サイエンスZERO「ついに出た!?夢の“量子コンピューター”」 2014.10.04

日本が世界に誇る…1秒間に1京回の計算ができるという世界でも有数のコンピューターです。
しかしこの京でも苦手とする問題があるのをご存じですか?その一つが巡回セールスマン問題。
セールスマンが都市から都市へと巡回するための最短経路を探す問題です。
例えば30都市巡る場合経路を全て単純に計算すると京を使っても1,000万年以上かかる事になるんです。
ほかにもスケジュール管理や顔認証など現代のコンピューターが苦手とする最適化問題は身近にあふれています。
ところが最近こうした問題を一瞬で解ける可能性があるという驚異のマシン量子コンピューターが登場!量子力学の不思議な性質を利用して計算する装置です。
NASAとGoogleはたまたロッキード・マーチンといった大企業が推定およそ10億円もの金額で購入したと報道され注目を集めています。
実はこの量子コンピューターの開発には日本の研究が欠かせなかったんです。
製品化された世界初の量子コンピューターを「ZERO」がまるっと解剖します。

(テーマ曲)今日は江崎アナウンサーに代わって私出田といつものお二人でお送りします。
(一同)よろしくお願いします。
さて今日のテーマは「量子コンピューター」という事で僕の得意分野なんで…。
いや〜楽しみです。
頑張ります。
でもあのスーパーコンピューター京でも解くのが難しい問題があるんですね。
これは結局膨大な組み合わせがあってその中から一番いい組み合わせを探す。
これね最適化問題というんですよ。
有名どこでは巡回セールスマン問題というのがあります。
これはその名のとおりセールスマンが会社から出発してお客さんがいる町を全部回るんですね。
ただどう回ってもいい訳じゃなくて一番効率のよいつまり最短経路を探せっていう問題なんですよ。
そんな難しそうでもないんじゃ…。
…なんですが可能な経路を全部計算してみると都市が30ある場合10の30乗通りあるんですよ。
こんなにあるんですか。
ゼロが30個。
いちいち全部の経路の長さを計算するんですよ。
その中で一番短いのを探す訳で今のスーパーコンピューターで計算しようと思っても1,000万年以上かかるんですよ。
それは大変ですね。
それを一瞬で解いてしまう可能性があるといわれているのが量子コンピューターなんですね。
一瞬で解けるってどういう事でしょうね。
そこには量子の不思議な力が関係してくるんですよ。
量子の不思議な力ですか?何ですかね。
それはこの番組を30分ご覧頂くとばっちり分かりますから。
あっ本当ですか。
まずはその量子コンピューターがどんなものなのか見ていきましょう。
カナダ・バンクーバーの郊外にひっそりとたたずむ建物。
ここが世界で初めて量子コンピューターを製品化したベンチャー企業です。
中に入ると…。
高さ3mほどの黒い箱これが量子コンピューターです。
京のずらりと並んだ装置とは随分違いますねえ。
中はどうなっているんでしょう。
なんと…実はまだ製作中。
でも完成してもこんなにがらんどうなんです。
ここが心臓部。
小さな基板が1つあるだけです。
この中の回路が量子力学の原理で働き高速計算を実現しているのだそうです。
見た目も中身も従来のコンピューターとは全く違う量子コンピューター。
一体どこが優れているのか。
このコンピューターの性能を調べているダニエル・リダーさんに聞いてみました。
出ました量子ビット!今日のキーワードです。
ちょっと初めて聞いたんですけど。
ちょっと難解なので順を追って説明しましょうか。
まずは量子ビットの前にビットです。
普通のコンピューターがデジタルというのは知ってますよね?はい。
これはつまり…例えば箱が1個あると考えて下さい。
箱の中に0が入るか1が入るか2通りの可能性がある。
この情報量の事を1ビットっていうんですよ。
0が入っちゃったらもう1は入りませんし1が入ったら0は入らない。
どちらかっていう事なんですが。
今日のキーワードの量子ビット。
なんとですねこの箱の中に0と1が同時に入っちゃうんです。
うわ〜同時に入りましたね。
重なってるでしょ?この状態というのは…これを重ね合わせというんですよ。
うわ〜。
では量子ビットが2つになるとどうでしょうか。
これは00011011の4つの状態の重ね合わせになります。
一方普通のビットはこの4つのうちの1つしか表せません。
量子ビットが10個に増えると…。
