもともと付いてた傷じゃない?いやそれにしては随分新しい。
この木棺をロープ…それも金属製のワイヤで吊った跡みたいだ。
ワイヤ?どういうことだ?なるほど…。
確かに。
申し遅れましたがわたくし所轄の鶴岡署刑事課の山影といいます。
ちょっと確かめてみたいことがあります。
即身仏が発見された場所に連れて行ってもらえませんか。
ここですね。
これは…。
えっ…?本当にここに埋められていたのかあの木棺?えぇですよね流山先生。
いいですか。
即身仏というのは土の中に作られた石室に柩を下ろしてその中で行者が死を待つというものです。
ここがその場所だとするなら木の柩が置かれていた周りは湿気を防ぐために石の部屋になってなきゃいけない。
湿度の高い日本では直接木棺を土に埋めたんじゃ絶対に即身仏にはならない。
ということは…。
どこかからワイヤで吊って運んできてここに埋め直したってこと?つまりトーマさんは集会所から盗み出した犯人のほかにもともと埋まってた石の部屋からミイラを掘り出した犯人がいると?じゃその石室はどこにあるの?おいあの足跡何だ!?おかしいじゃねえか。
あの木箱は上から引き抜いた。
ゆうべは誰もこの穴の底までは下りてないはずだぞ。
大きな足男物の靴跡?ひょっとして犯人の足跡じゃねえのか。
その可能性が高いな…。
こりゃ〜トーマさんの推理どおりになってきたな。
信子さん。
監督と役者空港に送ってきたぞ。
ご苦労さま。
じゃあ私まだ仕事が残ってるのでお先に失礼します。
松本さん打ち合わせがあるの。
ちょっとつきあってくださる?了解。
撮影止まっても契約どおりの拘束料は払ってもらう約束だからな。
代議士のドラ息子がごり押しの現地コーディネーターかよ。
いまになってみりゃあいつが疫病神だったような気がするぜ。
ま村の事情には詳しいし親の七光りも強力だしこれもビジネスだって信子さん笑ってたわよ。
まあまあ。
トーマさん何か始めましたよ。
あ〜ん?元の石室からロケ現場…そして集会所今は行方不明。
あっ足跡の謎もあるか…。
ただいま。
お帰りなさい。
あれ百合ちゃんお父さんのお手伝い?ハイ今日は父の代わりにフロントに立っています。
新しい客だ。
布団部屋にでも泊めてやってくれ。
お世話になります。
いらっしゃいませ。
チョーサク先生のお友達ですか?バカヤロー!俺のペンネームは流山朔。
お前はチョーサクって呼ぶな。
失礼しました。
思い出すわね。
こうやって三人で一緒にいると。
喫茶店研究会。
寂しがり屋の学生たちが群れてただけの何を研究するでもないクラブだったわね。
い〜や。
少なくとも男どもはマドンナ名掛亜里紗に愛されたくて通いつめた。
ウソ…新入生の可愛い女の子とみると片っ端から口説いていたのはどちらの留年生…。
その大学8年生が今じゃ一番の出世頭ってわけだ。
夕食までお茶でも飲みながら昔話思い出話でもどう?原作流山朔か…。
はいトーマ。
リサそこの学者先生に伝えてくれ。
ん?お前の小説には魂が入っていない。
デビュー作の出版パーティでの一言をまだ忘れていない。
あれから何冊かの本を出したがおかげで俺のプライドは今でもズタズタのままだってな。
でもアメリカのインディペンデントシーンで活躍する女性プロデューサーが日本映画進出にあたってその原作に目をつけたのよ…。
それだ。
なんで俺の三流小説が原作なのか今度の事件よりもそっちの方がよっぽど謎なんだ。
その謎解きなら簡単だ。
うん?今度の小説は今までのチョーサクの世界を軽々と超えた目が覚めるような作品だ。
別に信子さんじゃなくても有能なプロデューサーなら誰でも映画にしたくなる人間ドラマだ…というのが正しい答えだ。
何だと…。
本気で言う。
魂のこもった本物の小説だ。
久しぶりに本を読んで涙が止まらなかった。
今さらお世辞なんか言われてもお前と仲直りする気などない。
その映画だってこの体たらくじゃ泣きっ面に蜂だ。
オシッコでもしてくらぁ。
チョーサク!〜ビールでも買ってくるわ。
う〜ん?リサ何か来てるぞ。
あれ何写真?なんだそりゃ?これは…?ねえ裏に何か書いてある。
「怨」…?間違いない。
これは即身仏がもともと埋められていた穴。
さっき話した石室の写真だ。
え〜?墓を暴いたヤツのメッセージじゃねえか?〜クソッ誰だよ!これだけアップで撮ってあるんじゃどこだか分からないな。
怨みって何?何でこんな写真私の部屋に…。
何か気持ち悪い。
お〜い俺だ松本だ。
人を妙な所に呼び出しておいてシカトかよ。
知らねえぞ。
俺が一言でも警察にしゃべったらどうなるか?
(お鈴の音)誰だ!何だ何なんだよ!
(お鈴の音)お〜い悪ふざけはやめろ!あんたなんだろう?くだらねえ芝居しねえでとっとと出て来いよ!うっ!〜きゃ〜!
(パトカーのサイレン)〜ハイOK!〜シャレにならねえぞ。
どうもまたとんでもない事件が…。
死亡推定時刻は昨夜の夜半前後。
死因は間違いなく刺殺ですが凶器が何とも…。
脇差ですね。
見たところ名のある古美術品のようで鑑定にまわせばすぐに持ち主は分かると思いますが…。
でももう一つおかしなことがありましてね。
あ〜ん?被害者が履いていた靴の底。
ロケ現場の足跡と同じだ!これから型を取って照合に出すところですがサイズからみて恐らく…。
(松本大介)昭二!昭二!松本だ!誰だ!誰が息子をこんな目に!先生…この日本刀は?はっ。
先生が自治会長の千崎に譲った…。
村正の脇差か!自治会長?やっぱり。
えっ?伯父は確かに刀剣類の収集を趣味にしてるんですがでもこれは何かの間違いです…。
あのバカ昔の恩も忘れて許せん。
何グズグズしてる。
お前ら早く千崎を逮捕せんか!小野千葉!自治会長のところへ急行するぞ!そんな…。
行くしかねえだろう俺たちも!
