小さな旅「心つなぐ彩り〜福島県 南相馬市〜」 2014.10.04

(テーマ音楽)
(祭り囃子)
9月上旬福島県南相馬市鹿島地区にある神社です
(祭り囃子)
稲刈りを間近に控え土の恵みに感謝をささげる祭りおよそ300年続いています
(祭り囃子)
この地区ではほとんどの農家が稲の収穫をしない4回目の秋を迎えようとしています
東京電力福島第一原子力発電所から北に30km余り
豊かな田園風景が広がっていた南相馬市鹿島地区です。
3年半前東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けました
更に原発事故が追い打ちをかけ一時は全ての作物が出荷停止となりました
あぜ道を歩くと黄金色に輝く稲穂を見つけました
鹿島地区は除染が進み放射線量が下がったため今年から稲作を再開できるようになっています
しかし風評被害などで出荷の見通しが立たないため作付けされた面積は全体の僅か2%にとどまっています
お仕事してる方がいる。
田畑にほとんど人影が見えない中農作業をしている人がいました
こんにちは。
(森)は〜いこんにちは。
収穫ですか?ええ。
収穫しながら草むしりとか。
随分立派なナスですね。
ニョキニョキなったんですよ。
長年米を栽培するかたわら無農薬で野菜も育ててきました
去年から再開した畑に植えられているのはナスオクラキュウリにトマト
放射線量が基準値を大きく下回る野菜から栽培を始めています

南相馬市には農村地帯ならではの魅力を生かした宿があります
農家が取れたての野菜やこだわりの米でお客さんをもてなす農家民宿。
森さんも9年前に始めました
豊かな土が生み出す味に惹かれ毎年都会からの家族連れなどでにぎわっていました
野菜食べなかった子供が「えっ野菜食べるの?」ってお母さんがびっくりして。
「今日どうしたの?御飯3杯もお代わりして大丈夫?」なんてお母さんびっくりするんだ。
「だっておいしいんだもん」なんて言われれば子供はねそんな我慢してとかね気を遣って言うふうじゃないよね。
じゃ素直かと。
だからほんとにおいしいのかなって…。
しかし津波と原発事故の影響で13軒あった農家民宿のうち6軒が休業を余儀なくされました
森さんの民宿では復興に関わる作業員やボランティアを受け入れる事で営業を続けてきました
去年から野菜は自分の畑のものを出せるようになりました。
しかし米は今も買ってきたものを使っています
ただいま。
(森)は〜い。
は〜いおかえりなさい。
お疲れさまでした。
この日のお客さんは神戸から来たボランティアの男性でした
夕食には取れたての野菜が並びます
「秋なすの田楽」。
みそも自家製です。
エゴマで季節の野菜をあえる郷土料理「じゅうねんあえ」。
森さん自慢の田舎料理です。
お客さんの垣本さんが森さんの民宿に初めて泊まったのは畑を再開する前の事でした
「農家民宿なのに自分のとこの野菜じゃなくてごめんね」っていうとこで出てきとったんですけど。
「うちで作った野菜ですけど放射線はありませんよ」と出すの。
普通は「これおいしいですよ」なんだけどね。
皆さんも放射能を気にしながらも来てるんでしょうと思うから。
でも不安になりながら食べるよりはね「出ていませんよ」とかって言った方がいいかなと。
胸を張って野菜を出せない悔しさ。
それでも一歩一歩前へ
辛抱強くやってじわじわと進んでいかなければという事なんですかね。
だから私たちも皆さん避難してるのに自分たちだけ農家民宿やってお客さんを受け入れて商売していいものかとかってね考えたんだよ一瞬ね。
でもこのまま自分たちやめると農家民宿がもうなくなっちゃう。
「自分たちは今何をできるか」って言った時「このままつなげてやればいつかみんな戻った時またみんなでできるんじゃないか」と言って。
森さんが毎日のように通う場所があります
小倉さんいる?
(小倉)いるよ〜。
こんにちは〜こんにちは。
(小倉)あ〜。
トウガン。
あらら何これ?何これ?これ藍だよ藍。
はたき?うん。
近所の農家民宿です
この民宿を営む…
田舎暮らしに憧れ10年前ここに移り住みました
森さんに野菜作りを教わった小倉さん。
誘われて農家民宿も始めました
ここの人たちはほんとあったかいの。
だからよく気にしてくれて「小倉さんいる?」とかね。
野菜とかもうちの畑にない野菜はもう届いてたという感じ。
だから助けてもらったんですよね。
原発事故のあとも農家民宿を営んできた森さんと小倉さんですが不安な日々が続いていました
そんな時出会ったのが藍染めでした
楽しいね。
巻いてくれる?巻くよ。
いいね。
どう?いいね〜。
去年8月ボランティアの勧めで藍染めを体験した森さん。
その美しさに心を惹かれます
どう?
(小倉)きれい。
染めるのに使う藍も田んぼや畑で簡単に栽培できると聞き小倉さんと藍染めのサークルを始めたのです
森さんと2人で30km圏外は何にも変わらないのに何にもないよねって言って。
だから集まる場所がほしいねって話して。
慰めにもなるのかなとか。
私ももらって頂いたらうれしいなとかそんな感じになるかな。
草ボーボーだとどうしても土が痩せちゃうからそれを藍とか何か作物作ってれば少しは元気がつながるかなと思って藍がいいかな。
またその藍もみんなの喜びになればね楽しみになればいいかな。
9月上旬藍染めサークルのメンバーが集まっていたのは森さんの田んぼです
かつて黄金色に稲穂が実っていた田んぼに藍が育っていました
まず藍の葉を摘み取ります
花を咲かせる養分を蓄えたこの時期が最も鮮やかな色を出すといいます
摘み取った葉をもむとみるみる緑色の汁が出てきました
軍手も入れたの?入れるの?
白い手拭いやTシャツなどをつけ染めていきます
(森)上絹物はやっぱりこうやりながらやった方がいいよ。
高級なのは手で一枚一枚広げてやった方がいいよ。
葉がどれほど多く養分を蓄えたかで色の濃さが変わります。
うまく栽培できたか。
現れる色を楽しみにしながら染め上がりを待ちます
メンバーの多くは農家の女性たち
田畑に出る機会がめっきり減った人ばかりです
鹿島地区の仮設住宅に暮らす…
原発に近く住む事ができない地域から避難しています
うまく染まれうまく染まれって上手にいい色に染まって下さいって考えてるだけ。
根本さんが住んでいたのは南相馬市小高地区。
福島第一原発から20km圏内にあり事故から1年は入る事すらできませんでした
日中の立ち入りは自由になりましたが今も元の自宅で暮らす事はできません
小高地区では除染が十分に進んでおらず作付けをしてもいつ出荷できるのか見通しは立っていません
ほとんどの農家が米を作らなくなる中で根本さんは震災2年目から夫の洸一さんと2人稲を育てています
放射性セシウムが基準値を下回れば自分たちの米を食べたいと避難先から毎日通います
実入りがいいなと思って。
しかし震災後初めて育てた稲はイノシシに荒らされ翌年はセシウムの値が高く全て廃棄しました
今年はもうやめよう。
そう考えた根本さんでしたが田植えの時期になると自然と足が田んぼに向かっていました
これやってないと病気になっちゃうからね。
やっぱり自分の体で覚えたものは続けていかないと精神っておかしくなるんですよね。
誰か一人やってたらきっとねやるようになると思うのよ。
だってこんないい稲見たらば作りたいと思うの。
(洸一)命はすごいわな。
いいわな。
(幸子)すごく素直な稲だもの。

