いくつもの山々が折り重なる紀伊山地。
その奥深くにある熊野は古くから神が宿る聖地とされてきました。
その険しい山の合間を縫うように続くのが…「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録され7月7日で10周年を迎えました。
熊野古道とは全国各地から熊野三山と言われる「熊野本宮大社」「熊野那智大社」「熊野速玉大社」を目指す参詣道の総称。
紀伊半島の聖地をつなぐ巡礼の道です。
数ある参詣道の中伊勢神宮への参拝を終えた人々が熊野を目指したのが熊野古道「伊勢路」。
伊勢から熊野速玉大社まで全長170kmを結びます。
「蘇りの地」とも呼ばれる熊野。
千年の昔から多くの巡礼者が命の再生を願いこの道を歩きました。
祈りの道は深い悩みを抱えた人々の心を癒やしてきたのです。
そんな熊野古道伊勢路を旅するのは俳優の…ヒマラヤをはじめ国内外の山々を登ってきました。
ふだん登ったりするのはやっぱり3,000m級とかいわゆる岩山だったり森林限界越えちゃう場合が多いけど今回のは熊野古道伊勢路は700以上はないわけじゃない?熊野古道を愛する人々との出会い。
あっ!あった。
忘れられた幻の峠道。
歩く事で初めて出会えるさまざまな感動や魅力を伝えます。
お〜!これはすごいよ。
今回の熊野古道伊勢路は初めてで伊勢っていうと伊勢神宮とか鳥羽の方とかあっちの方が印象あるんですけど今回熊野古道伊勢路を歩けるという事でどんな発見とか…熊野古道伊勢路では16の峠と3つの霊場などが世界遺産に登録されています。
その一つツヅラト峠を目指します。
何であれくねくねしてんだ?宍戸さんが見つけたこちらの石碑。
くねくねと曲がる峠道を表現しています。
伊勢路の中で世界遺産に登録された峠の証しです。
この石碑を越えれば世界遺産ツヅラト峠が始まります。
これはやっぱ雰囲気ありますよね。
この林の中っていうのは…よいしょ。
あら?これ…「ツヅラト峠」。
これ道しるべになってるのかね。
伊勢路の峠では今どこにいるか迷わないよう100mごとにこの道しるべが設置されています。
急な曲がり角が続くつづら折りの連続。
この道の形状から「ツヅラト」という名前が付けられたそうです。
シダが洗濯物を干してるみたいな感じ。
ほら。
上から見るとバッテン印がいっぱいっていう。
緑のバッテン印みたいな。
きれいだね。
登り口から歩く事30分峠の頂上へとやって来ました。
やっと…。
お〜!開けてますよほら。
海まで見えるよあそこ。
いや〜これはすごいよ。
伊勢から歩いてきた旅人が初めて目にする…古くからこの海の先に極楽浄土があると信じられてきました。
巡礼者は聖地・熊野の海に向かいここで手を合わせたと言われています。
昔この道を歩いた人はこうやって祈りをささげてたんでしょうかね。
こういう広い光景を見るとね。
行きはよいよい下りはあれだね。
こんなに険しいとは。
あツヅラト広場だ。
確かに広いな。
こんにちは!お疲れさまで〜す。
峠麓の広場に待っていたのは近くに住む…バスツアーやイベントのため人がたくさん訪れる時は無料でお茶やアオサ汁の振る舞いを行っているそうです。
宍戸さんも一杯頂く事に。
あ〜うまい。
暑い時期にこの温かいもので体をリフレッシュするというのもいいですね。
何でまた無料で…。
もてなす事が文化なんですね。
昔から伊勢路周辺に住む人たちは遠路はるばるこの地までやって来た巡礼者を地域全体でもてなしてきました。
今もなお古道沿いにはそんな心優しい文化が残っています。
伊勢路は急峻な山道を歩く祈りの道。
1つの峠を越える度1つ心が軽くなると信じられてきました。
いくつもの峠を越えて歩くその厳しさを人々はこんな言葉で表現しました。
峠を越えても越えても続く熊野古道。
思わずこんな弱音を吐いてしまうほど苦しい道のりだったんですね。
伊勢路の中でも特に人々に恐れられてきた峠があります。
八鬼山峠です。
こちらの古文書八鬼山峠がページの欄外まではみ出しています。
古くからこの峠は西国一の難所と呼ばれていました。
宍戸さん6.3kmの八鬼山越えに挑戦!案内してくれるのは熊野古道の語り部を務める野田敦美さんです。
野田さん宍戸さんに是非見せたいものがあるそうです。
こっちの方の。
あっこれもお地蔵さん彫ってある。
これが…町石とはお地蔵さんの形をした道しるべ。
「町」とは距離を表す単位。
頂上の50町まで1町109メートルごとにお地蔵さんが置かれているそうです。
(野田)そうね。
真一文字に閉じられた口。
一体どんな意味があるというのでしょうか?野田さんはもうおいくつになられるんですか?
