クローズアップ現代「急激な円安で何が…」 2014.10.02

きのう1ドル110円台をつけた円相場。
この2か月で8円も円安が進みました。
私たちの暮らしに影響が出始めています。
第2次安倍内閣の発足をきっかけに続いてきた円安。
株価が上がり、大企業を中心に業績を押し上げてきました。
その一方で、さまざまなひずみも生み始めています。
原材料の輸入価格が上昇。
多くの中小企業の経営を圧迫しているのです。
急速に進む円安。
日本経済は今後どうなるのか考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
きのう6年1か月ぶりに一時1ドル110円台まで値下がりした円相場。
きょうの東京外国為替市場は円が買われる展開で1ドル108円台後半の値動きでした。
円相場はこの2か月間でおよそ8円も円安が進んでいまして政府や経済界からも急激に為替が動くことは、日本経済にとって好ましくないという声が出始めました。
緩やかな回復基調にあると見られている日本経済。
円安で日本製品の競争力が高まり輸出が増えることで経済を押し上げると期待されてきましたが輸出は期待ほど伸びていません。
また円安による食品や原材料の値上がりが、家計や中小企業の経営に悪影響をもたらしています。
きのう発表された9月の日銀の短観では大企業の製造業の景気判断は2期ぶりに改善していますが中小企業を中心に景気判断は悪化しています。
日本経済に及ぼす円安の光と影。
プラスの面とマイナス面のバランスがマイナス方向に傾くのはどのレベルなのか。
円安基調が続く中で悪い円安の影響を防ぐためどんな手だてが求められているのでしょうか。
つい3年前1ドル75円台という最高値を記録した円相場。
2年前、日本が大規模な金融緩和に踏み切るという観測から、一気に円が売られさらにことし8月下旬以降円相場は再び急落しました。
アメリカの中央銀行連邦準備制度理事会のイエレン議長がリーマンショック以降続けてきたゼロ金利政策の解除を前倒しすることもありうると言及したことを受けてドルが買われたのです。
急激に進んだ円安。
家庭や企業に広がる影響をご覧ください。
都内のスーパーです。
円安で輸入品の値上がりが相次いでいます。
オーストラリア産の牛肉の価格は、この1か月で2割から3割上昇。
カナダ産の豚肉も1割ほど値上がりしました。
牛乳も仕入れ価格が去年上がったといいます。
牛の餌となる飼料などの輸入価格が上昇したためです。
円安は大手を中心に、企業の業績を着実に回復させています。
先週、株価はことしの最高値を記録しました。
一方で、その恩恵は中小企業には必ずしも行き渡っていません。
従業員38人の鋳物工場です。
大手企業などに建設機械の部品などを納入しています。
円安が進んだ2年前から原材料が価格が値上がりし厳しい経営を強いられています。
特に、このひとつき材料の銅は、1トン当たり3万円値上がりしました。
この会社では、今年度は1ドル100円を想定して経営計画を立てました。
予想以上の円安によるコスト増を価格に転嫁できないか取引先の大手企業に要望していますがなかなか聞き入れられないといいます。
円安になったからといっても簡単には切り替えられないと。
価格転嫁を受け入れてくれたのは全体の1割およそ20社にとどまっています。
円安が急速に進んだ理由。
それはアメリカの金融政策が大きな転換点を迎えていることです。
リーマンショック後、アメリカや日本が行った大規模な金融緩和。
大量のマネーを市場に投入してきました。
その後、アメリカは経済が回復し今月中に量的緩和を終える予定です。
さらに来年にはゼロ金利政策も解除され金利が上昇するという観測が市場に広がっています。
ドルを買うため円が売られ一気に円安が加速したのです。
円安はどこまで進むのか。
フランスに本拠を置くこの投資ファンドは円安の流れは当分続くと見ています。
今週、会見を行った経団連の榊原会長。
急激な円安がさらに進むことに懸念を示しました。
今夜はマクロ経済がご専門でいらっしゃいます、経済産業研究所理事長の中島厚志さん、そして経済部、日銀キャップの安藤記者と共にお伝えしてまいります。
今、経団連の会長からも、急激な円安についての懸念がありましたけれども、今、この状況を中島さんはどう見ていらっしゃいますか?
