幼なじみの神守幹次郎殿は理不尽な夫から私汀女を救い出し3年の逃亡の果てに江戸に流れ着きました。
そして吉原の女たちを守る事になったのです
あね様いい天気です!静かな朝だ。
・
(仙右衛門)うるせえんだよ!・
(お芳)うるさいとは何よ!あ〜あこんな女と一緒になるんじゃなかった!それはこっちのセリフよ!どうしたのよ?どうしたもこうしたも…。
俺は朝飯は焼き魚と決めてるんだよ!なのにこいつが納豆の方がいいとか抜かしてよ!納豆の方が体にもいいし安いのよ。
俺は焼き魚がいいんだよ!どちらでもよいではないか。
何だと!?一緒になったばかりのくせにケンカばかりして…。
そっちはケンカしねえのかよ?せぬ。
ウソです。
たまにします。
何だするんじゃねえかよ。
それにしても毎朝あんたと一緒に来るってのも妙なもんだな。
同じ長屋に住んでるんだ。
しかたないだろう。
おうどうした?頭取が変なんだ。
え?困った事になったなあ…。
四郎兵衛様だけに申し上げましょう。
聞きましょう。
私は…神守様をお慕いしております。
命を懸けて私を守って下さるというあの方の言葉…会所のお務めでそうおっしゃっていると分かっているのにうれしさに心ときめく思いが致しました。
時々あの方と結ばれるのなら何もかも捨てて奈落の底に落ちてもいい。
そう思う時がございます。
薄墨太夫…そんな事は言っちゃあいけませんよ。
えらい事を聞いちまった。
頭取どうかされましたか?お?お…いや…いや別にちょいと考え事をしていたんでい。
せんだってからのスリの事をみんなに話してえんですが…。
あ!おうそうだったな。
長吉。
知っている者もいるだろうが近頃吉原の中にスリが横行している。
どうやら徒党を組んでるようだ。
気をそらす者財布をする者財布を受け取る者と役目を分けてる。
恐らく両国辺りで稼いでいたのが取締りが厳しくなったんでこの吉原へ流れてきたんだろう。
(清次)1人ふん捕まえて仲間の事を吐かせましょう!ああいう連中は結束が固えんだ。
1人2人捕まえたところでトカゲの尻尾切りになるだけだよ。
…って事は。
元締めが誰かを突き止めなければならないという事ですね。
そのとおりでございますよ。
おいみんなよ〜く目を光らせて見張るんだぜ。
(男衆たち)へい!目を光らせるったってなあ…。
あの男…。
どうも普通じゃねえな。
待て!某の事か?お主中林与五郎に相違ないな?いかにも。
(どよめき)父の敵覚悟致せ!待たれよ!邪魔立て致すな。
某は吉原会所の神守幹次郎と申す。
待てぬ。
これは主君の許しを得た尋常の仇討ち。
武士が本懐を遂げるのを吉原は邪魔立てするか!ご覧のとおりお客衆が大勢いらっしゃいます。
まずは刀をお収め下さい。
何言ってんだよ!やらせてやれよ!そうだそうだ!待て待て!こっちの野郎の言い分もあるはずだ!うるせえ!静かにしろ。
そこのお人…犬を預かって下さらぬか?えっ俺か?
(犬の鳴き声)お待ち下さいませ。
手前吉原会所の頭取四郎兵衛にございます。
廓内での刃傷はご法度。
刀をお収め下さい。
ではどうしろと?この会所が責任を持って改めて場所を考えましょう。
しかしやっと見つけたこの男を逃しては…。
某は逃げも隠れも致さん。
こうおっしゃっております。
このお方は会所の方でお預かり致しましょう。
いかがですか?その言葉に偽りはありませんな?約束致します。
そしてこの2人をそれぞれ吉原会所と番所に連れていき事情を聞く事になりました
私は備中松中藩藩士溝呂木六兵衛が嫡男忠也と申します。
…して仇討ちに至った子細は?は。
あの中林与五郎は我が屋敷に出入りを許されていた浪人でした。
3年前の事あの男はあろう事か我が姉に懸想致しそれを咎めた父を斬り殺したのです。
なんと!そして与五郎は卑怯にも城下より逃亡致しました。
某は藩より仇討ちの許可を頂きあの男を捜して3年…本日ここでついに見つけたのです。
…というのが番所であの若いお侍様がお話になった事でございますがな相違はございませぬか?某があの男の父親を殺した事には違いありません。
ただ…某があの男の姉に懸想して父親に咎められたところを斬ったというのは事実無根。
では何が?いや…それは今更申してもしかたのない事。
何か言い分があるのなら申し立ててはいかがですか?遠助は?遠助?犬です。
どなたか犬に餌をやって頂けませぬかな?
