今不登校の子どもが増えています。
今年の調査では小中学生合わせて前の年より7,000人多い12万人。
原因として注目されているのが朝起きられない日中眠いといった睡眠の乱れです。
子どもの睡眠専門の病院には全国から眠りの悩みを持つ子どもが集まってきています。
背景にあるのは子どもの夜更かし傾向が進んでいる事。
勉強や部活に加えインターネットが影響していると見られています。
不規則な睡眠が続くと子どもの脳に深刻な影響を与える可能性も指摘されています。
常に疲労感が抜けず記憶力や集中力も低下するといいます。
今子どもたちの睡眠に何が起きているのか。
「リハビリ・ケア新時代脳からの挑戦」3回目は子どもたちの間で広がる睡眠障害を脳科学から考えます。
ハートネットTV「シリーズリハビリ・ケア新時代脳からの挑戦」。
今日が第3回です。
学校へ行けない状態が続く不登校の小中学生の数は今全国でおよそ12万人。
前の年より7,000人増えています。
こちらご覧下さい。
文部科学省が今年不登校の実態調査をしました。
その結果です。
不登校になったきっかけとして友人関係の次に多いのが朝起きられないといった生活リズムの乱れ。
34%と3人に1人が挙げています。
不登校の隠れた要因として今大きく注目されています。
睡眠の乱れが進むと睡眠障害と呼ばれる状態になりますが実はその時脳の働きに深刻な問題が生じている事が分かってきました。
なぜ子どもたちが睡眠障害に陥ってしまうのか。
まずはその実態からご覧頂きます。
(取材者)こんにちは。
お世話になります。
神戸市に住むサトシくん。
中学1年生です。
サトシくんは朝全く起きられない日が続き学校を休みがちです。
異変が起きたのは小学5年生の時。
眠く疲れた状態が続き遅刻や欠席が多くなりました。
低学年の時から深夜0時過ぎまで起きていたというサトシくん。
高学年でインターネットを使うようになり更に夜更かしするようになりました。
ネットツイッターとラインとユーチューブを…ネット上の友達が増え深夜3時ごろまでメッセージをやり取りする日々が続きました。
そんな状況を見かねて母親は夜の間機器の使用を禁止。
サトシくんも早く寝るように心掛けました。
しかし崩れた体のリズムは戻らず日中眠くてだるい状態が続いているといいます。
宿題をしようと机に向かいますが頭が回らず進みません。
学校の成績も落ちてしまいました。
内科を受診しましたが一時的な自律神経の乱れと言われ効果的な改善策は見つかりませんでした。
そんなサトシくんが今年から通い始めたのが…国内で数少ない子どもの睡眠に特化した病院です。
サトシくんの睡眠記録です。
黒い所が寝ている時間。
朝や夜に関係なく寝起きしている事が分かりました。
概日リズム睡眠障害と診断されました。
本来夜になると脳から眠りを促すホルモンが朝が近づくと目覚めさせるホルモンが出ます。
しかし概日リズム睡眠障害ではこれらのホルモンが減りピークもずれる傾向にあります。
朝体を目覚めさせる事ができず眠い状態が続くのです。
この病院にはサトシくんのように睡眠に深刻な悩みを持つ子どもたちが全国からやって来ます。
その数は年々増加。
診察は2か月待ちの状況が続いているといいます。
病院に駆け込む睡眠障害の子どもたち。
きっかけはインターネットによる夜更かしとは限りません。
中学2年生の…中学に入って間もなく突然朝起きられなくなりました。
1年間学校に行けない状態が続き1週間前に入院しました。
一日中ぐったりとした疲労感が続き夜は眠る事ができないといいます。
原因は分かりませんでした。
なぜ疲れているのによく眠れないのか。
病院ではミナミさんの全身を脳波や血液などさまざまな角度から検査しました。
その結果これまで見えてこなかったミナミさんの睡眠の実態が明らかになりました。
一日の体温を測定したところ夜寝る時に下がるはずの体温が下がらず一日中同じ状態にある事が分かりました。
(田島)その点は割と納得しやすいかもね。
クールダウンできない体を休ませようと自律神経が過剰に働いていた事も分かりました。