仮設住宅での暮らしも3年が過ぎました。
ちょっとした事でケンカするようになっていたという2人ですがこの夏は藍染めの話題で話が弾みます
今は頭の中藍染めでいっぱい。
展望が開けたというか何と言うかな違う世界を見せられたっていう感じですごくうれしかった。
(洸一)うれしかったな。
ありがたいですよ。
ありがたかったね。
家族から地域から全て。
人生から…。
(幸子)この原発は家族壊したね。
ひどいねこれは。
でもどう取り戻すかな。
あんまり気張んねぇで自然体で。
疲れちゃうから。
(幸子)だから藍染めの事だけ考えて。
流せ流せと。
(幸子)見て見て。
きれいでしょ。
うわ〜これはいいな。
これいいな。
ねぇ上手。
日々の暮らしにささやかな癒やしを与え始めた藍の彩りです

藍染めサークルが活動を始めて1か月この日初めてそれぞれが考えた模様を染める事にしました
ゴムで縛ったり洗濯バサミで留めたりして模様を作ります
空気に触れると緑から青へ
(笑い声)
(小倉)これ私がやったの。
ビニールひもで。
はい森さんお願いします。
思い思いの模様が現れてきます
白が必要なんですよね。
ねっいいでしょ。
根本さんが染め上げたのは花火の柄のTシャツ。
小高地区で行われていた花火大会を思い浮かべて作りました
これなら農業楽しくなるんじゃないですか。
森さんが染めたのは農作業で使う手袋と靴下。
夫へのプレゼントです
そしてもう一つ
あ〜きれいじゃない。
ホタルだ〜。
ホタルだ!
かつて自分たちの田んぼを明るく照らしていたホタルでした
何か懐かしいね。
懐かしいね。
とてもいい。
ほんといいわ。
満足。
いつか米作りを再開しホタルが舞う風景を取り戻す。
森さんの思いです
毎年「来年来年」って思ってますけどそのために手入れをして耕したりね草を刈ったり皆さんそういうつもりでいるんじゃないですか?藍の畑もきちんと確保して田んぼもね荒らさないでもう何でも作ればいいんじゃないですか?農業だもん。
農家は。
土があれば何でも作れますよね。
暮らし彩る藍の葉。
明日へと心をつなぎます

(テーマ音楽)
(テーマ音楽)2014/10/04(土) 05:15〜05:40
NHK総合1・神戸
小さな旅「心つなぐ彩り〜福島県 南相馬市〜」[字]

福島県南相馬市鹿島地区。3年半前の原発事故で一変した街に、今、藍染めをする女性たちの笑い声が響き始めている。互いに支え合い、懸命に生きる女性たちを訪ねる。

詳細情報
番組内容
福島県南相馬市鹿島地区。米作りが盛んな農村地帯だったこの街は、農業体験と新鮮な農作物を楽しめる「農家民宿」が人気を集めていました。しかし、3年半前の原発事故で一変、今も街は、荒れ果てたままです。そこに響きはじめた女性たちの笑い声。農家民宿のおかみたちが、かつての田んぼで「藍」を育て、藍染めを始めました。仮設住宅に暮らす人や、移住者、農家。それぞれの思いを胸に、支え合い暮らす女性たちを訪ねます。
出演者
【語り】山田敦子

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

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サンプリングレート : 48kHz

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