時を超え日本人に愛されてきたお経「般若心経」。
第2回はその核心に迫ります。
それは「空」の文字に込められた思想。
誰もが息苦しさを抱えている現代「空」は生きるヒントを教えてくれます。
あらゆる思い込みを取り払い心がふわっと軽くなる世界の見方を探しましょう。
(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…前回は「最強の262文字」というテーマでしたが今日のテーマは中からまた一つの漢字です。
「空」ですね。
そうなんです。
「世界は『空』である」というのが今回のテーマなんですけれども「空」が分かれば澄み切った目と心で世の中を見る事ができるという事なんですよ。
では早速指南役の先生をお招きしましょう。
花園大学の佐々木閑さんです。
(一同)よろしくお願いします。
澄み切った目と心を得る事ができるんでしょうか?もう私は澄み切った目は無理だと思うんですがきれいな心ならまだ間に合うかもしれませんね。
今日は「般若心経」を取り上げてますがその中で「空」ですね。
これが「般若心経」の核心の思想だと言われております。
仏教というのは苦しんでいる人を助けるなんとかその苦しみを消す宗教なんですがこの「空」という思想もまた人生の苦しみを感じてる人たちの人生に力を与えてくれる。
そういう不思議な力を持ってると言われてるんですね。
今日はそのお話をいたします。
今日もよろしくお願いいたします。
「般若心経」を知らないあなたもこのフレーズだけは聞いた事があるのではないでしょうか。
「色即是空」とは仏教がたどりついた究極の真理。
その真理とはどんなものなのでしょうか。
この色即是空なんですけどまず意味は分からなくても聞いた事があって何となくかっこいい響きがありますよね。
漢字の一文字一文字はちっとも難しくないんですけど何か響いてくるものがありますね。
先生はこの色即是空ってどんなふうに捉えてらっしゃいますか?これは「般若心経」を代表する中心的な四文字熟語ですね。
いろんな漢文から出てきた四字熟語とかありますけど大体一般的に目にするものの意味って知ってるじゃないですか。
「弱肉強食」でも「春夏秋冬」でも知ってるじゃないですか。
でも色即是空は目にはするのにちゃんと書き下した意味を全然僕理解してないですね。
どういう意味なんでしょうか?この色即是空の「色」は前回お話ししました「五蘊」ですね。
五蘊とは人間が持っている5つの要素の事です。
仏教では「私」という確固とした存在はなく5つの集まりによって成り立っていると考えます。
その5つの集まりのうちの一つが「色」。
肉体を表しあとの4つは心の働きを意味します。
五蘊の一番最初に「色」ってありましたでしょ。
あれです。
つまりこの世を作っている物質要素。
私の肉体も「色」ですし机も全てのものが「色」だと。
それが「空」だと言ってるわけなんですね。
私たちのこの外界にあるもの全て「色」がすなわち「空」である?「空」というのはつまり実体を持っていないという事ですね。
何か全く逆の事を言ってる感じになりますよね。
むしろ実体を持ってるものみたいな感じじゃないですか。
私たちは実体を持ってるからそれを物質と呼ぶのですがその呼んでいるものが概念だからそれも「空」だという事になってしまう。
ほ〜らいきなりつまずいたよ。
難しいですね。
この世界は常に移ろい続けています。
太陽は朝東から昇り夕方には西に沈みます。
すると月が東から出てその月はまた日々形を変えていきます。
満開の桜も僅か10日もすれば風に散ってしまいます。
古代インドの仏教徒たちはそれを「空」と名付けたのです。
ちょっとここのフリップをご覧頂くとここにはいろんな現象が絵になって描かれています。
例えば雲から雨が降るというこれ一つの現象です。
牛が草を食べて成長していくという生命現象がある。
火山が火を噴く。
これみんな我々の身近にある一つ一つの現象です。
恐らく昔の人たちは…しかしそれがやがてその全ての現象の奥にある一つの法則で眺めてみたいという考えが生まれて法則性に全てを集約していくという動きができました。
それの究極の形が科学ですね。
自然科学です。
