アスリートの魂「背負い投げ輝くまで 柔道 野村忠宏」 2014.09.11

小さな町の道場。
少年はひたすら背負い投げの稽古を続けた。
「強くなりたい。
大きな相手に勝ちたい」。
負けても負けても決してやめなかった。
強くなるその日を信じて。
少年の名は…身長164cm。
史上最強の柔道家に成長しました。
無敵の背負い投げでオリンピックを制覇。
(実況)背負い投げ一本!
(実況)そうだ背負った!
(実況)背負い投げに行く!背負い投げ一本!前人未到のオリンピック3連覇を成し遂げました。
自分の一番大好きな技であり得意技であり信頼できる技ですよね。
しかしその後は2大会連続で出場を逃しました。
背負い投げに欠かせない膝の靭帯を断裂。
更に右肩を襲った大ケガ。
39歳満身創痍。
それでも現役にこだわり戦い続けています。
その柔道がもう一度したい。
本当に僅かかもしれないけど…「もう一度輝く背負い投げを決めたい」。
1年間にわたる己との壮絶な闘いを見つめました。
7月の朝…野村忠宏選手の一日は走り込みから始まります。
200mの坂道ダッシュ。
決して足を止める事なく8本繰り返し心肺機能を鍛えます。
更に115段ある階段を5本連続で駆け上がります。
現在39歳連続して走れる本数は徐々に減ってきています。
それでも全力を出し切ると決めています。
あ〜暑い!ちょっと情けないかな悲しいかなで10回のうち7回しか体動かない6回しか動かないってやっぱだんだんそういうふうになってきてるからね。
そうしたらその6回7回っていうのだけ10回はできなくても6回7回を全力で100%というのが今アスリートとしての信念というかね信条ですよね。
走り込みを終えると母校天理大学の道場に向かいます。
(取材者)暑いですね。
言ってもしょうがないけどね毎日暑くてもう。
ちょっと本当バテてますよ。
大学を卒業して企業に所属してからもここで稽古を続けています。
野村選手にはずっとこだわり続ける技があります。
それは…この技で数々の栄光を手にしてきました。
18年前のアトランタ大会。
21歳の野村選手は初めてオリンピックの舞台に立ちました。
最も軽い60kg級。
この時ほとんど名前を知られていませんでした。
(実況)担ぎ上げて背負い投げ!背負い投げを次々に決め見事金メダル。
(実況)優勝野村!続くシドニー大会は徹底的にマークされた大会でした。
(実況)おっ背負い投げだ!それでも連覇を果たします。
更に背負い投げを磨いて臨んだアテネ大会。
(解説)今チャンスですよ。
(実況)背負い投げに行った一本!
(実況)背負い投げに行く!背負い投げ一本!
(実況)野村忠宏史上初オリンピック柔道で大会3連覇達成です!来ると分かっていても防げない野村の背負い投げ。
その秘密はどこにあるのか。
警戒した相手が野村選手の右腕を強く引っ張っています。
それでもうまくタイミングを計り懐に入りました。
鍵は右腕にありました。
更にもう一つの秘密がありました。
ロサンゼルスオリンピック金メダリストの細川伸二さんは膝の動きが鍵だと言います。
隙をうかがう野村選手。
相手は極端に頭を下げています。
それでも更に低く入り込み畳スレスレから膝を伸ばして担ぎ上げました。
最後の最後の爪先までピッという事にやっぱりこだわってますよね。
(解説)残り2分20秒今チャンスですよ。
(実況)背負い投げに行った!一本!背負い投げで一本勝ち!ところが3連覇したあと野村選手を悲劇が襲います。
右膝に大ケガを負い勝てなくなってしまったのです。
背負い投げに欠かせない膝の…北京ロンドンと2大会連続でオリンピック出場を逃しました。
引退もささやかれるようになりました。
野村選手が2年ぶりに大きな大会に出場すると聞いて取材に入りました。
向かったのは鍼灸院。
こんにちは。
もっこり恥ずかしいから短パンはいてきた。
ケガから6年がたち右膝はこれまでになくよい状態でした。
大会は1か月後。
そこで背負い投げを決めて勝つ事を目標に定めていました。
やっぱりそういう現実の中で諦めずにやってきた自分がいて…。
瞬間の柔道の強さ瞬間の技の切れっていうのは自分の見えない奥深い所奥底で眠っている部分っていうのはあると思うんですよ。
それを試合の緊張感の中で一瞬でもいいから引き出して一瞬でもいいから最高の柔道ができたらいいなって。
「もう一度最高の背負い投げを決めてみせる」。
野村選手の覚悟です。
全日本実業柔道個人選手権。
全国の企業に所属するトップ選手たちが日本一を争う大会です。
野村選手の60kg級は若い選手が次々と台頭してきています。
一回り以上も年下の選手たちのスピードに対抗しなければなりません。
野村選手年齢を感じさせない技の切れを見せます。
順調に勝ち上がるかに見えました。
ところが2回戦。
相手は26歳の若い選手。
一本を取るため相手の背中を畳にたたきつけようと上半身をのけぞらせた時でした。
右肩を激痛が襲いました。
