新潟県三条市が学校給食での牛乳提供を今年末から試験的にやめると決定したことに、酪農現場をはじめ各方面で波紋が広がっている。同市は「和食に牛乳は合わない」「正しい食文化を学ぶ食育推進のため」と経緯を説明するが、日本栄養士会などからは、児童の成長期に欠かせないカルシウム源として牛乳は必要とする声が相次いでいる。(尾原浩子)
・カルシウム不足の心配も
市は、今年12月~来年3月まで市内の全30の小学校・中学校の給食で、牛乳の提供をやめる。その理由として市は「ご飯と牛乳は合わないという保護者や栄養士の意見に応えた」(食育推進室)と説明する。4月からの消費税増税に伴う給食費の値上がりも、牛乳の中止で抑えられるという。

ただ、市は牛乳をやめるかどうかを各家庭に尋ねるアンケートはしておらず、数値的な根拠はない。市内の小学校の給食残食率は平均5・6%で、牛乳は0.6%。牛乳は子どもに支持されている。それでも市は「牛乳を飲んでいるからよいという問題ではない。食育としてどうかと考えている」(同)と主張する。
休止する牛乳の代替として市は、小魚や乳製品などで補う考えだが、それでもカルシウム分は2割程度足りなくなる見通しだ。
来年度以降、給食で牛乳を提供するかどうか、栄養面や子どもの反応を見ながら判断する。市では「牛乳を否定するつもりはない。各家庭で飲んでほしい」(同)としている。
市の決定に戸惑うのは地元の酪農家だ。市内で経産牛38頭を飼養する佐藤久さん(56)は「和食と牛乳は合わないというのは一方的な考え。栄養面で和食の足りない部分を補うのが牛乳なのに」と、子どもたちの健康を心配する。JAにいがた南蒲酪農部会では、牛乳提供を継続するよう嘆願書を出そうという声も上がっている。
北陸酪農業協同組合連合会は今春、同市教育委員会などに撤回を要請した。今後は新聞広告や学校での酪農体験、地元栄養士会と連携し、学校給食に占める牛乳の価値、普及の意義をアピールしていく方針だ。同連合会の佐野芳幸専務は「子どもの基礎体力をつくる重要な時期に、牛乳が給食で出ないのはとても心配。牛乳が果たしてきた役割を理解してほしい」という。
・「日本食」は和洋中混在
Jミルクの前田浩史専務も「安価な値段で効率的にこれだけの栄養価を摂取できるのは牛乳しかない。非常に重要な役割を担っている」と主張する。和洋中が混在した日本食の歴史や現状を踏まえ、「和食に合わないとする意見は閉鎖的だ」と言い切る。
・健康一番に考えないと
栄養士や消費者団体などからも異議が相次いでいる。全国の管理栄養士など約5万人の会員を抱える日本栄養士会は、同市の方針に対して声明を発表。「児童生徒に一層のカルシウム不足を招く恐れがある」「学校給食での牛乳の飲用と伝統的な食文化の理解を深めることは矛盾しない」などと疑問を投げかける。
科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体「FOOCOM(フーコム)」のメンバーで、雑誌『医と食』の平川あずさ副編集長は「親が忙しくて食事に気を配れない家庭もある。満足な栄養を取れない子どもにとって給食の牛乳は救世主のような存在。子どもの健康をまずは一番に考えないといけない」と指摘する。