こんな数字を知っているだろうか。
遠い国の話ではない。
日本の現状だ。
彼らの多くが学びたくても学べない厳しい現実と向き合っている。
埼玉県にそんな子供たちが集まる場所がある。
彼らの声を聞いた。
毎週土曜日このビルの会議室を借りているのは…一番に顔を見せたこの人は代表の青砥恭さん。
元高校教師だ。
3年前にこのNPOを作った。
こんな感じですかね。
こんな感じでしょう。
OK。
よく来たねえ。
すいません。
今日は飯食ってきた?ちゃんと。
一応は。
午後1時半。
若者たちが集まってくる。
誰かジェンガやろうぜ。
先生がやればいいじゃん。
彼らはここを「たまり場」と呼ぶ。
何をして過ごすのも自由な交流スペースだ。
いやっ。
(崩れる音)ここに来るのは10代から30代の若者たち。
その多くが不登校や中退などで学校に行かなくなった。
学校や自治体の「こころの健康センター」からの紹介の他自力で見つけた親たちが駆け込み寺のようにやって来る。
このたまり場もう一つ大事なスペースがある。
それは隣の部屋。
勉強が始まっていた。
NPOの職員や学生社会人のボランティアがマンツーマンで教えてくれる学習支援の場だ。
約数とか数が何個入ってるかっていうのがもう決まってるような集合とこれみたいに…。
利用料は無料。
運営は企業や団体などからの寄付で成り立っている。
青砥さんは無料である事にこだわってきた。
集まる若者の半数以上が貧困の状態にあり支えを必要としているからだ。
貧困という経済的にお金がないという事は間違いないんですけどもだけどそれと輪をかけてやっぱり社会性が育ってないというね。
自分のコミュニティーを持っていないという。
みんな孤立してますよね。
ここに来てる子たちはそういう子とても多いですよね。
久しぶり。
何何何?何撮ってんの?え?何若者系の何かそういうの?NHK。
NHK?ヤバイね。
ちっとカメラ目線にしないとだ。
人懐っこそうな青年と出会った。
あきら22歳。
中学時代に不登校になった。
俺なんて大学なんてゴミみたいなもんと思ってんすから。
そうですか?そうですよ。
大学行ったからって何がいいっていうかそりゃ自分で見つけるだけですよ。
あの辺に大学生がうじゃうじゃいるんだけど。
ああいう大学生はすばらしい大学生だからそこはもう俺は認めてるけど。
あきらは母と姉弟と4人で暮らしている。
家族全員働いているが収入は少なく不安定だ。
小学2年生の時父親を事故で亡くした。
それ以来母親が掃除のパートで働きながらあきらたちを育ててきた。
あきらは毎日働きづめの母の姿を見続けてきた。
仕事と家事に追われて睡眠を3時間しかとれない母に甘えた事を言うわけにはいかなかった。
今日明日の事で精いっぱいな暮らし。
自分の部屋も机もなく学校でもやるせない思いをする事が増えていった。
塾や習い事に通えない。
修学旅行に行けない。
他の多くの子にできる事があきらにはできなかった。
特に差を感じたのは友達の家に遊びに行った時だ。
うちにもあんなねスペースがあってベッドあればいいなあとか。
やっぱ机とかもあって教科書とかも置いてるわけですよちゃんと棚にちゃんと。
俺はやっぱりもうそこら辺に置くしかないんで。
塾携帯電話インターネット。
現代の平均的な家庭の子供は多くのものを手に入れて育つ。
あきらのように経済的に苦しい家庭の子供はどんどん取り残されやがて挽回できないほどに差は開いていく。
この格差に苦しめられるいわゆる「相対的貧困」が今先進国で深刻な問題になっている。
小学校で学力の基礎を作れなかったあきら。
中学に入るとあっという間に授業についていけなくなった。
やがてあきらにある事件が降りかかる。
教室で友達のお金が盗まれ真っ先にあきらが疑われたのだ。
貧しいからみたいに思われてるんでしょうね多少は。
お前がやったんだろうみたいな。
俺そん時にもうすごい怒っちゃって。
俺やってねえぞと。
まあもう本当にもう信じらんないですよね。
