円安の恩恵を受けられるかどうかで、景況感も分かれてしまう。それが、いまの日本経済、そしてアベノミクスの現実のようだ。

 日銀短観の9月調査で、大企業・製造業の業況判断指数が2四半期ぶりに改善した。しかし同じ製造業でも、中堅企業や中小企業では指数が悪化し、特に中小企業では1年ぶりにマイナスに落ち込んだ。円安が収益改善につながるグローバル企業と違い、中小企業にとって円安は、輸入原材料の価格高騰につながるなど負の側面も多い。

 非製造業では、大企業でも中堅、中小企業でも景況感は悪化した。非製造業が頼る内需がふるわないからだ。

 心配なのは個人消費だ。総務省の家計調査によると、消費支出は4月から8月まで5カ月連続で前年同月を下回り続けている。東日本大震災があった2011年3月から11月まで9カ月連続でマイナスを記録して以来の長期の低迷だ。

 消費増税前の駆け込み需要の反動や、夏場の天候不順など不振の理由はいくつかある。中でも大きいのは、賃金が十分に伸びていないことだ。名目の給与総額は増えている。しかし物価上昇分を差し引いた実質賃金は昨年7月以降、前年を下回り続けている。

 特に苦しいのは低所得層だ。家計調査をもとに所得階層ごとの消費の増減を、三菱UFJリサーチ&コンサルティングが分析したところ、低所得層では消費増税前の駆け込み消費は少なかったのに、増税後の支出は大きく落ち込んでいる。駆け込み消費が多かったうえに、増税後も消費が増えている高所得層と対照的だ。

 消費の低迷は、生産にも影響し始めた。8月の鉱工業生産指数は2カ月ぶりに低下している。

 大胆な金融緩和でデフレから脱却し、円安で収益が改善した企業が設備投資や賃金を増やし、経済全体が潤う。アベノミクスが描く成長の姿だ。安倍首相は「経済の好循環が生まれ始めている」と強調する。もちろん、今回の日銀短観にも、企業の設備投資計画が上方修正されるなど、明るい材料はある。

 しかし、現状では、賃金は上昇しているものの物価上昇には追いつかず、消費が縮み、生産も減少、そこに円安で物価が上昇するという、悪循環が生じかねない。

 産業界も消費者もアベノミクスの恩恵が偏在して分断されていないのか。政策当局には一層の目配りが必要になっている。