クローズアップ現代「どう守る?子どもの安全〜相次ぐ“連れ去り”事件〜」 2014.10.02

小学生の腕に残るあざ。
この夏、東京で不審者に連れ去られそうになりました。

先週、神戸市で遺体で見つかった生田美玲ちゃん。
事件は多くの人の目があるはずの住宅街で起きました。
死体遺棄の疑いで逮捕された君野康弘容疑者。
女の子の家のすぐ近くに住む人物でした。

子どもの連れ去り事件は去年94件発生。
一時は減少したもののここ数年で増加に転じています。
どうすれば子どもの命を守れるのか。
事件から浮かび上がった課題を検証します。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
子どもが連れ去られる事件をいったい、どうすれば防げるのでしょうか。
神戸市で小学1年生の女の子が行方不明になり遺体となって発見された痛ましい事件は住宅が密集する都会で起き地域の人々によって子どもたちの見守りも行われていました。
女の子の遺体が遺棄されていた現場は、女の子の自宅の近く。
そして遺体を遺棄した容疑で1週間前に逮捕された47歳の男が住んでいた家のすぐ裏手でした。
警察によりますと逮捕された男は現在も黙秘を続けているということです。
ことしに入ってから起きた子どもが狙われた事件。
今回の神戸の事件のほかに神奈川県相模原市、札幌市岡山県倉敷市で起きています。
10年前に奈良市で小学1年生の女の子が殺害された事件などをきっかけに全国で子どもの安全を守るための取り組みが進められ小学校の登下校時にボランティアや保護者による見守りが行われている学校は9割近くに上っています。
さらに通学路の安全マップが作成されたり子どもたちへの防犯ブザーの配布さらに不審者が出没した場合の保護者へのメール配信や学校での安全教育などの対策が積極的に取られてきました。
しかし、子どもが連れ去られる事件は一時減少傾向にありましたがご覧のように5年前に増加に転じ去年は94件に上りました。
事件の増加の背景に何があるのか。
子どもの身を守るための安全教育で何を重視すべきか。
実際に身の危険にさらされた子どもの証言と今回の事件から対策の在り方を考えます。

東京都内の住宅が密集する地域です。
この小学4年生の女の子はことし6月、不審な男に連れ去られそうになりました。
商店の並ぶ通りを1人で歩いていたところいきなり男に両腕をつかまれ駐車場に引きずりこまれたのです。
偶然、車で通りかかった人が気付いて声をかけ女の子は逃げることができました。
腕には大きなあざが出来ていました。

事件の直前に女の子の学校で配られていたプリントです。
不審者に話しかけられたときは大声で叫び、すぐに逃げるよう教えられていました。
しかし、女の子は全く身動きできなかったといいます。

このとき、事件が起きていることに気付いた人は地元にほとんどいませんでした。
事件が起きたのは日曜日の夕方。
多くの店が閉店し通りは閑散とする時間帯でした。
現場の隣にある店はいざというとき子どもが駆け込むこども110番の家でしたが事件の日はこの店も閉まっていました。
店の男性は、事件があったことを知りませんでした。

本当すぐそこですもんね。

神戸市でも身近な場所で事件が起きていたことに誰も気付いていませんでした。
先週、自宅近くの雑木林で遺体で発見された生田美玲ちゃん。
学校から帰宅したあと1人で出かけ、事件に巻き込まれたと見られています。
死体遺棄の疑いで逮捕された君野康弘容疑者。
美玲ちゃんの家から僅か150メートルの場所に住んでいました。

