ハートネットTV リハビリ・ケア新時代 脳からの挑戦(2)「宿命の病に挑む」 2014.10.01

ある日突然不治の病と宣告され夢を砕かれそうになったら…。
治療困難とされてきた難病。
そのリハビリに大きな期待が寄せられています。
最先端の脳科学を活用する新しいリハビリです。
電流などの刺激を脳に与え失われた機能の回復を図ります。
更に頭でイメージするだけでマヒを和らげる。
そんな常識を破る手法も登場しています。
人間の脳に眠る力を呼び覚まし病に立ち向かう。
患者と研究者の挑戦の日々に密着します。
こんばんは。
「ハートネットTV」です。
「シリーズリハビリ・ケア新時代脳からの挑戦」。
第2回のテーマはこちらです。
脳に電気刺激などを与える事で失われた機能を回復させるという脳科学の進歩を背景に研究が進む新しいリハビリです。
このニューロリハビリの対象となる病や障害はさまざまありますが今日まず取り上げるのはこちらフォーカルジストニアです。
脳の電気信号の異常によって手や指などが思うように動かなくなる難病です。
音楽家やスポーツ選手など体の一部を酷使する職業の人に多いといわれています。
では一体どんなリハビリなんでしょうか。
一人のピアニストを取材しました。
8月末広島の教会でピアノの演奏会が開かれました。
使っているのは左手のみ。
鍵盤の上を5本の指が流れるように行き来します。
本来ピアノは右手でメロディーを奏で左手で伴奏するのが一般的です。
しかし瀬川さんはメロディーと伴奏を左手だけでこなし曲に命を吹き込んでいきます。
9年前フォーカルジストニアという病を発症。
右手が思いどおりに動かせなくなりたどりついたのがこのスタイルでした。
知って頂くきっかけとなればいいなと。
フォーカルジストニア。
ピアニストに限らず口や指などを酷使する演奏家なら誰もが発症のリスクがあります。
プロの音楽家の50人に1人が悩まされているといいます。
しかし仕事を失う事を恐れて公表に踏み切る人はごく僅かです。
私コンクール出始めたのが遅くて。
3歳でピアノに出会い音楽の魅力に目覚めた瀬川さん。
数々のコンクールに出場して腕を磨きながらプロのピアニストを目指しました。
高校時代コンクールに出場した時の映像です。
素早く正確なタッチで両手を操り見事な演奏を披露。
将来を期待されていました。
ところが高校3年の夏体に異変が起きます。
突然右手が思うように動かなくなったのです。
練習不足が原因だと思い込んだ瀬川さんはますますレッスンに打ち込みます。
しかし練習を重ねるほど症状は悪化。
原因が分からないままいくつもの病院を回りようやく1年後にフォーカルジストニアと診断されました。
それが不治の病である事を知って瀬川さんは愕然とします。
最初に言われたんですね。
その時に「えっ?」って思って。
一体ジストニアとはどんな病なのか。
瀬川さんは深く知りたいと考え続けてきました。

(古屋)はい。
こんにちは。
元気〜?協力してくれたのは脳科学者の…2人は2年前に知り合いました。
古屋さんは音楽家の脳や体を研究する音楽演奏科学が専門です。
多分ソファミレミファソファミレミファってやるより親指入った方が弾きにくいでしょ?古屋さんが今年発表した論文。
脳科学からジストニアの正体に迫り治療法に新たな光をあてたとして注目を浴びました。
瀬川さんの右手の現状はどうなっているのか。
この日はハイスピードカメラを使って人間の目に捉えにくい素早い指の動きを観察しました。
ジストニアの症状が出る瞬間。
意図しない動きが現れました。
(古屋)これです。
これですね。
鍵盤を押した直後人さし指が丸く縮こまっていました。
この動きによって次の鍵盤を押すタイミングが僅かな時間遅れます。
この一瞬がピアニストにとっては命取りとなるのです。
じゃあこれ右手に入れてもらって…。
次に準備したのは関節の曲げ伸ばしを計測する特殊なグラブ。
なぜ人さし指が曲がってしまうのか脳が発する電気信号を追います。

