コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議(第2回)議事録

1.日時:

平成26年9月4日(木)16時00分〜18時00分

2.場所:

中央合同庁舎第7号館13階 共用第一特別会議室

○油布企業開示課長

本日は、神田委員からは少しおくれるかもしれないというご連絡をいただいております。ほかの委員の方はおそろいのようでございます。

それから、撮影、カメラでお写真を撮られる方は冒頭だけにしていただいて、プレゼンテーションが始まりましたら撮影のほうはお控えいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

○池尾座長

それでは、ただいまよりコーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議の第2回会合を開催いたしたいと思います。皆様にはご多忙中のところご参集いただきまして、まことにありがとうございます。

当会議は、前回ご承認いただきましたとおり、原則公開ということで行わせていただいております。傍聴席も増やしたそうですので、よろしくお願いします。

早速、議事に移らせていただきますが、本日のアジェンダは大きく言って2つでありまして、まず1番目としては、OECDのコーポレートガバナンス原則について、当会議アドバイザーであるOECDのマッツ・イサクソン課長よりご説明をお願いいたします。なお、イサクソン課長からは英語でご説明いただく関係で逐次通訳を入れる予定であります。イサクソン課長より資料1に基づいてお話を伺った後、質疑応答、意見交換をさせていただきたいと思います。それが前半で全体1時間ぐらいを予定しております。

後半、2つ目のアジェンダが、コーポレートガバナンス・コードの基本的事項に関する記載内容について、コードの前文に何を書くかということですが、議論のカバレッジについて事務局からご説明いただいた後、メンバーの皆様方にご検討のご議論をお願いしたいと思っております。

本日はこの2つが議題であります。それでは、早速、OECDのマッツ・イサクソン課長よりプレゼンをお願いしたいと思いますが、フォーティミニッツ(40 minutes)で、インクルーディングトランスレーションタイム(including translation time)ですのでよろしくお願いいたしたいと思います。それではお願いします。

○イサクソンアドバイザー

座長、有識者会議のメンバーの方々、また、ご参会の皆様方に対しまして、まずご挨拶を申し上げたいと思います。このすばらしいグループの人々を前にお話をするご招待と機会をいただいたことに感謝いたします。

本日はまず最初に、グローバルな基準設定主体としてのOECDの役割と取組みについてお話を申し上げたいと思います。そして、OECDのコーポレート・ガバナンスに関する取組みとアプローチが、日本におけるこの有識者会議の作業、そして日本のコーポレートガバナンス・コードの策定におきまして、いかに重要であるかをお話をしたいと思います。

まず最初に申し上げたいのは、OECDは行動をする機関であるということです。シンクタンク(think-tank)ではなく、ドゥータンク(do-tank)と言っているぐらいであります。コーポレートガバナンスは目的を達成するための手段であり、コーポレートガバナンス自体が目的ではないということを申し上げたいと思います。ですから、まず最初に、コーポレートガバナンスの指針、OECDコーポレートガバナンス原則を通じて、我々は何を達成したいのかを議論することから始める必要があります。皆様方のお手元のスライドの2ページに全体的な目的が要約されております。すなわち、「経済効率性を改善し、持続可能な成長と金融の安定に貢献するため」ということです。スライド3ページでは、目的を少し絞り込んだ形で、「家計の貯蓄が企業の投資に活用されることを確保する」、そして、「企業の資本形成を刺激する」といった課題を解決すること、としております。企業の資本形成を刺激することは、皆様もご承知のとおり、経済成長を支える最も重要な要因です。

いま一度、このコーポレートガバナンスの改革を通じて我々は何を達成したいのか、そしてこれらの課題に向き合うことで、我々の経済がどのようにして、持続的な成長、価値の創造、そして資本形成を成し遂げていくことが出来るかについて、皆様とともに考えたいと思います。目標が十分に定まっていなければ、コーポレートガバナンスに関してどのようなルールを策定すべきかを正確に理解することはできません。

スライド4ページでは、OECDの視点が、投資家と企業を結ぶ投資の連鎖(investment chain)における3つのステップに分けて書かれております。我々は、コーポレートガバナンス・ルールの質は、投資の連鎖のあらゆる段階において重要な役割を担っていると考えております。我々にとってコーポレートガバナンスの政策とは、企業が資本にアクセスできるように、また、資本が最適な形で活用されるよう資本市場において適切な資本分配が行われるように、そして、市場や経営者がこれらの資本を個々の企業の生産性向上や成長に向けて活用できるよう、出来る限り最良な条件を作り上げていくことなのです。これがOECD原則の背景にある、政策目的であり、経済的なリアリティであります。

スライド5ページでは、OECDコーポレートガバナンス原則の経緯が書かれております。1999年に策定され、2004年に改訂されたこと、そして、金融安定理事会が定める「健全な金融システムのための主要な基準」の1つに指定されています。金融安定理事会のメンバーに照らせば、OECD原則はG20の基準でもあるということです。

それでは、OECD原則の目的は一体どういうものなのか、誰がどういう形でこの原則を活用すべきなのでしょうか。スライド6ページをご覧下さい。OECD原則の第一の対象者は言うまでもなく政府及び規制当局です。各国の政府及び規制当局は年数回パリのOECD本部で開催される会議において、OECD原則とその適用のあり方について議論しています。各国の政府・当局者が互いに学び合うことを通じ、自国の規制の枠組みを改善していく、といったツールの提供も目的の一つです。そしてOECD原則は、証券取引所その他の市場、職業専門家の団体、さらには個々の投資家や市場に参加している様々な機関に対し、ガイダンスを提供しています。

