作曲家ベートーヴェン。
30歳の頃聴覚を失いました。
指揮棒をくわえてピアノに押しつけ伝わってくる音を頼りに作曲したといわれています。
振動を受け止めるのは頭がい骨。
怖い。
ホラーだ。
第2の聴覚骨伝導です。
骨伝導の存在は450年以上前から知られていました。
そして最近第3の聴覚軟骨伝導が注目されています。
軟骨に装置をあてて小さいマイクを近づけると…。
(電子音)携帯電話に応用すればこれまで使えなかった場面でもよく聞こえるようになるっていうんです。
更にイルカたちが持っている…私たちにも同じ能力が秘められている事も分かってきました。
聞こえる?はい。
(テーマ曲)骨伝導って自分が聞こえてる声と自分の声が録音された声違って聞こえるっていうあれですよね。
そうですね。
だから録音した自分の声を聞く時というのは普通の音として聞いてる訳です。
それに対してリアルタイムで自分の声を聞いてる時はそれに加えてですね…なるほどだからしゃべってる声と録音された声が違うふうに…。
違って聞こえるんですよ。
最近では骨伝導を使えばふだん私たちが聞く事ができない超音波を聞く事ができる。
また第3の聴覚ともいわれる軟骨伝導など聴覚に関する発見が相次いでいるんです。
今日はですね皆さんを新しい聴覚の世界にご案内します。
まず見ていくのは軟骨伝導です。
軟骨伝導ってあんまり聞いた事ない言葉ですけど軟骨で音を聞くって事?これは耳の軟骨で聞くんですよ。
ちょっと触ってみると分かるんですが耳たぶは軟らかいので違うんですけども大体それ以外の所って耳の周りはほとんど軟骨なんですね。
これで聞くんですね。
この軟骨で。
へえ〜。
その軟骨伝導によって私たちの身近にあるある装置が大きく変わるかもしれないんです。
このメーカーでは軟骨伝導を応用した身近な装置を開発しています。
その一つがこのスマートフォンです。
一見普通のスマートフォンですが音を聞く仕組みが普通とは違います。
鍵となる部品はこちら。
黒い所が振動子。
細かな振動を起こします。
そしてこの部分を振動させるのです。
しかしマイクを近づけても音は聞こえません。
振動する部分を耳の軟骨に接触させると不思議な事に音が聞こえるんです。
このスマートフォンの活躍が期待されているのはこんな場所。
この交差点の音量は平均100デシベル近くありました。
軟骨伝導ならこんな場所でも聞こえるというのですが…。
同じくらいうるさいカラオケボックスで大実験!音の大きさは先ほどの交差点と大体同じです。
実験には軟骨伝導スマートフォンと通常のスマートフォンを用意。
聞こえたらそれに従ってもらいます。
フラダンスのまねをして下さい。
フラダンスのまねをして下さい。
どうやら聞こえないようです。
ほかの3人も試しましたが誰も音を聞く事ができませんでした。
こんなうるさい中じゃ無理ですよね…。
アントニオ猪木さんの決めポーズのまねをして下さい。
アントニオ猪木さんの決めポーズのまねをして下さい。
果たして聞こえているのでしょうか。
今度は聞こえているみたいです。
ほかの被験者も軒並み正解。
全員聞き取りに成功しました。
へえ〜。
あんな状況で聞こえるってすごいですね。
結構新幹線のデッキとかで聞こえない事があってワ〜とか言ってんですよ。
そうですよね。
だから聞こえたら便利ですよね。
何で聞こえるんでしょうね。
気になりますよね。
それでは2人に実際に聞いてもらいたいと思います。
こちらが軟骨伝導の技術を取り入れたスマートフォンの試作器です。
今これ音楽を再生しているんですね。
ちょっと耳にあてて聞いてみて下さい。
あっ聞こえる聞こえる。
普通に聞こえるんだけど。
普通に聞こえますね。
こんな…。
今2人が聞いているのは…。
(ラジオ体操)もう40年ぶりでございます。
え〜本当に!?深呼吸〜。
5678。
お見事!