疑われるような…してるお前が悪いだろうって言われちゃそこまでか。
ほんとだったら本音で話せるような人が全部が全部本音で話せるような人がいたら俺も楽だったかもしれないですけどなかなかいなかったです。
というかいないです。
今でも。
本音で全部が全部をしゃべれるような人にはまだ出くわしてないですね一回も。
友達に先生に学校に絶望したあきらは不登校になる。
そして中学を出るとすぐに働き始めた。
今は生活のために建設現場などの日雇いのアルバイトを掛け持ちしている。
1日働いて稼ぎは6,000円ほどだ。
今まで複数の会社を転々とした。
時には暴力を振るわれる現場もあった。
「職場を変えた方がいい」と忠告する人もいた。
中にはやっぱそうやって暴力をねくらってまで同じ会社にいなくてもいいじゃんみたいな言うかもしれないけど俺は中卒なんだって。
まだ高校卒業してない。
その壁はすごいでかいんですよ。
だからやめようかって思ったって行き場所がないんですよ。
違うとこが。
それができるんだったら俺だってほんとにちゃんとした会社に入りたいし。
中卒で働き始めた人の半数以上が不安定な非正規雇用だ。
仕事中にけがをしても補償してくれない会社もあったとあきらは言う。
けがしても結局は自分持ちみたいな。
だから普通の会社だったらやっぱ自分がけがしたら会社でちゃんと持ってくれると思うんですよお金とか。
まあ責任として。
でもそういうのなかなかない現状に向き合わされているっていう感じで嫌ですよね。
だから抜け出したいっていうのは事実ですし。
ずっと考え続けてきた。
何をすればどうすれば苦しさから抜け出せたのか…。
貧しい人って何か結果だけが求められるような感じで「頑張ればなんとかなるんだよ」みたいな感じなんですよね何か。
「お前は頑張ってないじゃん」みたいに思われちゃうんですよね。
「お前んちの家族は」みたいな。
「お前んちの家族が頑張ってれば普通の家とかにも暮らせるし幸せな家庭が築ける」とかも俺も言われた事あるんですよ。
じゃあ何がね頑張ればというかなのかなって考えた時に何も浮かんでこなかったんですよ。
もう…親のせいとかにはしたくないからなおさら…なんつうのかな今小学生に戻れたら何がしたいかって言ったらまあ…。
すいません。
すいません…。
まあ今ある自分で何かさらけ出したいなみたいな。
勉強も頑張って。
自分にいつも何か…誰かにね本音をぶちまけられるような小学校や中学校を築きたかったな。
たまり場に集まる若者たちはさまざまな困難を抱えている。
「18世紀に入って台頭し意欲的に産業を育成して海外に進出したヨーロッパの国をフランスともう一つはどこですか?」。
う〜んとイギリス?14歳中学3年生のあかねは中1の2学期から不登校だ。
月に数回中学の相談室に登校する事はあるが大抵は家かたまり場で勉強している。
あぁそっか。
不登校になったきっかけは授業についていけなくなった事だ。
授業中とかばんばん進んじゃうんですよ。
だから何ていうかなみんな塾に行ってると思って先生が授業しちゃうんです。
だから塾に行ってない人がほとんどいないんで追いつけない。
勉強の遅れとかで学校に…恥ずかしいっていうのも何かおかしいんですけどちょっと恥ずかしいっていうか何か劣ってる感じがして。
うん…まあ行きたかったなってそれだけなんですけど。
あと待っててほしかった。
みんなに。
あかねは母親と二人暮らし。
母のはるえさんは事務の仕事をしていたが体を壊して5年前に退職した。
(タイマーセット音)無理かもしれないけど。
現在もフルタイムでは働けず月収およそ10万円。
貯金を取り崩しながらの生活だ。
今公立中学の生徒の7割が学習塾に通っている。
塾にお金をかければかけるほど成績が上がるというデータもある。
経済的に苦しくて塾に行けない生徒にとって学力の差は開くばかりだ。
母のはるえさんは何度か塾の資料を取り寄せた。
しかしその費用は高額で生活費やこの先の学費の事を考えると諦めるしかなかった。