例えば相対性理論があったり量子力学があったり皆そうです。
じゃあ果たしてこの働きがどんどん進んでいった時には…「空」は何だと言われた時それは分かりません。
説明はできません。
しかしながら全ての現象を統括している一つの大きな法則があるという事を我々は感じる事ができる。
まず漢字の力ってすごいもので「空」って何かこう空虚とか空間とか何にもないイメージにちょっと捉えてたんですけど何もないのではなくて人間には到底届かないけれども存在はするみたいな事をまとめて「空」と。
何もないんじゃありません。
あるけれども言葉でも表せないし人に伝える事もできない。
ただそういうものがあると感じる事しかできないようなしかし存在してるそういうものですね。
何でしょうこのワクワクする感じ。
実際この宇宙が含まれた全部を表せる一つの法則ってまだ人類は到達できてないわけですよね。
その私たちがまだ到達できてないけどきっと何かあるのだろうというところを「空」とインドの人たちは…。
大乗仏教の人たちは。
名付けたという事なんですね。
すごく大きな何か世界感というか宇宙観をしょったような言葉なんですね。
そうです。
僕は何で存在してるんだろうみたいな事もいくつかの要因は分かりますよね。
うちの父と母が出会ったりとか。
だけど何でそれが僕じゃなきゃならないのかというところには分かんないモヤッとしたのがあるじゃないですか。
そういうのも「空」?はいそうですね。
でもそうやって考えていくと私たちの身の回りにはなぜ伊集院さんがここにいるのかとか一つ一つの事って考えていくと全てを解明はしきれない。
例えば私たちが若い人がだんだん年を取っていくとか美しさが損なわれていくとかそういう…「空」は悟りそのものですねやっぱり。
そうです。
さあでは「般若心経」に戻りましょう。
「色即是空」の次は「空即是色」とあるんですね。
これ対句になっています。
今度はこの空即是色の世界を見ていきたいと思います。
(男性1)「空即是色」って「色即是空」の反対ですよね?
(男性2)コーヒーに溶けていくミルクは次々と形を変え褐色の液体の中に白い繊細な模様を描いていきます。
その変化する様が美しいからつい私はカップの中をじっとのぞき込む癖があるのです。
(シャッター音)
(男性3)それ何の話?「般若心経」の言葉の意味をこちらの方に。
俺も一度サラリーマン時代に読んだ事ある。
おかげで会社を辞めてこいつを始めた。
そうですか。
あの…私も辞めたんです会社。
今日。
「この世は全て『空』だ」って言われたら吹っ切れるよね。
この窓から見える景色も常に変わってるから美しいんだよね。
その中で心奪われる瞬間に何度出会えるか。
移ろいゆく世界。
その刹那に心を奪われてシャッターを切る。
それが写真。
だから面白くて写真を始めた。
これって空即是色だよね?
(男性2)おっしゃるとおりです。
ところであんたはこれからどうするの?まだ何も…。
「何も」って最高じゃん。
今のVTRに写真を撮るという話がありましたけれどもこれは連続して流れるこの時間の流れを…表せない全体の何かあるものを切り取って人に示したい自分で見てみたいそれが芸術になります。
こう考えてみますと人が何かをつくる創造するという働きの裏には必ず何か分からない大きな後ろにある空なるものを切り取って自分の手の中に収めたいという思いがいつもあるように思いますね。
そう思うと…例えば引力というものを人間が知らない時も引力によって人間は立ってるじゃないですか。
今日も立ってる。
でリンゴは落ちるじゃないですか。
ある日ニュートンが「これ引力だ」って発見して「空」の一部を切り取るじゃないですか。
でもまだ絶大なる「空」はいっぱいあるんですけど。
そうすると万有引力というのは少し前まで「空」だったわけで万有引力があるから立ってられるという事は空即是色という事?そういう事になりますね。
そうやって考えると何か一つ一つの事がちょっとワクワクするのは分かります。
何か不思議に感じた「あれ?俺今立ってる。
物が落っこちる。
これ何だろう」っていう。
「空があるぞ」という感じがちょっと一つワクワクにつながる。