確かに急激な円安といえると思うんですね。
というのは、輸入側のほうは、確かに円安になるといろいろ上がってくるというのはあるんですが、製造業、本来的には輸出側に立つところでも、今さっきありましたように、原材料費が早く上がる。
だけどなかなか売り値のほうには転嫁、遅れるということがありますから、そういう意味ですと、急激すぎるような円安というのは、必ずしもプラスにならないというところがありますね。
特に安藤さん、生活者の面からしますと、値上げラッシュのような雰囲気もありまして、何かこう、円安によりまして、輸入品の価格がどんどん上がっているという感じがするんですけれども、どんな状況になってますか?
そうですね。
物価とそして賃金の状況というのを見てみたいんですが、まずご覧になっていただきたいのは消費者物価指数の動向です。
こちら、日銀による大規模な金融緩和、去年4月から始まりました。
そして、この春の消費税率の引き上げといった状況で、最近では前年比で3%程度上昇が続いています。
増税の影響を除きますと、円安によって、輸入に頼っているエネルギー価格が上昇していることなどが、物価の上昇の要因になっています。
一方で賃金のほうはどうかということで、物価の状況も加味しました実質的な賃金の動向というのを、こちらご覧いただいていますが、マイナスが続いているという状況なんですね。
確かに円安の効果もあって、大企業を中心に収益は改善をしたと。
そのことで、例えばことしの春闘なんかでも、いわゆるベースアップといったものが実現したり、そういうことは起きてはいるんですけれども、これが増税の分、そして円安による物価の上昇の分、そういったところまでは、追いついていない、補いきれていない。
そして中小企業まで、広くその賃上げというものが行き渡っているかというと、それも、またそこまでは言い切れない。
そういった状況なために、生活者の立場からすると、物価ばかり上がっているというような実感を持ちやすいという状況だと思います。
企業収益が回復してますんで、全体で見ると、確かに賃金は上がってきてる、ベースアップになってるというところがあるんですね。
ただ、企業収益の上がり方を見ると、1人当たりの利益というのは、過去最高益といったようなところがありますから、本来はもっとできるということなんで、必ずしも企業がややまだ慎重なために、賃上げが追いついていないという面もあります。
それからもう一つは、企業規模別に見ると、同じ製造業でも中堅、あるいは大企業のところは、しっかりと円安、あるいは輸出増によって、利益を確保してるんですが、それが中小企業でも、小さいところになってくると、なかなか下請け的な業務のやり方の中で、値上げが通らない、その利益を、しっかりと円安の利益を得られないというところが出ているのが現状ですね。
なかなか値上げを求められないということで、相当明暗、大きいですか?
そうですね。
企業の規模ですとか、業種によって円安がどういう影響があるのかということを、一つの試算でご覧いただきたいと思うんですけれども、こちら大手銀行の調査、試算ですけれども、円安によって、仮に10円円安が進んだ場合に、企業の営業利益がどの程度増えたり減ったりしてしまうのかといったものを試算したものです。
ご覧のように大企業の多い上場企業全体では、1.9兆円のプラスの効果、利益を押し上げる効果。
一方で中小企業なんかを多く含みます非上場企業では、1.2兆円のマイナスの効果というものが出てしまうというふうに試算されています。
これはどうしてもやはり規模の小さい企業ですと、海外の事業の割合というものが低いですから、恩恵を受けにくいということだと思います。
また、業種別に、さらに見てみますと、この上場企業、プラスの効果を受けるんですけれども、さらにこれを業種別に見てみますと、機械・電気機器といったところがプラスの効果をより多く受けるのに対しまして、卸ですとか小売業、そしてサービス業といった、いわゆる内需中心の企業ですね、こういったところは、円安だけの影響で見ますと、マイナスの影響を受けやすいというふうに試算されていますね。
やっぱり輸出競争力は高まっているということですよね?これはやっぱり、円安によりまして。
そうですね、輸出中心な電気ですとか自動車といったような、企業にとってみれば、輸出の競争力を高める効果は期待できる。
どこまで出てるかということもありますけれども、実際には、海外で売ったもの、円のベースで見たら、円のベースで見ますと、押し上げられる、利益が押し上げられるという効果は間違いなく出ていると思います。
内需企業についても、ここ2年について言えば、利益を押し上げられているところがあるんですね。
ただ、ここ2年で見ると、円安と一緒に株高が進展しましたんで、ずいぶん株高によって、消費が、むしろ消費の意欲がまして、消費が出てきた。
その恩恵を、非製造業、受けているのは事実なので、したがって、従来のように、単に輸出型だから利益を取られる、あるいは輸入型、ないしは内需型だから利益は取れずに損をするということばかりでもなかったというのが、この2年の状況ではあるんですね。
ただ消費者の感覚からすると、賃金が同じように上がっているかというと、恩恵を受けている感覚っていうのはどこまで実感できる?