体温が下がらないのはなぜか。
それは脳の検査で明らかになりました。
ものを見て反応する時の速度や集中力を測る検査です。
目の前の画面には○と×が表示され○の時だけボタンを押します。
その時の脳波を測定します。
下向きの波形は脳が緊張している事を示します。
よく見るとミナミさんは○の時だけでなく×の時も同じように神経を使っている事が分かりました。
寝ている時も脳の緊張が続き体温が下がらないのではないか。
常に気を遣って一生懸命なミナミさんの性格が無意識に体を追い込んでしまったのではと医師は指摘します。
(田島)そんなふうに思った事ない?あんまりピンと来ないんだね。
これまでの睡眠不足の蓄積も原因の一つでした。
もともと寝る時間は遅かったというミナミさん。
更に中学に入ると深夜まで勉強し朝6時には部活に行く日々。
無理を続けた事が睡眠の乱れを引き起こしたのです。
スタジオには先端科学と社会をつなげる活動をしているサイエンスコミュニケーターの内田麻理香さん。
そして子どもの睡眠の問題に詳しい小児科医の三池輝久さんにお越し頂きました。
よろしくお願いします。
(2人)よろしくお願いします。
まずは映像の子どもたちの現状ですが内田さんはどうご覧になりました?身近な病気だなとまずは感じたんですけれどもそれはなぜかと言いますと友人のお子さんが睡眠障害で悩んでらっしゃったというのがあったんですがただここまで症状が重くて眠れないっていう事で入院される患者さんがいる事は知らなくて驚きました。
三池さんは実際に数多くの睡眠障害の子どもたちを診察されていますけども現場でどんな事を感じています?
(三池)この問題は増える一方だろうと思います。
インターネットという事が加わってきましたので子どもたちはますます夜更かし型になりますし寝る時間が減少してくる。
ですからこの問題は増えこそすれ減る事はないだろうと思います。
子どもにとって睡眠というのは本当に重要なものなんですね。
これは子どもの脳を作り育て守るという働きを持ってますからこれが欠乏するというのは子どもの発達の問題を作り出すようなものだと思います。
実際どうなんでしょう?どんな子どもが診察に来ているんでしょう?先ほどの話にもありましたけど皆さん頑張り屋なんですね。
頑張り屋?寝ないで宿題を頑張って学校行って部活も朝練を頑張ってというようなですね。
そういったもう本当に頑張り屋。
学校に行けない不登校状態っていうのは皆さん怠けだと思ってるかもしれませんけど基本の子どもたちというのは非常に頑張り屋真面目な方たちが多いですね。
期待に応えようとね子どもたちが頑張っているけども睡眠障害に陥ってしまうと。
そんな睡眠障害の子どもたちなんですが脳機能が低下していると言っていいんでしょうか?脳機能はやはり低下していると思います。
思考力も落ちてますし。
それとやっぱり非常に疲れを…。
先ほどもありましたけど疲れを訴えるんですね。
この状態は1つの診断で説明つけられるようなあるいは解釈できるような状態ではなくて全身の問題。
ですから小児の慢性疲労症候群というような捉え方でものを見ていかないと本当の理解は難しいのではないかと思います。
慢性疲労症候群と。
この慢性疲労症候群というのはどういったものか簡単にですが説明します。
極度に疲れた状態が6か月以上続いて起き上がれなくなったり激しい頭痛が起きたりする原因不明の病気です。
ひどい場合は寝たきりにもなってしまいます。
今年4月神戸市にある理化学研究所が慢性疲労症候群の患者の脳を調査しました。
健常者と比べて脳神経の炎症反応が広く見られる事を突き止めました。
その結果記憶力や認識能力が低下してしまうという事です。
これは大人を対象にした結果ですけれども。
子どもの場合も同様の結果が出ていまして脳血流の低下であるとかこれも確かめられていますしそれからWISC等の知能テストっていうのがありますね。
そういうのをやってもやっぱり若干下がっている。