(千崎)殺されたぁ?昭二君が?その凶器があなたのコレクションの日本刀だと確認されました。
わけを聞かせてもらえませんか。
あんた俺が犯人だとでも言いたげだな!確かにさっき出てきたら自慢の村正の脇差が盗まれていた。
今盗難届け出そうと思ってたらあんたらが…。
じゃ盗まれたということですか。
まあいいでしょう。
ところで千崎さん昨夜の11時頃から深夜の1時頃どこで何をしてましたか?何…!?アリバイということです。
不愉快でしょうがこれも警察の仕事ですから。
一応確認のために。
それが…。
どうしました?えっ…だから…。
だから何です?言えねえ。
言えねえ?伯父さん…。
俺にもプライバシーというもんがある。
誓って…おら絶対に昭二君を…。
係長!被害者の靴がミイラ発見現場に残されていた足跡と一致しました。
これ…被害者が車に残してたものですがスケジュール帳代わりに使ってたソフトの昨日の日付けに…。
「ミイラ謝礼の件。
零時千崎完三…」何だと!千崎さん被害者に協力させてミイラを元の場所から自分の敷地のロケ現場に埋めなおさせたんですね?自分の土地から出てきたものは自分のものだ。
博物館にでも売るつもりだったがその最中にクレーンで傷つけてしまった。
そうなればミイラ新発見自体が狂言だったことがバレる。
それで集会所から盗みだしてほとぼりが冷めるまで待った。
刑事さん!そんなメチャクチャな…。
あんたは松本昭二さんを言いくるめて窃盗を手伝わせた。
昨夜の零時謝礼を払うとか言って神社に呼び出して口封じのために殺した!そうでねえか?違います!リサ…。
伯父は人殺しなんかできる人間じゃありません。
絶対犯人じゃありません!とにかく任意同行お願いします。
詳しいことは署の方で伺いますから。
俺は無実だ。
姪の言うことを信じてくれ!〜
(女の絶叫)
(千崎幸枝)ありがとうございました。
またどうぞ。
愛ちゃん片づけお願いね。
あの人警察に連れて行かれたの?昔はあんな欲の皮が突っ張った男じゃなかったのに。
天罰が当たったのかねぇ…。
やめてよ伯母さん。
え?伯父さん父を亡くした私のことをすごくかわいがってくれたわ。
よくドライブに連れて行ってくれたの。
冗談を言って慰めてくれた。
あんな怖い顔をしてるけどあの優しい伯父さんに限って絶対そんなこと…。
リサちゃん…。
問題はリサの伯父貴のアリバイだな。
何をあんなに隠しているのか…。
きっと愛人のところにいたのよ。
はい?隣の鶴岡市に何年も前から女を囲っているの。
スナックを経営しているテル子とかって女の人。
えぇ?私には秘密にしてるつもりらしいけどとっくの昔にお見通し犯人じゃないんなら女のところで鼻の下を伸ばしているとしか…。
何を考えているんだ。
見え張って女をかばうのとテメエの容疑を晴らすのとどっちが大切なんだ。
チョーサク…。
言いすぎました。
謝ります。
でも私に言わせれば松本の息子を殺す動機がある人間ならほかにも腐るほどいる。
父親の権威をかさに着てやりたい放題の鼻ツマミだったんだから。
悪いけど誰も同情なんかしてないと思うわよ。
伯母さん…。
あんな俗物いつ離婚してもかまわないとは思っているけど。
根っからの悪人じゃない。
誰かに罪をなすりつけられてるんだわ…。
「昔の恩も忘れて…」えっ?事件現場で松本代議士がご主人をそうののしったんですがどういう意味でしょう?あれなら俺も耳についた。
奥さんだんなさんは昔松本代議士に何かの恩を?さぁ以前は松本だけじゃなくて雲海和尚ともつるんでいろいろやってたから…。
向こうには恩のつもりでも私には何のことを指してるのか?雲海和尚…。
三人とも今は犬猿の仲で道ですれ違ってもソッポを向くんだけど。
昔はいつも一緒で協力して村を大きくしてきたんだってそれが自慢の種なの。
その三人つるんでいろいろやってたってのは?ええそれがの…。
専務2号店のマネージャーからお電話です。
ハーイまたアルバイトでもやめたかな。
〜リサ!うん…。
鶴岡に行くぞ。
えっ?テル子って女。
お前の伯父貴の愛人に話を聞きに行くんだ。
このままじゃ気がすまねえ。
そうねぇでも…。
俺は雲海和尚に会ってくるよ。
あ〜ん?あの住職今の話きいて気にかかるから警察のいないところで探ってみたいんだ。
私も一緒に行く。
ゴメン伯父の愛人には会いたくない。
それもそうか。
じゃ俺は一人で行ってくるわ。
先生やっと関係者の事情聴取が終わって…。
あの自治会長が警察にって本当ですか?〜あそこニューバッカス。
間違いねえな。
ゴメンナサイお店7時からなんだけど。
テル子さんだよな?仙人村の千崎完三さんの愛人の…。
おたくどなた?国会議員の松本のせがれが殺されたことは知ってるだろ?千崎のオッサンにその疑いがかけられているんだ。
それだったらさっき知り合いから電話が…。
見たところ警察には見えないけど。
お店の支度で忙しいのよ。
話すことなんか何もないわね。
失礼しました。
こちらは作家の流山朔先生。
私は…。
ふ〜ん…。
アポなしで失礼とは思いましたが松本さんは私の映画のスタッフで事件が解決しないと何も前に進まない状態ですので…。
それで素人探偵さんのお出まし?暇で結構ね。
千崎完三さんのゆうべのアリバイなんだが…。
ハイハイ完ちゃんはゆうべ私の部屋に泊まりました。
ついでに月々のお手当てたったの15万円を置いて今朝方鼻歌まじりで帰ったよ。
愛人と家族の証言は警察は信用しないのお気の毒だけど。
ノミの心臓の完ちゃんに人殺しは無理ね。
これでいいかしら?思ってたよりシャレた店じゃねえか。
青山六本木とまではいかねぇが新宿あたりじゃ立派に繁盛する。
随分男を騙したんだろう?ふん。
流山朔ってさ露天風呂で女が殺されるあのシリーズを書いてる作家さん?断じて違う!まぁ娯楽ミステリーを書いてるところは同じかな…。