1024の状態を重ね合わせで同時に表す事ができます。
数が増えれば増えるほど量子ビットはパワーを発揮するのです。
何だかすごいですね。
でも実際にそんな重ね合わせなんてできるんですか?できちゃうのが量子の不思議なとこなんですね。
まず量子とは何なのか説明したいんですが…これ今かなりはしょって説明したんですがまあとにかく量子というのはすごくちっちゃいものでそれで不思議な性質がそこに現れてくるんだっていう事だけ理解してみて下さい。
何かワクワクしてきました。
でしょう?ではまずその量子の世界の不思議さを体感してもらいましょう。
ここにあるのは普通のこまです。
これを回します。
えいっ。
どっちに回ってますか?時計回りです。
ですね。
ところがここで量子の世界に変わります。
お〜。
ほら変わりましたよ。
この量子の世界では不思議な事がいっぱい起きるんですよ。
いいですか?はい。
もう一度このこまを回しますがこれはもう量子のこまですよ。
これを隠します。
そして回します。
えいっ!さあどっちに回ってるでしょう?これ開けなきゃ分かんないですよ。
でパッと。
これは時計回りですね。
ですね。
じゃあもう一度手をかぶせましょうか。
今度はどっちですか?いやさっき時計回りだったんで時計回りです。
いやいやこれはですね量子の世界なんですよ。
常識は通じませんよ。
えっ?さあどうですか?あれ?反時計回りになってますね。
なるほど。
へえ〜。
不思議でしたけど実際にこんな重ね合わせができるんですかね。
どうやって量子ビットを作るのか。
これが量子コンピューターの基板。
量子ビットはここに入っています。
この細長いものが0と1の重ね合わせになる量子ビット1つです。
縦長に4つ。
横長に4つ。
合計8つの量子ビット。
実はこれ超電導の回路で出来ています。
これを働かせるには電気刺激を与えます。
回路は超電導なので電子が流れ続けます。
電子が時計回りに流れると回路の真ん中に上向きの磁場磁束量子が出来ます。
電子が反時計回りの場合は下向きの磁束量子が生まれます。
この磁束量子の向きが量子ビットに対応。
上向きなら0下向きは1とします。
そして重ね合わせにするには…。
横向きの磁場を与えるのです。
すると磁束量子は横を向きます。
磁場をやめると横向きの磁束量子は0か1になります。
つまり横磁場で重ね合わせの状態を作っているのです。
先ほどの量子のこまにふたをしたのと同じ状態です。
ふ〜ん。
でも何のために重ね合わせをするんでしょうか。
これは図を使って説明しましょうか。
最適化問題というのはこんなグラフで表す事ができるんですね。
これは山と谷があります。
縦軸っていうのがエネルギーとかコストを表します。
そして横軸が巡回セールスマンの問題だとたくさんの経路を表すんですね。
という事は一番低い谷これが一番効率のいい経路って事です。
ところがですねこれ探していくうちにどっかの谷にはまっちゃう事があるんですよ。
で一旦これを…あっなるほど。
実はこの理論を一番最初に考えたのは日本の研究者なんですよ。
あっ日本の方なんですか。
はい。
その考案者ご紹介しましょう。
東京工業大学の西森秀稔さんです。
西森さんがあの理論を考えられたんですか?そうなんです。
今から15年ぐらい前私の研究室の大学院生と一緒に考えた理論がこのコンピューターの基礎になっています。
それは一体どんなものなんでしょうか?量子アニーリングという理論なんですが。
私の研究は統計力学という分野なんですがいろんなものがたくさん集まって力を及ぼし合う時全体としてどういう性質を持つかという事を調べる学問なんです。
その中から出てきた力を及ぼし合ってエネルギーの低い状態を見つけると。
そういう発想からこの量子アニーリングという事を思いつきました。
へえ〜。
量子アニーリング。
アニーリングって何でしょうね。
これはですね金属の焼きなましという意味なんです。
それがどんなものなのか見てみましょう。
長年金属の結晶構造を可視化する研究を行ってきた坂公恭さんです。
これは…これで実際に焼きなましを見せてもらいました。
超高圧電子顕微鏡にセット。
どんなふうに見えるかと言うと…。
ここが金属の結晶。
細いヒビのように見えるのが転位と呼ばれる焼きなましの対象です。
本来金属の原子は整然と並んでいます。
加工のために力を加えると原子の結合がずれて空白が生まれます。
これがヒビのように見えていた転位です。
原子の並びが乱れてひずみエネルギーが高く不安定になっています。