私たちがこの世界の事に関して何か新しいものを見つけた時のその驚き喜びというのは結局は「空」の世界にちょっと触れた時のその喜び衝撃だろうと思うんですね。
それが我々の発見の喜びあるいはものを作る喜びのエネルギー源原動力になってるんだと思うんです。
伊集院さんもおっしゃったようにそういう感覚で見れば何気ない日常の一つ一つの動きとか何か現象ももっと生き生きと見えてくるというか。
毎日を生きていく自分のその一瞬一瞬に意義を見いだす。
なぜ私はここにいるのかという事の意味をいつも考えるというその立場では…道端に落っこってる石ころもこれにも何か「空」は関わってるという事を知ってると何か大事なものにちょっと思えたりとか。
オープニングで「澄んだ目」と言いましたけれどもそうなりますよ実際。
なるほど!ほんとものを見る見方が変わりますよね。
一つのものから無限の広がりを感じられるようになるような気がしますよね。
先生この「般若心経」の中では今空即是色まで来ましたけどこのあとどういうふうに続いていくんですか?用意してますのでご紹介しましょう。
ちょっと読んでみましょうか。
今私たちはこの空即是色まで来ましたね。
次はここという事ですね。
これは覚えておられますか?「受想行識」は前回言いました五蘊の残り4つですね。
心の中の。
「般若心経」では色即是空がすごく有名なので物質が「空」だとそればかり皆さんお考えの場合が多いんですがそうじゃなくて物質とそれから心の中のもの全てが「空」だと言ってますから結局は私という存在は「空」だと言ってるわけですね。
心の中のさまざまな要素も同じように「空」なんですよって言われる事で私たちにとってはどういういい事があるというか。
だから今私が思ってるこの心は今のこの時だけの心です。
例えば苦しんでいる心があると。
しかしその苦しみがいつまでも続く…ですから苦しんでいる人にとってはこれはものすごく意味のある効き目のあるお薬になりますね。
先ほどの先生の話を聞けば例えばパートナーとか恋人との永遠の愛が続くと思っていても実際は相手の気持ちが冷めていってしまったりしてすごく悲しくなったりするわけじゃないですか。
その状態が永遠に続くとも限らない。
全て「空」の法則の下に移ろってゆくって思えれば…。
悲しい方の例え来ましたね。
俺逆だなと思った。
例えば会社で毎日毎日嫌な事がある。
それを「空」があるんだからずっと続くはずがないと思うのとその中のちっちゃい変化を「空」があるから何か変わってるはずだぞと思うとちっちゃい変化が見られたりとかあんな嫌だった上司なんだけど意外に今日いい事あったんじゃないのみたいなのは「空」の存在を頭に留めておくと発見できたりするかしらって珍しく前向きな事言ってみましたけど。
確かにでも失恋したあととかでもう世の中にね希望も何もないと思っていてもふとまたいい人が現れるかもしれないわけですよね。
そう思ってると見れたりとかするからね。
いいところに気付いたりとかね。
それが僕らのレベルでの「空」のまず使い方かしらね。
そうですね日常ね。
ところで先生この1行目に書いてある「舎利子」っていうのは何の事なんでしょうか?これはね人の名前です。
インド人の名前で本名はシャーリプトラというんですがねお釈様の本当に実在したお弟子さんで。
実在の人物なんですか。
一番弟子です。
一番頭の良い「智慧第一」と呼ばれた人ですね。
時にはお釈様の代わりにお説教をしたというぐらい立派な人なんです。
これは呼びかけの言葉です。
「舎利子よ」。
誰が呼びかけてるかというと観音様です。
どんなふうにこの「般若心経」が語られたのでしょうか。
前回の復習もかねてこちらをご覧下さい。
ある時お釈様は仏道を学ぶたくさんの修行者たちと共に山に登りました。
皆が説法が始まるのを待っているとお釈様は突然「広く深い悟り」瞑想に入られました。
山は静まり返りお釈様の瞑想の波動が伝わってきます。
この時舎利子という一番弟子がお釈様が瞑想していたため観音様にこう質問しました。
「観音様もし立派な若者が『般若波羅蜜多』と呼ばれる瞑想を実践したい時はどうしたらよいのでしょうか?」。
観音様はこう答えました。
「私観自在菩薩は人間を作っている五蘊という5つの集まりが実は『空』だと悟りあらゆる苦難から逃れたのです」。
