ハッ…!?
(ブレーキ音)ウワアァーーッ!!おひざ曲げてね。
(日舞の音楽)
(竹野内万里江)美代ちゃん下を向かないで目は上げて。
・万里江先生!いらっしゃいますか?
(小池慎吾)あぁ先生!こりゃどうも!この度は娘の結婚にお骨折りいただきありがとうございました。
これはつまらないもんですが今朝揚がったばかりのブリです。
(小池彩乃)お父さん。
なにもこんな所で…すみません!なにを言ってんだ。
お前もちゃんとお礼を申し上げろ。
本当に何から何まで先生のおかげです。
先方さんが彩乃ちゃんをぜひにとおっしゃったんですよ。
でも相手は金沢一の友禅問屋だ。
俺ぁ今でもキツネにつままれたような気分ですよ。
大丈夫。
必ず2人はうまくいきます。
最初2人が並んでる姿を見たとき私ピーンときたんです。
いやぁ〜女房に死なれてから男手ひとつで育ててきました。
嫁入り支度も俺じゃあなーんにもわからねえんだ。
お任せください。
かわいい彩乃ちゃんのためですもの。
明日の結納は心に残るお式にしてみせますわ。
加賀百万石の城下町金沢には前田のお殿様がおつくりになった伝統文化が今も私たち市民の生活に息づいています
特に婚礼行事には仏教の教えと絢爛豪華な文化が結びついた独自のしきたりがあるのです
なんですって!?お部屋がない?申し訳ございません!
(支配人)「鶴の間」は今茶席をご利用のお客さまが控えの間としてお使いでございます。
あの大広間を控えの間に?いったいどなたが?それがその…橋本建設のお嬢様で。
(富沢靖之)橋本建設?靖之さんのお知り合いの方?・失礼いたします。
(橋本加奈子)靖之さんお久しぶり。
やっぱり君か…。
靖之さんこちらは?橋本加奈子。
靖之さんの元婚約者です。
元婚約者…?親同士が勝手に決めたものです。
それにその話はもう終わってるだろ?ええ…。
ご丁寧に慰謝料もいただきました。
どういう経緯があったかは存じませんが靖之さんはこれからこのお部屋で結納を交わすことになっているんです。
お願いいたします。
お部屋を変わっていただけないでしょうか。
茶室に近いもっと便利なお部屋をご用意させていただきます。
そうねぇ…お譲りしてもいいけど…。
条件が一つあるわ。
なんでしょう?私の茶席に来ていただきたいの。
…特にあの方に。
…ほかのお客さまがどなたもいらっしゃらないなんてまるで私たちのためだけのお茶会みたいね。
お菓子をどうぞ。
…お先に。
お先に。
どうなさったの?あなたもどうぞ。
…はい。
召し上がらないの?
(彩乃)いえ…いただきます。
ウウッ…ウッ…!加奈子さん?加奈子さん!?
(靖之)どうしたっ!?
(彩乃)キャーッ!!
(パトカーのサイレン)県警の小田桐警部ですね?金沢中警察の坂田です。
茶席に出された和菓子の中に入っていた毒物によるものと…。
(小田桐透)…アーモンドの匂いがするな。
青酸カリかもしれん。
茶席と和菓子を用意したのは仏さん本人で…。
被害者の身元は?橋本加奈子28歳。
市内の建設会社橋本建設の一人娘で…。
社長令嬢か…。
別室に関係者を集めてありますんでどうぞ。
(富沢富貴子)おめでたい日になんでこんなこと…。
(富沢直子)こんな縁談やめろってことでしょ。
“身分違いは不幸のもと”って言うでしょ。
(富貴子)直子…。
近江町市場の魚屋さんなんですって?その安っぽいお着物さぞかし値切り倒してお買いになったんでしょうね。
(慎吾)なにぃ〜?そっちこそ出戻りだっていうじゃねえか!コノヤロウ!!フンッ!!財産目当てが!えらそうな口きかないでよ!なんだと!?コラッ!!小池さんっ!
(騒ぎ声)
(坂田)失礼します!失礼しますっ!!お嬢さんどうしてこちらに?坂田さん…!…お嬢さん?ご紹介しますわ。
こちらが友禅問屋「加賀富」の社長さんで富沢恒之さん。
でこちらが…。
(富沢)妻の富貴子です。
娘の直子弟の靖之です。
(坂田)でこちらが近江町市場で魚屋をなさってる「魚慎」の…。
小池慎吾でして。
娘の彩乃です。
こちらが踊りのお師匠さんで…。
竹野内万里江でございます。
万里江さんは金沢中警察署前署長竹野内剛氏のお嬢さんです。
本日はご結納で私は仲人代わりです。
あぁお仲人…。
じゃあご主人は?警部。
お嬢さんはまだ…。
私はまだ独り者です!ですから仲人ではなく「仲人代わり」と。
なんですかこれ?金沢伝統の水引細工です。
あちらが鶴で…こちらが亀でして男と女を象徴してるんですわ。
ふ〜ん…僕もよく作りましたよ。
幼稚園の月組のとき。
幼稚園…?これお一つで5万はいたします。
5万…?これただの紙でしょう?ただの紙ではございません。
金沢伝統の水引細工です。
見栄っ張りの伝統ですね…。
どちらのお生まれか存じませんがこれは私たちのご先祖が何百年も守り伝えてきた金沢伝統の婚礼行事です!あなたさまにとやかく言われる筋合いはございません!あぁあんまり怒るとここんとこ深〜いしわ入っちゃいますよ。
まぁこんなとこで世間話してても埒があかない。
坂口くん。
坂田です…。
坂田くん!あのお菓子の製造業者大至急当たってくれ。
あれは…。
・ありがとうございました!ここですわ。
「越山甘清堂」…。
市内でも一二を争う老舗で昨日の菓子は「花兎」といってここの創作菓子やったそうです。
いらっしゃいませ。
(坂田)どうも。
金沢中警察署の者ですが。
昨日料亭「萬葉」にお菓子を届けた渡瀬守さんという方は?