(拍手)ふだんの音と比べていかがですか?ここでピアノ弾かれてる感じ。
うんうん。
すごく近い所で。
ではスマートフォンを耳から離してみて下さい。
どうですか?全然聞こえないですね。
うん聞こえなくなっちゃう。
奈央さん今結構近づけてますよね。
それでも聞こえないですか?聞こえないですね。
お二人もう一回軟骨の方につけてもらっていいですか?このマイクの音は生きています。
竹内さんの方にこのくらい近づけても実は音が聞こえてないんです。
こっちはガンガン聞こえてますけど。
そうですよね。
このように周りには全く音が聞こえていないという。
音漏れしないっていいですよね。
たまに電話してて会話が丸聞こえの人っているじゃないですか。
ああいいなあ。
この軟骨伝導の技術をイヤホンに応用しますと周りの人は音楽のシャカシャカ音それを聞かずに済むという訳なんですね。
さあどうしてうるさい所でも聞こえるのでしょうか。
音漏れがしないのか。
音がどのように聞こえているのか確かめてみました。
実験では被験者の耳の軟骨この部分に振動子を装着しました。
軟骨伝導で聞いてもらうのはこんな音です。
(電子音)どこでどのような音がしているのか。
細い棒のような特殊なマイクで調べます。
耳の穴の外では…。
そう。
ほとんど音は聞こえていないんです。
ところが耳の穴に入った途端…。
(電子音)聞こえてきましたね。
そうなんです。
音が大きくなりました。
グラフで見てみても耳の穴に入った途端…。
このように音が大きくなっている事が分かります。
そっかさっきの近くで鳴っている感じは耳の中で鳴ってたんですね。
そうなんですよ。
これが新しい聴覚軟骨伝導だったんですね。
その軟骨伝導の仕組みをほかと比較しながら見ていきましょう。
まずは私たちがふだん音を聞いている状態です。
空気の振動を鼓膜でまず受け取るんですね。
その振動が最終的にカタツムリのような部分蝸牛に伝わります。
この蝸牛で神経信号に変換されて脳に伝えている。
音として認識されるという訳なんですね。
そうなんです。
次に骨伝導見ていきましょう。
骨伝導では頭がい骨が振動して直接蝸牛に音を伝えるんです。
鼓膜を介していないで直接蝸牛に届いている事が分かりますね。
そして3つ目軟骨伝導です。
この黄色い所が軟骨なんですね。
振動がまず耳の軟骨に伝わります。
そうすると耳の穴の壁の軟骨にも伝わります。
そしてここがポイントですよ。
それが鼓膜を揺らして蝸牛に届くという仕組みです。
中で音が発生してるって不思議ですね。
だからあのように近くにあるかのように聞こえたと。
さあ仕組みが分かったところでここからは詳しく専門家のゲストにお話を伺いましょう。
奈良県立医科大学の細井裕司さんです。
軟骨伝導では耳の中で音が生まれてるって不思議ですね。
そうですね。
耳の穴というのは軟骨の筒と骨の筒が連結して出来てるんです。
軟骨の筒の部分が振動しますと軟骨の筒の中に音が出来ます。
ですから…振動板の役目を果たしてると言えます。
耳がスピーカー。
だから結構はっきり聞こえたんですね。
先ほどからお話がありました現象は全て本人の耳の中に音が出来てる事と関係してます。
細井さんが軟骨伝導に注目したのは10年前の事でした。
耳鼻科医で特に難聴を専門にしてきた細井さん。
通常の補聴器を使えない難聴患者を数多く診てきました。
生まれつき耳の穴が無かったり耳の穴からうみが出るといった理由で…その場合これまでは骨伝導補聴器を使用するのが一般的でした。
しかし骨伝導の補聴器は1つデメリットがあります。
私たちはふだん左右の音の微妙な差から音の方向を感じ取っています。
そのため声をかけられた時に正しい方向を向けるのです。
ところが骨伝導補聴器では音の方向が分かりにくくうまく反応できないというのです。
骨伝導では頭がい骨全体が振動してしまい左右の耳にほとんど同じ音が伝わってしまうからです。