(古屋)はいオーケーです。
確かに……ってなるよね。
そんな感じ?そんな感じです。
だってタタティタタタ…。
ちょっとやね。
瀬川さんの右手人さし指の動きを追ったグラフです。
谷になっているのが音を出そうと脳からの指令が発せられた瞬間の動き。
一方円く囲んだ部分は意図していないにもかかわらず指が勝手に動いてしまった事を示しています。
我々が意図した動作を生み出すためには脳は指令を送るだけじゃなくて意図しない動作を抑制する抑えるという事も必要になります。
という事で自分が意図しない動きが出てしまう。
ジストニアの正体は脳が発する誤った指令でした。
猛練習などで過剰な負担がかかる事で脳に変化が起きます。
それによって運動が制御できなくなり指が勝手に動いてしまうと見られています。
ジストニアの解明に情熱を注いできた古屋さん。
実はかつて音楽の道を目指していました。
しかしある時突然手に違和感を覚え望みどおりの演奏ができなくなりました。
病によって音楽家になる夢を絶たれてしまう。
そのダメージは計り知れないものだといいます。
今まで例えば3歳から4歳からとか音楽訓練を始められてでまあ20歳30歳で発症されると。
そうするともうその先…僕は一番感じられる事だと思います。
ジストニアを発症し絶望の淵をさまよった瀬川さん。
プロへの道を諦めかけた時出会ったのが左手だけで弾く楽曲でした。
瀬川さんは自らジストニアに苦しんでいる事を公表。
左手のピアニストとして再び夢を追い始めました。
ありがとうございます。
頑張って下さいね。
頑張って下さい。
今日はゆっくり聴けてよかったです。
左手のピアニストとしてデビューを果たし実績を重ねてきた瀬川さん。
今新たな試みを始めようとしています。
自分以外にも多くの音楽家仲間がジストニアに苦しんでいる。
もし何か新しいリハビリの方法が見つかればそうした仲間たちの希望となるのではないか。
それで得たものというのはきっと…この日瀬川さんは古屋さんが開発したジストニアのリハビリ実験に参加しました。
このリハビリで鍵となるのは脳への電気刺激です。
脳の活動を抑制させたい所に青いマイナスの電極を一方活性化させたい所には赤いプラスの電極をつけます。
(古屋)気持ち悪くない?大丈夫です。
(古屋)では刺激始めます。
いいですか?よ〜いスタート。
ごく弱い電流を流しながら両手で単純な旋律を繰り返し弾きます。

(古屋)はいオーケーです。
という感じです。
痛くない?痛くないです。
大丈夫?ピリッピリッぐらいです。
ピリッピリッくらい?気分が悪くなったりは?ないです。
大丈夫です。
(古屋)言ってね。
止めるから。
はい分かりました。
人体で左手を動かすのは右脳にある運動野。
一方右手を動かすのは左脳の運動野です。
左右の脳の間には情報をやり取りする橋があります。
古屋さんが着目したのはこの脳の構造でした。
運動野に狙いを定め電気刺激を与えます。
瀬川さんの右手に異常な信号を送っていた左脳。
その影響をマイナスの電極の効果によって抑え込みます。
一方正常な右脳の信号はプラスの電極の効果によって増幅させます。
それが中央の橋を通って左脳へと伝わり右手を正しい動きへと導くのです。