(野田)ハハッ!83です。
えっ!お若いですね元気にこんな歩いちゃって。
全然へっちゃらじゃないですか。
お〜結構来ましたね。
「難所・七曲がり
(上)」って書いてあります。
ここは…
(野田)数えてもいいですけど…。
280mにわたり急な勾配が続く七曲がり。
八鬼山峠の中でも最もつらいとされる坂道です。
(野田)自然と歩く事によって自分の体に自信みたいなものを…。
だけど単純に思うんですよね。
自分を反省したりも別に山登らなくても普通の平地にいても海にいてもできそうじゃないですか。
だけどこういう急で…。
試練になるわけですね。
はいここで七曲がり上がりました。
終わります。
するとそこにあったのは…。
あっここのお地蔵さんは顔がくっきりはっきり分かりやすい。
(野田)さっきの下の方と…ちょっと見て下さい。
何か気の付いた事ありますか?口がちっちゃいっていうか表情が違いますね。
なるほどね。
ジョーク的な事ですよね。
「ほら疲れただろ。
ハアハアいってるだろ。
べっ!」という事なんでしょうね。
やっぱりここ登って登ってきてもうえらいなと思ってうんと頑張って来た時にやっとここ来た時に…伊勢路の中で町石があるのは八鬼山峠だけ。
西国一の難所と呼ばれる峠だからこそ無事に乗り越えてもらいたいという先人たちの思いやりです。
そして…。
(野田)ここへ来るとまた3つあって…。
ああ指標が。
町石。
それでここへ来るともう…峠を登りきった巡礼者。
最後に待っていた50町のお地蔵さんの表情は…。
最後はね穏やかだけどよりお地蔵さんの顔が人間に近くなったような。
笑みの顔という感じで…峠を下る事3時間。
もう相当下りたんじゃないですか?そうですね。
あ〜!一日がかりでしたねでもね。
無事6.3kmの八鬼山峠を歩ききる事ができました。
このいわゆる八鬼山峠はどちらかというと…そういう思いにさせる道なんだなというのを感じたから…。
江戸後期数多くの巡礼者が伊勢神宮を訪れるお陰参りにやって来ました。
そのうち年間3万人もの巡礼者が熊野を目指したといいます。
列をなして歩くその様子を「蟻の熊野詣で」と例える事もありました。
世界遺産登録10周年を迎えた今も熊野はたくさんの人を惹き付けています。
去年は過去最高となる30万人以上が伊勢路を訪れました。
峠を登る時の相方といえばこちらのつえ。
多くの峠の登り口にはこうしたつえ置き場があり自由に持って歩く事ができます。
宍戸さんつえを手作りしている方を訪ねました。
あっ作ってらっしゃいますね。
こんにちは。
こんにちは。
いらっしゃい。
いや〜ご夫婦で。
尾鷲市に住む大川善士さんです。
妻のたつるさんと共に材料の調達から製作まで夫婦2人で行っています。
うそでしょ?ほんとですよ。
ボランティアで?はい。
おかあさんちょっとこれやらせてもらってもいいですかね。
どうぞどうぞ。
いいですか?