ねぇそのエライ先生に一つだけヒントを教えてあげようか?うん?私の勘だと昭二が殺されたのはあいつの自業自得でもあるが父親の松本大介がやった悪事への報いのような気がするの。
あのバカ昔の恩も忘れて。
許せん!何をグズグズしてる。
キサマら早く千崎を逮捕せんか!交通違反のもみ消し裏口入学の口利きコネの就職斡旋。
そんなもんはかわいい方。
昔々口では言えない恐ろしいことが。
まもう時効だけどね。
時効?どういう意味だ?さぁ…。
へぇあんたが噂の女プロデューサーなんだ。
はい?なるほどこの辺にはいない美人だわね。
フフフ…。
あんたらは…何様のつもりだ?仏に仕える者が人の噂をベラベラ喋るわけにはいかん。
まして松本先生はうちの檀家総代だ。
あんな目に遭われた方の事を赤の他人にとやかく聞かれる筋合いはない!まさか消えた即身仏のたたりとまでは思わんがそこまで証拠が揃ってるんじゃ千崎も年貢の納め時だ。
早いところ自白をしてもらって元の静かな村に戻ることが村人たちの願いだ…。
分かりました。
初めからまともにお話を伺えるとは思ってませんでした。
きょう伺った本当の目的は別にあります。
トーマ…?一昨日の夜集会所から盗まれて行方不明の即身仏…。
信明寺の受光海上人ではありませんか?何を言っとる。
私も研究者の端くれとして仙人村に伝えられる即身仏伝説について調べた事があります。
その結果「暴くなかれ見るなかれ」と伝えられる幻の即身仏は明治初期今は廃寺となっている信明寺というお寺の受光海上人ではないかという説があります。
明治維新は仏教にとって受難の時期でした。
神仏分離令…いわゆる廃仏毀釈の政策によって仏教寺院は一時期神道に改宗することを強制された。
その弾圧の中でこの仙雲寺は幸運にも生き残り不幸な火事で焼失した信明寺は廃寺を余儀なくされた。
違いますか?その信明寺の一家はほどなくハワイへ移住してサトウキビ園の経営に乗り出したとある郷土史家の論文で読んだ覚えが…。
ハワイ?明治政府が奨めた移民政策の先駆けだ。
そして信明寺には一人年老いた住職だけが残った。
「老い先短いこの身を日本の地で果てさせたい」そう言い張る老人に一族もそれ以上無理強いはできず結局老人を一人残して旅立った。
その受光海上人が即身仏への道を選んだというのが異端の学説ながら…。
これいただいていいですか?何を言っとるんだ君は…。
それこそ異端の学説の最たるものだ。
はい?残念だがそんな寺の名前も坊主の名前も聞いた覚えがない。
寺の過去帳にもそんな記録は出てこない。
学者のホラ話につきあってる暇はない。
昭二君の通夜の支度で忙しいんでな。
失礼する。

(信子)ダメかもしれませんね。
うん?ミイラの事だけならともかくスタッフがあんな事になったんじゃこれ以上…。
私先生に本当に申し訳なくて。
せっかくのあんなにすばらしい原作を…。
あんたも物好きだよなあ。
仮りにも本場のプロデューサーだろ?日本を舞台にするんなら少しは当たりそうな企画を考えたらどうなんだ?はい?俺がアンタの立場ならこんな田舎の村じゃなく京都を舞台にする。
主役は生け花と切腹の作法を教えている日本人の娘だ。
千年の都京都。
そこになぜかドラキュラが棲んでて舞妓の血だけを狙っている。
父親は元サムライで忍術にも長けているその娘は都を荒らす吸血鬼に立ち向かう。
ところがそのドラキュラがゴジラを操る魔力も持っている。
そこで娘を応援する100人の相撲取りが富士の裾野で四股を踏んだあと一斉に腹を切ってゴジラを消滅させる。
クライマックスは娘とドラキュラの壮絶な決闘というわけだ。
(笑い声)もうすっごく面白い話だけどでもそんな映画つくったら父に怒られるわ。
うん…?ごめんなさい。
実はね日本を舞台にした映画をつくるのは父の願いだったの。
親父さんの?ええ。
私の父はロサンゼルスで小さな映画館を経営してたの。
「いつか日本を舞台にした映画をお前が監督してこの映画館で上映するのが夢だ」というのを聞きながら育って…。
でも監督じゃなくてプロデューサーになったっていうのが結局才能が無かったってことの証かしらねぇ。
そんな事ねえよ。
映画は監督のもんでもスターのもんでもねえ!金を出すプロデューサーが全責任を負ってつくるもんだ。
俺は新進の映画プロデューサージュリア・信子・ロバートソンに拍手を送るね。
もうやめてくださいその本名。
ジュリア・ロバーツのNGみたいでほんと恥ずかしいんですから。
どこがだよ!あんな白人のおネエちゃんよりアンタの方がよっぽど魅力的だ。
それじゃ褒め言葉だと思って素直に聞いておきます。
でも先生にはリサさんが…。
あ〜ん?先生の小説リサさんがご自分の勤める出版社に紹介して本になったって聞きました。
映画の事もあんなに一生懸命駆け回ってくれて単なる大学の同窓生とは思えないわ。
うらやましい。
それが買いかぶりじゃねえ事を望んでるが…。
俺にはトーマっていう強力なライバルがいるからな〜。
せっかく映画が完成したらプロポーズしようと思ってたのによ。
はい?こっちの話。
あ〜腹減った!ホテルに帰って夕飯だ。
信明寺が廃寺。
そして仙雲寺に併合…。
仙雲寺の仁王門には那智石の玉砂利…。
そういうわけでもう少しこっちに残ります。
編集長にもよろしく伝えて。
はいよろしく…。
あ〜リサケータイ貸して。
東京の助手に至急調べてほしい事があるんだ。
どうぞ。
(リサのため息)大丈夫…?ん?…大丈夫。
小学校2年生の時ねぇ1学期だけこの分校に通ったの。
父が突然あんな事になったでしょう。
母が心労で入院してる間一人で伯母夫婦の家に預けられて…。
全校生徒12人の学校だったけどみんなが気を遣ってくれて…。
自由でのどかで寂しさを紛れさせてくれた思い出が残ってるの。
だからこの村はねぇ私にとって第二の故郷なの。
来るたんびに切なくなっちゃうんだ…。
あっ!…そうだ忘れてた。
はいこれ。
コンビニで買ってきた。
トーマ例によって着のみ着のまま来たみたいだから。
パンツの替え。
リサ?ウフフフ。