原理上避けられない事でした。
もっといい補聴器は作れないのか。
頭を悩ませている時偶然手元にあったのは骨伝導などに使う振動子でした。
何気なくあちこちにあてていると耳の軟骨にあてた時にだけ音の聞こえ方が全く違ったのです。
調べると耳の穴の中で音が生まれている事が分かりました。
この方法なら耳の塞がっている難聴患者にも有効かもしれない。
細井さんは何人もの患者に振動子をあてさせてもらいました。
するとほぼ全ての患者が軟骨伝導の方がよく聞こえると答えたのです。
そして5年前メーカーとの共同研究で軟骨伝導補聴器の試作器が生まれました。
両耳に装着するとこれまで分かりにくかった音の方向が判別できるようになったのです。
(患者)軟骨の方がいいです。
へえ〜。
軟骨伝導を使うと音の方向が分かるようになるんですね。
ふだんはそんなに気にかけませんけど音の方向が分かるってすごい重要ですよね。
ですね。
軟骨伝導の補聴器はもう使われてるんですかね?現在は臨床試験中で残念ながらまだ販売はされていないという事なんですよね。
そうですね。
今その準備をして全国からいろんな方に集まってもらってどういうふうに改良したらいいかを検討中です。
この軟骨伝導補聴器には更にメリットがあるという事ですね?そうですね。
スマートフォンの時もありましたように音漏れがしにくいんですね。
そこで音を逃がすようなオープンタイプというのがあるんですがこれだとハウリングがしやすいです。
(細井)それから…痛いでしょうねここ。
痛いとかハウリングとかそういう障害のないいい補聴器が患者さんのもとに届くといいですよね。
そういう事目指して今頑張ってます。
あれ?ちょっとスタジオが急に水族館みたいになりましたけど。
これ聴覚に関係ないですよね?これ大いに関係するんですよ。
え?イルカも泳いでるみたいです。
これ一体どうしたんですか?
(竹内)いきなりの質問なんですが…そうです。
イルカたちは人間には聞こえない…このグラフを見て下さい。
人間が聞こえる音の高さは通常20Hzから20,000Hzまで。
それに対してイルカはといいますと40,000Hzから150,000Hzまで聞く事ができるんです。
つまりイルカは人間よりずっと高い超音波を聞いているという訳なんですね。
もう一つ質問です。
はい。
そうなんです。
イルカが近寄ってきましたね。
こちらはイルカの骨格図です。
この下顎の骨で超音波を受けているんです。
えっ超音波がですか?振動子で直接骨導で超音波を入れますと聞こえるんですよ。
本当に聞こえるんですか?ええ。
え〜。
超音波は本当に聞こえるのでしょうか。
研究を進めるのは産業技術総合研究所。
超音波を聞かせた時脳の聴覚をつかさどる領域が働いているかどうかで検証します。
脳の反応はMEG脳磁界計測装置で調べます。
特殊な振動子を耳の後ろの骨に取り付けて30,000Hzの超音波を骨伝導で聞いてもらいます。
すると…。
でも本当に脳は音として認識しているんでしょうか。
脳の反応を見てみます。
(中川)この線とかここの辺りというのが聴覚野の反応。
聴覚野とは普通に聞こえる音を聞いた時に反応するこの領域です。
30,000Hzの超音波でもほら同じ聴覚野が反応していますよね。
脳は骨伝導で伝わる超音波を確かに音として認識していたんです。
本当に超音波聞こえるんですね。
でもどうして骨伝導だと超音波が聞こえるんですか?超音波が聞こえるなんて思ってもみなかったので驚きましたけど聞こえたところでどんな使いみちがあるんだろうって思っちゃいましたね。
そうだよね。
でも超音波で普通の言葉を伝える事ができるっていったらすごいと思わない?こんな言葉を超音波で伝える実験をしました。
「足早」。
50個の単語を特殊な方法で変換。
超音波化したものを健常者に骨伝導で聞いてもらいます。
聞き取れた単語は紙に記入。