(すすり泣き)学校教育からこぼれ落ちてしまった娘のためにはるえさんは必死で別の居場所を探した。
そして1年前に出会ったのが青砥さんのたまり場だった。
青砥さんはあかねをいきなり勉強に向かわせる事はしなかった。
まずは安心できる居場所を作ろうと考えた。
あかねが絵を好きだと聞いて青砥さんは小さな絵画教室を開いた。
事務所の片隅で美術系の大学出身のスタッフに教えてもらう事にしたのだ。
ここで初めてデッサンなどを本格的に学んだあかね。
美術部が盛んな高校に進みたいという夢が生まれた。
こんにちは〜。
高校進学という目標ができて遅れていた中学での勉強を取り戻そうという意欲が湧いてきた。
青砥さんはあかねの勉強相手に社会人ボランティアの新村恵一さんを引き合わせた。
高校受験までの1年間あかねの学び直しに寄り添ってくれる。
まずは理科と数学を中一の基礎に遡って学んでいく事になった。
Cは酸素が来てCOになるでしょ?ここの時に熱が出る。
ああ…。
水素も酸素が来ると水になって熱が出る。
熱…。
この熱を利用して人間は車走らせたり。
へえ〜。
実は新村さん自動車業界で働くエンジニアだ。
身近な例えであかねの興味を引き付ける。
だからこれ臭いの?排気ガス。
臭いのはねちょっと違う。
Sが入ってたりするから。
Sって何でしたっけ?SS…S。
ここ。
ああ〜硫黄?臭い!うん。
疲れたでしょちょっとお休みかな?何時まででしたっけ?4時…4時15分ぐらい。
4時15分?うん。
ちょっとやります。
ちょっと進めていいですか?いいですよ。
大丈夫?ここぐらいまではとりあえず。
化合。
2種類以上の物質が結び付いて別の新しい物質が出来る化学変化。
聞けなかった事が聞けるようになったからとことんもう何て言うか調べられるっていうか面白いし楽しいです。
学ぶという事はね「分からない」と言わなくちゃいけないんですよ。
「分からない」という事は人間にとってそんな楽な事じゃないですよ。
恥ずかしい事かもしれないですね。
それをずっとあの子たちは「分からない分からない」でずっと「お前は分からないから駄目なんだ」って言われ続けてきた子ですからね。
その子たちに「分からない」という事を言わせるわけですから。
その時にはやっぱり我々は安心して「分からないんだ」という事を言える場を作っておかないとそりゃ駄目ですよ。
青砥さんが子供の貧困に目を向けるようになったきっかけは高校教師時代に遡る。
これは聞き取りをした人たちのノートですよね。
学力に課題を抱える高校ほど中退していく生徒が多い事に気付きその実態を知りたいと思った。
中退した若者100人から聞き取りを重ねた青砥さんは衝撃を受ける。
借金夜逃げ一家離散…。
経済的な苦しさの中で勉強もままならず中退し社会に放り出される若者たち。
「彼らを救いたい」。
青砥さんの原点だ。
子供の貧困をなくそう!
(一同)なくそう!なくそう!
(一同)なくそう!普通の暮らしを諦め勉強を進学を諦め将来を選ぶ事ができない若者たちの叫び。
教育格差をなくそう!
(一同)なくそう!国は去年「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を定めたが具体策はこれからだ。
国は民間団体などに補助金を出して学習支援などの事業を始めてはいる。
対象は生活保護を受けている小中学生15万人。
しかし実施している地域はまだ少なく利用できる子供は僅かだ。
一方生活保護に準ずる厳しい暮らしをしている小中学生は140万人。
彼らへの公的な学習支援はほとんど行われてはいない。
学べる事こそが子供たちに力を与える。
青砥さんはそう訴え続けてきた。
学習支援をどうすれば広げていけるのか。
勉強会も開かれ模索が始まっている。
限られた予算。
教える人材をどう確保するかなど課題は山積みだ。
青砥さんのたまり場に国からの補助金はない。
生活保護家庭だけに限定せず広くサポートしているからだ。
それであと交通費なんか払ってるのはないですね?
