工藤会:15人逮捕、決め手は通信傍受
毎日新聞 2014年10月02日 07時45分
特定危険指定暴力団「工藤会」(北九州市)のトップ、野村悟容疑者(67)ら最高幹部を含む計15人が、看護師の女性を殺害しようとしたとして組織犯罪処罰法違反(組織的殺人未遂)容疑で逮捕された。暴力団による襲撃事件は指示系統の立証が難しく、首謀者とみられる最高幹部までが一斉に逮捕されるのは異例だ。捜査関係者によると決め手となったのは通信傍受だったという。
「ウルトラCを使って逮捕する」。約1年前、福岡県警幹部は周囲にこう語っていた。それは通信傍受法に基づく通話内容の傍受を指していた。
女性が襲われたのは2013年1月28日の夜。県警によると、福岡市博多区石城町の路上で、黒いニット帽の男に突然顔や尻を刃物で切られた。県警は当初、通り魔事件の可能性が高いとみており、暴力団の関与は視野に入れていなかった。
しかし、捜査関係者によると、女性の周辺の捜査を進める中で、勤務先のクリニックで治療を巡り野村容疑者とトラブルになっていたことが分かった。更に襲撃事件の前、通信傍受法に基づき別事件で傍受していた組関係者の通話内容に、野村容疑者が襲撃を指示したことをうかがわせる内容があることをつかんだという。
00年8月に施行された通信傍受法は4種(薬物犯罪、銃器犯罪、集団密航、組織的殺人)の組織犯罪に限って裁判所に令状を請求した上で電話やメールを傍受できる。
ただ、法務省によると、通信傍受により昨年末までに逮捕された415人のうち、組織的殺人(未遂を含む)容疑での逮捕は05年の1人にとどまる。傍受には通信事業者の立ち会いが求められ、犯罪に関係のない会話は打ち切られるなど、実施要件が厳しいことが背景にあるとみられる。
だが、今回の事件では、事件後に県警が改めて組織的殺人未遂の容疑で令状を取り、野村容疑者が使用する携帯電話の傍受を続けた。現場周辺の防犯カメラを解析するなどの基礎捜査も進め、配車役や下見役などの役割分担も解明し、最高幹部の指示による組織的関与を示す証拠を固めたという。
捜査関係者は「通信傍受は手続き的に利用が難しいが、今回は工藤会壊滅のために粘り強く捜査を続けたことで逮捕にこぎ着けられた」と話した。