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第11回 和月伸宏/るろうに剣心 裏幕 ─炎を統べる─
アプリ“ジャンプBOOKストア”!やWEBで、毎月4日あたりに配信中!『ジャンプ』の現役編集者が、担当作品の“オススメの一話”を語る激レアインタビューだ!第11回目となる今回は、劇場版が10月現在、2014年実写映画最大級の大ヒットとなっている、『るろうに剣心』。そのスピンオフ作品『炎を統べる』だ!!それでは行ってみましょう!推す!
<『るろうに剣心 裏幕 ─炎を統べる─』あらすじ>

明治十年晩秋、東京府・新吉原に現れた志々雄真実と二人の部下。初めて結集される十本刀が交戦する相手とは…!?駒形由美や十本刀との邂逅を描いた、志々雄真実の組織旗揚げの物語!

推す!この一話はコレだ!
なし

推す!“志々雄真実”!!

—小川さん、2回目の出演ということで!

小川 よろしくお願いします。

—よろしくなんですが、どういうことでしょう?推す!一話が「なし」って!

小川 今回の『炎を統べる』なんですが、前後編でコミックス1冊という作品でして。2話しかない中で、どちらかに絞るのもおかしいなと思って。

—確かに…!

小川 というわけで作品全体を、推そうと思います。

—わかりました!それではまず、『炎を統べる』について、少し説明いただけますか?

小川 『るろうに剣心』は近年、3つの新作漫画を展開しています。1つ目が2年前、映画第1弾に合わせてジャンプSQ.で始まった『キネマ版』という連載。2つ目が、『キネマ版』と同時に週刊少年ジャンプに掲載された『第零幕』という読切です。

—覚えてます!『キネマ版』が、劇場版のリメイクのようなストーリーで、『第零幕』が原作1話の直前の話ですよね。

小川 そうですね、薫と会う直前の話です。ちなみにそれらは、『特筆版』というコミックスの上下巻に収録されています。

—はい。で、今回の『炎を統べる』は……。

小川 3つ目になりまして。剣心の宿敵である、志々雄真実(ししおまこと)を主人公とした作品になっています。

『炎を統べる』前編より。火傷を負う前の志々雄の素顔が、初めて明かされたワンシーンだ!

—志々雄を主人公にした理由は、映画合わせということですよね。

小川 タイミング的にはそうですが、当初は比古清十郎をやろうかとか、逆刃刀の話を掘り下げてみようか等々、志々雄を主人公としないアイデアもありました。ただ和月先生の中では、志々雄をもう一度描きたいという気持ちが自然と湧いてきたようです。新しい劇場版は『京都大火編』『伝説の最期編』を通して志々雄と戦う物語だったので、最終的に今のコンセプトに落ち着いた形です。

吉原(で原稿が)炎上

—志々雄を立てるための演出が盛りだくさんなんですね。

小川 和月先生自身も「志々雄でピカレスクロマンをやりたい」と仰っていまして。極悪人とわかっていながら、読者が思わず志々雄に憧れちゃうような、そういう作品が描けたらいいですね、と。

—志々雄って悪役キャラとして、めちゃくちゃ人気高いですもんね。

小川 そうですね。で、志々雄を描くにしてもどう描きましょうか、どこで活躍させましょうか、と和月先生、小説担当の黒碕薫先生と話し合いまして。じゃあ由美と出会う話にすれば、志々雄のかっこよさも引き立ちそうだし、吉原という遊郭なら舞台としても面白いだろうと。

—由美が遊女だったという設定、元々ありましたしね。

小川 その遊女だった時の衣装も見てみたいよね、みたいに話が膨らんでいって…。でも、今回の『炎を統べる』は2年前に描いた新作『るろ剣』2作品と違って、初めての別主人公による正統派スピンオフ作品なんです。なので、話の整合性を合わせなくちゃいけないし、新しい舞台の資料を集めなきゃいけないという事になって。フィクションですが、歴史マンガでもあるので、設定や時代背景には気を配る必要があります。それで過去のコミックスや吉原の資料などをガッツリ熟読して作品に臨みました。

—明治時代の知識まで必要だったんですね…!大変なことはありましたか?

小川 改めて花魁というか、遊郭の勉強をしたわけなんですけど、遊郭の建築や衣装が細かくて大変すぎて…。和月先生も、特に花魁の髪飾りが大変だと漏らしていました。

—どういうことでしょうか?

小川 あれが立体的にどうなってるか、一見わからないんですよ。

—ああ、確かに!

『炎を統べる』前編より。さらっと描かれているようにも見えるが、綿密な取材による確かな裏付けがあった!

