女の子も野球が大好き。
女子野球日本代表の子ども野球教室。
彼女たちの視線をくぎづけにしていたのは…。
167cm90kg…おりゃ!アハハッ笑顔で笑顔で!笑顔だよ。
おりゃ〜!ナイススイング。
気は優しくて力持ち。
日本代表の大黒柱です。
守備の要キャッチャーの西選手。
ナインを引っ張りワールドカップ4連覇を成し遂げました。
西選手は重圧と闘うピッチャーの心を支えてきました。
大会前不調に陥ったエース。
失った自信を取り戻せるのか?今回このメンバーでこの大会を制するために…。
そして日本代表に残るためのしれつな争い。
去っていく仲間たち。
若い選手たちに寄り添い力を引き出してきました。
大好きな野球に打ち込んできた20年の日々。
仕事も生活も全ては野球を続けるためにありました。
しかしその体は満身創痍。
相次いで襲ったケガによって今選手生命の危機にさらされています。
それでも迷う事なくワールドカップに臨みました。
4連覇に挑んだ西選手。
仲間のために全てを懸ける姿を見つめました。
週末の学校。
西選手が練習にやって来ました。
おはよう。
おはようございます。
西選手は女子野球のクラブチームに所属しています。
メンバーは野球好きの高校生や社会人16人。
練習には日焼け止めが欠かせません。
カメラに向かってはいチーズ!
(笑い声)このチームで西選手はプレーをしながら監督も務めています。
付いたあだ名は…。
トトロ。
西選手への親しみと信頼が込められています。
西さんのようなジャパンの選手になりたいです。
憧れも尊敬もしてます。
やっぱ同じキャッチャーだしまだまだ教わる事すごいあるし。
彼女たちは野球ができる環境を探してここにたどりつきました。
女子硬式野球のクラブチームは全国で僅か23チームしかありません。
練習場所の確保も一苦労。
この日は河川敷にやって来ました。
専用のグラウンドがないため都内を転々としているのです。
ボールが無くなると全員で捜します。
たった一個でもみんなでお金を出し合って買った貴重なボールです。
ボール買うのも苦労するし…やっぱクラブチームだと。
できたらやっぱ環境のいい中でやった方が選手は育つと思うんですけどでもこういう簡単じゃないんだなというのも理解してありがたみを知って野球をやる方が伸びるかなと逆に。
練習を終えた西選手はある場所へ向かいました。
居酒屋です。
この店で週6日働いているのです。
野球の道具代や遠征費は自分で稼がなければなりません。
はいお疲れさまで〜す。
山P知らない?えっ何?テレビ見ろよ〜。
野球ばっかやってないでさ。
今「ブザー・ビート」見てるっつうの。
仕事は深夜1時まで続きます。
女子野球ではこうして働きながら野球を続けている選手がほとんどです。
野球だけやってごはんが食べれるっていうのは夢の夢で。
そんなぜいたくは逆にしちゃいけないと思いますね。
野球が続けられるっていうのはやっぱりそんなに幸せな事ないと思うんで。
6月下旬。
2か月後のワールドカップに向けた強化合宿。
日本代表候補が集められました。
やらないといけん事は全部出せよ全員自分の立場で。
(一同)はい!選手は全国のクラブチーム高校や大学などから選ばれた23人。
日本代表のナインは厳しい合宿を乗り越えワールドカップ4連覇に挑もうとしていました。
日本は固い守備力で勝利をつかんできました。
その中心が西選手です。
海外の強打者を封じ込める絶妙なリード。
前回の大会日本はライバルのアメリカやカナダを抑え断トツの防御率を記録しました。
4連覇を目指す日本。
偉業達成のためには10年にわたって代表に選ばれてきた西選手の存在が欠かせません。
今までの経験を踏まえてキャッチャーというポジションで精神的な支柱に今大会ぐらいからはなってる選手だというふうに思ってますし僕はそれを期待してます。
合宿初日投手陣とのミーティング。
西選手が中心となってサインや戦術の確認が行われました。
ちょっとスライダー自信ないから次の回カーブにしますとかっていうのは次のイニングの間にすぐ会話をする。
選手の大半が20代前半。
国際大会の経験が浅い選手がほとんどです。
大舞台でも本来の力を発揮できるようにする事が西選手の仕事です。
OKですか?はい以上です。
翌日九州選抜チームとの練習試合。
西選手は実戦の中で若い選手たちの課題を洗い出そうとしていました。
ブルペンへ向かった西選手。
出番を控えた中継ぎ投手の相手を務めます。
腕だけ振って力は7ぐらいで…。
日本代表候補に初めて選ばれた大学生です。
試合に向けて肩を温めます。
ナイスボール。
いいじゃん。
ところが…。
登板が告げられると緊張で手元が狂い始めました。
しっかりのせて。
そうそうそう。
急げ!急げ!早く行け。
今何回?もう最終回?選手の中で日本代表に残れるのは20人。
3人が落とされます。
西選手はベンチから見守ります。