こうして観音様が語った言葉が「般若心経」となりお釈様も目をあけ「そのとおりだ」と答えたのです。
それを聞き修行者たちみんなが悟りの喜びを分かち合ったといいます。
これどうしてお釈様が直接舎利子に何か説法をするような内容じゃないんですか?お釈様がお説きになった教えというのは出家をして修行をするというそのお弟子さんたちに対するお話ですよね。
しかしそうではなくて今ここで語っているのは一般の人たちにも分かりやすく話をしたいというそういうシチュエーションですからお釈様ではなくて観音様つまり皆を代表する菩薩ですね。
この人がお話をするという設定になっています。
続けて舎利子に別の言葉も語っておられますのでちょっとご紹介いたしましょうか。
今度はどういう意味なんでしょうか?これもこの「法」という字がありますがこれはこの世の全ての存在という事です。
この世を作っている全ての存在要素は「空」であると。
「空」という特徴を持っているものであると。
従ってそれは「空」だから生まれる事もないし消えていく事もない。
それが汚れる事もないし清らかになる事もない。
全てがこの「不」で否定されていますから移り変わるのかといえば移り変わるわけでもない。
じゃあ移り変わらないのかというとでも移り変わるところがあるというふうに一方的に物事を決めてかかる事はできませんよと言ってるんです。
例えばその本人が死んでしまうあと数分で死んでしまうという時にはこれをどう受け止めればいいんですか?自分は死ぬわけですよね。
滅するわけですよね。
その時に私がどうなるかといったらそれは要素の集まりですから雲散霧消します。
私というものが存在していた事の影響力存在はそのまま全ての要素の中に受け継がれて残っていく。
例えば子供を育てればその子供に自分の親としての影響力が残っていく。
大げさに言うと皆が全てがつながっていくから永遠の命みたいな気持ちになってきますね。
それは「空」という考え方があれば当然そうなりますよね。
そうですよね全ての存在が「空」なわけだから。
それであなたの肉体と呼ばれてるものが滅びようとも別に全て「空」なんだから。
「空」の中で何か変化しようとそれはもうあなたの知らないところでちゃんと変化してますから大丈夫ですよという事ですよね。
これって面白いのはこの「空」って日本人の我々が今こんな感じで解釈しようとしてますけど割とどこの人でも何か当てはめて理解できそうですね。
そうです。
「般若心経」は短いでしょう?短いからこそどんな人でもその人に応じたものの考え方ができるんです。
日本だけではなくて世界のいろんな国々でこの「般若心経」は非常に愛好されてます。
それはそれだけの理由があるからなんですね。
ここまでは非常に優しくて良い気持ちになる言葉です。
ゆったりとした感じの気持ちに今我々なってるんですけども。
もちろんとても良いお経ですよ。
役には立つんですが言ってる事はだんだん先鋭的になっていきますね。
楽しみですね。
佐々木先生今日はありがとうございました。
2014/09/17(水) 12:25〜12:50
NHKEテレ1大阪
100分de名著 般若心経 第2回「世界は“空”である」[解][字]
般若心経は私たちは「空」のもとで生きているとした。そして人間がどのような心構えで人生をおくるべきなのかを語っている。第2回では「空」とは何か、その基本を学ぶ。
詳細情報
番組内容
世の中は、複雑な要因が絡み合いながら常に移り変わっている。そして世の中の変化のすべてを、人間が完全に予測することはできない。古代インドの仏教徒は、この不確かな世の中をどう捉えるべきか、さまざまな考察を巡らせた。その中から生まれてきたのが「空」の思想だ。般若心経は、私たちは「空」のもとで生きているとした。そして人間が、どのような心構えで人生を送るべきなのかを語っている。第2回は「空」とは何かに迫る。
出演者
【ゲスト】花園大学教授…佐々木閑,【司会】伊集院光,島津有理子,【語り】小野卓司
ジャンル :
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