回復に従って元に戻っていくという事もありますので認知力その他脳機能は明らかに混乱しているという状態にあります。
その乱れた体内のリズムをどのように取り戻すのか。
小児睡眠外来での治療を取材しました。
睡眠リズムを崩してしまった…ここにはミナミさんと同じように睡眠障害のある子どもが20人近く入院しています。
朝ラジオ体操で一日が始まります。
体を動かす事は目覚めを促す重要な要素です。
病棟ではゲームや携帯など電子機器は一切禁止。
夜は9時に消灯という規則正しい生活を送ります。
(ホイッスル)皆ここに来る前は学校には行けず家に閉じ籠もりがちでした。
およそ2か月間同じような境遇の仲間と過ごす事で再び社会に出るための準備をします。
この病院では睡眠リズムを回復させる特別な治療が行われます。
朝の光治療です。
ミナミさんは朝6時から2時間昼間と同じ程度の光を体に浴びます。
光は目覚めのホルモンの分泌を促すと同時に眠りのホルモンの分泌を抑えます。
更に病院内には治療用のサウナも完備。
60℃のサウナに15分入る事で体温を上げ停滞している体の活動を呼び起こそうというのです。
基本的には睡眠障害の子どもたちっていうのは自律神経の機能の方がやっぱり支障を来すのでそれを少し刺激して元に戻せればいいかなっていう事ですけどね。
(取材者)どうだった?体の中は温まる感じする?入院から1週間。
昼夜逆転していたミナミさんの起床と就寝の時間は通常のリズムに近づいてきました。
病院の治療は睡眠リズムを戻すだけではありません。
再び生活を崩さないよう今後どう自分の体と向き合っていくか話し合います。
これまでなかなか将来が見えなかったというミナミさん。
医師と話すうちに今の目標を打ち明けました。
是非子どもの将来の希望をかなえさせてあげたいなと思いますけども内田さんどうご覧になりました?不登校がこれまで心の問題本人の怠けだとか親のせいだとかそういうふうに精神的な問題として扱われてきてましたけれどもこのように科学的なアプローチを通して体の問題だとか病気というふうに認識される事も大事だと思いますしそのような事を私も伝えていきたいなと思っております。
その事によって子どもや家族も少し楽になれるというか目標が決まりますよね。
その辺りどういうふうに?ご家族もご本人も何か原因が見えてきたという事でちょっと変わりますね。
それとこれまで学校なんかどうでもいいと思ってた人がやっぱり必ず学校に戻りたいと言いますから学校嫌いじゃないんですよね。
そういう意味では入院生活によってかなりまとまった脳の機能といいますか考えがまとまっていくというところがいいのではないかなと思います。
入院する必要性は大いにあると。
一方でじゃあ完全にこの睡眠障害が治るかっていったらどういうふうに考えればいいんでしょうか?時間をかけてじっくり…周りもそのつもりでやって頂ければ治ると思います。
ただ早く元気になって早くやりなさいみたいな事が入ってくると本人もまた真面目な人たちですから頑張り過ぎて問題が起こるという事もありますね。
ちなみに子どもの時に睡眠不足や睡眠リズムの乱れが蓄積してしまうと何か大人になってから影響が出てくる事ってあるんでしょうか?将来的に糖尿病の素質のようなものを作ってしまうんじゃないかとか免疫機能が落ちてしまうのでがんとかそういった成人病なんかにも関係してくるのではないかなという不安は持っております。
となると子どもの頃になんとか睡眠障害があるかどうかという診断というか判断ができればいいなとは思うんですけどね。
ですからご自分の子どもさんの生活の有り様というのをやっぱり観察しておいて頂く必要がありますよね。
それで一番手っとり早いのは睡眠表というのがあるんですけどこれを2週間つけて頂いて。
土曜日曜日休日に長い事起きてこないとか学校から帰ったらすぐ寝てしまうという状況の場合はもう睡眠不足が明らかにあるという事なので日頃の生活を見直して頂くという事で予防できると思います。
そういうサインを見逃さないという事ですね。
大事だと思いますけども。
