憲法解釈の変更で集団的自衛権の行使容認に踏み切った政府判断について、熊本日日新聞社は9月上旬、熊本大法学部の学生100人にアンケートを実施し、30日までに結果をまとめた。行使容認に否定的な意見が目立つ一般的な世論に対し、学生の賛否はほぼ拮抗[きっこう]し、若者の“リアリスト”としての一面が浮かび上がった。
法学部の伊藤洋典教授(政治学)の協力を得て、アンケートを取った100人全員から回答を得た。
日本の安全保障の大転換といえる行使容認は「賛成」35人、「反対」39人。反対が過半数を占めたが、8月の世論調査(共同通信調べ)で反対(60%)が賛成(31%)の倍に上ったのに比べると、政府の判断を支持する傾向が際立った。
賛成理由として多くが「緊張する東アジア情勢」「中国・北朝鮮の脅威」を挙げたほか、「日米同盟の強化につながる」との意見も目立った。
憲法の解釈変更に関しては「理解できる」34人に対し、「理解できない」51人。肯定派には「憲法改正はハードルが高く、現実の課題に即応できない」との意見が多かった。憲法9条改正は「賛成」30人、「反対」54人だった。
伊藤教授は最近の学生の傾向を捉え、「以前と比べ、全体的に保守化している」と分析。「妙に物分かりがよく、社会に異を唱えても仕方ないと考えるリアリストが多い」と指摘する。
背景に挙げるのは、就職難で将来に不安を抱き、身の回りのことで手いっぱいという学生の実情。「『電力が足りないから原発再稼働は必要』と目の前の現実に追随している。物事を批判的に考える習慣が少ない」と危機感を抱く。
一方、「リアリストであるのはやむを得ない」と解説するのは県立大の明石照久教授(公共経営学)。学生のほとんどは冷戦後に生まれ、保守勢力と対峙[たいじ]した社会主義の面影に触れた経験がなく、「理想か現実かという体制選択ができない社会」に育ったことを一因に挙げる。
明石教授は「志次第で社会はよくなるというかつての空気に対し、現代は目指すべき理想を社会が提示できていない。理想よりも、現実の脅威にどう対応するかと考えるのはしょうがない」と分析する。(福井一基)
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