これって効きますか?

《97》 通勤手段と肥満との関係

大野智 (おおの・さとし)

皆さんは、何を使って通勤していますか?
健康のため自転車通勤をはじめたという人もいるかもしれません。
では、通勤手段の違いによって、健康や体調に違いは本当にあるのでしょうか?

そのような疑問に答えるかのように、最近、通勤手段と体重との関係を検討した研究がイギリスから報告(BMJ. 2014;349:g4887)されました。

調査対象は、イギリスのUK Household Longitudinal Study (UKHLS)と呼ばれる大規模なデータベースから、通勤手段と体格指数(body-mass index:BMI)・体脂肪率のデータが利用可能な約7500人(BMI:7534人、体脂肪率:7424人)です。

通勤手段の内訳は、

  • 自動車などの自家用の移動手段による通勤(Private transport)
  • バスや電車などの公共交通機関による通勤(Public transport)
  • 徒歩や自転車などによる通勤(Active transport)

に分けて検討しています。

なお、調査時の対象者の背景は次のとおりです。

BMI:男性27.8、女性27.4
(※イギリスでは、BMIが25以上を「過体重」、30以上を「肥満」としています。ちなみに、日本では、BMIが25以上で「肥満」となります)
体脂肪率:男性22.9%、女性35.5%
平均年齢:男性43.6歳、女性42.7歳

では、さっそく、結果を見てみましょう。

図表


なお、表の値は、年齢、運動習慣・食習慣、居住地域、持病の有無、職種など、体重や体脂肪率に影響を与えそうな交絡因子については、統計学的に補正をおこなった結果になります。

ちなみに、結論を文章で記載すると次のようになります。

【「BMI」に関して、自家用車で移動する人を基準とすると】
●公共交通機関で移動する人は、BMIの値が、男性で1.10、女性で0.72低かった
●徒歩・自転車で移動する人は、BMIの値が、男性で0.97、女性で0.87低かった

【「体脂肪率」に関して、自家用車で移動する人を基準とすると】
●公共交通機関で移動する人は、体脂肪率の値が、男性で1.48、女性で1.46低かった
●徒歩・自転車で移動する人は、体脂肪率の値が、男性で1.35、女性で1.37低かった

つまり、公共交通機関や徒歩・自転車で通勤する人は、自家用車で通勤する人より痩せているということが明らかとなったわけです。
ちなみに、BMIが「1」少ないということは、身長が170cmの人の場合、体重が80kg(BMI:27.6)と77kg(BMI:26.6)と約3kgの違いということになります。

ただ、以下の点に注意は必要です。

■今回の研究は、ある時点での通勤手段とBMI・体脂肪率との「相関関係」を明らかにした横断的研究であるため、「因果関係」を明らかにしたものではありません。
もしかすると、何か別の理由で太っているがために、自家用車で通勤を余儀なくされている人がいる可能性も否定できません。
(※ただ、その点を解決するために、可能性として考えられる交絡因子については、統計学的にデータの補正はおこなっています。ですが、まだ未知の交絡因子があるかもしれません。)

■イギリスでの調査であり日本人に当てはまるかどうかは、さらなる検討が必要です。

ですが、通勤時の運動量が、体重増加および肥満の予防に役立つ可能性は大いにありそうです。

イギリスの国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence:NICE)は、日常生活において身体活動レベルを向上させるために実現可能な方法として、徒歩や自転車などによる通勤(Active transport)を強く推奨しています。

また、同じくイギリスからの最近の研究で、BMIが増加すると、がんの発症も増加することが報告(Lancet. 2014 Aug 30;384(9945):755-65.)されています。

季節は、夏から秋に変わり、過ごしやすくなってきました。
この機会に、通勤手段を変えてみることも考えてみてはいかがでしょうか。

もし、自家用車での通勤を余儀なくされている場合も、駐車場を自宅や職場から遠くするなどいった工夫や職場でエレベーターやエスカレーターを使わずに階段を利用するなどの心掛けだけでも一考の価値があるかもしれません。

大野智 (おおの・さとし)

帝京大学医学部臨床研究医学講座 特任講師/早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構 客員准教授 1971年、静岡県浜松市生まれ。1998年島根医科大学(現島根大学医学部)卒業。腫瘍免疫学、がん免疫療法を主な研究テーマにしているが、補完代替医療や健康食品にも詳しく、「がんの補完代替医療ガイドブック」の作成を担当した。帝京大学緩和ケア内科、東京女子医科大学消化器外科などで癌患者の診療に当たっている。

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