まさにそこなんですね。
ですから確かに、株高になって消費が出たといっても、あくまでも株を持ってる人って、必ずしもそう多くないんで、株高によって、これから景気、よくなるんじゃないか、消費意欲が盛り上がったというところの部分が大きいんで、やはり賃金が上がっておかないと、消費も息切れしてしまう。
それが残念ながら消費にちょっと出てきているというところに一段と円安が進んだという状況だと思います。
この円安による輸出の増加ですけれども、国内の景気が回復するという、この従来のシナリオが、それほど実現しない中で、今、企業は生き残りを図るため、新たなビジネスモデルの構築を迫られています。
海外に工場を積極的に展開することで円高を乗り切ってきた機械部品メーカーです。
売上高、年間21億円。
主力製品は家電や携帯電話などに使われる特殊なネジ。
日本の工場では、国内向けの付加価値の高いネジだけ生産。
ほかは、海外での生産に切り替えてきました。
これまでに中国、フィリピンタイに工場を建設。
円高の影響を受けないよう材料も現地で調達。
周辺の国に輸出してきました。
さらに、円高が進む中で海外で作ったものを逆輸入する仕組みも拡大しました。
ところが今急速に円安が進行。
この仕組みが裏目に出ています。
逆輸入していた部品の価格が3年前に比べ4割も上がったのです。
円安になった今、国内に工場を戻せば業績は回復しますがそれは難しいといいます。
一方、円高の時代に国内に残る選択をした、この企業。
厳しい状況に立たされています。
静岡県浜松市にあるこのメーカー。
地元の大手企業向けに楽器の防音材や断熱材などを生産してきました。
社長の前嶋文明さんです。
取引先が次々と海外へ拠点を設けていく中で日本にとどまる道を選びました。
いずれ円安になれば、取り引きが回復するのではないか。
しかしその期待は外れました。
一度、海外に拠点を設けた取引先は、円安になっても国内の生産を増やさなかったというのです。
どうやって生き残りを図るのか。
この日、前嶋さんは社員を集めました。
じゃあ、弊社のインドネシアの進出計画について説明をさせていただきます。
インドネシアに生産拠点を構えようというのです。
今後も国内での取り引き拡大が見込めない中、円安であっても海外に進出するべきだと考えたのです。
安藤さん、円高のときに、頑張って日本に残っていた企業は、この円安の局面で、海外に出ていく決断をする。
これ、どう見ますか?
そうですね、VTRでもありましたが、取引先が円安になれば、国内に回帰してくれるんじゃないかということを期待していたということがありました。
実際、こうした動きがどうなっているのかといいますと、歴史的な円高の節目が変わって、変化が見られてから、2年ほどがたちまして、大手企業の中には、一部には、海外での生産一辺倒ではなくて、国内での生産をまた増やそうといった動きも見られるんです。
例えばエアコンメーカーのダイキン工業、あと精密機器メーカー、キヤノン、電機メーカー、パナソニックといったところが、国内での生産も増やすことを検討しています。
ただ、全体として見ますと、こうした動きはまだ一部にとどまっているといわざるをえません。
端的に分かるのが、輸出企業の代名詞ともいわれてきた自動車産業なんですけれども、自動車産業の海外での生産比率、こちらご覧いただいてますけれども、60%から80%と、もう大半はもう、海外で作り上げる体制。
そして市場は海外で伸びていく市場がたくさんありますから、そういった市場に近いところで、ものを作って売っていくと。
そうすることによって、為替相場の影響にも受けないような強いような体制を作るといったことを進めてきたわけなんですよね。
いったん、そういった体制を作ってしまった以上、やや円安に戻ったからといって、そう簡単にまた国内回帰だといったようにはいかないっていうのが実情だと思います。
やっぱり空洞化というのが、ずっと恐れられてきましたけれども、円安局面になっても、それほど国内生産が、やはり増えていかないっていうふうにやはり見ていらっしゃいますか?