小川 詳細な資料もなくて、土壇場になって大変だったらしいですね。

—髪を結う順番や、どこにかんざしが刺さっているとか、パッと見わからないですもん…。

小川 そうなんです。明治時代なので写真は現存しているんですけど、他の作家先生が描いている花魁ものを参考にしたり、いろいろ資料をかき集めるのに腐心されていました。

“煉獄”は悲劇の戦艦

—漫画って、想像じゃ描けないですからね…。

小川 煉獄っていう戦艦も出てくるじゃないですか。明治時代の戦艦についても一筋縄ではいかない資料との格闘がありました。

—と、いいますと?

小川 戦艦に搭載されている大砲について当時の資料に“安式”という記述があるのですが、それが何を表しているのかわからないんですよ。歴史書ではもちろん、ふりがなも振ってないし。いろんな資料を調べた結果、どうやらそれは“アームストロング式”らしいぞと。

—あああ!

小川 それなら“○式”って会社名かもってことで、他の単語も解析していったら、他の漢字も全て当てはめることができたんです。「克式」って書いたらクルップ社式だ、みたいに。1つのピースへ、次々と新たなピースが当てはまっていくんですよ。

—へええ!推理クイズみたいですね(笑)。

小川 当時の常識で書かれた本なので、現代人にとっては説明不足なんですよ。

—歴史資料を解読する戦いでもあるんですね、『るろうに剣心』って…。

小川 映画『伝説の最期編』では“煉獄”がリアルに再現されているのですが、あれも下調べが大変だったんじゃないですかね。

—映画では“煉獄”の上で最終決戦をやってるんですよね?コミックスでは左之助の炸裂弾に沈められた艦ですが、どうしてそんな重要な舞台になったんでしょう?

小川 そもそもなんですが、あれ実は漫画連載当時、戦艦の作画が大変すぎて。スタッフさんがとてもじゃないけど、毎週描いてたら倒れてしまう!という事になったらしいです。

—ええ。

小川 泣く泣く、沈めさせたらしいです。

『るろうに剣心』コミックス12巻より。大砲や装甲など、バキバキにかっこいい戦艦“煉獄”。だがその設定の細かさが、轟沈の原因となっていたとは…。

—そういう裏話があったんですか!!志々雄が「全財力の五分の三をつぎ込んだ」って言ってた割に、やけに簡単に沈められたなぁ、って当時思っていたんですけど…。

小川 本当なら志々雄と剣心を“煉獄”で戦わせたかったらしいんですよ。だから、漫画で出来なかったので、大友監督へ「煉獄で戦わせてください!」と原作サイドから直訴したわけです。

—なるほど…。

小川 監督に「わかりました!」と快く引き受けていただき。結果、ものすごい画を撮っていただいて。

—いい話ですね!

小川 和月先生も当時、描きながら悔しかったはずですから、実現して本当に良かったと思っています。とはいえ莫大な予算がかかったはずなので、プロデューサーが後で泣いたのではと…。

—“煉獄”に、全制作費の五分の三をつぎ込んだんですかね。

小川 それ志々雄のセリフ(笑)。

志々雄が雑魚に負けた…!?

—あ、すみません!推す!1話はなくても、推す!場面やセリフはありますか?聞いていませんでした。

小川 『炎を統べる』オリジナルキャラの軍人・一ヶ瀬鮫男(いちがせさめお)。こいつはいいキャラでしたねー。志々雄って最強の敵キャラじゃないですか、なのでどんな敵が出てこようと、格下にしか見えないんですよね。なので、敵方の描き方が難しいという話を和月先生としていまして。

—エピソード的には剣心と戦う前ですし、負けるわけないですもんね。

小川 一番最初は、志々雄とバチバチやってるんですけど、次のシーンでいきなりバトルに移っているわけですよ。志々雄は頭を撃ち抜かれて、直後に斬り刻まれる…。全部こいつの妄想だったんですけど(笑)。なので、この場面が好きですね。

『炎を統べる』前編より。志々雄真実、まさかの瞬殺———!!?と思いきやなんの事はない、想像でした。でも強気!なにコイツ!!!

—あああ!いい感じに小物感出てますね!