それでも試合に出続けた野村選手。
右肩の痛みで背負い投げに入る事ができません。
なんとか勝ち上がりました。
しかし…。
結局野村選手は準決勝で敗れました。
右肩のケガは予想以上に深刻でした。
検査の結果すぐに手術が行われました。
野村選手の右肩は技をかけた時後ろ向きに大きな力が加わり肩甲骨と腕の骨をつなぐ肩甲下筋腱が断裂しました。
腕の骨にビスを埋め込み切れた腱を骨に縫い付ける事になりました。
手術は成功。
しかし道場での稽古は4か月中断せざるをえなくなりました。
野村選手の実家に造られた小さな道場。
稽古ができない間野村選手は時折ここを訪れました。
館長は父親の基次さん71歳。
長年にわたり大勢の子どもたちを指導し続けてきました。
8歳の長男基晴君もここで稽古をしています。
パパ背負い投げ教えるやろ?うん。
嫌?別にどっちでもええけど。
無心に柔道に取り組む子どもたち。
その姿は自らの柔道の原点だといいます。
楽しそうやもん。
なかなか日々の練習の中で楽しさとかというのを忘れるっていったら変だけどなかなか感じる事ってないんですよね。
そういう大切な部分というのを思い出させてくれるのがこの道場であり子どもたちかなって。
野村選手は代々続く柔道一家に生まれ3歳から柔道を始めました。
しかし小柄で力が弱く女の子に負ける事もありました。
そんな野村選手に父親の基次さんは背負い投げを教えました。
大きな相手を投げる事ができるこの技があれば強くなれると信じ無心に稽古を続けました。
女房にも言わなかったです。
その後も背負い投げを特訓し続けました。
背負いに入った時2人掛かりで負荷をかけてもらう稽古。
強じんな膝のバネが培われていきました。
そして高校3年の時全国大会に出場。
背負い投げで挑んだ野村選手は見事準優勝に輝いたのです。
そういう自分の可能性とかねそういうものを与えてくれたのが背負い投げだったんですよ。
俺はこの背負い投げっていうのを磨き続けていったら一生懸命努力し続けた自分の未来自分の将来にすごいいい事があるんじゃないかって。
天才といわれてきた野村選手。
実は努力に努力を重ねて背負い投げを身につけ可能性を切り開いてきたのです。
ケガからの再起を図り野村選手はトレーニングを開始しました。
そのやさき柔道界を揺るがす出来事が起きました。
母校天理大学の上級生が下級生に対し練習態度が悪いとして平手打ちなどの暴力を加えていた事が明らかになったのです。
誠に申し訳ございませんでした。
柔道部は対外試合を6か月間自粛。
体制を一新し指導の在り方を根本から見直しました。
暴力行為は女子の日本代表でも発覚し柔道界にかつてない厳しい目が向けられていました。
…という事をメッセージとして発していければ。
ただ今は本当にしっかりと準備をする。
もう一度戦える状態に作り上げるっていう。
毎日が覚悟を持って本当にやらなきゃいけないし毎日が挑戦だと思ってるし。
リハビリを続けて8か月。
野村選手が目標に定めた大会はただ一つ。
去年ケガをして敗れた全日本実業選手権でした。
右肩は順調に回復切れた腱は骨に定着しました。
古傷の右膝もよくなっていました。
「いやよう頑張るなすごいな。
応援してるよ」ってもうみんなそうなってきましたよ。
ところが実戦形式の乱取りを始めると思いどおりに動く事ができません。
あ〜もう。
背負い投げが決まりません。
その次も。
原因は右手にありました。
投げに入った時右手を離しています。
この日仕掛けた背負い投げは8本。
手を離さなかったのは1本だけでした。
一体野村選手に何が起きたのか。
これ張ります?張ってる感じはないですか?背負い投げに入る時はケガをした時と同じように右肩を後ろに大きく反らします。
そのため無意識に恐怖を感じていたのです。
野村選手はこれまで以上に筋力トレーニングに取り組みました。
恐怖を克服するためにあえて肩を後ろ側に反らす動きを繰り返します。
更に右手で腕相撲。
ケガをした部分とその周りの筋肉を鍛えれば少しでも不安を減らせると考えたのです。
手首使って。
相次ぐケガ。
それでもあの背負い投げを諦めていませんでした。
冷静に考えた時に…「野村はもう」っていうね。
周りは諦めているかもしれないけど…そういう感覚はありますね。
つかの間の休息。
後輩のアスリート仲間が集まりました。
じゃあ…。
(一同)お疲れさまで〜す。
世界選手権の銅メダリストです。
中央競馬の年間最多勝に2度輝いた現役のトップジョッキーです。
(笑い声)笑っていいとこなの?なかなかの事実でしょ。
自分でちょっと見下して…なかなか貴重な存在なんですよ。
4〜5cm3〜4cm3cmぐらいやけど。
2人が口をそろえるのは年上の野村選手がケガを抱えながら現役を続けている事への驚きでした。
気持ちがそこまで奮い立たない人が多くてやっぱりケガするリスクが高くて。
もうそれが怖いとかって辞める人が僕らの世界で結構多いんですけど。
毎日同じような生活じゃないですか。