(仙右衛門)ちゃんと鶏肉の残りをやってますよ。
ほうさすが吉原。
犬にもそのような結構なものを。
かたじけない。
村崎様はどうするおつもりですかなあ。
村崎様はなぜか大乗り気でな。
仇討ちの場所も刻限も自分で決めるとこうおっしゃってる。
某はそれに従います。
逃げも隠れも致しません。
う〜ん。
…でそれまでの間はどこにいて頂きましょうかな。
では某の家に来て頂きましょう。
それは迷惑でしょう?いえ構いません。
ねえねえ仲之町で仇討ち騒ぎがあったんだってね。
(遊女たち)え?仇討ち騒ぎ…。
危うく刃傷沙汰になるところを神守様が止めたらしいよ。
(遊女たち)お〜!あらまたご亭主殿のお働きで。
仇討ちはすっかり廃れたものと思っておりましたが…。
人の恨みはなかなか消えるものではないのですね。
何でも場所を改めて仇討ちする事になったとか。
どちらかが死ぬ事になるのかしら…。
ただいま戻り…。
やはり本当の事をお話し頂けませぬか?話してどうなります。
お客様ですか?あっお内儀ですか。
某中林与五郎と申します。
今夜はこちらにご厄介になる事になりました。
もしやこちらが今日の仇討ちの…。
お騒がせしております。
いえ失礼致しました。
お話の邪魔を…。
もうよいのです。
ただ某には相手方の話す仇討ちの子細がどうも真実ではない気が致しまして…。
どちらでも同じ事ではありませぬか。
討つか討たれるか。
それだけです。
ハハッ。
(仙右衛門)あっちが人間の世話こっちが犬の世話か。
かわいい!それにしてもあの与五郎とかいう男何だか妙な男だな。
そのお侍そんなに変わった方なんですか?え?あっ少し…。
でも幹殿とは馬が合うようですよ。
変わり者同士って事ですか。
ちょっと!
(笑い声)お邪魔しましたかな。
いえ。
その太刀筋は…。
示現流と居合を少々。
ほう。
某は震電流です。
今日一目見てかなりの使い手とお見受け致しました。
いや長い事あちこちを逃げ回る間にすっかり剣の腕も鈍っておりましょう。
一方向こうは仇討ちに備えて鍛錬を怠ってないはず。
どうなりますかな。
ハハハッ。
(犬の鳴き声)お〜来たか遠助。
随分仲が良いのですね。
こやつ遠江の浜辺でさまようていた所を見つけて声をかけたところ以来ずっとついてまいりましてな。
恐らく某に己と同じ境遇を嗅ぎ取ったんでしょう。
一緒に旅をしてもう2年になります。
どちらを回られましたか?石見大坂などあちこちと。
某も諸国を旅していました。
ほう。
なぜまた?実は…某も追われる身なのです。
何故に?妻敵討ちです。
妻敵討ち。
ではお内儀は…。
別の男の妻でした。
ひどい扱いを受けていたのを見かねて私がさらうようにして逃げたのです。
それから3年諸国を回った後こうして吉原で仕事を得る事になりました。
さようでしたか。
ですから某には与五郎殿がどこか他人のような気が致しません。
人間思わぬところで知己を得るものですな。
まことに。
(犬の鳴き声)あね様…。
犬にこれを。
おおかたじけない。
某が死んだら誰がこいつの世話をするんだろう…。
今更信じて頂けるかどうかは分かりませぬが…某の身に起こった事をお聞き頂きましょう。
はい。
浪々の身だった某は松中城下にて碁を指南する事でなんとか暮らしてまいりました。
そして今から4年ほど前松中藩お使番であった溝呂木六兵衛殿の碁の指南を致すようになりました。
この六兵衛殿が忠也殿のお父上です。
最初のうちはただ碁を楽しんでおられる様子でしたがそのうち少し腕を上げられると…。
いや〜参った!ハハハハハッ。
のうただの勝負ではつまらぬ。
賭けをせぬか?1局2朱でどうだ?たってのお望みとあらば…。
ハハハハハッ。
某も門人を逃したくないという思いがありついその申し出を受けました。
それから溝呂木殿と某は金子を賭けて対局するようになりました。
そして半年ほどたって…。
う〜ん…。
参った…!では本日はこれにて。
待て!まだだ。
どうだ?次からは1局2分で。
2分?それはいくら何でも…。
勝ち逃げする気か!?もうおやめ下さい。
聞けば溝呂木殿はよそでも賭け碁をして借金がかさんでいるというではありませぬか。
だから何だ!?人は引き際が肝心。
浪人風情が何を言うか!?偉そうに!何ですと?勝負しろ!お断り致す!待て!バカな事はおやめ下され!何を!狼藉者!うわ〜!ああ…ああ!賭け事は人の心を変えてしまうものにございますな。