私生まれて初めて男の人の下着買ったのよ。
恥ずかしかった…。
ごめん…。
謝まられてもうれしくありません。
もう…。
はやりの汚ギャルじゃないからちゃんとしてね。
分かりました。
フフフフ…。
トーマ昔とちっとも変わらない。

(矢を射る音)何…?!誰なの?!ボーガンを持った男だと…?うん。
松本昭二殺しの犯人かそれにつながる人間…。
いずれにしてもこれ以上深入りするなという脅しだろう。
何をノーテンキな事を言ってる!お前はいいがリサに万一の事があったら絶対に許さねえからな!大体お前の目はミイラと昭二殺しとどっちに向いてるんだ?信明寺かナニミョウ寺か知らねえが百何十年も昔の話と今度の事件と何の関係がある?俺はお前が明後日の方角を向いてるうちにちゃんと的にぶち当たったぞ。
うん?テル子って女だよ。
ありゃいい玉だ。
あれじゃリサの伯父貴も軽く手玉にとられていただろう。
今度の事件についても必ず何かを知ってて隠してる。
それとキーワードは時効だ。
時効…?どのくらい昔の話か知らねえが松本昭二の父親は口じゃ言えねえ恐ろしい何かをしでかした。
「親の因果が子に報い」ってヤツさ。
あの女もったいつけてやがったが真犯人は昭二の親父に怨みを持つ人間に違いない。
カギを握ってるのは代議士の松本大介だ。
そうかもしれない…。
でもその前に…。
断っとくが俺はお前と一緒に動く気はない。
リサを事件に巻き込むのもごめんだ。
男の嫉妬と受け取るならそれでもいい。
そいつが俺のプライドだ!チョーサク…。
口では言えない恐ろしい事…。
まるで殺人事件でもあったような口ぶりだった。
あ〜昼間のサングラスの男といい何かの悪意が働いてる気がするわ。
悪い事ばかりじゃないわよ。
テル子さんの言うとおりなら千崎さんの疑いはすぐに晴れる。
うん。
大丈夫。
伯父さん明日にでも釈放されるわ。
だといいんけど…。
あっお父さんごめん。
えっ何…?お父さんの写真?小学校の時に飛行機事故で亡くなった父の写真。
そう…。
カッコいいでしょ。
お陰でず〜っとファザコンのまま。
この歳でまだ独身ってわけなの。
信子さん…?あごめん。
実は私も早く父を亡くしたもんだから…。
そう信子さんも…。
まだお仕事ですか?あぁこれやらないと眠れないんで…。
はい。
結構です。
じゃ私は遠慮なく…。
僕はこの村が好きです。
はい…?田舎だからとか素朴だからとかそういう事じゃなくてキレイも汚いもいろんな喜怒哀楽が入り交じって一つの村になっている。
だから…。
トーマさん…?おやすみなさい。

(読経)きょうはトーマさんは…?あいつはいつだってマイペースだよ。
今朝だって起きたらもう少し調べたい事があるからって書き置きだけを残して部屋はもぬけのカラだ。
すみません…。
おばあちゃんこの先の仙人沢の奥のほうに昔信明寺ってお寺あったのをご存じですか?あ〜ババちゃんから聞いた事あんども分かんねえの。
さてとそろそろ来る人もいなくなったみたいだし私たちもお焼香を済ましちゃいましょうか。
私は遠慮しておきます。
リサさんひとりで…。
えっ?私義理でしかたなく来てるんです。
本音は受付だって…。
どうして?だってあいつ…女の敵のレイプ魔なんですよ。
レイプ魔…?うん。
一度も警察に挙げられてないけどみんなが陰で噂してます。
こんな田舎だから誰も届けを出す人はいないけどあいつがまだ若い頃からの話しで被害者は10人は下らないはずだって…。
ほんと…。
私が生まれてすぐあいつが高校を卒業する頃からの話ですって。
その頃なんでも即身仏に興味を持った女子大生が卒論の準備とかでこの村に現われたらしいの…。
(女の悲鳴)こんなとこで泣いても嘆いても無駄だよ!かわいそうにその子は警察に訴えてもまともに取り上げてもらえずに泣く泣く村を後にした…。
だから「気をつけなさい」って母がいつも…。
私もお焼香するのや〜めた。
おはようございます。
(安藤)いや〜トーマさんには一度お会いしたいと思っていたなや!光栄です。
こちらこそ安藤先生には機会をみてゆっくりお話を伺いたいと思ってました。
こんな異端の郷土史家の戯言でよければなんぼでも〜!でお話は当然例の即身仏に関する…?はいそれも含めてですが実はもう一つ仙人村の移民に関する歴史の勉強を…。
移民の歴史…?ええ集会所から消えた即身仏が信明寺の受光海上人では…という先生の説には全面的に賛成です。
確か信明寺は明治元年の火事で廃寺せざるをえなくなったんですよね。
実は信明寺の火事は放火だったのではないか…?そんな噂が後年立ってるんです。
放火…?「暴くなかれ見るなかれ」…受光海上人の即身仏伝説はその辺りの秘密を帯びているのではないか?それがどこにも発表していない最近の私の持論でして。
移民の歴史はその大部分が苦労と挫折の連続です。
生活の問題に加えて現地での移民排斥の運動も盛んでその辛酸はまさに筆舌に尽くし難いものでした。
私が移民史に興味を持ったのは20年前に会ったある人物がきっかけでしての。
それが100年ぶりにアメリカから帰国した信明寺一族の末裔で番内さんといったかのう。
その後アメリカ本土に渡ってようやく成功したらしくて故郷に錦を飾る気になったんでしょう。
家の玄関に「村の歴史を教えてほしい」とふらりと…。
信明寺の末裔が…?その番内さんが話を聞いてるうちに怒り出しましての。
どうやらもともと信明寺の地所だった土地が他人の所有になってる事に気づいたらしい。
え?ハハハこんな山間の村でも20年前はバブルの熱狂に浮かされていてやれ観光だレジャーだリゾートだと大金が飛び交いました。
どうもその最中に土地がらみの不正があったようで…。
20年前…。
私はそっちの方面は疎いんでその話はそれっきりでしたが一時は村の有力者を告訴するしないの騒ぎにまで発展したようです。
でも最終的には金で解決ということになってアメリカへ帰ったと聞いたがあの後どうしておられるのか…?