これまたやんのかっていう。
結構地味ですよね。
毎日同じルーチンでずっとやるじゃないですか。
先輩柔道歴何年ですか?35〜36年くらい。
この時抱き続けてきた思いがあふれ出しました。
本当はだからもうケガの事も何の事も関係なしに思いっきり力出し切って思い切って本当に熱い勝負がしたいというのがやっぱり一番ですよ。
もうやっぱりこう引退を覚悟して試合して終わったあと試合終わって敗れた選手…けどもう本当に全てを出し切っていい笑顔っていうかね。
…というのを見たらちょっと羨ましいと思うしね。
自分はこの何年って負けても悔しくてこの年になって泣いて…みたいなね。
悔しい事しかないから。
やっぱり出し切りたいという思いはありますね。
大会まで1か月。
背負い投げに変化が現れました。
最後まで右手を離しませんでした。
今度も。
そして次の瞬間。
低い位置から伸び上がるような背負い投げ。
全盛期を彷彿とさせる一本でした。
この日仕掛けた背負い投げは6本。
怖さを感じる事はなかったといいます。
現状では十分なのかなって。
ただそれが試合っていうふうに考えた時にもっと強いレベルの高い相手ともしなきゃいけないし力のあるレベルの高い選手とやった時に対等に戦えるように持っていくかそれが課題ですよね。
ところが野村選手にまたもや試練が訪れます。
大会を2週間後に控え日本体育大学での出稽古に挑んだ時の事でした。
トップクラスの選手との乱取り。
なぜか背負い投げを出しません。
分厚いサポーターが両膝に巻かれていました。
実は直前の稽古で古傷の膝を痛めてしまったのです。
背負い投げの軸足となる左膝は軟骨を損傷していました。
ちょっとこっち来る前にまた膝痛めて今技がかけれないね。
まあね歯がゆいというかねまたかっていうね。
稽古を積み上げていい練習を積み上げて試合を迎えるっていう事の難しさを年とともに感じる。
それはやっぱりありますね。
う〜んうまくいかねえなっていう悔しさね。
なんとかあがいていきたいなと思うし。
大会は目前。
野村選手は試合に備えて減量を続けていました。
2週間で落とした体重は5kg近く。
しかし膝の状態は悪化していました。
左膝に水がたまり痛みがますますひどくなっていました。
それでも稽古をやめません。
激痛が容赦なく襲います。
歯がゆさとかねまあ情けなさというか悔しさというかそういういろんな気持ちがあって心が砕けそうになる。
膝は限界に近づいていました。
大会当日。
試合会場に野村選手の姿はありませんでした。
野村選手は出場を辞退しました。
この大会に全てを注いできた日々。
これまでにない思いが押し寄せていました。
う〜ん…。
だから本当にもうもう限界だと思ってもうやめようかなって思った自分もいたし…。
けどまだ諦めるのは早いって思う自分もいたし。
力を出し切って戦う事もできず延々と続く孤独な闘い。
引退も考えていました。
この日野村選手が向かったのは実家でした。
柔道を教えてくれた父基次さんに会うためです。
勝った負けたやない。
これだけやっぱりみんなが楽しみにしてくれている事を…「悔いのないよう最後までやりきれ」。
野村選手の努力をずっと見守ってきた父基次さんのエールでした。
まあね本当に自分が選手として柔道を続ける意味というのを改めて教えてもらったというか…。
親父であり人生の先輩柔道家としての先輩からそういう言葉を聞けたというのはやっぱりすごい本当に自分にとって有意義というかいい時間になったなって。
頑張ろうかなって。
何度試練にさらされてもひたすら輝く背負い投げを追い求めてきた野村忠宏選手。
悔いなき道を進む。
今心に決めています。
2014/09/11(木) 01:31〜02:15
NHK総合1・神戸
アスリートの魂「背負い投げ輝くまで 柔道 野村忠宏」[字]

豪快な背負い投げを武器に、前人未到の五輪3連覇を果たした柔道の野村忠宏選手。39歳になった今、自らの柔道人生の全てをかけて肉体の限界に挑む野村選手の闘いに密着。

詳細情報
番組内容
野村選手は五輪3連覇後は2大会連続で五輪出場を逃したが、去年、国際大会で優勝するなど復活を印象づけた。ところが右肩のけんを断裂。それでも「1%でも可能性があればあきらめない」と現役を続行した。自分が納得する柔道をするために、今年は試合を8月の全日本実業大会一本に絞った。ベスト4に入れば全日本の強化指定選手に選ばれる可能性がある。自らの柔道人生をかけて肉体の限界に挑む不屈の魂に迫る。【語り】萩原聖人
出演者
【語り】萩原聖人

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
スポーツ – 相撲・格闘技

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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