(渡瀬守)あの…私ですが…。
(守)橋本様というお客さまから私が前日ご注文を受けました。
(加奈子)花兎を五個。
…それから落雁もね。
(守)それで当日午前10時にお届けいたしました。
こいつは…うちの菓子じゃありませんな。
えっ?しかし…おたくの創作菓子やろ?生地が違う。
こいつは求肥です。
ぎゅうひ?うちの花兎は求肥にひと手間かけた雪平という生地を使ってます。
せっぺい?
(渡瀬)はい。
ちょっと見た目は区別がつかないんですが雪平は求肥に比べて弾力があり柔らか〜いのが特徴で。
ところがこれは求肥で出来てる…。
毒が入ってたというのはこの1個だけですか?はぁ。
ほかはすべて安全で…。
…てことは誰かがうちの菓子に似せて作った偽物ってことですよ。
その雪平で出来た本物の花兎見せてもらえませんか?あ…それが朝に作った分は先ほどの方がすべて買っていかれまして。
先ほどの方?刑事さんたちと入れ違いに出ていった男の人です。
あっ!ちょっと!!待ってくれや!すみません!あの今お買いになったお菓子…。
あれっ!?これは竹野内署長!
(竹野内剛)おぉ坂田くん。
竹野内署長?聞いたよ。
また子供が産まれたって?これで6人目か?いやいやいや…。
7人目ですわ!また今度も女の子でして。
こりゃ大変だぁ!お話し中申し訳ありません。
あのそのお菓子なんですが…。
ああこれ?昨日の事件のお菓子だよ。
話の種に買ってきた!あっ…お嬢さんですね?…お嬢さんだぁ?
(日舞の音楽)お嬢さん…。
はい。
「はい」じゃないっ!!あなたお菓子が越山の花兎だと知ってて我々に黙ってましたね?こっちは菓子屋を捜すだけで一晩つぶしてるんだ!すまん…話してしまった。
お父さん…!これ全部君が?あ…はい。
亡くなった母が金沢の婚礼行事に精通しておりまして私もいつの間にか…。
お嬢さんは大学で講師を務められるほどの第一人者なんです。
なのに本人は未だに独り身で…。
婚礼行事のことを一生懸命研究しておりましたら結婚するのを忘れていたんです。
ハハハハッ…!忘れてた…。
なにかおかしいですか?まるで世界遺産だ。
遺産ではございません。
婚礼行事は今も金沢の生活に息づいているんです。
行事じゃなくてあなた。
私が…?世界遺産…?ハハハッ…!こりゃいい!よく言ったもんだ!お父さん!どうぞ…。
あぁこれが本物の花兎か。
毒が入っていた花兎は餡をくるんでいるこの生地が求肥で出来ていたんですよね?うん。
犯人は本物は雪平で出来ているのを知らずに求肥で作ってしまったんだろう。
無差別殺人…ということでしょうか?誰でもいいから殺して騒ぎを起こしたかったとか…。
怖いわ…。
ひとつ間違えていたら私が殺されていたのね。
それはないでしょう。
どういうことですか?無差別殺人だとしたら全部の花兎に毒を入れるはずでしょう。
それが1つの花兎にしか毒が入っていないということは誰か特定の人物を狙ったと考えるのが普通じゃありません?ということは…加奈子さんを殺す動機を持った人間…。
ごちそうさまでした。
これ参考のためにいただいてきます。
(坂田)橋本加奈子は5年前実家を出てからこのマンションで独り暮らしをしてたようです。
富沢靖之とは親同士が決めた婚約者だったようだな。
両家に利害関係がありましてね。
政略結婚ということでしょう。
彼女のほうはまんざらでもなかったみたいだな。
婚約者にふられての当てつけ自殺って線もありだな。
いやいやそれはどうですかね!話によるとわがままでプライドが高くって自殺するようなタマじゃ…失礼性格じゃなかったようですわ。
なんだこりゃ…?請求書…奥山探偵社?
(奥山和樹)よぉ…!なんの用?私あなたに呼び出される覚えはないわよ。
冷たくすんなよ。
あんたのためにいろいろ働いてやっただろ。
離婚のときのことは感謝してるわ。
あなたの工作のおかげで主人の浮気現場の写真も撮れたし。
だったらもっと態度で示そうよ。
(直子)やめて…!それより私見たのよ。
あなた昨日「萬葉」にいたでしょ?いったい何してたの?まさか加奈子さん殺したのも…?俺はただ見届けに行っただけさ。
俺が調べたネタが何を引き起こすかをな…。
(直子)ネタ?橋本加奈子に頼まれて調べたネタ。
小池彩乃の調査報告書。
彩乃さんの…?あんた弟の結婚相手が気に入らないんだろう?ただじゃ見せられない。
嫌だって言ってるでしょ!おいどこ行くんだよ?やだっ…!やだ!!やめてよ!ちょっ…!やだぁーっ!!ウアッ!!コノヤローッ!キャーッ!!なにが「世界遺産」よ。
失礼な方…。
小田桐くんのことか?坂田の話じゃ警視庁から異動してきたばかりで…まだ独身だそうだ。
まさかお父さん…私とあの方を?好みのタイプだろ?昔お前の部屋に貼ってあった…。
…アルパ・ティーノ?似てないか?似てません!第一あの歳まで独身なんてなにかあるに違いないわ。
人のこと言えた歳じゃないだろうに…。
えっ…?万里江…。
弟子の縁結びもいいが少しは自分のことも考えたらどうだ?考えてます…!彩乃ちゃんの縁談は加賀富のご夫婦に頼まれたのよ。
靖之さんが仕事先で彩乃ちゃんに一目惚れしたからお見合いを設定してくれないかって。
それにしてもおかしな話よね…。
昨日の雰囲気だと加奈子さんのほうがなにか企んでる様子だったのよ…。
・
(電話)
(電話)はい竹野内でございます。
…あ加賀富の奥様。
えっ…家族会議?「縁談をなかったことに」って…どういうことでしょうか?