(スタッフ)交通費も学生に払っています。
それはいくらですか?1か月に2万円ほど学生には払ってるんです。
(青砥)これが16万円ですね。
担い手は僅かな職員とボランティア。
資金は寄付が頼りの厳しい運営が続いている。
日雇いで働く22歳のあきら。
今通信制高校に通っている。
4月。
今年履修する科目の教材を受け取りに来た。
通信制高校では試験やレポート提出などで卒業資格が得られる。
あきらは一部のレポート提出が間に合わなくて進級できず今年で在籍5年目だ。
自分の力でやれないと…う〜んまあ…。
うん…やってこれなかったから結局はこうなっちゃったのかもしれない。
まあ助けてくれる人もなかなかいなかったし。
だからまあ…不安ですけどね今年も卒業できるか。
ここでは月に数回の授業以外は自習が基本。
しかしあきらには勉強の長いブランクがある。
一人で計画を立てて勉強を進める事は難しい。
初歩的な内容が分からず恥ずかしくて人に聞く事もできない。
教科書に書いてある事をそのまま写すしかない時もある。
たまり場に行く事さえためらわれもう半年近く足が遠のいていた。
こんにちは。
あっこんにちはどうも。
ようこそ!アッハッハッハ。
どうもどうも。
覚悟決めてきた?いや〜まあもう…。
あきらが久しぶりにやって来た。
高校を卒業できるか心配した青砥さんたちから繰り返し誘いを受けてようやくやって来た。
いっぱいいっぱいになっちゃって…。
持ってきたのは苦手な物理のレポート。
締め切りが迫っていた。
ああ難しいな〜。
速度の問題でつまずいた。
運転メーターの中にさこれを表すメーターあるでしょ?速度メーター。
あれはよく見るでしょ?見ます見ます。
あれはね前輪の回転の速さをとってるの。
そうなんだ。
全然分かんなかったわ。
あそうなんだ。
新村さん得意な車の話題であきらを引き込む。
必ず誤差はあるからね。
そうだよね。
そういう事ね!あっ何だ。
この数字の可能性が近いって事。
そうだよね。
うん実際のね。
ああそういう事か。
ちょっと分かったわ!身近な例えにヒントを得てどんどん書き始めた。
結構やれば面白くなってくるかもしれない。
3桁でそうすると…。
あ〜よかったよかった。
何がよかったかっていったらこれ分からなかったからさ一人でやっても。
一人だとさ時々疲れちゃうからさ人と一緒にやるというのもいいかもしれないよ。
やる時はさ何だかんだ言いながらやれば気も紛れるしさ。
しかし次の週からまたあきらは現れなくなった。
たまり場に来た若者の半数が勉強を続けられず去っていく。
それでも粘り強く声をかけ待ち続けたいと青砥さんは言う。
本当にあの場に来る子たちの気持ちっていうのは複雑なんですよね。
ものすごいコンプレックスもあるし焦りもあるしそれからすごい傷ついてる子たちも多いですよね。
だからそういう子たちの気持ちを全て受け入れてね引き取ってこちらが対応する事の難しさですよね。
まあたくさんいますよ。
本当にたくさんいますけれども「安心していいんだよ」って我々はしかも最後まで応援する。
1日や2日じゃなくてね。
その子たちが一つの大きな目的を達成するまで応援し続けるんだという事をそれもメッセージとして伝える。
そういう事をね繰り返してやってますよね。
たまり場を離れ一人苦しみを抱え込む若者たち。
さき18歳。
通信制高校の2年生。
公営住宅に祖母と2人で暮らしている。
夜7時出勤前のメークが始まる。
さきは週末にスナックでホステスのアルバイトをしている。
100円ショップで買ったメーク道具やネイルが必需品だ。
夜の仕事だけではない。
週5日昼間のコンビニエンスストアでも働いている。
この日も昼に4時間コンビニで働いてから夜の仕事に向かう。
幼い時両親が離婚。
父と祖母に育てられた。
父は地方で働き祖母はパート勤め。
支え合って生きてきた。
さきもできるだけ仕事を入れたい。
深夜3時6時間の接客を終えて帰宅。
生活保護を受けたいと考えた事もあったが世間の偏見を恐れて諦めた。
大人の世界にどっぷりつかる日々。
貧困に苦しむ若い女性にはさきのように夜の街で働く人が少なくない。
やがてより時給の高い過激な仕事に足を踏み入れ抜け出せなくなるケースも目立つ。
青砥さんはしばらく姿を見せないさきを心配して連絡を取った。
やあ久しぶりだね。
ほんと久しぶりだね。
アハハハ…。
あ〜…。
1年ぶりだった。
(青砥)疲れてるの。
最近どうしてた?学校ちゃんと行ってるの?