そうですね。
当初、円安が始まったときに、大いに期待したんですけれどもね、やはり2年半前の75円に達するような円高が、結構、企業の海外進出、海外での生産ですね、これを後押ししたということだと思いますね。
ですからこれは、もちろん円安が続けば、戻ってくる話なんですが、いずれにしろ時間がかかる話ですから、当面、急激に円安になったからといって、そこから生産が増えるということにはならないですね。
普通は、円安になれば輸出競争力が高まって、そして、輸出が増えるという構図だったわけですよね。
現状はどうなっていますか。
そうですね、そうしたまさに、かつての景気回復局面のように、外需主導といわれますけれども、輸出の数量が伸びて、そして輸出企業が潤って、国内での設備投資が増えていって、雇用や賃金が上がる。
そういったモデルを政府・日銀も期待していたと思います。
ただ今ご覧いただいたような輸出の数量ですけれども、期待していたほどには、輸出は伸びていない。
これは取材していました政府・日銀の間からも、誤算といったような声も聞こえてくる状況になっていました。
そういう誤算というか、本当に世界の貿易の、日本がこれまで稼いできた輸出で稼いできたモデルというのが、限界があるというのがはっきり見えてきた中で、どうしたらいいのか。
これは、従来とはちょっと違う対応だと思うんですね。
従来ですと、円安になったらまた国内から輸出が増えるということになるんですが、やはり、みんなそれぞれ各企業、ないしは産業として海外生産、現地販売という方向に動いてますから、そうなってくると、むしろ国内でそれを補う新たな産業を、どうやって育てるかということが1つありますし、さらには、物への輸出に期待するんではなくて、円安であれば、例えば観光で、訪日の外国人の方々増えるとかがありますんで、例えばそういう観光をですね、ですからサービスの輸出という言い方もするんですけれども、そういうものを強化していくという、いいチャンスということもありますね。
さらにこれ、むしろ日本自身見てみると、空洞化っていうんですけれども、本来であれば、これ、主要海外で見ると、空洞化という言い方は日本が一番強い感じがします。
むしろ海外で見ると、外資系企業が国内に入っていくという割合も大きいもんですから、それで埋まってるんですね。
ですから、日本の企業、外へ出ていくと、中埋めるものがないっていうのは、ちょっと輸出だけ、あるいは日本の企業だけ見た言い方なもんですから。
外資企業を誘致するさらには、輸出についてはもう一つ付け加えますと、輸出力っていうものが、実は日本はもっと発揮できるはずなんですね。
輸出のGDP費で見ると、輸出立国ではあるんだけれども、実は輸出、GDP比は世界の中で見ると、一番低いほうなんですね。
大体13%ぐらいですね。
そうですね。
これは例えば中国が30%とか、大きい国ばかりですから、したがってそういう中にあってじゃあ、どこが輸出してないのか、中小企業の割合がドイツでは2割が輸出してる、ところが日本は3%しか輸出してないですから。
中小企業は3%しか輸出してない?
ですから競争力のある企業、日本にもいっぱいいますから、そういうところがもっと輸出市場を狙っていくということも、やっていける余地がいっぱいあると思いますね。
安藤さん、急激なこの、今後に向けて何が必要だと思いますか?
取材してみますと、一番の悩みというのは、円高か円安かということよりも急ピッチで進むこと、急ピッチで為替が動くことなので、そうしたことを避けるような対応というのは、政府・日銀に求められているなというふうには感じています。
2014/10/02(木) 19:30〜19:56
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「急激な円安で何が…」[字]

1ドル110円まで急速に進んだ円安。株価を上昇させる一方で、原材料費などが一段と高騰することへの懸念の声も出始めている。日本経済にいま何が起きているのか報告する

詳細情報
番組内容
【ゲスト】経済産業研究所理事長…中島厚志,NHK経済部記者…安藤隆,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】経済産業研究所理事長…中島厚志,NHK経済部記者…安藤隆,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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