(杉田美代子)先生大変です!彩乃がっ!彩乃が「婚約を解消するって」言って1人で富沢家に…。
今朝稽古が終わってから彩乃ふさぎ込んでたんですけどさっき電話があって「やっぱり自分には幸せになる資格がない」なんて言って…。
君の言うことはわかりました。
君は加奈子の…彼女の死に責任を感じてるんだね。
だから婚約を解消しようと…?じゃあ訊くけど彼女を殺したのはあなたなんですか?そんなまさか…!それなら「責任を感じる」なんて死んでも口にしちゃいけません。
話は予定どおり進めます。
君はなにも心配しなくていい。
すべてこちらが手配しますから。
先生ご一緒願えますか?はい。
彩乃ちゃん…あなた愛されてるわ。
先生…。
それが一番大切なことよ。
家柄や財産よりね。
(恒之)さて…靖之の結婚だが今回の事件にあたり富沢家としての姿勢を決めておかねばならん。
まだ結納も正式に済んではいないんだしあちらのほうから身を引いていただければ丸く収まるんだけど。
(靖之)婚約解消はしません。
(恒之)なにを言ってるんだ!結納当日にあんな事件が起こったんですよ。
(富貴子)世間さまに何ていうの?彼女との結婚は予定どおり1か月後に行います。
ここで式を中止すればうちが加奈子の死に責任を認めたことになります。
加賀富の暖簾のためにも予定は何があっても変更しません。
たとえ次に誰かが死んでもです。
(ノック)こんにちは!奥山さん?警部っ!
(坂田)警部…メモが!今日の午後1時に富沢直子と会う予定が…。
富沢直子…。
本当にこれでいいのかしら…?人が一人亡くなってるのに。
(美代子)気持ちはわかるけど彩乃が悩んでも仕方ないよ。
美代子…。
(美代子)好きなんでしょ?靖之さんのこと。
…いい人だとは思う。
明彦さんのときみたいには燃えないか…。
(美代子)ちょっと彩乃!これ…明彦さんのじゃない?どうして靖之さんがこんな物を…?
(坂田)ごめんください!富沢さん。
直子さんおられますか?はい…なんでしょう?先ほど私立探偵の奥山という方が殺されまして…そばにこれが落っこちてたんですよ。
奥山…?…直子さん?私は奥山に呼び出されただけよ。
なんのために?「彩乃さんの秘密を知りたくないか」って…。
だけど…「ただじゃ見せられない」ってあの男…!でも私…あいつ突き飛ばしただけよ!頭ぶつけただけで…亡くなるなんてっ!監察医の話じゃ奥山の死因は絞殺のようだ。
犯人はほかにいるのかな?直子が嘘ついてるんじゃ?遺体の髪の毛が濡れてたの覚えてるか?おそらく奥山は直子に突き飛ばされたあとにいったん自力で立ち上がり流しで頭の血を洗い流してた。
そこに真犯人が来て後ろから首を絞めた…。
それより気になるのは殺された奥山が言ってたという小池彩乃の秘密という話だ。
(携帯電話)
(携帯電話)あぁ俺だ。
…えっ?本当か?喫茶店のウエイトレスが直子が逃げていくのを目撃してます。
ご苦労さん!ウエイトレスの話によると午後1時10分ごろコーヒーを出前してたとき奥山の部屋から女が飛び出してきて階段を駆け下りその直後奥山本人がドアから顔を出したということです。
やはり奥山は直子に殺されたってことじゃないんやな。
さすが警部の推理に間違いはありませんな。
なんで彼女がここにいるんだ?奥山さんはここで亡くなっていたのね…。
はい…。
死因は絞殺だそうです。
鑑識の話では首にうっすらと金箔銀箔が付いていたとか…。
金箔銀箔?金沢じゃ元署長の娘ってだけでどこでもフリーパスなんですか?小田桐警部…。
君か?彼女を中に入れたのは。
怒らないでください。
私が無理を言ってお願いしたんです。
奥山さんが殺されたと聞いて気になったものですから。
奥山を知ってるんですか?奥山さんにお会いしたのは3週間ほど前です。
加賀富さんのご依頼で彩乃ちゃんのことを調べてるとおっしゃって私を訪ねていらっしゃいました。
小池彩乃の身辺調査か…。
でも…あとで確かめたら加賀富さんではそんなことは頼んでいないと。
それで気になっていたんです。
依頼人は橋本加奈子だよ。
加奈子さん…?恋敵の弱みを握ろうと考えていたんだろうな。
君…3年前に起きた事故のこと覚えてる?3年前の事故…。
森本明彦という青年が事故死した…。
覚えています。
明彦さんは彩乃ちゃんの昔の恋人でした。
事故のあった日…彼はお客さまの注文を間違えた彩乃ちゃんのために輪島に直接商品を取りに行って…。
その帰り道…。
明彦さんは能登の海岸沿いの道でハンドルを切り損ない車が横転して…亡くなったんです。
彩乃ちゃん自分を責めて責めて…見ていられませんでした。
涙を流しながら保険金だけはしっかり受け取ってたわけだ。
…保険金?彼の死を警察は「事故死」と判断した。
…が保険会社は疑っていたようだ。
森本は事故の直前に婚約者の小池彩乃を受取人にして生命保険に入っていたんだ。
まさか…。
彩乃が受け取った保険金は3千万。
探偵の奥山はその事実を知ると橋本加奈子に報告した。
加奈子はそれを富沢靖之に知らせようと…。
その矢先に殺されたらしい。
さらに奥山はその報告書を元にもう一儲け企んでいた節がある。
加奈子が死んだあと…富沢直子に売りつけようとしそれを拒まれると今度は直接…。
…これ以上は推測の域を出ないかな。
(慎吾)どうして黙ってた?お父さんに言ったら反対すると思って…。
当たりめえだろっ!そんな金受け取れねえよ!でもそのおかげでこの家も店も手放さずに済んだのよ。
バカヤロウッ!!小池さんっ!…深く考えもせず友達の連帯保証人になんかなって苦労かけたと思ってるよ。
…お前にも死んだ母ちゃんにも。
お父さん…。