おはよう。

地域で見守り活動のリーダーを務める山本浩さん、79歳です。
日々、目を配ってきたはずの地域で事件が起きたことに衝撃を受けています。

山本さんは以前から近くに住む君野容疑者のことを知っていました。

ふだんから地域でトラブルを起こしていたといいます。

山本さんは警察にパトロールの要請をするなど一歩踏み込んだ対応ができなかったのかと悔やんでいます。

身近な地域で起きた事件になぜ気付くことができなかったのか。
町そのものの変化が、背景にあることも分かってきました。

女の子の遺体発見現場に近いこの一角は、多くの家が空き家となっています。
神戸市の長田区では人口の減少が続き空き家率は年々上昇。
5軒に1軒の割合になっています。
住民が不審者の行動に気付く機会が減っていたのです。
今、山本さんは見守り態勢を強化しようとしていますが壁に直面しています。
防犯ボランティアが活動を始めたのは7年前。
毎日の登下校の見守りに加えて夜間のパトロールも週に1回行っていました。
しかし、メンバーは当初の89人から徐々に減り現在は半分以下の40人。
ほとんどが70代以上。
高齢化が進んでいます。
夜間パトロールの回数は当初の半分に。
登下校の見守り要員が足りない日も出てきています。

地域を見守る目の減少と防犯ボランティアの高齢化。
住宅街に思わぬ死角が広がっている実態が浮かび上がってきました。

大きな衝撃をもたらした神戸の事件。
女の子が行方不明になった状況や、死亡した経緯は分かっていません。
警察によりますと、死体遺棄容疑で逮捕された容疑者は、現在も黙秘を続けています。
きょうは、子どもを狙った犯罪の調査や、対策の研究を行っていますNPOの代表、清永奈穂さんをお迎えしています。
よろしくお願いします。
ご自身も2人の小学生のお母さんでいらっしゃるんですけれども、保護者の方々が受けた衝撃というのは、本当に大きいでしょうね。
そうですね、かなり大きいと思います。
もう、体感治安が一気に悪くなっているというふうに思います。
もう本当に、漠然とした恐怖感と、近所の人、100メートル先に誰が住んでるか分からない、何の被害に遭うか分からないといった不信感が高くなってると思います。
実際に一生懸命、安全教育を学校では行ってきたというふうに思っていたと思うんですけれども、そしてご家庭でもいろいろ言い聞かせたと思うんですけども、実際に、今のリポートにありましたように、危険が身に降りかかってきたときに大きな声が出せない、逃げられないといったケースがありましたよね。
実際そうなんですか?
実際そうですね。
私たちが調査したところによると、本当に声も出せない、ブザーはなおさら、そして走って逃げるのも、半分ぐらいといったように、何か危機的状況が起きたときに、もう本当に何もできないお子さんが多いです。
このデータを見ますと、大声を出した方、こどもが2.5%。
2.5%ということで、やっぱり、いざとなったときに、恐怖に襲われて、何ももう、本当に何もできないというお子さんが多いということなんです。
これはもう、今までやってきた教育の中の、安全教育というものが機能してないというか、不十分であるということを示していると思います。
そして、どういったその環境下で、子どもたちは、一番危険な目に遭いやすいのか。
やっぱり、犯罪というのはですね、心、時間、それから空間の隙間から生まれます。
特に時間の隙間というのは、狙われることが多いんですが、ちょうど下校から下校時、パトロールの方、見守りの方、たくさんいて、見守ってくださっているんですが、それがやはり30分から1時間ぐらい、下校をというような時間帯、やっぱり毎日のことですから守ってくださっている、それを終えたあとの、子どもが1人で歩く、そして、人々も夕方で忙しくなってきて、子どもに目を注げないといったような、その時間の隙間を狙われているということです。
場所もですね、実は、通学路というのが非常に多くて、そこで犯罪者が待ち受けていれば、狙ったお子さんに狙いをつけて、襲えるというようなことで、通学路の被害が多い、ほかに公園、それから駐車場、公衆トイレ、普通の道といったものの被害が多くなっています。
今のリポートで、本当に一生懸命地域で見守りを行っていた山本さんが、実は容疑者も知っていた、そしてたぶん、お子さんたちを見守ってこられた中で、自分はほかに何かできたのではなかろうか、もっと警察と連携すればよかったんだろうかと、非常に悩んでいらっしゃったですよね印象的だったんですけども。
本当に全国のボランティアの方が、もう、すべての方が思っていることだと思います。
一生懸命やってる方々こそ、なぜ、私がここに立っていたのに、事件が起きてしまったのだろう、どうして防げなかったのだろうと心を痛めていると思います。
やはり、その方たちだけが1人で抱え込むのではなく、例えば、犯罪というのは、生活のひずみから起こることが多い、そのときにやはり、そういう加害者にさせないために、私たちは社会としてどうやっていけばいいかというのを。
生活のひずみとおっしゃいますと?
そうですね、例えば経済的な問題、それから雇用、それからいろいろな、さまざまな、それから起こるストレスみたいなものが、ふとした瞬間に、犯罪として現れてしまうことがある。
そこは何かその手前で、加害者になる手前で、例えば、ほかの行政、福祉の分野ですとか、そういったところと手を組んで救い上げることができないかという視点も、大事だと思います。
そして、女の子の場合は一瞬に、声かけてくださった方に救われたというのがありましたよね?
その瞬間ボランティアと私は呼びますが、瞬間的でいいので、この子大丈夫かな、今どうなってるんだろうというふうに、目を注げる、声をかけるという人が、1人でも増えればいいなと思っています。
地域での見守りには、限界もあるということなんですけれども、子どもたちがもっと、自分で自分の身を守れるようになるためには、どうすればいいのか。
より実践的な防犯教育が始まっています。