(読経)チョーサク私先に帰るね。
何で?それよりな見てみろよ。
あの金権どっぷりの代議士の顔…。
(読経)・
(拡声機の声)茶番はやめろ!
(雲海)誰だ!?・
(拡声機の声)20年前の恨みはまだ続いている。
・第一の恨みは晴らした。
これから本物の悪党どもに・第二の天罰が下ることを忘れるな。
だ…誰か黙らせろ!・第二の天罰が下ることを忘れるな。
・第二の天罰が下ることを忘れるな。
・第二の天罰が下ることを忘れるな。
あったぞ。
テープレコーダーだ。
こっちへよこせ。
これは署のほうで…。
誰がこんな悪質な嫌がらせを?許さんぞ!第二の犯行予告か?いたずらにしては手が込みすぎてるなあ。
ねえ…。
うん?おいリサ!どうしたんだよリサ?今すぐ鶴岡まで連れてって。
鶴岡?伯父の愛人のところ。
20年前の怨み…テープの意味をテル子さん絶対知ってるわ。
そういう事か…。
よし!
(奈津子)「信じる」「明るい寺」で信明寺。
はい…。
え?バンナイ…?そう「交番の番」に「内弁慶の内」で番内。
時間がない頼む。
番内さんですね?分かりました。
それと学部長からいろいろと…。
(切れる音)先生…?先生!ここだ。
この時間にいるかどうか…?すみません!こんにちはあっ…?これは…?!どうして…?!リサ…。

(パトカーのサイレン)
(リサ)あ山影さん。
どういう事ですか?見てのとおりだ。
鍵は開いていた。
予告どおりの連続殺人か!係長この写真…?ミイラの石室だ。
ホテルの部屋に届けられた一枚目のと同じ写真だ。
裏にメッセージは…?ん…?
(リサ)「悲」…。
一枚目の写真の「怨」とは随分イメージがかけ離れてるなあ。
「怨」…「悲」…。
昭二殺しは怨み。
テル子殺しは悲しみの犯行というメッセージだろう。
ただ…。
さっきのテープの声の主の犯行だとしたら…。
20年前の怨みはまだ続いている。
あの薄気味悪い声に悲しいって感じはなかったわ。
「第二の天罰が下ることを忘れるな」…。
あれは恐らく松本か雲海に向けられたメッセージだ。
しかし殺されたのはテル子だ。
それに昨日の深夜から早朝という彼女の死亡推定時刻もおかしい。
つまり葬儀場での殺人予告より前にテル子は殺されていたという計算になる。
(リサ)つまりこういうことよね。
あのテープの第二の予告殺人はまだ行われていない。
何らかの秘密を知っていたテル子さんは口封じのために殺された。
しかも犯行時刻からすると松本にも雲海にもアリバイはない…。
ん〜でもあの写真はどういう事になるの?確かに写真という犯行声明を出しておきながら今度の事件には凶器ひとつとっても昭二殺しのときほどの計画性は感じられない。
でもなぜ犯人はあの写真を最初に私の部屋に入れたの?犯人は俺たちに何をさせようとしてるのか…?それとも俺たちは罠にはめられてるのか?二つの事件がど〜にもつながらねえ。
あぁ〜。
分かっちゃった。
ん?この写真に写された石室の場所。
どこだ?仙雲寺。
何だと?何だとって?石だよこの那智石。
東北の寺では珍しい玉砂利が石室の周りに敷きつめられてる。
消えた即身仏が元の場所に埋め戻されてるとは思えないが令状を取って仙雲寺の境内を捜索してもらえるよう頼んでくる。
おい!何グズグズしてんだよ!20年前に何があったか…?千崎さんにもあの人じゃなきゃわからないことを聞き出す必要がある。
ようやく見えてきたぞ!トーマ!忘れ物です。
すまねえこのとおりだ。
テル子のことは警察で聞いた。
俺が悪かった。
もういいわよ〜っ。
何べんも米つきバッタみたいに。
それよりトーマさんの質問。
あ〜…留置場の中で考えたんだが俺が怨みを買うとすれば20年前の土地の問題しかねな。
リサも覚えてるだろう?ん?この仙人村は昔はなんもねえ静かな村だった。
それがご多分に漏れずバブルの大波に巻き込まれて大騒ぎになったのが20年前のことだ。
ダムを作る話とゴルフ場造成の話がいっぺんにやってきてとてつもねえ金が動くことになった。
ダムとゴルフ場…。
う〜ん…これはあんまり大きな声ではいえねんだどもその買収予定地の半分近くが入会地といって所有権がハッキリしねえまあ村有地みたいなもんだった。
そこで県会議員の松本に手回して雲海と俺で自分の土地の名義に書き替えちまったんだ。
え〜っ?いや言い訳するわけじゃねえがほんのおコボレに預かっただけで。
主犯は仙雲寺の雲海なんだよ。
土地の権利書を紛失したという名目で松本の政治力を使って強引に役場にねじ込んで…。
ま〜多少の金を動かしてその入会地を三人のものに仕立て上げたという…。
でもそれって。
詐欺まがいというより限りなく詐欺に近い行為。
おかげで松本は県会議員から国会議員に大出世。
雲海和尚の仙雲寺も東北有数のお寺として勢力を拡大するしこの人はその資金を元手に始めた商売が大成功で結果三人とも愛人だ金だ権力だってだけの悪党同士に成り下がってしまって。
知らなかった。
胸クソ悪くなるような話だな。
で自治会長が思う今度の犯人は誰なんだ?あ〜…一人だけ思いつく人物がいるにはいるんだが…。
番内ヒロシさんそうでねか?番内ヒロシ?その入会地だった土地のもともとの持ち主…。