それからは逃亡の日々…。
しかし追う方もつらいでしょうな。
あの忠也殿はまだお若いのに貴重な年月敵を捜す事に費やして…。
ねえ相手をしておくんなんし。
あと少しだ。
カタをつけてやる。
変なお人。
なるほど。
それが与五郎殿の言い分ですな。
偽りは言っておられないと思います。
確かにウソを言うようなお方には見えませんでした。
ええ。
実際は与五郎殿は娘のおせき様の顔も見た事がないそうです。
しかしその忠也殿のお父上を斬られたというのは確かでございましょう?そうです。
村崎様がいらっしゃいました!仇討ちの刻限と場所を決めた。
明日巳の刻。
場所は松籟が原だ。
よいな。
そうか。
ついに敵を見つけたか。
よくやった。
は。
明日松籟が原にて討ち果たす所存にございます。
うむ。
ではこちらで助太刀を用意致す事にしよう。
助太刀を?さよう。
お前も既に分かっておろう。
お前の父親が斬られた理由は言われているような事ではない。
は。
もしそれが世間に知られては当家の恥でもある。
必ず中林与五郎を倒さねばならん。
これはもうお前だけの事ではないのだ。
はあ…。
殿はお前が見事仇討ちを果たした暁には溝呂木家の再興を許すと仰せである。
それはまことですか!?そうだ。
必ず与五郎を討ち果たします!うむ。
どうされました?聞くところによると向こうは何人もの腕の立つ助っ人を用意するそうです。
ほう。
知らせぬままでは卑怯のそしりを受けるとの事で知らせてきたようです。
さようですか。
こうなっては…。
どうしろと?まさか逃げろとおっしゃるのではございますまい。
この際それも一案かと。
それはできませぬ。
ここで逃げては某の身を預かった神守様にご迷惑がかかります。
そのような事は…。
どこかで終わりにせねばならぬ事。
ここで死んでもそれが定めというもの。
それでよいではありませぬか。
この度の仇討ちの事町方の間でも大した評判のようですな。
この村崎が仕切ったおかげよ。
それにしても腕利きの助っ人衆が忠也殿についているとあっては与五郎にも勝ち目はないな。
これも破廉恥な事をした報いというもの。
どうした?与五郎殿が忠也殿の姉上に懸想したという話は真っ赤なウソです。
何だと!?真実は…。
黙れ!与五郎が何を言ったとしてもそれがウソではないとどうして言える!?確かに証しを立てるものはございません。
ほれ見ろ!しかし…。
余計な事を申すでない!逃げるでないぞ。
分かっております。
決めました。
この神守幹次郎中林与五郎殿の助太刀を致します!え!?何を言いだすのだ!?たった一人を相手に多数の助っ人を用意するとは卑怯ではありませぬか!いや仇討ちに助っ人を用意する事はなにも禁じられている訳ではないぞ。
では某が与五郎殿のお味方をしたとしても誰が咎められますか!神守殿…。
まことに勝手ながら助太刀を致す事をお許し頂きたい。
しかし…。
某が向こうの助っ人たちの相手を引き受けます。
そこもとは忠也殿と心おきなく勝負して頂きたい。
分かりました。
そのご厚意ありがたくお受け致します。
・よろしいですか?玉藻様…。
失礼致します。
お聞きになられましたか?何ですか?例の仇討ち神守様が中林与五郎って人の助っ人をする事になったそうです。
え…。
吉原中それはもう大層な騒ぎで…。
相手方は腕利きの助っ人を何人も集めているそうです。
さようですか。
汀女様もさぞかしご心配な事でしょうね。
どういう事でございますかな。
申し上げたとおりです。
それは困ります。
なぜですか?お気持ちは分かりますがあなた様はこの吉原にとってなくてはならぬ人でございます。
もしその身に何かあれば…。
某が斬られるとおっしゃるのですか?いやそのような事は申しませんがその…向こうも腕の立つ者を何人も用意しているというふうに聞こえてきます。
やられたらそれはその時。
しかし…。
汀女様!あね様…。
汀女様からもおいさめ頂けませぬか?やらせてやって頂けませんでしょうか。
会所にはご迷惑とは思いますがどうかお許し下さい。
ありがとうございました。
私に礼など無用です。
ただし…。
はい。
無事に戻って下さらないと…承知しませんから!分かりました。
そして仇討ちが行われる朝が来ました
刻限だ。
は。
・ごめん。
どうぞお入り下さい。
某をお呼びだとか。
わざわざすみません。
何でしょう?そろそろ仇討ちの場に行かねばなりません。
その仇討ちですが…。
はい。