(青砥)ああ行ってるんだ。
(青砥)う〜んそりゃまずいよ。
まずいよ。
青砥さんはさきが孤立し始めている事を問題視した。
なんとか昼のアルバイトだけに絞れないか持ちかける。
(青砥)慣れちゃうんだよそういうところにそういう仕事に。
昼間働けなくなっちゃう。
昼間寝て学校もしんどくなるし…。
辞めた方がいいと思うよ。
あなたの人生だからね。
次の将来の事を…。
さきに同世代の仲間の輪の中で再び学んでほしい。
青砥さんは切り出した。
(青砥)レポート書けてる?
(青砥)レポート書けない時は即たまり場に来る。
(青砥)その日で解決してあげるよ。
一日来ればいいんだよ土曜日に。
だから土曜日は空けといて…。
なっ?じゃあね気を付けてね。
はい気を付けていっておいで。
土曜日のたまり場。
いつも一番乗りでやって来る女性がいる。
全日制高校を中退し引きこもっていた時たまり場を紹介された。
(青砥)これが大砲になるかね。
これで撃つの?
(みつき)これはスモールライトです。
青砥さんの勧めで通信制高校に入り直した。
家族は祖父母と妹2人。
生活保護を受けていたが上の妹が就職し収入が受給基準を超えたため対象から外れた。
しかし依然生活は厳しい。
自分も働いて家計を助けたい。
幼い頃両親が離婚し母子家庭に。
中学生の時突然心の支えだった母が亡くなった。
たまり場に通うようになってみつきは少しずつ前に進む意欲を取り戻し始めている。
この日訪れたのは地域若者サポートステーションさいたま。
家族を支えるため職を探そうとやって来た。
今日はちょっと仕事を探したいという事で聞いてるので…。
ここでは就職相談やセミナーなどの就労支援を無料で行っている。
厚生労働省の委託事業だ。
ところが壁にぶつかった。
(スタッフ)パソコンで…パソコンとかあとは携帯のインターネットで探す事ができるんだけど…。
(スタッフ)お友達の家とかあとはネットカフェ検索だけしてみるとか。
(スタッフ)そしたら…う〜んどうしようかな…。
情報が出てすぐに埋まってしまう求人も多くいかに最新の情報にアクセスし続けられるかが勝負。
なのにネットがない。
それだけではなかった。
写真を撮ってもいいような服装で次回は…。
ないか…。
写真撮影や面接に必要なスーツがない。
買うお金もない。
「できない事」が積み重なり貧しさにあえぐ若者を追い込んでいく。
みつきはサポートステーションのパソコンを借りて就職情報を探す事にした。
面接での印象が少しでも良くなるよう無料のビジネスマナー講座も紹介してもらった。
できる事から少しずつ取り組んでいく事にしたみつき。
その1週間後。
行ってますよ。
どうだ?調子は。
「それなり」ってどういう…。
どういうふうに迷ってるの?どうしたの?昔からそうか?おばあちゃん大変だな。
祖父による家庭内暴力。
仕事を探すどころではなくなってしまった。
ありがとうございます。
それじゃあ気を付けてね。
大変だね。
こんなに大変だと思わなかった。
かわいそうに…。
どうしたもんですかね…。
もうほんとに…一難過ぎたら次のまた難儀が出てくるんですね。
繰り返し繰り返しですよねそういう事です。
そういう事なんですよね貧しさというのはね。
要するにリスクが幾じゅうにもあるでしょう。
一つ解決したら次のリスクが来るわけですよね。
また次から次へですよね。
貧困状態にある家庭が直面しているのはお金がない事による制約だけではない。
家族間のトラブルや病気など複数の問題を同時に抱え込む事が少なくないのだ。