これに熱を加えて安定した状態に戻すのが焼きなましなんです。
転位のたまった金属の結晶を見ると転位が重なって黒い影のように見えます。
これに熱を加えると…。
右上からだんだん白くなっていきます。
転位が解消されて元の安定した結晶に戻っているのです。
そういう処理の事を熱処理というんですけどね…確かに焼きなましをしたら転位がなくなってましたね。
結局この宇宙のあらゆるものというのはエネルギーの高い状態から低い状態に行きたがるんですよ。
つまり安定を求めるんですね。
そういう事です。
この量子トンネル効果っていうのも量子が持ってる不思議な性質の一つなんですよ。
へえ〜。
では実際にこの理論を使ってどうやって問題を解くんでしょうか。
ご覧頂きましょう。
量子コンピューターを使って最適化問題を解いてもらいました。
このパソコンはネットワークで量子コンピューターとつながっています。
研究者が用意したのはカナダの13ある州と準州を4色で塗り分ける問題です。
隣り合う地域が同じ色にならない色の組み合わせを見つけてもらう最適化問題です。
スイッチを押すと…。
はい計算終了!こんな答えが一瞬で出てきました。
量子コンピューターが答えを出すためには右側の図が重要です。
このたくさんある点が量子コンピューターの中の量子ビットを表しています。
詳しく見ると…。
この部分には量子ビットが8つありそれぞれがつながっています。
量子ビットを0と1の重ね合わせの状態にします。
問題を設定していない時は重ね合わせから解放すると全てが同じ値になります。
これがエネルギー的に安定だからです。
問題を解く時はまず「この2つの量子ビットが別の値をとる」などといったビット間の関係性を条件として設定します。
そして重ね合わせから解放するとその条件の中で最も安定な値になります。
それが答えです。
例えばカナダの13の地域を塗り分ける場合一つの地域を8つの量子ビットで表します。
そしてこの量子ビットが11になれば青ここが11なら緑というように対応させます。
ユーコンにあたるのがこの8つのビット。
その南にあるブリティッシュコロンビアは隣り合う州が多いのでこの16個のビットを割り当てます。
次にビットの関係性の設定です。
同じ色を示す量子ビットは同じ値をとるようにつなぎます。
青い線の部分です。
ブリティッシュコロンビアも同じです。
そして隣り合った地域は同じ色にならないようにこの量子ビットの間をつなぎます。
実際の操作はもう少し複雑ですがこのような関係性を全ての地域に対応した量子ビットに設定します。
するとその関係性をつけた中で最もエネルギー的に安定な量子ビットの状態が一瞬で答えとして出てくるのです。
ユーコンを見るとこの2つの量子ビットが1だから黄色。
ブリティッシュコロンビアはこの4つが1なので青色に塗られているんです。
へえ〜。
何か計算っぽくないというか数字があんまり出てこないですよね。
ある条件の中で0と1の割り当て方それが一番エネルギーが低くなるような実験をやってるみたいな感じですよね。
地図の色分けのやり方は分かったんですけど巡回セールスマンの問題はどうなるんでしょうか。
巡回セールスマンの問題はもう少し複雑で…こちらでご説明頂きましょう。
(西森)両端に1と0の量子ビットがあります。
これが真ん中を通じて回路でつながってるんですが例えば両方100の値。
しかし片方は逆になった方がエネルギーが低いようにもう一方は同じになった方がエネルギーが低い方ように設定しておきます。
そうすると真ん中は0になるという事は見て分かりますね。
このカナダの会社のコンピューターは例えば40で左側同じに70で右側同じに。
こういう事もできる訳です。
奈央さんこの場合はどうなると思いますか?70の方が強いから0になっちゃうんじゃないかな。
でも1の希望はかないませんよね。
そうなんですね。
どっちかを立てればどっちかが立たない。
けどまあ…という事は近い都市間の移動に高い得点を与えると近い所を優先して回ってくれると。
そのように設定できるって事ですよね。
普通のコンピューターより速いんですか?まだそれほど変わらないぐらいの速さなんですが大きな問題が解けるような仕組みになるとものすごく速く解ける可能性が出てくるといわれています。
それがうまくいくと非常に難しい問題今のスーパーコンピューターで解けない問題もできるようになる可能性があるという事はいわれています。
