クローズアップ現代「復興コンパクトシティ 〜被災地が描く未来のまち〜」 2014.09.16

津波で住宅が流された被災地の沿岸部。
そこから内陸に2km。
今新たなまちづくりが進められています。
自宅を失った人などが移り住むこの町。
学校やスーパーなどさまざまな機能を集約したコンパクトシティです。
深刻な人口流出にあえぐ被災地が存続を懸けてまちづくりを進めています。
被災地の苦渋の選択。
全国の自治体から注目を集めています。
復興を懸けた被災地の取り組み。
これからのまちづくりを考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
少子高齢化による人口減少そして自治体の財政悪化。
これらを見据えそれでも活気ある住民一人一人の幸福度の高い町をどうやってつくっていくのか。
遅かれ早かれ全国の自治体が直面する課題です。
この課題を先取りする形で真っ向からこの3年半向き合ってきたのが大津波で壊滅的な被害を受けた被災地の自治体です。
特に人口の減少は震災後著しくご覧のように岩手県宮城県の沿岸部の自治体の人口は震災前の2010年と比べると仙台市などの一部を除いて軒並み大幅に低下し中には20%を超える自治体もあります。
更に2040年になると40%近く減る自治体が続出すると予想されています。
急速に進んだ人口減少と自治体の体力低下。
大震災から5年間平成27年度末までは集中復興期間と位置づけられ土地の造成防災集団移転などにかかる費用はほぼ100%国が負担する事になっているため被災した自治体は強い意気込みでまちづくりの計画作りに取り組んできました。
そして多くの自治体が今町の規模を小さくする。
それでいて活力を保つコンパクトシティを目指しています。
公共施設や商業施設住宅などを集約する事で安全で住みやすく持続可能な町を目指そうという方向です。
計画作りに大事なのが住民の意向です。
しかし復興が遅くなれば生活再建を急ぎたい地域の住民が離れる懸念もあり自治体はスピードも重視せざるをえません。
これまで住民といわば一から町をつくった経験がない自治体の復興コンパクトシティづくり。
そのプロセスは住民にとって魅力的な町に向けて住民参加の在り方を考えさせるものです。
初めに復興のスピードを重視したまちづくりを進める宮城県山元町の取り組みからご覧下さい。
仙台市から車で1時間。
宮城県山元町です。
震災の津波で町の面積の1/3が被害を受けました。
震災前に比べ人口は20%以上減少。
一刻も早くそれを食い止めようとまちづくりを急いでいます。
津波で自宅を流された…今も町を離れて避難生活をしています。
震災前に暮らしていた海沿いの笠野地区ではほとんどの住宅が流されました。
嶋田さんは去年地区の住民34世帯の意見をまとめ津波の心配がない高台に集団で移転しようとしました。
嶋田さんは移転にかかる費用などを支援してほしいと町に求めましたが認められませんでした。
町が進める計画に合わない要望だったからです。
震災前の山元町の映像です。
沿岸部には特産品のイチゴのハウス。
周辺に住宅が点在していました。
このエリアは再び津波のおそれがあるため町は震災の年の11月に住宅の再建を制限しました。
人口流出が進む中町の規模を縮小せざるをえないと移転先を内陸の3か所に限定したのです。
このうちの一つ縦1km横400mのエリアに550の住宅を整備します。
駅を中心に歩いて10分圏内には商業施設小学校保育所などの子育て施設をそろえます。
このエリアに移転してくる人には補助金を出すなど優遇する一方で嶋田さんのようにそれ以外の土地に移転する人には自己負担を求めました。
町がコンパクトシティを選んだもう一つの理由。
それは厳しい財政事情です。
町じゅうに張り巡らされた水道。
人口が減る中維持費が大きな負担となっており震災前と同じ規模で維持し続ける事は難しくなったのです。
すいませんね何度もね。
どうもね。
コンパクトシティの完成を期待している…仮設住宅からスーパーや病院までは5kmほど離れているため車を持っていない岩佐さんはタクシーを使わざるをえません。
1か月の交通費は多い時で2万円に上ります。
人口流出を食い止めるためのコンパクトシティ。
ところが今思わぬ事態が起きています。
移転を希望する人が想定の2/3にとどまっているのです。
町の特産品イチゴ栽培を手がける…新しい町は今年5月に再建したハウスから4km離れています。
町はそこから車で通うよう求めていますが渡辺さんは天候の急な変化にも対応するためこの近くで暮らしたいと考えています。
渡辺さんは新しい町には移らずイチゴハウスの近くに自力で再建する事を選びました。
しかし道路を造るのに町から補助は出ず自分で整備しなければなりません。
住民の合意を得る難しさを抱える山元町。
1年半後の完成を目指しコンパクトシティの建設を急ピッチで進めています。
今夜は都市計画がご専門でいらっしゃいます東北大学准教授姥浦道生さんをお迎えしています。