(善士)こすり下ろすような感じで。
そう。
(善士)ああそうかそうか宍戸錠ズ。
ジョークも飛び出す余裕ぶり。
宍戸さんここで一つ気になる事が。
ああなるほどね。
持ちやすいという事もあるしやはりね何ていうの…2人がこれまで手がけてきたつえの数は10年間で1,500本以上。
一本一本旅人の安全を祈願しながら作り続けてきました。
(善士)ここにつえを収めます。
ここですね。
自分たちの作ったつえが旅人の支えになる事。
それが大川さん夫婦の何よりの喜びだそうです。
中にはね記念品としてねうちまで行くか分からんな。
ああそうですね。
旅人の自宅までな。
そうなったらしめたもんやわな。
案内して頂いたのは大川さんたちにとってとても大切な場所。
三木峠です。
いや〜いい道ですねここもね。
(善士)気に入ってくれましたか?ええ。
(善士)ああうれしいなあ。
やはりねええ道やなええとこやなって言うてくれるとうれしいなあ。
これいい道ですね。
こけむした800mの峠道。
世界遺産に登録されている峠の一つですが僅か15年前までこの峠の存在を知る人は誰一人いませんでした。
このシダがねず〜っと連なっておったんですね。
それを家内と…「あったぞここに古道が」と。
そうです。
三木峠は明治29年以降歩く人が絶え100年間草木に覆われ荒れ果てていました。
この峠をもう一度掘り起こす事が町の宝になると15年前から夫婦2人で発掘作業を行ってきました。
資料もなく専門家もいない中手探りで道を探す日々。
2年がかりでやっと掘り起こす事ができたそうです。
かき分けて下を見るわけですね。
石を探すわけです。
だけどこのように…ああ幅的にね。
おかあさんもワクワクするんですか?「あそこにあったな〜」って…。
(たつる)そう。
宍戸さんいよいよ伊勢路最後の峠である松本峠へとやって来ました。
あっどうも三石さんでいらっしゃいますか。
この峠を案内してくれるのは三石学さん。
世界遺産登録の際ユネスコの諮問機関への説明を担当した熊野古道研究の第一人者です。
小雨の中700mにわたり石畳の道が続く松本峠を登ります。
何百年も崩れずに残っている石畳その秘密が分かる場所へと行ってみる事にしました。
(三石)宍戸さんここなんですよ。
すいませんちょっとこちらの方に来て頂いて…。
あ〜!あんなに石積み上げてたんですか。
(三石)そうなんですよ。
分かった。
流されないで残ってるコツっていうかね…大小さまざまな石が重なった…石の組み合わせ方を熟知した職人によって一つ一つ丁寧に積み上げられています。
石畳の隙間からうまく雨水を逃がすための工夫です。
すごい厚みですねえ。
(三石)一切これ手抜きがないんですよ。
中も全部石なんですよ。
ですから10年前に…
(三石)無傷だったんです。
そういう先人たちの知恵が本当に生かされてるって事ですよね。
(三石)だからこの石畳を歩くと非常に安心感があるというか非常に体になじむというのはやっぱり…不動ですよね。
峠を歩く事20分。
ちょっと行ってみましょうか。
ちょっと道が今足元悪いですけど。
せっかく登ったのに下りちゃうんですか?はい。
ちょっと下ります。
残念ですね。
三石さん宍戸さんに見せたい所があると脇道へと入っていきます。
宍戸さんここただの山道だと思われたでしょうけれどもちょっと石畳が見え隠れしてるでしょ。
これそうなんですか?そうなんですよ。
(三石)だからこれなんかも本当はもっともっと…。
もうちょっと掘れば…。
案内されたのはもう一つの道。
30年前まで松本峠には2つのルートがありました。
以前はこの道も峠道として利用されてきました。
しかし今も残る道の方が歩きやすいという理由から徐々に使われなくなりました。
このように荒れ果て人々から忘れられてしまったのです。
(三石)この先にあるんですよね。
行き倒れ?