アメリカから100年ぶりに故郷に帰って来たとかで。
いきなり現われて自分の土地と言われても1世紀も昔の話だ。
先祖が村に住んでたには違いないようだから同郷のよしみでいくらかの金を渡して帰ってもらったんだども…。
やっぱり千崎さん何も知らないんだ。
ん?真相はまもなく分かるはずです。
それより問題は例の即身仏消えたミイラの行方です。
集会所から盗みだされたあのミイラ今どこにあると思われます?俺は知らねえ…。
千崎さん今は一刻も早く見つけなきゃならないんです。
聞き方をかえます。
村の人たちが絶対に近づかない所そんな場所ありませんか?あそこでねえのか?ほら首なし塚。
首なし塚?あ〜あ〜あそこなら確かに誰も気味悪がって…。
そこはどんな所なんですか?村外れに昔からそう呼ばれてる塚がある。
何でも罪人の首を刎ねた処刑場の跡というんだが夜になると首のない幽霊が出るという言い伝えがあって大人も子供も怖がって絶対に近づかないという。
そこですっ。
おいっ。
おじさんありがとう。
遅くなりました。
コピーが…。
話は穴掘りながら聞く。
ミイラが発見されるのを待っている…。
ここか…。
(カラスの鳴き声)どこから掘ればいいんだよっ。
チョーサクこっちだ。
掘り返した跡がある。
先生信明寺一族のその後ですが。
どうしてる?たった一人生き残った女性がロスで暮らしてました。
で昭和58年今から20年前三代目のチャーリー・ヒロシ番内が1世紀ぶりに故郷への里帰りを果たしている。
そうなんだろ?現地に問い合わせたらその頃のルーツというドラマに影響されて先祖の地を確かめるといって出かけたそうです。
それっきり行方不明になって二度とロスには戻らなかった…。
失踪宣告から数年後戸籍も抹消され再婚相手とも縁が切れヒロシ番内は現地でも過去の人になってます。
でもその男性はアメリカに帰ったって伯父が。
あった…。
あったぞ。
ロケ現場以来のご対面か。
あの時はとっても怖かったけど改めて見るとどこか悲しそうに見えるわね〜。
思ったとおりだ。
これは?刀の傷跡だ。
この位置じゃ即死だったろう。
どういうことだ?このミイラ即身仏じゃない。
殺人の痕跡を隠すために巧妙に即身仏に仕立て上げられた130年前の事件の被害者なんだよ。
何ですって?!明治初めに起きた隠された殺人事件。
殺されたのは信明寺の受光海上人。
殺した相手はその信明寺と勢力争いを繰り返していた仙雲寺一派だ。
神仏分離令廃仏毀釈の政策に悩まされていた仙雲寺は生き残りをかけて信明寺に放火して全焼させた。
信明寺一族がハワイに移住後ただ一人残った受光海上人を殺害し即身仏に仕立て上げた。
恐らくは受光海上人が放火の事実に気づいたんだろう。
口封じの完全犯罪というわけだ。
そうか1世紀前の事件とはいっても東北でも有数の寺の先祖が殺人に関係した事実が知れれば寺の威光は地に落ちる。
だからこそ「暴くなかれ見るなかれ」という伝説を作って仙雲寺はこのミイラを隠さねばならなかった。
今度の事件の犯人は自分の目的を遂げるために一か八かその伝説を利用した賭けに出たんだ。
もしかしてその番内さんは?俺の推理が正しければ犯人が20年間探し求めてきたものがこの下に埋まっているはずだ。
係長っありました。
トーマさんの助言どおりだ。
一連の事件はこの仙雲寺から起こっている。
雲海を引っ張るぞっ。
誰だっ?!身柄確保逃がすなっ。
待てっ。
待てこらっ。
おら何も知らね〜。
チョーサク…。
キャーッ。
番内ヒロシの骨か…。
「ラブマイパパノブコ…」そうだったのか…。
信子さん…。
信子さんどこ?急ごう。
彼女死ぬ気だ。
奈津子くん警察に電話して来てもらうからそれまでここを頼む。
えっ?!土地の不正取得?番内殺し?両方とも時効を過ぎている。
どこの誰がいちゃもんつけたってこっちは痛くもかゆくもねえ。
そんな他人事みたいなことを…。
あんたの息子を殺した犯人がわしらの命を狙ってるんだぞ。
ださけ今東京からボディガードを呼んでるんだ。
何そんなにビクつく必要あんだ?誰かがあの時の真相を知っていて脅しをかけてきてるんだ。
金で済むことだったらそうしてでも…。
ふん…。
また金か。
そうやって慌てていればいい。
こっちは知らぬ存ぜぬを通すだけだ。
なに…?なあ雲海。
そっちとこっちじゃ今は天と地ほど立場が違うんだ。
お前を助ける義理なんかどこにもねえんだ。
こんな所に逃げ込まれて犯人隠匿だなんぞと痛くもねえ腹を探られるのは迷惑だ。
出ていけっ。
松本よ…お前誰のお陰で代議士にまでなれたと思ってる?そりゃ…有権者のお陰だろう。
この野郎…。
(杖で叩く音)いいかげんにしてっ。
何だお前は?何をするんだ…。
動かないでっ。
ガソリンに火が点くわよっ。
お前は…。
これでやっと父の復讐が果たせるわ。
あなたたちが20年前騙し討ちのようにして殺した私の父の復讐。
お前が息子を殺したのか?そうよ。
誰かいねえ〜かっ。
叫んでも無駄よっ。
動かないでっ。
見逃してくれっ。
わしゃ何も…。
そうね何も知らないし何も関係がない。