…とは言ってもね内田さんなかなか…早寝早起きは大事だと分かっていても難しいって事あると思うんですけどね。
私自身早寝早起きが苦手でどんどん夜型になってしまうんですけれどもただこれ子どもと大人で一緒に考えちゃいけないんですよね。
睡眠というものに関しては子どもの脳ってものすごい勢いで発達してますでしょ。
それを支えていくものなんですね。
大人の場合はもうほとんど完成した脳の話なんですね。
ですから子どもの睡眠と大人の睡眠をごっちゃに考えてしまうと全く理解できなくなってしまいます。
これは全くの別物。
子どもの発達の脳を支えるというこの睡眠が大事だという事をしっかりと理解して頂きたいなと思います。
「寝る子は育つ」と言いますけどもどうなんでしょう?これ。
いや…実際上はそのとおりだと思います。
これは否定できませんし先人のことわざというのはすごいなと思います。
実際科学的にもそういう事がいえるのかもしれませんしね。
「三つ子の魂百まで」。
2歳3歳までのうちにしっかりとした生活リズムを作っておいてあげる。
これがこれからの大人の役割の一つかなと。
子どもを持つ親としてはもっと早くこういう事を知りたかったなという気持ちにもなるんですけれどもそもそもじゃあこういう事をみんなでしようとか地域で何か啓発活動を行っているだとかそういう例というのは今日本であるんでしょうか?数か所…2〜3か所で私たちが関わっているものはあります。
ですけどこれが組織的に全国的な流れとはまだなってないんですね。
青森県の三戸であるとかそれから福井県の若狭町という所で睡眠表をつけて頂いて評価してそしてご家族に面談をして子どもさんたちの生活リズムを守って不登校にならないように睡眠障害にならないようにという工夫をしています。
それによってかつて5%以上だった不登校率を1%程度に抑える事ができたというのがあります。
この睡眠に関しては知らないと将来日本って社会の大きな損失になるのではないかと…。
そう思いますね。
教育の機会も失われてしまいますし本当に意欲のある子がそのように無気力な状態になってしまってそれで起きられないという事はそれこそ将来日本に随分関わってくるのではないかなと心配ですね。
子どもだけの問題ではない家庭だけの問題ではないと三池さんそういう事ですよね?これは本当に心配しなければいけない状態だと思います。
国を挙げてこの問題には取り組んで頂きたいなと思っております。
今日まで3日間にわたって「リハビリ・ケア新時代脳からの挑戦」と題してお送りしました。
今月下旬に「反響編」として放送します。
皆さんからの感想ご意見お待ちしております。
どんどんお寄せ下さい。
今日はどうもありがとうございました。
2014/10/02(木) 20:00〜20:30
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV リハビリ・ケア新時代 脳からの挑戦3▽子どもの脳からのSOS[字]
脳科学の進歩で変わりつつあるリハビリやケアを伝えるシリーズ。第3回は睡眠障害で日常生活が困難な子どもたちに注目。睡眠習慣を改善し脳を休ませる治療現場に密着する。
詳細情報
番組内容
「福祉×脳科学」の可能性とそこから見える課題を特集するシリーズ。第3回は睡眠不足や睡眠リズムの崩れで、朝起きられなかったり日中だるくて疲れやすくなったりと日常生活が困難になった子どもたちに注目。不登校の児童・生徒たちを多く診察してきた医師は、彼らのほとんどがしっかり睡眠をとれておらず、脳機能のバランスが乱れた状態であると指摘。子どもの睡眠障害と脳への影響を見つめ、不調を未然に防ぐための方策を探る。
出演者
【出演】サイエンスコミュニケーター…内田麻理香,子どもの睡眠と発達医療センター特命参与…三池輝久,【司会】山田賢治
ジャンル :
福祉 – 障害者
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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