先週末、静岡県の小学校で開かれた防犯教室です。

20メートルっていう距離は大事です。
犯罪者の心理分析に基づきより実践的な防犯能力を身につけてもらう新たな取り組みです。

不審者はどれだけ離れれば子どもに手を出しづらくなるのか。

民間の研究所が複数の元加害者から聞き取りました。

どう逃げればいいのかも分析をもとに具体的に指導します。
単に知識を覚えるのではなく体を動かし疑似体験することでいざというときに対処できるようにしようというのです。

1、2、3、ぱっ!
実はこの防犯教室にはもう一つのねらいがあります。
地域の人たちに、指導役を担ってもらっているのです。

そら、捕まえたぞー!
いずれも静岡県が設けた講座を受けて、防犯の専門知識を身につけた人たちです。
県がこうした取り組みを始めた背景にはある危機感がありました。
県が行った防犯についての意識調査です。
防犯活動は警察やボランティアに任せておけばよいと考える人が増え、3人に1人に上っています。
そこで県が考えたのが地域の人に防犯の専門知識を学んでもらい当事者意識を高めることでした。

防犯ボランティアが高齢化する中若い力を取り入れる動きも始まっています。
愛知県岡崎市の羽根地区です。
小学生の登下校を見守るのは地元の高校生たち。

おはようございます。

早起きをしてボランティアで付き添いをします。
見守りは年間40日多いときには1日30人が参加します。

声が小さいなぁ。
おはようございまーす。

高校生と一緒に見守りをするボランティアの代表石川知啓さんです。
ボランティアの高齢化に危機感を抱いていました。
これはね、見守り隊員を募集するの。

200人のメンバーがいますが、およそ半分が70代となっていました。
定年を迎えた60代の人でも最近はなかなかボランティアに参加しにくいといいます。

石川さんたちと共に小学生の見守りをする高校生たち。
卒業生のほとんどは地元で就職をします。

結構あいさつもしてるんですね。

今後も地域の見守りの一翼を担うことが期待されています。

具体的に、ランドセルをばっと脱ぎ捨てて、20メートル走る、こうした実践的な危機を乗り越える教育ということは、相当有効ですか?
非常に有効です。
やはり、頭で分かっていても、体が動かないというようなことが起きますので、実践的に学ぶということがとても大事。
さらにそれを効果的にするためには、やはり、学校できちんとテキストで学び、そして疑似体験でもいいから、体験し、失敗を繰り返し、また座学で教わるというようなこと、これがうまく機能してないといけないんですね。
それが、とてもよくされているのが、実はイギリスなんです。
イギリスにはですね、安全体験施設というものがたくさんありまして、そこでは、疑似的に危険を体験するというようなことが行われています。
この写真が、安全体験施設の?
そうなんです。
危ない公園で連れ去りが起きたら、どうするというような体験をする所なんですが、この白いシャツを着た方が、連れ去ろうとする犯人役です。
子どもたちに声をかけて、あっちに、おいしいお茶があるから、一緒に行かない?っていうふうにして、語りかけています。
実はこの前にこの中で、地域のボランティアの先生が、こどもたちにこういう所危ないから、ついていっちゃいけないよというようなことを教えてるんですね。
でも、そのあとでこういう人が来て、この顔ご覧ください。
あれ?なんかおもしろそうなことがありそうということで、実はついていってしまうんですね。
ついていってしまう?
ついていってしまったところで、ストップっていって、また先生たちが出てきて、君たち、先生が教えたじゃないかということで、もう一回繰り返す、どうすればよかったのかということをやります。