この断ち難い悪循環が子供や若者をがんじがらめにしていく。
3週間後みつきが青砥さんを訪ねてきた。
その隣には祖母がいた。
こんにちは。
ああお久しぶりで本当。
いろいろお世話になって…。
とんでもないです。
家の恥を人に話したくないとためらう祖母を説得して連れ出した。
いや〜駄目ですよまだこれからだもん。
いい子ですよ。
今の暴力を例えば振るうとかねそれから一緒に暮らしてて非常に恐ろしいと。
これいわゆる今よくあるDVってやつですね。
それがあまりにもひどい時はやっぱり警察に頼むしかないんですね。
いざという時には警察の力も借りてやったらどうですか。
それはねやるしかないですよ。
いやそれはねおばあちゃんやるしかないですよ。
家族だけで悩まず警察か自治体の専門窓口に相談する事を青砥さんは勧めた。
それから将来どうするかはまたに…。
(祖母)これも悩んでたんだなと思って。
絵を描くのが好きで高校を受験する事にしたあかね。
願書を提出した公立高校の志願者倍率が発表された。
どこ?出てるの?あった!うわぁ。
えっちょっと一番高いよ。
えっ…。
志願者数が…。
わ〜ちょっと待って…。
あかねの志望校の倍率は平均を大きく上回っていた。
公立を不合格になっても学費の高い私立には通えない。
後がない…。
行けるのかちょっと不安になってきた…。
不安に押し潰されそうなあかね。
たまり場を訪ねた。
青砥さんはこの日入試の面接練習の相手を買って出た。
倍率の事に加え久しぶりに登校した中学で面接練習がうまくいかずあかねがひどく落ち込んでいると母親から聞いていたのだ。
(あかね)何も言えなくなっちゃうんですよ。
(青砥)分かった分かった。
そういう子いるよ。
だからそんな心配する事ない。
うわこわっ…。
中学で一番頑張った事みたいな感じ。
特に頑張った事か。
そういうのが入ってて。
同じ質問をするよ。
中学であなたが一番頑張った事は何ですか?はいえっと…。
不登校だったあかね。
中学の思い出が浮かばない。
じゃあね高校へ入ったら一番頑張ってみたいなと思う事はどんな事ですか?はい…。
(青砥)一つ言えばいいんだよ。
例えば実は私は学校へあまり行けてなかったんだけど絵が好きだから絵の勉強をいろいろしてましたとかね。
(あかね)ああなるほど。
そういうふうに言っちゃえばいいんですか。
いいんですか?それ。
えっ…。
(青砥)割と気楽だろう?えっいいんですか?
(青砥)いいよ言って。
たくさん絵を描けるっていうのが楽しみだとか。
いいんですか?全然いいよ。
いいに決まってるじゃん。
何でいけないんだよ。
何となく。
だから何言ってもいいって言ったじゃん。
大体分かってきただろう?やり方が。
何かよかった。
(青砥)よかったよかった。
ありがとうございます。
「あかねはいつだって頑張ってきた。
自信を持っていい」。
青砥さんがあかねの背中を押した。
こんにちは。
入試が2日後に迫ったこの日。
追い込みだよ今日は。
(あかね)はい。
新村さんとラストスパートをかける。
この1年間60回を超える学び直しに新村さんと共に挑んできた。
プラネタリウム見た事ある?新村さんがメッセージを贈ってくれた。
(あかね)「体調」。
(新村)「体調」だよ。
はいこれだけ。
宿題です。
ありがとうございます。
じゃあマスク着用だ。
(新村)マスクねもう一つあげようか。
アハハ!
(新村)体調に気を付けて。
ありがとうございます。
(新村)1年間頑張ったから。
よく頑張ったよね。
お疲れさまでした。
(手をたたく音)
(あかね)これがお守りだ!