初球いきなり大きく外してしまいます。
得意のストレートが決まりません。
満塁のピンチを迎えたその時。
緊張をほぐすために声をかけました。
見事三振。
ピンチを切り抜けました。
どうせ同じ事をするなら…西選手のチームへの気配りは試合中だけではありません。
ウオーミングアップの途中一人練習場を抜け出しました。
お疲れさまです。
もういる?スタッフが限られているため裏方の仕事も積極的にこなします。
とりあえず冷やしてないのを1箱頂いていいですか?選手たちが飲む水を準備しました。
この日の気温は31度。
体を冷やす氷も配りました。
献身的にチームに尽くす西選手。
突き動かしていたのはそれまでの野球人生で培った熱い思いでした。
野球を始めたのは小学1年生の時。
兄と同じ少年野球チームに入りました。
ポジションはかっこいいからと選んだキャッチャー。
男の子に負けないように必死に練習を重ね自信をつけていきました。
高校は親元を離れ憧れの女子野球の名門校へ。
1年生で日本代表に選ばれました。
ところが…。
その日を境にキャッチボールをする相手がいなくなりました。
嫉妬した部員たちのいじめが始まったのです。
寮では食事や入浴を邪魔される事もあったといいます。
何て言うんですかねもう人間恐怖症。
対人恐怖症っていうんですか人の顔見たくなくて見たら吐いちゃうし。
最初は軽い症状だったんですけどだんだんだんだん立っててもフラフラして倒れたり野球してる状況じゃなかったんですよ。
気を抜けば薬大量にのんでて病院に運ばれたりとかあと一個のんでたら死んでたとか…。
大好きな野球を嫌いになりかけた西選手。
再び野球に目を向けさせてくれたのは家族の存在でした。
家内は「野球をやめさしていいやない」って。
「連れて帰ろう」って言ってたんですよ。
「ちょっと待ってでもそれは違うね」って俺の中じゃですね。
「お前が決めたっちゃろ。
お前が絶対あそこしか行かんと言い張ったやろ」って言ってそれが頭にずっとあったもんであいつにどういう事があろうとやめさせるっていう感覚は絶対自分はなかったですね。
自分の中では。
野球をもう一度心から楽しみたい。
自分がうまくプレーする事だけを考えていた西選手はいじめを経験した事である思いにたどりつきました。
今までは自分中心のキャッチャー像だったんですけどそこからピッチャーが投げやすいキャッチャーになろうと思ったりそういう意識が変わりました。
いじめを乗り越えた西選手が今大切にしている言葉があります。
帽子…名前書くの忘れた。
いつも名前と一緒に帽子に書き込む文字。
「優しい」という言葉です。
全ては仲間のために。
西選手の信念です。
西選手にはもう一つワールドカップに懸ける強い思いがありました。
合宿から戻った西選手はこの日整骨院に向かいました。
3年前の試合中左膝に大ケガを負いました。
診断は前十字靭帯断裂。
急なダッシュをしたりふんばったりする事ができません。
更に左足をかばって右足や腰も痛くなり満足なプレーができなくなっていきました。
西選手は今回のワールドカップを最後の大会にしようと決意しました。
今まで完全燃焼かなって思ってたんですけど意外と「まだいけるまだやれるまだやれる」って来たんですけど今年は「もう限界だ。
これ以上はない」っていうぐらいの力を発揮したいと思いますね。
ワールドカップまで1か月。
強化合宿は熱を帯びてきました。
元気よくいこうや。
いいですね。
(一同)はい!西選手はあるピッチャーを気にかけていました。
エース候補にもかかわらずなかなか調子が上がっていませんでした。
前回のワールドカップ磯崎投手は日本の優勝の原動力となりました。
キレのある変化球で強打者を翻弄。
防御率は大会トップの0.33。
MVPを受賞しました。
しかし練習試合での事。
変化球にキレがありません。
あっという間に2失点。
この回だけでマウンドを降ろされました。
磯崎投手の不調はチームにとって大きな誤算でした。
先発候補3人のうち1人が抜けると勝ち星が計算できなくなるからです。
磯崎投手の復調が4連覇の鍵となりました。
どうしたら本来の力を発揮させる事ができるのか。
西選手は合宿から帰ったあとも磯崎投手の事を気にかけていました。
西選手は磯崎投手を食事に誘いました。
大丈夫大会に入るまでに。
そうそれは分かってるんだけど。
落ち際でめっちゃスピードが上がる感じがしない?西選手が伝えたのは変化球のキレを取り戻さなければライバルのアメリカやカナダは抑えられないという事でした。
多分バッティングやってる方としては打ちにくい。
バッター側でクルッと来る方が打ちにくいかな。
不調の原因はフォームにありました。
画面左が現在。
前回大会よりも振り上げた左足を大きく巻き込んで腰をひねっています。
このため腕の振りが僅かに乱れ変化球のキレがなくなっていたのです。