いくつ聞き取れたのか採点します。
お〜っと!スラスラと単語を書き始めました。
聞こえているみたいですね。
迷いもなく書いているようです。
お疲れさまでした。
今回の実験では50個中45個の単語を正確に聞き取る事ができました。
うわ〜超音波でも言葉が聞き取れるんですね。
これはどういう仕組みなんですか?超音波で言葉を聞けるようにする。
その仕組みはこちらです。
超音波の波形と通常の音波の波形です。
(竹内)超音波っていうのは非常に高い音なので波長が短いんですね。
つまり波の感覚が狭いんです。
それである言葉の音波をこういうふうに表すとします。
これに超音波を当てはめてみます。
こんな感じで。
そうするとこれは…へえ〜なるほど。
こちらのグラフを見て下さい。
音がほとんど聞こえない最重度難聴の方を対象に行った実験結果です。
(細井)音が全く聞こえない人のうち約20%の人は言葉もある程度分かります。
25%ぐらいの人は音は聞こえるが言葉はちょっと分かりにくいんですね。
残りの55%の人は音も聞こえないという人たちです。
ただ音は聞こえるが言葉が分からない25%の人たちは言葉の聞き取りの練習をする事によって言葉も分かるようになっていく可能性はあります。
やはり何らか感じ取ってるだろうという事になりますね。
実際ちょっと蝸牛を見て頂きながら説明したいと思います。
蝸牛は伸ばすとこのような感じになります。
蝸牛は根元の近くには高い音のセンサーがありましてこのように振動する訳なんですね。
一方先の方には低い音専用のセンサーがあって音を聞いている訳なんです。
高さごとにセンサーが分かれてるんですね。
骨伝導で超音波を聞いた時は…。
高い音を感じる部分がこのように激しく反応するといわれているんですね。
先ほどのグラフにありましたように…ふだんほとんど音を聞き取れない人が聞こえるってすごいですよね。
ですよね。
この分野の研究ってこのまま進んでいったら一体どこまで行くんですかね。
超音波というのはまだそれでも言葉が分かるという人がそれほど多くないんですね。
超音波というのは非常に甲高い音でどちらかと言ったら不快な音なんですね。
それにも慣れてもらってそこからまた言葉を聞き取るというトレーニングが多分いると思います。
それからやっぱり言葉が聞き取れない人がいますのでその辺を研究によってもっと多くの人にそれからもっと精度が高いと言いますかもっと言葉を分かりやすく。
そのような補聴器の開発が必要だと思います。
軟骨伝導という聴覚の新しい形態がすごいですよね。
Dialogu2014/09/14(日) 23:30〜00:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO▽軟骨で聴く!超音波も聞こえる!新しい聴覚が広げる音の可能性[字]
耳の軟骨の振動を使って音を聴く「軟骨伝導」という方法が注目され、携帯電話や補聴器に利用され始めている。骨伝導を使えば、超音波が人間にも聞こえるという研究。
詳細情報
番組内容
耳の軟骨の振動を使って音を聴く「軟骨伝導」という方法が注目されている。これを利用した携帯電話は、耳の穴の中で音声が生まれるという特徴のために、うるさい場所でもはっきり聞き取れ、音漏れもない。また、骨伝導を使えば、本来は人間には聞こえない超音波が聞こえることも明らかになった。この軟骨伝導や骨伝導を用いた新しいタイプの補聴器の開発も進んでいる。「新たな聴覚」の研究最前線をリポートする。
出演者
【ゲスト】奈良県立医科大学学長…細井裕司,【司会】竹内薫,南沢奈央,【キャスター】江崎史恵,【語り】土田大
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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