そうやって他人の土地を騙し取るのにも口封じで人の命を奪うのにも知らん顔して裏で関わってきたのよ。
見逃して…なんて冗談じゃない。
ねえ覚えている?20年前行方不明の父親を探しにこの村を訪れた大学生がいた。
その子はこの辺りの歴史に興味を持った学生を装っていた。
お前…まさか?いや〜っ。
こんな所で泣いても嘆いても無駄だよっ。
やめて〜っ18歳だったその少女も時が流れるにつれて自分でも驚くほど変わった。
誰も私を思い出さなかったのはある意味で幸運だったけど。
あの時の女子大生…。
やっと思い出したみたいね。
心配しなくても一人で生き残るつもりはないわ。
一緒に地獄に墜ちてあげる。
やめろっ。
助けてっ。
そこまでです信子さん!てめえら見下げはてた悪党だな。
もういいでしょう信子さん。
これ以上は…。
邪魔しないでっ。
あなたたちを巻き込みたくはない。
近よらないで。
一緒に死にたいの?私を死なせてっ。
お願いっ…。
信子さん。
一つだけ聞きたいことがあります。
これが…あなたのお父さんが望んでいた結末ですか?あなたはお父さんの悲しむことばかりをしている。
本当は映画を完成させたかったのでしょう?復讐はそれからでも遅くはないそう思っていたんでしょう?誰が何と言おうとこの村はあなたの故郷です。
えっ?罪を償ってまた帰ってくればいい。
どうしようもなかったのよ…私は…。
信子さん…。
信子さんの気持ち…よ〜く分かっているから。
映画を作るという触れ込みで仙人村に乗り込んできた私の本当の目的は2つあった。
1つは父の行方不明の真相を改めて探ること。
そしてもう1つは20年前に何も分からないままこの村を訪れた私を虫ケラのようにレイプした松本昭二への復讐。
初め私は「暴くなかれ見るなかれ」という即身仏伝説を聞いてひょっとしたらそのミイラが埋まっている所に父親も殺されて埋められているんじゃないかと疑ったの。
檀家総代の息子でもあった昭二は仙雲寺が130年も隠し続けたミイラの埋められている場所を知っていたわ。
莫大な謝礼をちらつかせて彼を引き込むと話題作りになるからと言いくるめミイラを掘り出す作業を手伝わせた。
でもいざ墓を暴いてみると本当にミイラが出てきただけで父親の遺体は見つからなかった。
目算が外れミイラをあのロケ現場に埋め直したの。
もちろんそのことで松本や雲海たちが何かの動きを見せることを狙ってね。
そしてそのミイラがまた盗みだされた。
あの時は本当に驚いたわ。
でも私にはやらなければならないことがあった。
そのために昭二をあの神社に呼びだしたの。
お金につられたあの男は疑いもなしにやってきたわ。
(刺す音)ごめんねリサさん。
あなたの伯父さんをひどい目に遭わせて。
でもねあの時点では父を殺した真犯人がまだ分からなかったの。
松本なのか雲海なのかそれとも千崎さんなのか…。
一つずつ可能性を探っていくしかなかったの。
1つ確かめたいことがある。
あのパソコンに千崎の名前を打ち込んだのも…。
葬式の前にテープレコーダーを仕込んで騒ぎを起こしたのも…あんたなんだな?けどテル子を殺したのはどういうわけだ?あんたの第2の殺人予告あれは松本と雲海に対してだったはずだ。
あんたがなんでテル子を殺さなきゃならなかったのかその理由が分からねえ。
テル子さんは20年前の私をただ一人覚えていたの。
えっ?一昨日の夜遅く彼女から電話があったわ。
はい…。
信子さんあたし…。
テル子さん…?ね…昭二を殺したのはあんたでしょう?黙ってないで答えてよ〜。
20年前の女の子さん…私が知りたかったことはたった1つ。
父親の死体がどこに埋められているのか。
それを知るためならどんな条件をのんでもいいと思った。
でも…。
500万円?ええ。
それが今私が支払える精一杯の金額です。
お願いです。
父がどこに眠っているのか…。
あんた何か勘違いしてるんじゃないの?確かに20年前ひょんなことからあんたの父親の殺害を目撃した。
うわっ。
人生なんて不思議なもんね〜。
あんたの父親にとっては最大の不幸があたしにとっては幸せの始まりになった。
松本と雲海はきょうまでの20年間安くはない口止め料を払い続けてくれたわ。
おかげで貧乏人の娘がこんな店を持てたし。
500万円ぽっちの金でその恩を忘れるわけにはいかないのよ。
今度の映画に私は全財産をつぎ込みました。
本当にそれしか払えないんです。
ですから…。
あんたの父親も馬鹿よね。
あたしに言わせればあんたの父親あの村じゃ負け犬じゃない…。
負け犬なら負け犬らしくしっぽ巻いて帰ればいいのに先祖が何だ誇りが何だってくだらないことで突っ張るからあげくの果ては…。
あら怒った?でも事実じゃない。
ついでに言えばあんたもさすがにその血を引く娘で今どき復讐だの何だのって笑わせてくれる女だけどさ。
テル子さん…。
冗談じゃないわよ。
美人ぶってお高くとまってあんた大嫌い。
父親が殺された?あんたがレイプされた?当たり前じゃない。
あんたみたいな女が絵に描いたような幸せを手に入れるなんて許せない。
500万円ぽっちのはした金…。
人を馬鹿にしてるの?あんたがその気だったらあたしあんたを昭二の父に売ってやる。