だがなぁその借金返済のために明彦くんの保険金が充てられてたとは…。
お前…まさか靖之くんとも金のために結婚しようとしてるんじゃないだろうな?おい…ええっ!?これ…昨日お父さんが踏みつぶした水引ね。
結納のやり直しはしないということでいただいてきたんです。
自分で修理してるの?美代子に教えてもらいながら…。
記念の品だし。
…靖之さんからいただいた?なんだかんだ言って相思相愛ね。
安心したわ。
先生…。
なにが起こってもあなたは堂々と幸せを求めていいの!「幸せになりたい」って強く願っていれば必ず幸せになれるわ。
(美代子)うわぁ〜すごい!さすがは「ゑり華」さんね!留袖付け下げ小紋に訪問着全部で40着ほどになります。
ちょっと…私には贅沢すぎませんか?いいのいいの!それだけのご結納金いただいてるんだから。
でも…。
それに金沢では「お道具見」といって婚家に運ばれてきた箪笥の中身を親戚やご近所の方に披露するしきたりがあるでしょ。
あちらとしてはそこで“さすが加賀富”と言われたいの。
あら…「花嫁のれん」がないわね?それは…。
(彩乃)私がキャンセルしたんです。
私花嫁のれんは持っていきません。
でも…花嫁のれんのない結婚式なんて…。
そうよ!金沢の女の子なら誰だって花嫁のれんをくぐる日を夢に見るわ。
死んだ母との約束なんです。
彩乃は本当に母さんののれんが好きだなぁ。
彩乃。
彩乃がお嫁に行くときはお母さんの花嫁のれんあげるから必ず持っていってね。
(彩乃)ホント?約束してね!
(彩乃)でも10年前多額の借金を抱えたとき父は母のほかの着物と一緒に花嫁のれんも売ってしまって…。
婚礼のとき新しい花嫁のれんに実家の家紋を染め抜いて持っていくしきたりはわかっています。
でも…私母ののれんがないからといって新しいのれんを作る気にはなれないんです。
…わかったわ。
でもせめて「嫁ふろしき」ぐらいは作ってちょうだい。
ご近所にお菓子をお配りするときむき出しで持っていくわけにはいかないでしょ?
(呉服店主)そうですよ。
嫁ふろしきの出来で花嫁道具の品定めがされるんですから。
ここが張り込むポイントですよ。
じゃあ嫁ふろしきだけあつらえさせていただきます。
かしこまりました。
(携帯電話)
(携帯電話)…ちょっと失礼します。
いいな〜!私もふろしきぐらいあつらえちゃおうかなぁ!結婚の予定もないけど!彩乃さんの分と一緒に注文しますからお安く上がりますよ。
家紋を指定していただければ。
先生!これこれ!「桔梗」なんです。
もうかけないでってお願いしたはずです。
それに明日は一日中仕事でガイドの当番も…。
…わかりました。
じゃあ2時に「兼六園」で。
2時に兼六園…。
私ったら…何をやってるんでしょう?・彩乃…本気か?本当にあいつと結婚するのか?明彦のこと忘れられないんじゃなかったのか?あの人和菓子屋の…?金か…?そんなに金が欲しいのか?明彦の保険金だけじゃまだ足りないっていうのか!?
(守)いいか…?俺は知ってるんだ。
求肥の菓子を見分けることができたのは…お前だけだってことを。
求肥の菓子を見分ける…?
(美代子)これを持って兼六園の案内を終わらせていただきます。
ありがとうございました!
(拍手)あとは皆さんお買物をお楽しみください。
(美代子)先生!美代ちゃん…。
お仕事忙しそうね。
はい!私たちみやげ物店の店員は兼六園のガイドも兼ねてますから。
あっ彩乃が勤めてるのは2軒先…呼んできましょうか?いいのいいの。
それより美代ちゃん…越山の若い職人さん知ってる?守さんですか…?ええ。
明彦さんの親友でしたから。
明彦さんて…あの事故で亡くなった?はい。
明彦さん守さん彩乃に私。
仲よし4人組だったんです。
そう…。
越山の菓子職人が小池彩乃と?ええ。
話の内容までは聞き取れませんでしたが。
やはりホシは彩乃やな。
彩乃が渡瀬守に毒入りの菓子を作らせたのに違いないですわ。
渡瀬をしょっ引いて吐かせましょうか?いやそれはダメだ。
今連れてきて「何も知らない」と言われたらそれまでだ。
問題は5個あった菓子のうち毒入りはたった1個だ。
その1個をどうやって橋本加奈子に食べさせることができたかということだ。
菓子の取り分けの順番なんですが加奈子万里江さん彩乃靖之…。
加奈子が1番だろ?ということは加奈子はどれでも自由に菓子を選べたはずだ。
その謎が解けなきゃ送検はできない。
あっそれから殺された奥山の首に残されていた金箔銀箔の分析結果なんですが絞殺に使われた紐はどうやら紙製のようなんです。
…紙っ!?おぉおぉついにお前も花嫁修業に目覚めたか。
おあいにくさま。
これは実験。
素直にならんと幸せを逃すぞ。
越山の親方に花兎の作り方教えてもらったのよ。
わからないことは自分で確かめようと思ってね。
ほぉ…「生地の雪平は求肥に卵白と白こし餡を混ぜて作る」。
こんなところにも卵を使うんだな。
お父さん!うんうまい!小田桐くんにも持ってってやったらどうだ?もぉ〜!おいおい耳の長さが違うんじゃないのか?えっ?耳の長さが違う?本物見てごらん。
耳は左右同じ長さだ。
でも…私が見た花兎はたしか右耳のほうが長かったわ。
でもどうして…?求肥に…卵…。
(日舞の音楽)はい。
今日はここまで。
(生徒たち)ありがとうございました。
彩乃ちゃん。
…ちょっといい?どうぞ。
…失礼します。
花兎…私が作ってみたの。
食べない?大丈夫。
求肥だから卵は使ってないわ。
先生…。
彩乃ちゃん…あなた卵アレルギーだったわよね?よく考えてみれば…みんながケーキやプリンを食べていてもあなたは絶対に手を出さなかった。
私…もっと早く気づくべきだったわ。