小川 こいつ“頭のなかで最初に勝利イメージを沸かせてから戦うと、絶対に勝てる”って信じていて、実際こういう戦い方で西南戦争を生き抜いたんですけど。

—はは〜。

小川 なんで対志々雄にしても、1回頭の中で倒すイメージをして、勝った気になってるんですよ。うわぁすげぇ三下だ〜って(笑)。「これ超面白かったです!」って和月先生や黒碕薫先生に伝えたんですけど。結果、後編でそれに“想像模擬戦”っていうネーミングがついてて、余計三下感が増しちゃったっていう(笑)。

—ほとんど、ただの妄想野郎じゃないですか(笑)。

小川 妄想で勝った気になってやがる、ってのが格下として面白いなぁって(笑)。どんなに強いやつにしても志々雄には勝てないので、どうせだったら印象に残る雑魚にしよう、という試みがうまくハマった気がしますね。

—しかも想像なんで、普段じゃありえない志々雄の敗北シーンも描けるっていうか。絵的にはイーブンって面白いですね(笑)。

小川 煉獄を買うときにも、志々雄の臣下の方治は「言い値で現金一括払い」って言ってるんですけど、鮫男は「頭金を払って分割十年払い」って、ローンを組む気満々なんですよ。みみっちいなぁ、そんなところも三下でいいなって(笑)。

—ドヤ顔でですからね、愛すべき三下(笑)。

小川 挙句、ラストでは、志々雄と人斬り抜刀斎を間違えてますから(笑)。

—しかし、全編通してファンサービスが多い作品なんですね。最期に志々雄の“終の秘剣”まで見せてますもんね。

小川 志々雄の“火產靈神(カグヅチ)”って、『明治剣客浪漫譚』で方治が「由美も知らぬとは正に「秘剣」!」って反応していまして。なので、本来は十本刀の誰も見たことのない奥義なんですよ。

—ストーリーの整合性に目をつぶってでもそこは描きたかった、と。

『炎を統べる』後編より。時を越え、この奥義が拝める日が来るとは!!志々雄ファン垂涎の一撃+三下の見事な天然!!

小川 “火產靈神”は剣心との決戦でも不発に終わってしまった奥義なんで…。そこだけファンの方には目をつむっていただいて、楽しんでくださいというところでして。映画にしても、完全に原作と同じ作品として向き合うのではなく、極上のアクション映画として、それぞれを楽しんでいただけたらと思っています。

新形態のコミックス!そして…

—10月4日に発売された、そんな『炎を統べる』なんですが、通常のコミックスとは少し違うと聞きました。

小川 前後編の漫画を載せて、さらに黒碕薫先生の書き下ろし小説が載っているんですよ。

—へ?小説ですか?

小川 そうです。漫画が70ページ、小説が100ページ、十本刀の紹介記事が20ページ。で、全体を通して約200ページの志々雄本です。小説ではさっきのアームストロング社の話だったり、細かい設定も拾っています。漫画では表現しきれなかった情報も補完できる内容になっています。

—あ、ではストーリーは漫画と小説で同じなんですね。

小川 いや、時間軸は同じなんですが、実は小説の方は方治をメインとして描かれているんですよ。

—方治の目を通して、志々雄を見ている感じですか?

小川 その目で由美や宗次郎等、漫画版に登場する全員を、方治が追っていく形になります。まあ追うというか、十本刀の連中には振り回されるというか…。

—方治はまだ、常識人の部類ですからね(笑)。

小川 あ、あと方治と遊女の華火(はなび)との、ラブロマンス的なものも少しだけ入っています。

—方治ファンにはちょっと悲しいという(笑)。でも、内容がとても珍しいですね!

小川 そうですねー、今のところ可能性としてあるかどうかはお応えしかねるんですが…。今回の作品について、和月先生は執筆がメチャクチャ楽しそうでした。他の『るろうに剣心』のキャラにまた和月先生が会いたくなったら、今回のような新作も、またあるかも知れませんね〜。

—ちなみに素朴な疑問なんですが、今後、志々雄でない他のキャラのスピンオフ作品みたいなものって予定されているんですか?

小川 そうですねー、今のところ可能性としてあるかどうかはお応えしかねるんですが…。和月先生で言えば、今回は執筆がメチャクチャ楽しそうでした。他の『るろうに剣心』のキャラにまた和月先生が会いたくなったら、今回のような新作も、またあるかも知れませんね〜。

—では、そろそろお時間です。何か告知などありますでしょうか。

小川 ジャンプSQ.本誌では、和月伸宏先生の『エンバーミング』が今年連載7年目なのですが、今まさにラストスパートへ入っています。どんどん盛り上がっていくので、SQ.本誌もこれから注目していただけると嬉しいですね。

—はい!ありがとうございました!!以上、SQ.の小川さんでした!!!

「推す!この一話」第11回、これにて終了!君も全財力の五分の三を握りしめて『炎を統べる』を購入し、劇場版『るろうに剣心 伝説の最期編』を観に行こう!どっちもド迫力でアツくなれるぞ〜!というところで、次回もまた話題の漫画にスポットを当てて、「推す!一話」を紹介します。配信は11月を予定!所詮この世は……乞御期待!
エンバーミング—THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN—
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