とにかく学んで、そして自分で考えて、動ける、そういう子どもを育てていこうという試みが10年以上されています。
ほかにも恐怖をわざわざ体験させるそうですね?
そうですね、暗い道を歩かせて、危険なことに遭いそうになったら、また遭ったら、自分の心がどう変化するのか、恐怖というものは、こういうものなんだ。
その恐怖心を抑えて、考えて、何か実行に移さなきゃいけないということを学びます。
感情のコントロールのしかた、恐怖心のコントロールのしかたというのを学ぶ場所もあります。
そういった疑似体験も大事ですけど、やっぱり、そういうことを教えられるボランティアっていうのもまた育成しなくてはいけないわけですよね。
そうですね、非常にイギリスというのは、やっぱり、安全を通して大人に育てる、社会の一員とするというようなことが、義務とされています、社会の青年として育てていくということまで、このことを、日本でもやろうとしているのが静岡なんですね。
あのとき、あれはもう、一見、対処的なものを教えてるように見えますけれども、実は目標としては、次の静岡の安全を担う人間を育てていくんだという、大きな目標があるんです。
見守りボランティアから、教育をつかさどるボランティア。
一歩前に進んで、見守るのも大事、でももう一つ、次の世代を育てていく、安全な社会を作っていくっていうような人間を育てていくことを目標としていくことが、今、求められていると思います。
そういう意味では、岡崎の高校生の参加というもの。
非常にあれは希望を感じますね。
彼らが本当に自主的に参加しているというのは、いいことだと思います。
ここで大事なことは、そういうボランティアの高校生の子たちも、実はまだ子どもです。
なのでボランティアとして育てていかなければいけない。
私たちは何をするかというと、やはり、彼らに対して、ありがとう、私たちは見てますよ、感謝してますよということを視線でいいから、そしておはようと、ひと言でもいいから、知らせることが大事ですね。
それはもう、ほかの全国のボランティアの方々に対しても、必要なことだと思います。
しかし、その大人は怖いものだというふうに、教え込まれてしまうと、子どもたちも本当に、人見知りのない笑顔が失われるんじゃないか。
そういうもので、人間への不信感というものを先に教えるのではなく、自分がいかに愛されているのか、そして、人を信じることができるんだということを、0歳からしっかりと教えて、人との信頼関係を培ったあとで、じゃあ少し残念なことに悪い人がいるんだということを、少しずつ教えていくという、その発達段階に沿ったものが必要だと思っています。
2014/10/02(木) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「どう守る?子どもの安全〜相次ぐ“連れ去り”事件〜」[字][再]

神戸市で小学1年生の女の子が遺体で見つかった事件の衝撃が広がっている。地域で子どもの安全をどのように守っていけばいいのか。対策の課題とヒントを探る。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】NPO法人体験型安全教育支援機構 代表理事…清永奈穂,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】NPO法人体験型安全教育支援機構 代表理事…清永奈穂,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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