加奈子さんはあなたが卵アレルギーだと知っていた。
そして…わざと卵を使った花兎を用意した。
そうなのね?はい…。
正直に話してちょうだい。
あの日…守さんから私の携帯に連絡があって。
あいつの元婚約者とかいう女がお前にアレルギーの発作を起こさせて結納をぶち壊そうとしてるんだ。
(守)いいか?目印は耳だ。
左右で耳の長さの違う菓子を取り上げろ。
耳の長さ…。
(彩乃)守さんからそう言われた私は素直に耳の長さの違うお菓子を取ろうと思っていました。
ところが…。
どうなさったの?あなたもどうぞ。
(彩乃)何も知らない加奈子さんが先にそれを食べてしまって…。
(加奈子)ウッ…!!つまり…毒が入っていたのは耳の長さの違う卵を使ってないあなたが食べるはずだった花兎?彩乃ちゃん…こんな大事なことをどうして黙っていたの?でもそれを言ったら警察は守さんを…。
彼はあなたのことが好きなのね?だから靖之さんと結婚するならいっそのこと…。
そう考えたのかもしれないわ。
いいえ。
彼は事件が起きて本当に驚いてました。
守さんは犯人じゃありません。
じゃあ行ってくるわね。
はい。
お願いいたします。
先生お気をつけて。
はい。
あー警部すみません。
昨日久しぶりにカニ食いすぎたんです。
何だあれ?荷物送りですよ。
今日は大安吉日か!荷物送り?結婚式の1週間くらい前に嫁入り道具を婚家に運び込むんですよ。
まったく見栄っ張りな気風だな。
金沢ってのは。
まったくです!うちなんか女の子ばかりですから老後の蓄えなんかとてもとても…。
あー!あれはお嬢さんですよ!っていうことは小池彩乃の嫁入り道具ですわ。
あの歳で独身か…。
何かわけありだな。
ここだけの話なんですけどねなぜお嬢様が独身かといいますと父上の元署長が言い寄る男を次々と遠ざけたからなんですよ。
でもね最近署長は歳のせいか焦っておられます。
警部が独身だと聞いて喜んでおられました。
警部チャンスです!万里江さんどうもご苦労さまです。
・越山です。
五色まんじゅうお届けにあがりました。
ご苦労さま。
渡瀬守さんね?あなたにどうしても訊きたいことがあるの。
仕事が終わってからでいいわ。
私の携帯に電話をください。
(宴会)何が楽しくてこんな宴会に出てなきゃいけないの?お母さんあの人のお道具見てきましょうよ。
(宴会)まったく。
こっちは奥山殺しの濡れ衣着せられそうだってのに。
いい気なもんよね。
こののれん…いい仕事してるじゃないの。
(悲鳴)
(悲鳴)それで午後2時ごろに荷物送りが終わった後に蔵に入った者はいないんですね?ええそのはずですが…。
警部!ガイシャのズボンのポケットにこんなものが。
いい加減にしろ!!どうしてそんな大切なこと警察に連絡しないんだ!ごめんなさい!守さんが亡くなったのは私のせいですね。
私がもっと…。
まあまあ落ち着いて…。
つまりこういうことですね。
渡瀬守は卵アレルギーの彩乃のために一つだけ求肥の菓子を作り目印に左右の耳の長さを変えておいた。
おそらく犯人はそれを知っていて彩乃ちゃんを殺そうと毒を入れたんだと思います。
君はそのことを自分で確認しようとして渡瀬に近づいたのか?そのことを知っているのは君以外に誰だ?彩乃ちゃんだけです。
やっぱりそこに行き着くのか…。
ちょっと待ってください。
今言ったでしょう?命を狙われていたのは彩乃ちゃんなんですよ?だがな毒入りの耳の長さの違う花兎を見分けられたのは彩乃だけなんだ。
小池彩乃は菓子職人の渡瀬守に頼んで毒入りの菓子を作り橋本加奈子を殺害した。
そしてさらに目撃者の探偵の奥山共犯者の渡瀬次々と…。
でも…もしそうだとしたら彩乃ちゃんはどうやって加奈子さんに毒入りの花兎を食べさせたんです?小田桐警部にも説明がつかないのね。
捜査上の秘密だ!最近小池彩乃は水引細工を習い始めたらしいじゃないか?水引…?奥山の首を絞めた凶器はこの水引だ!おーい誰か。
このお嬢さんをお送りしてくれ。
はい。
気をつけろよ。
世界遺産だから。
警部!ん?近所の住人が死亡推定時刻の午後3時ごろ富沢家から女が出ていくのを見たと言っています。
その服装が兼六園のガイドの制服にそっくりだったとか。
兼六園のガイド?これで確定か…。
それからもう一つ。
道具を運び込んだ職人が同じころ富沢靖之が一人で蔵に入って行くのを見たという話も。
靖之さんが…?仕方がない。
2人とも泊まってもらうか。
荷物送りが終わった後…午後3時ごろあなたはもう一度蔵に行きましたね?ああ。
どうして?別に。
ただ荷物がきちんと入っているか確認しに行っただけです。
それじゃ…殺された渡瀬守さんとあなたの婚約者…彩乃さんの関係については?2人の関係?何のことですか?何もご存じない?何のことだかさっぱり…。
(ノック)どうだそっちは?現場の写真を見て動揺しているようですが彩乃はその後だんまりで…。
黙秘か…やっかいだな。
それと今日は午後から家に一人でいたそうでアリバイはありませんね。
念のため兼六園のガイド全員あたってくれ。
(ガイド)昨日の3時ごろですか?私たちは閉園までずっと仕事をしていましたけど。
昨日は団体さんが多くて忙しくて。
それはそれは…。
で杉田さんは?私は早番だったからその時間はもう仕事を終えて一人で家に帰る途中でした。
アリバイなしか。
あっそうだ!浅野川にかかる天神橋で富沢家から帰ってきた彩乃の荷物送りのトラックとすれ違いました。
あー!そのトラックなら私も午前中に天神橋の手前で見かけたな。
あの…彩乃はどうしてます?元気にしてますか?先生!美代ちゃん。
さっき兼六園に刑事さんが来て私たちガイド全員のアリバイを…。