西森さんが最初にこの理論を考えられた時は量子コンピューターに応用されるなんて考えました?私はそういう事は実は全然考えてなかったんですね。
量子力学っていうのはものすごく小さな世界で働く現象ですのでそれをうまく操作して思うような方向へ持っていくその操作のしかたがものすごく難しいからそんな事はまずできないだろうというふうに思った。
非常に困難だと思われていた量子を操る技術をどうやって実現したのか。
創設者の一人ジョーディー・ローズさんに実現のカギについて聞きました。
なんと…その研究を行ったのがこの人。
理化学研究所の蔡兆申さんです。
台湾出身の蔡さんは長年日本で超電導量子ビットの研究をしてきました。
7年前蔡さんは2つの超電導量子ビットを結びつけて安定して操る事に成功したんです。
これが蔡さんたちが作ったチップ。
この2つがそれぞれ1量子ビット。
真ん中にあるのは左右を結びつけるための超電導回路です。
蔡さんたちのチップでは真ん中の回路にマイクロ波を当てます。
すると左右の量子ビットが同時に逆を向きます。
量子ビットの間に入れた超電導回路が2つの量子ビットを結びつけているのです。
実はカナダの量子コンピューターは蔡さんが成功させた超電導回路で量子ビットをつなぐという方法を応用しています。
超電導回路の役割は片方の量子ビットが反転した時にもう片方に伝える事です。
超電導回路でこの伝わりやすさを変化させる事で量子ビット同士の関係性を自由に設定できるようにしたのです。
へえ〜日本の研究がかなりカギを握ってたんですね。
という事は蔡さんの方が先に量子コンピューターを完成させられた可能性もあったって事ですか?ところが量子コンピューターの研究というのは…僕なんかはこの万能ゲート方式ばっかり追ってて量子アニーリング方式が来るとは思ってなかったんですよ。
なるほど。
その万能ゲート方式っていうのはまだできそうにないんですか?量子アニーリングはエネルギーの低い所つまり安定な所を目指すという考え方ですのでいわば安定で壊れにくい。
カナダが結構いいところに目をつけたんですね。
実際には量子が働いていないんじゃないかっていう議論もあったみたいですけど。
どうしても量子力学でないと説明できないようなデータがたくさん出てきてまず間違いなく量子力学は使ってるんだろうという事に今なりかけています。
へえ〜。
この量子コンピューターに関して今年の9月Googleの研究者がこんな発表を公式ブログでしました。
Googleが独自に量子コンピューターの製作に乗り出すというものなんです。
直接作っちゃうって訳ですか?そうなんです。
作れるんですか?Googleの人たちは自分たちであの機械を買ったもんですからここ1年ぐらい随分いろんな研究をしてて…それと……と彼らは考えてるようです。
そういう動きが今始まったばかりです。
そうなると巡回セールスマンのような問題も解けちゃうかもしれないんですね。
かもしれないです。
非常にワクワクしてます。
西森さん今日はありがとうございました。
ありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに。
2014/10/04(土) 12:30〜13:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「ついに出た!?夢の“量子コンピューター”」[字][再]

カナダのベンチャー企業が「量子コンピューター」を販売した。日本で開発された技術が核になっているという。どのような原理で動くものなのか、徹底的に解剖する。

詳細情報
番組内容
量子力学の原理を使って超高速に計算する「量子コンピューター」。量子を自由に扱うのは技術的に難しく、実現には時間がかかると考えられていた。しかし最近、カナダのベンチャー企業が「量子コンピューター」をアメリカの巨大企業に販売したことで、話題になっている。しかも、核となる技術は日本の研究者が開発していた。番組では、今回販売された「量子コンピューター」はどのような原理で動くものなのか、徹底的に解剖する。
出演者
【ゲスト】東京工業大学理学部長…西森秀稔,【司会】南沢奈央,竹内薫,【キャスター】出田奈々,【語り】中山準之助

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境

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