苦しくてもチームを引っ張ってこそエース。
西選手の思いです。
3日後磯崎投手は自分のクラブチームで練習していました。
西選手の言葉を思い出しながら念入りにフォームを修正します。
ちょっと抜き過ぎかな。
いつもより遅い?遅い。
だよね。
今回引退するっておっしゃってるのでまあできれば一緒にやりたいなって気持ちはすごくあるんですけど。
大会3日前。
日本代表が再び集まり最後の調整を行いました。
しかし西選手の体は合宿の疲労がたまり悲鳴を上げていました。
はいラスト決めて。
はい!よっしゃOK。
しんどい。
はあ〜。
足が…。
足腰が痛みふんばりがききません。
それでも西選手は4連覇だけを見据えていました。
壊れちゃったらもう自分はそれは別に…ああ〜!9月1日。
4連覇を懸けたワールドカップが開幕しました。
日本は初戦で前回4位のオーストラリアと対戦。
さい先よく14対0と圧勝しました。
1次リーグは3試合。
日本は全勝で突破を目指します。
2戦目の先発は笑顔を絶やすなと言われていた笹沼投手。
好調を買われ急きょ先発に指名されました。
(一同)オ〜!西選手はケガをした足を配慮してベンチスタート。
試合開始。
(どよめき)いきなりひやりとさせられます。
その時でした。
西選手の声に笑顔を取り戻します。
4球目。
ファーストフライに打ち取りました。
そして打席には4番バッター。
得意のストレートで三振。
この日笹沼投手は2回をノーヒット。
代表初先発を無失点で飾りました。
(取材者)初代表であれだけのピッチングできると…。
西さんのおかげです。
楽しいっていう字です。
(取材者)これは?西さんが自分に合った字を書いてくれて一緒にいると楽しいっていう意味とあと楽にピッチングしろよっていう意味です。
…って言われました西さんから。
いい字だと思います。
楽しい。
日本この試合に勝てば1次リーグ突破が決まります。
先発は変化球のキレに悩んでいた磯崎投手。
真価が問われるマウンドです。
(声援)外角への鋭いスライダー。
更に…。
低めいっぱいに大きく落ちるスライダー。
磯崎投手変化球のキレが戻ってきました。
(拍手と歓声)この試合3回無失点。
日本の4強入りに貢献しました。
磯崎投手の次の相手は前回3位の強豪カナダ。
決勝進出を懸けた負けられない一戦です。
西選手の足は状態が悪化していました。
痛み止めをのんでマスクをかぶります。
(一同)オ〜!この試合磯崎投手は思わぬ苦戦を強いられます。
3点リードで迎えた2回。
(どよめき)
(拍手と歓声)西選手が要求したコースを大きく外れ高めに浮いてしまいました。
磯崎投手盛んにボールを気にし始めます。
(歓声)
(拍手と歓声)高めに浮いた変化球を連打され2失点。
1点差に追いつかれます。
バッターは前回大会のホームラン王ニコル選手。
2アウト二塁。
一発が出れば逆転。
一塁方向へのファウルフライ。
全力疾走。
足のケガを押して迷わず突き進みました。
西選手自らを捨てて磯崎投手のピンチに立ち向かいました。
「支え支えられ共に戦う」それがチームの絆。
決勝に進出した日本は全員野球。
そして最終回。
西選手日本代表最後のプレー。
日本は前回を上回る防御率で全勝。
ワールドカップ史上最多の4連覇を成し遂げました。
本当に楽しかったです今回は。
今回のチーム一番好きですね。
捕りに行って1回でこう投げる。
仲間のために全てをささげる西朝美選手26歳。
日本代表のユニフォームを脱いでも大好きな野球と生きていきます。
2014/10/02(木) 01:30〜02:17
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「すべてはナインのために 女子野球 西朝美」[字]
女子野球W杯で4連覇した日本。捕手で4番の西朝美選手はトトロの愛称で親しまれる存在だ。高校時代の壮絶なイジメを乗り越え、チームの勝利に全力を尽くす日々を追った。
詳細情報
番組内容
女子野球日本代表の西朝美選手は体重90kg。気迫あふれる守備と豪快なバッティングが持ち味だ。運送会社や居酒屋で働きながら好きな野球に打ち込んできた西選手。その思いを支えるのは高校時代のイジメ体験だ。一時は死を考えるほど悩んだが、仲間の気持ちを思いやる大切さを知った。長く代表をつとめ故障も抱える西選手は今回のW杯が現役最後の舞台という覚悟で臨んだ。野球人生の全てをかけて闘う姿を見つめる。
出演者
【語り】山本耕史
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – 野球
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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