そう…。
先生。
私どうしても気になることがあって…。
事件には関係ないかもしれないんですけど…。
実は…私たち見ちゃったんです。
見たって何を?彩乃が婚約を解消したいと言ってあちらのお宅に伺ったとき私たち靖之さんの部屋で見つけたんです。
明彦さんが持っていた写真入れを。
…明彦さんって…3年前に亡くなった?彩乃の写真が入った写真入れで明彦さん事故のときにも持っていたはずなんです。
黙ってるって彩乃に約束したんですけどこのままじゃ彩乃一人が疑われそうで…。
先生!靖之さん何か隠してると思いませんか?明彦さんが亡くなったのは能登だったわよね?はい。
輪島の鴨ヶ浦です。
(中谷巡査部長)ここが事故現場です。
確かに事故だったんですね?はい。
ブレーキに細工をした形跡などは一切ありませんでした。
まあ居眠り運転かサルやタヌキをよけようとしてハンドルを切り損ねたか…。
救急車が駆けつけたときには森本さんはすでに息を引き取っていました。
救急車?はい。
ちょっと待って。
救急車の要請は誰が?いやそれがわからないんですよ。
事故現場から携帯で車が横転してケガ人が出たという男性からの119番通報があったんですが救急隊員が現場に駆けつけるとそこには森本さんしかいなかったとか。
そう…。
明彦さんの事故を目撃して119番通報したのは靖之さんだったんですね。
そして明彦さんの死の直前に写真入れを受け取った。
でもどうしてそのとき救急隊が来るまで明彦さんのそばについていてくれなかったんでしょう?通報だけして立ち去るなんて冷たすぎる!刑事さん…。
どうした?何か話す気になったか?…私が殺しました。
お父さん…。
懐かしいな…。
お母さんの花嫁のれんか。
天国のお母さんに相談があって。
ん?私…わからなくなっちゃったの。
この縁談このまま進めていいのかどうか…。
ピンときたんだろ?2人が最初に並んだとき。
そう…ピンときたのよ。
あのときは。
この2人は必ずうまくいくって。
私が考えているほど物事は単純ではなかった。
お父さんとお母さんは警察の人たちを中心に30組以上のカップルのお仲人をしたのよね?うん。
お母さんは縁結びの名人だった。
そうだった。
でも私はダメ。
肝心の2人のことを信じられなくなってる。
どうせお見合い。
愛なんかはない。
裏にあるのは偽りと策略…。
万里江。
お母さんの口癖を覚えているか?口癖?「ピンときた」お前と同じだ。
なあ万里江。
お父さんとお母さんは2人で何十組ものカップルを結婚させた。
みんなお見合いだ。
その彼らに愛がなかったと思うか?見合いでも恋愛でも結婚っていうのは愛し合ってするもんなんだ。
お父さん…。
さっき坂田から連絡があった。
靖之くんも彩乃くんも2人とも自分一人でやったと主張しているらしい。
2人とも?証拠不十分。
そう判断して釈放することにしたそうだ。
よかったな。
よかったな。
さあ帰ろうな。
じゃ先生。
どうもありがとうございました。
ありがとうございました。
それじゃ。
あの…。
ありがとうございました。
2人を釈放してくださって。
これ以上留置してても意味がないから帰ってもらいました。
少し歩きましょうか?私…今日能登へ行ってまいりました。
知ってるよ。
輪島署の中谷巡査部長から報告があった。
ごめんなさい…勝手に動いて。
まったくだ。
まあ無事に戻ってきたからいいようなもんだけど。
すみません…。
あの2人どちらも自分がやったと言っているそうですね。
うん…どっちかが相手をかばってる。
なぜなんだろうな。
正直まるでわからなくなってきた。
私たち証拠だのアリバイだの言う前にもっと人の気持ちを考えなければいけないのかもしれませんね。
男と女の…。
お互い一番苦手な部分かもしれない。
それにしても金沢で結婚するのは大変だな。
小池彩乃の嫁入り道具を見てあきれたよ。
あれは特別です。
お相手が老舗の友禅問屋ですから。
しかしいくら何でもあれはやりすぎだろう。
あのバカでっかい友禅ののれんいったい何に使うの?バカでかい友禅ののれん?蔵の中で見た。
派手な柄のバカでっかいのれん…。
まさか…。
間違いない。
花嫁のれんだわ。
花嫁のれん?金沢の婚礼には欠かせない友禅ののれんです。
花嫁はのれんのように従順であれという意味が込められていて挙式当日の朝仏間の入り口に飾られるんです。
でも…。
彩乃ちゃんは花嫁のれんを作っていないんです。
それじゃこれはいったい誰が…?ごめんください。
諸星正一郎は私ですが。
石川県警の小田桐と申します。
ちょっとこの写真を見ていただきたくて…。
のれんなんですが。
私の作品です。
それが何か…?これどなたからのご依頼ですか?これはね花婿からのプレゼントですよ。
花婿?富沢靖之さんですか?ええ。
あっありました。
3週間ほど前でしょうか。
靖之坊ちゃんが古着屋で見つけたというこの古い端切れをお持ちになって。
諸さんこのとおりです。
しかし端切れだけでは全体が…。
下絵なら僕が描きます。
どうしてもこののれんを復元したいんです。
お願いします!坊ちゃんのことは小さいころからよく知ってますが随分成長されましたよ。
婚約者の方がよっぽど素敵な女性なんでしょうな。
坊ちゃん今日も来てらっしゃいますよ。
ああいうことがあったから結婚式の日までに新しくのれんを作り直すんだと言ってね。
富沢靖之さんが?靖之さん。
私昨日能登へ行ってまいりました。
能登?3年前の森本明彦さんの事故のとき…現場から救急車を呼んだのはあなただったのね?君は彼の写真入れを持っているそうだね?本当のことを話してくれないか?
