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アイデアが生まれる瞬間
普段、生活の中で何気なく使っている道具や機器。その一つひとつに、デザインの工夫が隠されている。なぜ、そのデザインになっているのか。理由を考えることが、発想のヒントになる。
デザインというと、見た目の装飾のことをイメージする人が多いのですが、私がデザインしているのは、サービスのあり方自体です。
そのデザインの発想はどこから来るかというと、日常、当たり前に使っているものや事柄から生み出されます。それらを発想するのに特別な才能やスキルは必要なく、そこに意識をもっていけるかどうかが重要です。
私たちの日常には、日頃は意識しない、隠された優れたデザインが数多くあります。それらをよく観察し、なぜそうしたデザインになっているのかを考えることで、新しいアイデアのヒントが生まれます。
例えば、普段誰もが何気なく使っているATMには、一見しただけでも20以上もの隠れたデザインがあります(図1参照)。特にセブン銀行のATMは、優れたインターフェイスです。一例として、カードの取り忘れを防ぐためにアニメーションで視線を誘導していることが挙げられます。画面と現実の動作を一致させ、感覚的な操作環境を実現することで、よりスムーズに扱うことができるようになっています。
また、エレベーターに鏡が設置されているのは、なぜでしょうか。本来は、車いすで乗り込んだ状態で、後ろ向きで出るときに後方を確認するためのものでした。しかし、一般の人にとっても、待っている間に鏡を見て身だしなみを整えたりすることで、退屈さを感じさせない仕掛けになっています。実はユニバーサル・デザインから発想されて、一般の人にも役立っているものはたくさんあります。
「隠されたデザイン」とあえて言うのは、目的達成のためにさまざまな負担を考えさせないよう、デザインの存在自体が意識されないからです。逆に言えば、デザインの問題が意識されると、ユーザーの負担が増えて目的が達成しづらくなり、全体の体験の質は低いものになってしまいます。誰もが当たり前のように思っていながら、不安や煩雑さ、間違い、不便さなどの解消につながっているデザインを見つけ出すことが大切なのです。
日常に隠れたデザインからアイデアを発想するには、「分解」、「抽出」、「置換」、「発想」の4つのステップが必要です(図2参照)。まずは、当たり前にあるもののデザインの理由を分解する=「分解」。次に考えさせない体験のヒントを見つける=「抽出」。ヒントを他の分野で置き換える=「置換」。そして、アイデアを発想する=「発想」。
中でも大切なのは、コアとなる本質的なデザインを抽出することです。例えば、ツイッターがなぜ140字なのか。これは、映画のヘッドラインの字数からきています。より短い文章で内容を圧縮してストーリーを伝えるのに適した文字数が140字。「内容を素早く伝える」という本質だけを置き換えてつくったのがツイッターなのです。
また、電気ポットのコードが外れやすくなっているのは、なぜでしょうか。これは、万が一コードに引っかかっても、本体が引っ張られず重大な事故につながらないようにするためです。つまり、ユーザーが間違った使い方をしても危険を回避することができる(図3参照)。MacBookの電源コネクタもマグネットの吸着式になっていますが、本質は同じです。これらのデザインの理由は、「うっかりを許容し、間違った操作をしても損害を最小限にする」ことにあります。
これを別のことに置き換えることもできます。例えば、「入力途中でうっかりブラウザを終了しても損害を最小限に抑えるにはどうすればよいか」という問題につながります。解決するには、入力するたびに内容を保存する、ブラウザを閉じる前にアラートメッセージを出すといったデザインにつながり、より安全で使いやすいシステムを生み出すことができます。
常に発想の原点となる本質をとらえ、頭に入れておくことが重要です。その機器にとって、何が「デザインの本質」になるのかは、目的をどう設定するかで変わってきます。ATMならば、目的は「お金を引き出すこと」。操作の負担を極限まで減らしてみるとどうなるか。少しでも早く目的を達成できるように、どのステップを減らせるのかを考えてみる。無くてはならないプロセスがあれば、そこに本質があります。
より良いデザインとは何かを考えたとき、あらゆる要望を満たせるものが良いとは限りません。時には1番の機能だけにフォーカスしてみることも大切です。機能を絞ることで、より簡単で操作の負担は少なくなります。
身の回りで当たり前のように存在しているデザインに「なぜ?」という意識を持ち、常に観察してヒントをストックする。それらを組み合わせることで、より良いアイデアは生み出されます。そのためには、違う道、違うやり方を意識して採用し、視点を変えるための機会を持つことが必要です。
今ある当たり前のことを疑うことで、新しいスタンダードは生まれるのです。
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