被災地でまちづくりのアドバイスをずっとされてきている訳ですがこの間3年半を経て住民の意見を聞くそしてその声を反映させるという事の難しさどのように感じていらっしゃいますか?被災者の方々もご意見は一つではなくてさまざまな背景やご意見を持っていらっしゃる訳ですね。
ただ作らなければならない計画というのは一つですのでそこにどうまとめていくのかが非常に難しいですね。
我々がやっぱりつくらないといけないのは長期的に見て数十年後にあの時大変な震災があったけれどもこういう復興をしたんだという長いスパンで見ていいまちづくりだったなと言えるようなものをつくれるかどうかがポイントでその意味ではその第一歩である今の住民の方のご意見も非常に重要ですしそれから長期的に見てどうなるのかという客観的な視点も必要ですしその辺りのバランスをどうとるのか。
ですから今の住民の方のご意見をまとめる事も重要ですし長期的な観点も重要という事でさまざまな観点を含めなければならないというところが難しいところです。
長期的に見てよかったという事の一つが人口が今どんどん減ってる中でなんとか人口減少も食い止めなければいけないという点ですと早く復興しなければいけないあまり時間をかけられない。
しかしやっぱり耳を傾けたり考えたりするためには時間がかかる。
自治体にとって大きなジレンマでしょうね。
住民の方の意見を聞きながらゆっくり丁寧にというのが本来のまちづくりの在り方なんですけれども被災地の復興ではやはり一日も早くという声が非常に強いです。
特に被災直後はその声が非常に強かったですね。
ですから行政の方も一日でも早くつくるという事でなかなか住民の意向を丁寧に聞くというプロセスが難しかったですしそれからそのプロセスを経ようとすればするほどどんどん住民の人たちの意向が時間によって変わってきますのでその辺りを丁寧に押さえる必要が出てくる訳です。
特にその住民の方々が今まで現地で再建しようと思っていた方々が時間がたつにつれなかなかそれが難しいという事が分かってきたりだとかちょっと思うような計画ではなかったという事もあって別の所で再建しようと思われる方も出てきている訳で…。
そのような方々のご意見を含めようとするとまた時間がかかってしまうという事でどんどん悪循環に陥る可能性もある訳でその辺りをどこで見極めてどこでつくるのかが非常に難しいところですね。
アンケート調査をしたりあるいは計画が出来た段階で説明したりするなどして意向を集約しようとする傾向が強いという事ですけれども今のリポートを見ますと出来た計画に沿ってそこに住もうという方には非常に負担の少ない形で移転する事ができる。
一方でその枠の外そこの計画には乗らないという方にとっては非常に自己負担が大きい状況になっていますけれども…。
とりわけその基幹産業であるイチゴの栽培などに携わってる方々からするともう少し耳を傾けてほしいなという思いは強いでしょうね。
行政の側からするとコンパクトの町をつくりたいと。
これは行政の支出をどれだけ減らすのかという観点から非常に重要な観点です。
行政の支出を減らすという事はこれは将来的な住民がメリットを受けるという事ですのでこれは住民にとっても非常に大きな事ですね。
そういう事がある一方でコンパクトな町そこに全てつくればいいのかというとそうではなくてさまざまな産業を維持するという事も当然重要な訳です。
産業というのはこれは支出を減らすという意味ではなくてむしろ自治体の収入を増やすという意味で非常に重要でコンパクトなまちづくりというのはどうしてコンパクトなまちづくりをするかといいますと住民の人たちが幸せに暮らせる長期的に幸せに暮らせる町をつくる訳でその意味では産業をちゃんと再生させるという事も非常に重要な訳ですね。
ですからその辺りのバランスをどうやってとっていくのかという事が非常に重要である程度コンパクトな町をつくるために濃淡をつけざるをえないと。
自治体をこちらにはかなり補助はするけれどもこちらに補助はちょっと少ないですよというのはやはりしかたのない事だと思うんですけれどもそれを産業という観点からもう少し別の観点からそこでの生活の質を保っていくために行政ができる事もいろいろあるでしょうしそれから住民の側から自分たちでできる事もいろいろあると思いますのでその辺りをどうバランスをとっていくのかという事が今後の課題かと思います。
続いては時間がかかってもじっくりと住民の声に耳を傾けながらまちづくりを行おうとしている自治体です。
中心部の大半が津波に襲われた宮城県女川町。
ここでもコンパクトなまちづくりが進められています。
町の中心となる駅の周りに役場病院学校更に商業施設を集めます。
その周辺に1,000戸余りの住宅を造る予定です。
女川町はまちづくりに住民の意向を積極的に取り入れようとしています。
特に重視しているのが将来の町を担う若い世代にとってどれだけ魅力ある町をつくれるかという事です。
女川町は住民の意見をまちづくりに取り込む独自の仕組みを作っています。
まちづくりの会議には町長や全ての課長だけでなく住民も参加します。
町は住民から出た意見を採用するかどうかの結論を先送りにせずその場で判断します。
更に工事業者も同席しています。