どうしても行かれるのですか?もちろんです。
所詮人の事ではありませんか。
どうして命を懸けなければいけないのですか?行かないで下さい。
お願いです。
行かないで下さい。
なぜそのような事を?お慕いしているお方に生きていてほしいと思う事はおかしいでしょうか?このような事を言うつもりはございませんでした。
でも私は吉原で籠の鳥として生きる我が身…。
せめてこの思いだけは籠の外に出してやりたかったのです。
あね様は行けと言ってくれました。
汀女様が?では参ります。
参りましょう。
はい。
おいいたぞ!え?スリの連中を見つけたんだ!あいつらだ。
一仕事終えて出ていくところだ。
あの後をつけていきゃあきっと親玉ん所に案内してくれるぜ。
こんな時に…。
どうする?今を逃したら…。
どうぞ。
行って下さい。
しかし…。
お役目を果たされよ。
すぐに参ります!どうなってんだよ!早くしろよ!早くやっちまえよ!こんなに見物人がいるとは…。
(笑い声)
(笑い声)おうご苦労さん。
いや〜大漁ですぜ。
財布は大川に捨てちまうんだ。
(スリたち)へい。
何だ?お前ら。
お前が親玉か。
(仙右衛門)番所に知らせてこい。
(清次)へい!その財布が証拠だ。
何の話だよ。
知らねえな?
(スリたち)ああ!やっちまえ!
(スリたち)へい!じき捕り方が来る。
あとは任せて行ってくれ。
待たれよ!待たれよ!間に合いました。
かたじけない。
某義によって中林与五郎殿の助太刀を致す!だ〜!お見事!勝負あった!なぜですか!?若い者が生き残った方がよい。
これまでの事かたじけのうございます。
人生の終わりに…よき友を得た。
お内儀を…大事になされよ。
お帰りなさいまし。
ご無事で何よりです。
ご心配をおかけしました。
いえ武士の妻ですから。
与五郎殿は見事なご最期でした。
そうですか。
あね様…。
はい。
私はあね様を大事にできているでしょうか?急にどうしたのですか?聞いているのです。
大事にされています。
(犬の鳴き声)
主を亡くした遠助はその翌日相庵先生の知り合いの所にもらわれていきました
あらお芳さん。
さっき往診に行って聞いたんですけど…昨日何人かの男がこの辺りでお二人の事を聞いて回っていたようです!それはどのような男たちでしたか?何でも九州の豊後から来たようです。
それはもしや…壮五郎殿では?
私たちが乗り越えなければならない山がついに目の前に立ち塞がったのです
剣術のご指南をお願いしたい。
越中に参れと?お別れという事ですね。
行きゃあいいんだよ。
お受けなさいまし。
吉原の手先に成り下がったとはな。
あね様を連れて逃げた事に関してはいささかの悔いもございません。
参りましょう。
はい。
・「君のそばにいる」・「君を守って行く」・「悲しみを消してあげることは出来ないけど」・「ここからはふたり同じ道を行く」・「せめてひととき」・「風よやさしく」・「二人包んで」2014/09/17(水) 01:25〜02:10
NHK総合1・神戸
木曜時代劇 吉原裏同心(11)「かたき討ち」[解][字][再]
溝呂木忠也は父を殺されたあだ討ちのため与五郎(豊原功補)を追っていた。逃亡の日々を送ってきた与五郎が他人に思えない幹次郎(小出恵介)は与五郎の助っ人に名乗り出る
詳細情報
番組内容
与五郎(豊原功補)へのかたき討ちを取り仕切ることになった会所。溝呂木忠也(佐野和真)は父・六兵衛(村野武範)を殺されたかたき討ちで与五郎を探し周りやっと見つけた。追われる身の与五郎を他人に思えない幹次郎(小出惠介)。忠也は腕の良い助っ人を雇っていると聞き、卑きょうに思う幹次郎は与五郎の助っ人に名乗り出る。かたき討ちの朝、会所が追うスリの集団が現れる。吉原へ行くか悩む幹次郎に与五郎は仕事へ行けと促す
出演者
【出演】小出恵介,貫地谷しほり,野々すみ花,山内圭哉,京野ことみ,石井愃一,沼田爆,若葉竜也,平田薫,尾上紫,菜葉菜,近野成美,豊原功輔,村野武範,佐野和真,定松直子,松之井綾,児玉陽子,富田エルほか
原作・脚本
【原作】佐伯泰英,【脚本】尾崎将也
音楽
【主題歌】小田和正,【音楽】林ゆうき
ジャンル :
ドラマ – 時代劇
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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