(三石)ここで母親と息子が旅をしてたんですね。
巡礼の。
その時に…だいぶ下りちゃいましたね。
あっ!あった!随分立派なのを建てたんじゃないですか。
(三石)これ非常に立派でしょう?ええ。
今から240年前に建てられた供養碑です。
誰も通る事のなくなったこの道でひっそりとたたずんでいました。
ただ何かに救われたいと。
病気を治したいとかいろんな思いを持って…。
歩かれている方がいるという事ですね。
ここまで来て。
あの峠からの景色を見せたかったですけどね。
その気持ち心がこういう墓碑に…。
建てるんでしょうね。
あと少しだったのにという思いを表してるぐらいの大きさですね。
聖地・熊野を目指し救いを求めながら志半ばで力尽きた巡礼者。
人々は死者の思いを慰めようと石碑を建てるなど手厚く弔ったといいます。
ああ…。
何か当時の風が吹いてくるようなそんな雰囲気ですね。
(三石)どんな思いでここを旅したんでしょうねほんとに。
元の道に戻り先を目指します。
ちょっと行ってみましょうか。
行きます行きます。
その答えとは…?おお〜っ!いやぁ〜!目の前にはまっすぐ南へ延びる七里御浜が広がっていました。
(三石)七里御浜です。
七里の長さがある。
二十数kmありますのでね。
和歌山県の新宮までつながってるんですよ。
あっ僕の目的地まで?そうですね。
という事は…もう分かりました。
要するにツヅラト八鬼山松本ここいろいろ数多く峠を越えてきましたけど…リアス式海岸の地形に沿ってくねくねくねくね自分がどっち向いてんだか一瞬分からなくなるような。
あとお前の目的はまっすぐだぞと。
いわゆる最後の仕上げ段階っていうのかな。
それは実感できますよこの景色見たら。
(波の音)「日本の渚百選」にも選ばれている「七里御浜」。
玉砂利で出来たこの浜辺も浜街道という名前の付いた世界遺産熊野古道伊勢路の一部です。
かつて巡礼者もこの浜を歩き25km先の熊野速玉大社を目指しました。
神社の参道を思わせる玉砂利の音色。
巡礼者が抱えてきた悩みや苦しみを浄化してくれるようです。
(波の音)翌朝七里御浜はあいにくの雨もよう。
(波の音)いや〜この天気ですけどでも…ただ峠の道とは違ってここはもう海岸線。
玉砂利ですけど。
歩きやすくはないですよね足を取られるんで。
でも道はまっすぐなんで迷う事はないんで。
安心かなと。
しかしこんなに波が激しいのによく歩いたもんですよね。
うおっ!うわ〜っ!うわぁ〜!うわっ!あはははっ!うわ〜!やっぱり来たよ。
熊野灘の潮風に身も心も洗われながら熊野速玉大社を目指します。
おおっこれだ。
やった〜!鮮やかな朱塗りの社殿が建ち並ぶ…貴族や武士庶民と身分を問わず全ての願いを受け止めてきた祈りの聖地です。
祭っているのは…宍戸さんここまで無事に峠を越えてこられた感謝の気持ちをささげます。
長かった旅もついに終了かと思いきや…。
そんなにあるんですか?是非ともそちらもお参り頂ければと思います。
旅の最後に熊野信仰の原点神倉神社を訪ねてみる事に。
あっここですね。
うわっすげえ急!今まで越えてきた峠よりも全然急な石段ですけど。
熊野信仰が盛んになった鎌倉時代に造られた538段の石段です。
いやぁ最後の最後でこの538段はすんげえきついなこれ。
よいしょ。
上る事25分。
ああこれか。
おおっでっかい石がある。
頂上に鎮座するご神体…高さ20mを超える大きな岩です。
人々ははるか昔からこの巨岩を強い生命力の象徴としてあがめ信仰の対象としてきました。
熊野古道伊勢路制覇しました。
ありがとうございます。
(本坪鈴の音)感無量。
世界遺産熊野古道伊勢路。
1,000年もの間祈りと癒やしの道として人々を惹き付けてきました。
何ていうんだろう…すごい高い峠頂があるというんじゃないんだけどもやっぱりいくつもいくつも小さい峠があるわけですよ。
それが…いい事あり悲しい事ありうれしい事あり悔しい事ありっていう何ていうのかなアップダウンを繰り返しつつ…改めて今の自分っていうのをかいま見たというか。
または「再生していけよ」と言われたような気がしましたね。
今回の歩きでね。
歩む人がいて守る人がいる。
その事で道は道であり続けるのです。
2014/10/04(土) 03:10〜03:53
NHK総合1・神戸
金とく「熊野古道伊勢路をゆく〜体感!祈りと癒やしの道〜」[字]
今年世界遺産登録10年を迎える熊野古道。伊勢神宮から熊野を結ぶルート「伊勢路」を俳優の宍戸開が歩き、その魅力を体感する。
詳細情報
番組内容
今年世界遺産登録10年を迎える熊野古道。数あるルートの中、伊勢神宮への参拝を終えた人々が熊野を目指したのが「伊勢路」だ。170キロに及ぶ祈りの道は古くから巡礼者の心を癒やしてきた。そして今も道は、訪れる人をひきつけてやまない。迎え入れてくれる住民とのふれあいや、峠の頂上から見る自然の美しさなど、歩くことでしか得ることの出来ない様々な感動が伊勢路にはある。俳優の宍戸開が古道を歩き、魅力を体感する。
出演者
【旅人】宍戸開,【ナレーション】黒崎めぐみ
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 歴史・紀行
趣味/教育 – 旅・釣り・アウトドア
バラエティ – 旅バラエティ
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