住民の意見をどう実現できるか技術的な課題もその場で検討します。
住民参加を形だけにせず主体的に考えてもらおうとしているのです。
コンパクトシティをつくるにあたり学校の統合を提案したのも子どもを持つ親たちでした。
震災前町には3つの小学校と2つの中学校がありましたがそれぞれを一つにまとめようと町に働きかけたのです。
後藤さんをはじめ住民の多くが当初学校の統合には反対でした。
その後後藤さんたちは全ての学校の保護者と定期的に集まり話し合いを続けました。
そして町全体の将来を考えると統合せざるをえないと町に提案したのです。
町は学校の運営についても後藤さんたちと話し合いを続けています。
小規模でも充実した教育を受けられる小中一貫校をつくる事を検討しています。
しかしさまざまな住民の意見に耳を傾ける事は手間も時間もかかり時には復興の遅れにもつながりかねません。
町の中心を流れる女川。
川を管理する宮城県は2年前津波防災のため河口から上流まで護岸をコンクリートで固める計画を示しました。
(歓声)これに対し住民からは上流では子どもが水遊びできるようにしてほしいと意見が出されました。
町はこの意見を取り入れようとしていますが設計の変更に時間がかかり工事が始まるめどは立っていません。
女川町の人口減少率は30%に達し被災地で最も高くなっています。
住民の意見を取り入れ時間をかけてでも町民が残りたい町をつくる事ができるのか。
難しい課題を抱えながら女川町のまちづくりが続いています。
住民が参加しながら決定に本当に直に関わっていくプロセスを通してもともと学校の統合には反対だった保護者の方々が自ら統合を提案をされた。
この変化をどのように受け止めてらっしゃいますか?はい。
住民の側も行政に任せていられないという部分があったのかもしれませんしそれだけ被災によってせっぱ詰まってきている状況もあるのかと思いますけれども。
いずれにせよ当事者意識というものを非常にお持ちになって…。
それで自分たちの問題だと。
どうしようという事を積極的に提案するという形になってきたと。
ですから単純に「反対反対」とか「何をつくって下さい」という話ではなくて行政にお願いするというだけではなくて自分たちの問題としてそれを捉えて自分たちの問題として解決していこうというこの部分は非常に積極的な動きとして評価できるのではないかというふうに思います。
そもそもまちづくりは行政だけではできないものですよね。
そうですね。
今までのまちづくりというのはどちらかというと行政が何か箱物を造ると。
それは出来た段階で住民が初めて見るという事もしばしばあった訳ですけれども。
そうではなくて住民と行政が早い段階でタイアップしながら信頼関係をつくっていくと。
それで一歩ずつちゃんとお互いに情報交換をしながら共通の認識を持ちながら進んでいくというところがまちづくりでは非常に重要ですし…。
そもそもまちづくりというのはやっぱり行政に任せていてうまくいったまちづくりというのはない訳でしてやはり住民の側がどれだけ自分たちの問題だというふうに捉えてこのまちづくりを行っていくのかと…。
これは被災地でも当然重要な問題ですしそれから今後のほかの日本の全体でも同じ問題かと思います。
でも丁寧な聞き取りというのも大事でしょうね。
そうですね。
行政の側が待っていてそれで住民の側から言って下さいというのではなくて行政の側からは住民の側に話を聞きに行くと。
それから住民の側も行政の側に話を聞きに行くと。
お互いがそういうやり取りをするという事が非常に重要でしてお互いが壁をつくっていてはうまいまちづくりはできないという事ですね。
本当の意味の住民参加とは何か。
非常に難しいところですけれども単純に意見を聞くと。
それで話を聞きましたのでおしまいというのではなくてやはり早い段階から住民と行政が一体となって…。
単純に参加するのではなくて一緒につくっていくというそういう実質的な参加というものをしていくという事が非常に重要だと思います。
今日はどうもありがとうございました。
東北大学准教授の姥浦道生さんと共にお伝えしました。
これで失礼致します。
2014/09/16(火) 19:30〜19:58
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「復興コンパクトシティ 〜被災地が描く未来のまち〜」[字]

震災から3年半。人口減少が進む被災地では「命を守り、人口が減っても活力を持つ」コンパクトシティの建設が本格化している。そこから、全国のまちづくりのヒントを探る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】東北大学准教授…姥浦道生,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】東北大学准教授…姥浦道生,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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