――現在の佐渡ヶ嶽部屋は親方が持ち込んだ科学的な理にかなったトレーニング技術と、精神力を鍛える伝統的な稽古が上手く絡んで凄く良い環境下にあるんですね。
【琴欧洲】　そうですね。ちゃんこと白米食って強くなれ！って言うけど、それだけじゃ強くなれないし、体も大きくならない。食事もトレーニングもバランスよくやっていかないと、自分自身が壊れてしまうから。 ──因みに今は新弟子も自転車に乗っていいんですか？
【琴欧洲】　もちろん。部屋に共有の自転車もあるしね。だって、自転車乗っちゃいけないなんてバカみたいでしょ（笑）。 ──合理的ではないですよね。
【琴欧洲】　やっぱり、一番下の新弟子が一番忙しいんですよ。稽古の他にも先輩からお使いを頼まれたり、いろいろな世話をしないといけないんで。 ──あまりに不条理なしきたりという部分は、親方が新弟子時代に疑問に感じていたことだし、変えたかったという思いが強かったんですね。
【琴欧洲】　そうですね。余りにも強さと関係ない決まり事は変えたかったですね。ただ、全てを変えてしまうのもいけないと思う。昔から伝わる、苦しい稽古を経験して乗り切ることで“自分に勝つ”ことができるから。自分に勝てない人は、絶対に相手に勝てない。

──伝統的な根性論、精神論のようなものも必要ではあると？
【琴欧洲】　必要ですね。ただ、それは当然経験することであって、そこから更なる強さを持てるかどうかは本人次第だと思う。自分自身、何が足りないかを気付かないと上にはいけないんです。どうしたら自分自身が気付けるかを、今親方として一生懸命考えてますよ（笑）。 ──全てを教えるのではなく、自分自身で気付かせる教えということですね。
【琴欧洲】　結局、やらされているだけでは力がつかないんです。だから、気付いた人間と気付かない人間では本当に差がつく。1日だけなら変わらないかも知れないですけど、1年単位で考えたら全く違う結果になる。 ──親方として教える立場になって改めて感じましたか。
【琴欧洲】　もうね、現役の時の方がよっぽど楽ですよ（笑）。
──最近の若い人は…という議論になってしまう可能性があるのですが（笑）、親方が新弟子時代に体験した稽古とは異なるワケですよね？
【琴欧洲】　怖さがないよね。
──理不尽な暴力やしきたりへの怒りや悔しさが、自分の糧になっていたという面はありますよね。
【琴欧洲】　そうですね。だから、難しいところです（笑）。悔しい思いをさえることは絶対に必要。そこから、自分に何が足りないのかが分かるから。でも、それが“いじめ”にまでなってしまうと、何も意味のない稽古になってしまうので。

──でも、親方自身も新弟子に怒りたいと思う瞬間ってあると思うんですよ。でも、何とか自分自身を自制していることってあるんじゃないですか？
【琴欧洲】　ありますねぇ（笑）。何度言っても右から左に受け流しちゃう新弟子には、もうホントにどうしようかなって（しみじみ）。 ──人に教えるって難しいですよね。しかも現在は、10月4日に迫った断髪式の準備もありますもんね。
【琴欧洲】　そうですね。現役時代より忙しい（笑）。 ──お子さんとの時間など、家族サービスなども、出来ればしたいですもんね。
【琴欧洲】　そうですね。だから自分の寝る時間を削ってます。今はとりあえずゆっくり寝たい（笑）。
──とりあえず、断髪式までは！ということですね（笑）。最後に、琴欧洲親方としての夢を聞かせてください！
【琴欧洲】　色々記録を作ることは出来たけど、やっぱり横綱にはなれなかったので。今度は僕自身が育てた力士が横綱になるところが見たいですね。やり甲斐はありますよ！

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