(靖之)3年前のあの日…僕と加奈子は加奈子の車でドライブをしていました。
やめろよ。
ボトル1本あけてるんだぞ。
平気よ!ダメだって!なあ。
どっかで休んでいこう。
ホテルでも行こうか?その気もないくせに。
残酷な男。
キャー!危ない!!・
(加奈子)死んだ!?おいしっかりしろ!!彼は死んではいませんでした。
もしもし?大変です。
車が横転してケガ人が…。
えっ?場所は輪島の鴨ヶ浦っていうところ…。
何やってんのよ!?私お酒飲んでるのよ!救急車なんか呼んだら捕まっちゃうじゃないの!大丈夫か?…え?彩乃…。
それがこの写真入れでした。
・
(加奈子)早くー!それ以来僕は良心の呵責に苦しみ…この女性のことを気にかけていたんです。
彼女に出会ったのは本当に偶然でした。
何やってるんですか?こういう安物を置かれるとね困るんですよ。
安物じゃありません。
これはB反といって小さな傷のせいで正価では売れなくなったもの…。
なるほど。
友禅問屋の加賀富に反物の講釈ね。
加賀友禅は高すぎます。
お客さまの中には買いたくても買えない方がたくさんいらっしゃるんです。
仕方ないんじゃないんですか?仕方がないって…。
あなたこそ少しでも安い商品を作るような企業努力をしたらどうですか?そんなこと面と向かって言う女性は初めてでした。
そしてそれが森本さんが持っていた写真の人だと気づいた僕は徐々に彼女にひかれていったんです。
やがて加奈子との婚約を解消した僕は先生にお願いして彩乃さんとのお見合いを設定してもらいました。
どうしても自分の力で彼女を幸せにしてやりたいと思ったんです。
それで彼女をかばってあなたはやってもいない殺しをやったと言ったんですか?それは…。
何を見てるんですか?この家紋…。
諸星先生こののれんは?いいでしょう?私のお気に入りの作品ですよ。
かわいそうに…。
実際の結婚式に飾られることはなかったが…。
どういうことですか?…ええ。
男性の方が交通事故で亡くなられたんです。
3年ほど前だったでしょうか。
能登で崖から転落したとか。
(靖之)森本さん…。
それじゃこののれんの依頼主は小池彩乃さん?
(靖之)いえ。
この家紋は彩乃さんのものじゃありませんよ。
彩乃さんのじゃない?
(諸星)これを注文してくれた女性は片思いでね。
花嫁のれんに願をかけるとおっしゃってたんですが…。
なんてこと…!おめでとうございます。
お父さん…。
それからお母さん。
長い間ありがとうございました。
先生。
ハイヤーが来ました。
そろそろ行きましょうか?美代ちゃん合わせ水忘れないでね。
はい。
来ましたよ。
本日はお日柄もよくまことにおめでとうございます。
ありがとうございます。
それでは合わせ水を。
直子カワラケを彩乃さんに。
どうぞ。
美代ちゃんお水。
はい。
それでは。
では花嫁の末永いお幸せといつかはこの家の土に還ることをお祈りして…。
(拍手)・美代ちゃん。
何を探しているの?先生…。
これかな?君が車から離れている間にすり替えさせておいたんだ。
この中の水には青酸カリが入っているはずだ。
君はこれで彩乃さんを殺そうとした。
やめてよ!先生何とか言ってください!美代ちゃん…残念だけど今回の連続殺人…犯人はあなただわ!だって私には…。
君は渡瀬守が殺された日の午後3時ごろに浅野川の天神橋の上で富沢家から帰ってくる彩乃さんの荷物送りのトラックを見たと言ったね?本当よ。
調べてもらえばわかるわ。
確かに荷物送りのトラックは行きは天神橋を渡ってここ富沢家に来た。
天神橋から富沢家じゃかなりの距離があるわ。
これでアリバイ成立じゃないの。
違うのよ美代ちゃん。
先生?荷物送りのトラックは後戻りをすると縁起が悪いから行きと帰りは違うルートを通るのがしきたりなの。
私は…行きのトラックと一緒に天神橋を通ったわ。
だから同じトラックが帰りも天神橋を渡ることはあり得ないのよ。
君は行きのトラックが天神橋を渡るのを見た。
だから帰りも同じ道を通ると思ったんだろう?アリバイを訊かれたとき何もないと答えておけばよかったのね。
美代子…。
彩乃…。
美代ちゃん!おい!おい!緊急配備だ!ハイヤーを追え!早く捕まえて!あの子は死ぬつもりです!死ぬつもりならきっと…。
行こう!・美代ちゃーん!先生…どうしてここへ…?愛する人が亡くなったところ…ここしかないでしょ?友禅作家の諸星先生のお宅であなたの家紋がついた花嫁のれんを見たわ。
美代ちゃん…明彦さんのことが好きだったのね?守さんと私は同じ立場でした。
彩乃の親友の私は明彦さんに片思い。
明彦さんの親友の守さんは彩乃に片思い。
そんな気持ちに気がつかないのは…真ん中で笑っている幸せな2人だけ…。
どうしてあの人は彩乃を選んだの…?私は今でもこんなに愛しているのに…。
美代ちゃん…。
私だったら…彼の保険金なんかを受け取ったりしなかった!たった3年で他の男と結婚なんか決めたりしなかった。
私だったら…死ぬまで彼一人を愛し続けた…!やめなさい美代ちゃん!先生死なせて!どうしてこんなことを!?君たちは仲のいい友達だったんじゃないのか?すべてが始まったのは…あの日…。
私立探偵?実は3年前の森本さんの事故について調べていましてね。
あの後森本さんの死亡保険金を婚約者の小池彩乃さんが受け取っているんですが…。
保険金っていったいいくらくらい…?3千万。
3千万…!?保険会社は彩乃をずっと疑っていたと奥山は言いました。
結局証拠は出なかったそうだけどその話を聞いた瞬間から私の頭に悪魔が住みついたんです。
奥山が靖之さんの婚約者である加奈子さんの依頼で動いていることはすぐにわかりました。