(ピアノ)リハビリを始めて20分後。
(古屋)できる?
(瀬川)大丈夫です。

(古屋)はいオーケーです。
以上ですけれども弾いた感じはどうですか?最初にした時に比べて…次の音へ行くためにこう動いてくれてるっていうのがすごく感じます。
瀬川さんの右手の動きを実験の前後で比較します。
実験前意図しない動きが出ていた部分。
実験後はきれいに消え思ったとおりの演奏ができている事が分かります。
音楽の生命線であるリズム。
それを崩していた指が丸くなってしまう動き。
それが実験後はなくなりスムーズに鍵盤を押しています。
今のところ効果は最大1週間程度持続するといいます。
音楽家を苦しめてきたジストニアを克服するためリハビリの研究に参加した瀬川さん。
最近1人でピアノに向かい両手で弾くようになりました。
今音楽への向き合い方も変わりつつあるといいます。
でも今は本当に誰も聴いていないし…未知の自分と出会うきっかけとなったニューロリハビリ。
不治の病に苦しむ人に光を与えようとしています。
スタジオには昨日に引き続きサイエンスコミュニケーターの内田麻理香さんそして室山哲也解説委員とお伝えしていきます。
よろしくお願いします。
よろしくお願いします。
まずはフォーカルジストニアという難病内田さんどうご覧になりましたか?音楽家になる方というのは小さい頃から夢を持って練習してきたと思うんですがそういう方の夢をくじいてしまうという事と更に練習すればするほど悪化してしまうという本当に恐ろしい病だなと感じました。
データによると音楽家の中の50人に1人という…。
しかも原因が分からなくて更に練習してしまって悪化される方もいるんではないかと思いますね。
今の映像のように脳への電気刺激によってリハビリをすると。
今注目されているんでしょうか?そうですね。
この方法は注目されている一つですが140億大脳皮質だけで神経細胞がある脳の織り成す不思議な世界という事だと思いますが脳というのはそういうとこにインパルスという電気信号が流れていて動かす信号と抑制する信号が複雑に入り組んでるんですがその機能がこうバランスが崩れた時に起きるこういう現象を外から介入する事で刺激を与える事で調整していくというやり方ですよね。
こういう病気いろんな種類があるんですが刺激を与える深さだとかいろんなものがあるんですけど今回のこの手法の特徴は非侵襲といって外から刺激を与えるという事で患者さんへの負担も少ないのでそういうメリットがあるという事でこれからが期待される方法だと思いますね。
それも脳科学の進歩によって脳の機能が少しずつ分かってきたという事これは大きいと思うんですよね。
はい。
大きいですね。
ジストニアも長らく原因不明の病気でしかも心理的な問題だとかそういうような原因もいわれてたんですが実際脳科学の発展によって脳の機能の問題だという事が分かってこれから治療もできますけれども予防の方にも役に立つのではないかと期待できますね。
この辺りを室山さんどうご覧になります?人間の文明が進む中で脳のしくみがすごく分かってきたというのが一つあると。
もう一つはコンピューターですね。
コンピューター工学で情報化して操作する事ができる。
この2つが同時に進んだ事で進歩した事で可能になっている方法論だと思うんですがこういうのを…医学と工学が連携して生み出す新しい分野と。
そういう文脈の中で起きてる話の一つだと思いますね。
このように注目を集めるニューロリハビリの可能性ですが今度は脳卒中の患者さんのためのニューロリハビリです。
キーワードはこちら。
どんなリハビリなんでしょうか。
ここで今新たな研究が進められています。
研究に参加している…3年前脳卒中で倒れて以降左半身に強いマヒが残っています。
杖なしでは歩けない状態です。
森本さんのマヒの原因は体の動きをつかさどる運動野の機能低下にあります。
通常のリハビリではマヒのある部分を意識的に動かす事で脳を刺激します。
しかしマヒが強すぎて動かせないと効果があがりません。
1つの問題としては例えば…重度のマヒで苦しむ人たちのため何ができるのか?たどりついたのは従来のリハビリの常識を打ち破る方法…患者は一切体を動かす事はありません。
歩いたり立ち上がったりする自分を頭の中で思い浮かべるだけです。
なぜそれだけでリハビリになるのでしょうか。
自分が立ち上がったり歩いているところを想像するとそれだけで脳の運動野が刺激され活性化します。
イメージするだけで実際に体を動かすのと同じような効果があるというのです。