刑務所でも行ってせいぜい罰を受けるんだわねっ。
あと500万円銀行に頼んで絶対用意します。
だからお願い…。
あらら…本場で売り出し中の女プロデューサーがみっともない真似しちゃって。
いいわ教えてあげる。
はい…。
あんたの父親の死体を人知れず埋めたのは昭二。
あの男も本当にワルよねぇ。
父親が殺人に加担したと知ったら自分から死体の始末を買って出て。
秘密を握られた松本はおかげで息子のしでかす悪事の尻ぬぐいに駆け回されて。
分かったでしょう。
あんたはこの世でたった一人自分の父親の死体の隠し場所を知ってる男をそうとは知らずに殺したのよ。
どこからどこまで似た者同士だわ。
親子そろって間が悪いったらありゃしない。
アハハハハ…。
っていうわけで交渉決裂。
ほら早く逃げる準備した方がいいわよ。
あたしは松本に電話…。
え〜と松本は…それから私はあの「悲」と書いた写真をテル子さんに握らせるとお店をあとにした。
ごめんなさい。
でもあなたたちなら私の思うことを分かってくれるような気がしたの。
あの写真を残したのは最後の賭けでもしかしてあなたたちなら父が埋められている場所を探し出してくれるんじゃないかって…。
だけどもうすべて終わった。
天罰だわね。
殺すつもりもなかった人までこの手にかけて。
(パトカーのサイレン)山影さん先程お電話したとおりです。
ご迷惑をおかけしました。
先程運転手の萩野がすべて自白しました。
20年前に指示さ受けて番内ヒロシさんを殺すたこと。
今回も集会所からミイラさ盗み出し松本昭二がほのめかしていた首なし塚に埋め直すたこと。
そして事件から手を引くよう脅しをかけていたこと。
3つの事件の実行犯は萩原でした。
ご協力を感謝します。
だば…。
山影さんよっ。
はいっ?この悪党どもを逮捕するのを忘れてるぞ。
残念ながらその二人を連行することはできません。
20年前の事件の主犯がその二人だと分かっています。
しかし土地絡みの詐欺事件も含めもう時効が成立してます。
私も腹の中さ煮えくり返っています。
察してください。
まそういうことだ。
これが我々の住む世界のルールというもんだよ。
この〜。
チョーサクっ。
上等だ。
てめえらこれで終わると思うなよっ。
んだば行きますが…。
待って…。
はいっ?その前にもう1か所だけ…信子さんに会ってほしい人が…。
そうだ…。
俺からも頼む。
そうですたな。
いい風も吹いてきたし。
ちょびっと寄り道して行きますか…。
あんたの親父さんだ。
トーマが見つけだしてくれたの。
お父さんこんな物を残して土の中で眠っていたわ。
信子さんあなたが130年ぶりに掘り出したミイラはあなたの4代前の先祖に当たる受光海上人です。
不思議な縁ですよね。
あなたはそれとは知らず先祖がこうむった不幸な事件も明るみに出したんです。
パパ…やっと会えた…。
パパ…。
何度読んでも飽きないね。
チョーサクのこの記事のおかげで松本は国会議員を辞任。
雲海は檀家に詰め寄られて引退の身だ。
リサが編集長にかけあって大々的にページを割いたってたきつけてさ。
ロスの番内家の墓参りも頼んだぜ。
もちろん。
信子さんのお父さんと曾々おじいさんのお骨を埋葬してくるっていうもう一つの名案だもん。
よけいなこと提案しちゃったかな?信子さんも喜んでたわ。
チョーサクも原稿料全額寄付してくれたの。
夢のままの映画に律儀にギャラを振り込まれてきてもはいそうですかって使えるかよ。
チョーサクらしいしトーマらしい。
俺の望みはリサがこの10年の岡惚れを受け入れてあすにでも一緒になってくれることだ。
先輩は信子さんがお気に入りだったんでは?リサ…もう年貢を納めろよ。
トーマなんかより俺の方が金持ってるぞ。
その前に男同士仲直りの儀式が先なんでしょ。
あらあら相変わらず長っ尻ね。
2014/09/17(水) 13:00〜15:00
テレビ大阪1
高橋克彦サスペンス「ミイラが呼んでいる」[字]

ミイラ発掘が思わぬ連続殺人事件に発展。

詳細情報
番組内容
塔馬は近世庶民文化学が専門の大学助教授。大学の同級生で雑誌編集者・亜里紗から、山形で映画のロケ中、即身仏らしきミイラを発見したとの電話が。映画の原作者で同じく同級生の長山も一緒だという。塔馬は現地に駆けつけるが、ミイラは何者かに盗まれていた。翌日、地元議員・松本の息子で映画のコーディネーターをしていた昭二が死体で発見され、亜里紗の伯父で自治会長の千崎に容疑がかかる。
出演者
塔馬双太郎・・和泉元彌
名掛亜里紗・・七瀬なつみ
長山作治・・・筧利夫
ジュリア・信子・ロバートソン・・大島さと子
雲海和尚・・・織本順吉
千崎完三・・・石田太郎
松本大介・・・高田次郎
山影哲夫・・・及川以造
安藤郁夫・・・山田明郷  ほか
原作脚本
【原作】高橋克彦
【脚本】高田純
監督・演出
【監督】日名子雅彦

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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