そこで私は加奈子さんに直接接触したんです。
卵アレルギー?あの女が?少しでも卵の入っているものを食べれば大変なことになるわ!じゃあもし…結納の直前に卵を食べたら…。
加奈子さんは彩乃にアレルギーの発作を起こさせ結納を中止させてやると言い出しました。
そして彼女の子どもじみた計画を聞いているうちに殺人のトリックが浮かんできたんです。
そのために守さんを利用したのね?私は加奈子さんの計画を守さんに話し一つだけ卵を使わない花兎を作ってほしいと頼みました。
それは耳の長さを変えた花兎か?そして結納当日私は料亭に紛れ込み…。
耳の長さの違う花兎にインターネットで手に入れた青酸カリを仕込んだんです。
でも…まさかそれを加奈子さんが食べてしまうなんて思いもよらなかった。
そしてもう一つの誤算が探偵の奥山に見られたこと。
奥山は私を脅迫してきました。
口止め料として300万払えと…。
でもそれだけでは済まなくなるだろうということはわかっていました。
(直子)もうやめて!覚えてろ!そんなとき直子さんもやはり奥山に脅迫されていることを知ったんです。
(うめき声)これで私の悪事を知っている人はいなくなった。
もうバカなことはやめよう。
そのときはそう思っていました。
でも…。
守さんはあなたの犯行だと気がついていたのね?私を警察につき出しても彩乃とは結婚できないわよ。
何…!?彩乃と結ばれたいんでしょ?私が手引きしてあげる。
荷物送りあなたも来るのよね?ああ。
だったらいったん帰ると見せかけて富沢家の蔵で待っていて。
荷物送りの日守さんをそうやって呼び出すと私は彩乃になりすまして蔵に入りました。
(守)彩乃か…?美代ちゃん…。
(うめき声)私は夢中で現場から逃げました。
でもガイドの制服は脱がなかった。
もし見つかっても彩乃に疑いがかかるように。
美代ちゃん…。
犯行を隠すために次々と人を殺して…。
バカですよね?でも…彩乃が憎かったんです。
口では明彦さんのことが忘れられないと言いながら玉の輿に乗ろうとしている彩乃が許せなかった。
・美代子!私…何にも知らなくて…。
ごめんね…美代子…。
でもねこれだけはわかってほしいの。
私…玉の輿に乗ろうとして靖之さんと結婚するんじゃないの。
彼を愛してる。
本当に愛してるの。
靖之さんと知り合ってもう一度生きる意味を見つけたの。
そんなの勝手よ!明彦さんはどうなるの?彼はあなたのために死んだも同然なのよ!それは違うわ美代ちゃん。
先生…。
あなた…天国の明彦さんが本当に彩乃ちゃんの死を望んでいたと思う?明彦さんのためだなんて動機をすり替えちゃいけないわ。
あなたがやったことは自分勝手な人殺しよ。
私はね彩乃ちゃんにもあなたにも幸せになってほしいの。
人の不幸を願う前に…どうしてもっと自分を大切にしてくれなかったの?さあ行こうか。
美代ちゃん。
顔を上げて。
ちゃんと背筋を伸ばして。
あの子に長い間踊りを教えてきたのに…。
そのうちわかってくれますよ。
人生は長いから。
そうですか。
美代ちゃん素直に事情聴取に応じていますか。
すっかり反省しています。
自分が起こした事件とはいえ親友の彩乃さんが死ななくてよかったと…。
美代子…。
彩乃さんそろそろ時間ですよ。
ちょっと待ってください。
最後に一つだけどうしても訊いておきたいことがあるんです。
彩乃さん。
あなたはどうして自分がやったなんて嘘の自白をしたんですか?花嫁のれんを見たからです。
花嫁のれん?ええ。
守さんの死体のそばにかかっていたあの花嫁のれん。
いつかお嫁に行くときは母の花嫁のれんを持っていく。
それが死んだ母との約束でした。
私はそれを靖之さんに正直に話しました。
そして花嫁のれんを作らないことを許してもらったんです。
ところが…。
蔵には花嫁のれんがあった。
亡くなった守さんの現場写真を見た瞬間靖之さんが私のために何をしてくれたのかすべてわかりました。
そしてやっと気がついたんです。
靖之さんが明彦さんの写真入れを持っていたわけも…。
ずっと私を見守っていてくれたことも…。
結局2人そろって相手をかばおうとしていたわけね。
新しい花嫁のれんよ。
お母さんののれん…。
靖之さん…。
3年前僕は保身のために森本さんの事故現場から逃げてしまった。
本当に卑怯だった。
許してくれ。
彼の分まで幸せにするよ。
よろしくお願いします。
仏壇参りは結婚式の前に家族の一員になることをご先祖様に報告する儀式なんです。
花嫁は身も心も清らかになったという意味で白無垢に着替え花嫁のれんをくぐるんです。
先生。
素敵な人を紹介してくださって本当にありがとうございました。
私幸せになります。
どうです?金沢の婚礼もいいものでしょう?僕もここで結婚するかな。
なんてね。
2014/09/17(水) 13:05〜14:56
ABCテレビ1
加賀百万石嫁とり殺人[再][字]
結納式で毒殺された元婚約者!死体に残った金箔銀箔の輪と突然現れた花嫁衣裳の謎
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◇出演者
涼風真世、神田正輝、阿藤快、大河内奈々子、大浦龍宇一、神山繁、小林恵 ほか
ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ
福祉 – 文字(字幕)
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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