――元々、母国ブルガリアでアマチュアレスリングの特待生として大学生活を送っていた親方ですが、相撲の練習に興味を持ち、軽い気持ちで来日されたんですよね？
【琴欧洲】　元々、相撲部屋に入る前提で来日したワケではなく、相撲の練習がアマチュアレスリングに活かせればと思ってたんです。ただ、いざ日本に来たら、相撲取りになる話が出来ていて。「え!?」って思ったよね（笑）。 ──実際に、初めて日本に来て相撲の稽古を体験して、相撲の面白さや深さを実感されました？
【琴欧洲】　いえ。正直、その段階ではまだ。それよりもツラさの方が（笑）。我慢、我慢、どこまで耐えられるか？ という内容でしたから。 ──母国でのアマチュアレスリングの重量級の廃止やお父様の病気などもあり、力士になる決意をされました。実際に部屋に入門して、いわゆる根性論に沿った練習って、最初は理解出来なかったと思うんです。親方はどのように折り合いをつけていたのか？
【琴欧洲】　理解する、しないというより、とにかく耐えるしかないって自分に言い聞かせてましたね。段階ごとに色々な自由が与えられるので、「ここを我慢すれば、次に行ける!!」っていうことの繰り返しでね。もう本当に細かいことですよ。「これを耐えたら、自転車に乗れる」とか（笑）。 ──新弟子は自転車での移動が禁じられていて、全て徒歩移動だったんですよね。
【琴欧洲】　そうそう。「なんで!?」っていうことが沢山あって（笑）。兄弟子から買い物を頼まれて、どんなに場所が遠くても徒歩とか。「ここを頑張れば、自転車に乗れるんだ！」っていう、訳の分からないモチベーションが生まれて（笑）。でも、当時の自分にとっては、結構重要な問題でねぇ（しみじみ）。

──言葉も分からない状況の中でよく耐えられたなぁって尊敬しますよ。
【琴欧洲】　多少の犠牲はしょうがない。人生の中での1年や2年なんて、大したことではないんだって。せっかく与えられたチャンスなんだから、そのチャンスをモノにしようとは思いましたね。 ──早朝からの稽古などは…
【琴欧洲】　（遮って）朝稽古は一番楽だったよ！ 元々、アマレスをやっていたから体力には自信があったし。それよりも、日本での生活、特に相撲部屋での生活、上下関係などはブルガリアには無いものだったから。 ──相撲部屋に入門するということは、ただ日本で生活を送るワケではないですからね。
【琴欧洲】　誰も何もしてくれない、むしろ自分が皆の世話をする……。練習の方法や、しきたり、食事、睡眠など全て何も教えてくれないですから。自分で理解して直ぐに実行する。じゃないと怒られるからね。 ──親方が入門した当時は今よりももっと厳しかったんですよね。ある意味、人間扱いされなかったというか（笑）。
【琴欧洲】　日本といえば、先進国のイメージがあったけど、相撲部屋に入門して、まるで時代劇の世界に入ったような感覚でしたね。「何時代だよ!?」って（笑）。

──親方の場合は特に言葉の壁もありましたし。
【琴欧洲】　そうですね。日本語を理解するまでは本当にキツかったですね。何に対して怒られているのかが分からないということは、学習できないということですからね。 ──あと、ブリガリアでは白米は主食というより、おやつとして食べる傾向が強いので、食事の面もキツかったでしょうね。
【琴欧洲】　そうですね。今はもう慣れたので問題ないですけど、新弟子はとにかく白米を沢山食べて体重を増やすのが基本ですから。兄弟子たちが食べた後の残ったちゃんこの汁で白米をボウルに入れて食べてね（笑）。 ──汁ですか（笑）。具は？
【琴欧洲】　そんなのないよ！ たまに野菜の切れがある程度（笑）。 ──それで、体重を増やさないといけないんですよね？
【琴欧洲】　だから、1年で3キロしか増えなかったですね。 ──増えるワケないですよね（笑）。
【琴欧洲】　バランスのよい食事ではなかったですね。とりあえず米、米、米で炭水化物ばかりでしたから。体を動かすのに確かに必要ですけど、そればかりではマズい。だから、お相撲さん糖尿病が多いでしょ？ いい意味でバランスよく食べることで、体重も増やすことが出来る。もちろん稽古も様々なトレーニングを取り入れてね。 ──親方は現役時代、朝稽古後に誰もいないジムで筋力トレーニングに励んでいたそうですね。
【琴欧洲】　もちろん、朝稽古後は睡眠も取っていましたよ。休み事も大事なので。ゲームやテレビを観ることに時間を費やすよりしっかり休むことが大事。大事なのはバランスよく様々なトレーニング法は取り入れること。これは食事にもトレーニングにも同じことが言えると思います。今は若い力士も機器を使ったトレーニングをしてますよ。僕の影響でね（笑）。

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