(新村)フフフ…。
そして最後の面接練習。
失礼します。
(青砥)OK!じゃあお掛け下さい。
前回は言葉に詰まってしまったあかね。
こっちに立って。
左か。
そうそう。
そこでいい。
高校へ入って一番今やりたい事は何ですか?はいえっと…全部やってみたいんですけど一番やってみたい事は美術部に入って制作する事です。
私は絵が好きです。
もっと上達したいと思っています。
それでこの学校に頑張って通いたいと思っています。
(青砥)はい分かりました。
ご苦労さまでした。
最後ねあれいいよね。
「私は特に絵が好きです」というのと「もっと上達したいです」というのとそれから「頑張って学校に通いたいです」っていいよ。
すっごくいい。
それが一番響くよね。
でも一番破裂しそうでした。
(青砥)何で破裂しそうなんだよ。
超恥ずかしい。
(青砥)いや恥ずかしくないよ。
何でだよ。
いいよ!2日間にわたる入学試験初日の朝。
1週間後。
受かりました!ああもう…。
(取材者)おめでとう。
よかった〜。
よかった!ああよかった!はぁ…何かほっとしました。
すぐに青砥さんに報告する。
もしもし。
すみませんお忙しいところ。
今合格発表を見に行って合格してました。
ありがとうございます!エヘヘフフフ…。
「よかった」って。
「涙出そう」とか言ってた。
たまり場毎年恒例のお花見だ。
満開の桜の下あかねが誰かを探している。
あっいた!分かんなかった。
おめでとう!おめでとう!よかった!ほんとにありがとうございました。
いいえどういたしまして。
頑張ったよねよくね。
ほんとによかった。
青砥さんは訪ねてきた若者と話をしていた。
ホステスのアルバイトをしていたさきだった。
指先のマニキュアを落としてきていた。
(青砥)そうだよな。
そりゃいっぱいいっぱいになるよ。
(さき)はい。
夜の仕事を辞める決心をして昼の新しいアルバイトを見つけたという報告だった。
やっぱり当面はあれだよ。
(青砥)体に気を付けてね。
(さき)はい。
あかねの家。
合格した高校から新学期の支払いの書類が届いた。
えっ?うんそっか。
(はるえ)2枚頼んでおく?できれば。
いい?
(はるえ)うん。
高校3年間の教育費は授業料を除いても公立でおよそ115万円。
お金がないと教育の土俵に立つ事すら難しい今の日本。
青砥恭さんは今日も呼びかけ続ける。
もしもし代表の青砥といいます。
息子さんの事で今最近来ておられないのでどうなさってるかなと。
どうなさってます?…ええ。
来て頂ければね応援できるんですよ。
ええお金要らないし。
もう是非来て頂ければねとても気になってるのでその後ね。
ああそうですか。
うんうん。
ええ。
あのね来て下さればね…。
2014/10/04(土) 00:00〜01:00
NHKEテレ1大阪
ETV特集 アンコール「本当は学びたい〜貧困と向き合う学習支援の現場から〜」[字][再]
貧困は今、学力格差や不登校、高校中退など子どもや若者に深刻な影響を及ぼしている。学び直しの場を作り、彼らを貧困から抜け出させようとする元高校教師の取組みを追う。
詳細情報
番組内容
子どもや若者の「貧困」が、学力格差や不登校、高校中退などを引き起こし、「学び」に深刻な影響を及ぼしていることが分かってきた。元高校教師の青砥恭さん(65歳)は3年前、貧困にあえぐ若者たちに「学び直しの場」を提供するためのNPOを設立した。学ぶことを通して、「居場所」や人とのつながり、そして自信を取り戻させようとする青砥さんの取り組みと、若者たちの思いを見つめる。6月14日放送の番組をアンコールで。
出演者
【出演】さいたまユースサポートネット代表理事…青砥恭,【語り】山本耕史
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32721(0x7FD1)
TransportStreamID:32721(0x7FD1)
ServiceID:2056(0x0808)
EventID:9082(0x237A)