スタートしていきますね。
2歩3歩歩きだすところを繰り返しやるという感じでやりましょうか。
(三原)はい楽にして下さい。
立ち上がるとこイメージして…。
きちんとイメージできているのかどうか脳の動きを表示したのがこのメーターです。
運動している自分を思い浮かべ意識を集中。
すると脳の活動状況に伴ってメーターが上がります。
上に行くほど治療効果が高い事になります。
(三原)ちゃんとイメージできてますか?1回の治療はおよそ1時間。
うまくできるまで何度でも繰り返します。
(三原)はいしっかり前に繰り出す。
繰り出す。
おおその調子その調子。
はい楽にして下さい。
頑張ろう。
歩くとこ。
前に持っていく前に持っていく。
(三原)はい頑張って足を前に前に。
はいおしまいです。
イメージトレーニングの効果を確認します。
左が訓練前の森本さんの脳。
運動野がほとんど働いていません。
しかし訓練後運動野の活動は大幅にアップしました。
イメージ訓練が眠っていた脳の力を呼び覚ましたのです。
かつては杖なしには歩く事ができなかった森本さん。
2週間にわたる訓練後両足で歩く事ができました。
脳卒中患者は全国で120万人以上。
マヒに苦しむ人に希望を与える研究は着実に進んでいます。
イメージトレーニングの効果驚きますね。
はい。
びっくりしました。
体を動かす事をイメージするだけでそれに対応する脳の部位が活性化されるというのは知っていたんですがまさかそれをリハビリに応用するという事は驚きましたね。
イメージできたかどうかというのがモニターで分かるという事ですよね。
(室山)バイオフィードバックの一つだと思いますが要するに脳の機能を外のモニターに出して自分の意図しているように動いているかという事をチェックしながらそれをテコに治っていくと。
だから脳を外に出して脳と脳が協力しながらやってるようなそんなやり方ですね。
それが効果があるんじゃないでしょうか。
またうれしいでしょうね。
ちゃんとイメージできてるんだって自分を励ます事もできるかも…。
そうですね。
しかし本当脳って不思議ですね脳の能力というんでしょうか。
不思議としか言いようがないですね。
つまり脳の可塑性っていうんですけど脳が変化していく力ですね。
昔は脳が一旦やられるともう駄目だと治らないといわれていた時代があったんですがいやそうではなくて脳は自ら変形して機能を代償して乗り越える力があるって事が随分分かってきたんですね。
その文脈でいろんな医療が進んできていると。
それはお年寄りになってもそうだという事ですから決して諦める事はない諦めなくていいという事だと思います。
諦めなくていいと。
(室山)そういうふうに治ろうとする人がいる。
だけどそれを取り巻く社会全体が障害がある人をサポートできるようなシステムが同時に進まないといけないのでそこのところはとても重要な事だと思いますね。
社会全体も諦めてはいけないという事がメッセージじゃないでしょうか。
「リハビリ・ケア新時代脳からの挑戦」明日もお伝えします。
明日もどうぞご覧下さい。
今日はどうもありがとうございました。
2014/10/01(水) 20:00〜20:30
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV リハビリ・ケア新時代 脳からの挑戦(2)「宿命の病に挑む」[字]

「福祉×脳科学」の可能性を探る第2回。体の筋肉が意思通り動かなくなるジストニアや脳卒中などのリハビリに脳科学を利用する「ニューロ・リハビリテーション」を紹介する

詳細情報
番組内容
「福祉×脳科学」の可能性とそこから見える課題を特集するシリーズ第2回。体の筋肉が意思通りに動かなくなる神経難病ジストニアに対して、神経科学を活用する「ニューロ・リハビリテーション」を紹介する。「職業性ジストニア」を患うピアニストがリハビリを受けると、彼女の指が復活。また、脳卒中やパーキンソン病など、病気や事故で傷ついた脳神経を回復させるニューロリハビリの最前線を伝え、未来のリハビリについて考える。
出演者
【出演】サイエンスコミュニケーター…内田麻理香,NHK解説委員…室山哲也,【司会】山田賢治

ジャンル :
福祉 – 障害者
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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