この原則の特徴は、これが「成果志向型」(outcome-oriented)であるということです。すなわち、持続的な成長、価値の創造や投資の促進といった望ましい目標を設定し、このような目標を達成するために採り得る方法を特定しているということです。これは、各国がその経済的、法的、そして歴史的な背景・状況に応じて、OECD原則を適用していくことができる余地があることを意味します。このようなアプローチをとると、人によっては、各々が何をすべきか、どのような規制を制定すべきかを正確かつ詳細に示していないことを理由に、弱いアプローチだ、と言う人もいます。私は、全く逆の視点を持っておりまして、我々のアプローチは非常に強力なアプローチだと確信しております。なぜなら、我々は、いかなる経済的、法的、そして歴史的な背景・状況下においても、誰もができると言っているからです。このような目標を達成することは可能なのです。弁解の余地はありません。国、地域を問わず、実際の成果を得ることは可能なのです。目標を達成するためのツールを見つけるのは、各国の規制当局、立法者、ビジネスのコミュニティーの方々ということです。ですから、逃げる余地がないという意味で、これは非常に強固な概念だと考えております。できませんでは済まされないということです。

各国がOECD原則を適用していく中で、とても勇気づけられる、非常にイノベーションに富んだ、そして大変良い成果を収めた手法を、我々はこれまで見てきました。世界中にはこのような事例が豊富にあります。OECDでは、そのような事例について議論し、皆様方と共有することは、OECDに参加する世界中の国々にとって非常に有益だと考えています。

今までのお話の中で、OECD原則の目的、すなわち、経済成長、投資、そして価値の創造についてご説明しました。そして、この原則の沿革についても少し触れました。また、これをどういう形で実現すれば良いかという話もいたしましたので、次はスライド7ページをご覧下さい。ここでは原則のさまざまな要素、内容について触れております。スライド7ページと8ページでは、原則がカバーしている6つの主要な分野を記載しています。非常に簡潔ではありますが、1つずつ説明していきたいと思います。詳細は、皆様方の配付資料の中にありますOECDコーポレートガバナンス原則をご覧いただきたいと思います。また、OECDのウエブサイトでも、OECD原則に関する様々な資料をダウンロードしてお読み頂けます。

まず、OECD原則は、6つの重要な分野を取り上げており、6つの章から構成されています。つまり、原則は、取締役会についてのみ記載されているわけではなく、これは原則のほんの一部です。原則は、非常に多くの政策事項をカバーしています。

OECD原則第1章は、コーポレートガバナンスに様々な形で影響を与えるルールを含む、法律、規制の枠組みの品質について言及しています。実際にコーポレートガバナンスに影響を与える法律・規制の領域には様々なものがありますので、我々は「コーポレートガバナンスに関する法律・規制の枠組み」という概念をキャッチワードとして使っています。例えば、取締役の行動に影響を与えるもの、株主の行動に影響を与えるもの、会社と債権者・株主と債権者・株主間の関係に影響を与えるものがあります。この法律・規制の領域に含まれるものとしましては、会社法、証券規制、破綻法制があります。更には、市場参加者の間の私的な契約、上場基準、コードなどがあります。このように、非常に多くの法律・規制が関連しており、その中にはコーポレートガバナンスの質に影響を与える法律に準ずる枠組みもあります。第1章の主要なメッセージの一つは、システムに整合性・一貫性を持たせるということです。ルールや規制の各階層・セグメントの間に矛盾があってはならないということであります。企業と投資家は、整合性・一貫性を求めているからです。

そして、第1章の2つ目のメッセージは、法律・規制の枠組みの下で何を成し遂げたいのか、という目標が正しく設定されているかを確認することです。OECD原則では、市場の効率性を高めること、持続可能な成長、価値の創造、投資を促進するということが目標として掲げられています。

第2章は、株主の権利及び主要な持分機能に関するものであります。これは非常にわかりやすい内容で、株主が何をすべきかということに関する主な機能について触れられています。この中には、日本のスチュワードシップ・コードとも非常によく共鳴する部分があります。すなわち、第2章の基本原則の一つとして、機関投資家が株主として積極的な役割を果たすべきだということを推奨しているのです。この原則は、欧州・米国において多くの機関投資家が非常にパッシブだと見なされており、様々な不祥事を受けて、2004年の改訂時にOECD原則に盛り込まれたものです。

第3章は、株主の平等な取扱いに関するものであります。これは会社と株主間で生じる標準的な対立にかかわるものであります。そして、実際の株式ということになりますと、優先株、普通株、様々な形態の議決権を有する株式など、さまざまな種類の株式があります。OECD原則は、一株一議決権を提唱している訳ではありません。国内の株主と外国の株主との間の平等な取扱いも必要であります。また、インサイダーの株主とアウトサイダーの株主との間の平等な扱いというものも取り上げております。このように、第3章では、株主間の潜在的な対立に関わる標準的な事項がカバーされています。

スライド8ページでは、利害関係者の役割、開示及び透明性の章を記載しておりますが、これらについては詳しくは申し上げません。

最後の章は、取締役会の責任に関するものであります。これについては、OECD原則が先ほど申し上げた成果志向型のアプローチを採用している良い例だと思いますので、数分時間を割いてお話をしたいと思っております。原則がどのように活用され、機能するのかを示す例としてご紹介します。

この章は、取締役がなすべき課題がリストアップされています。株主の平等な取扱い、経営陣の監視、会社の廉潔性を保つ、ということであります。これらはすべて、優れた取締役会が会社の機能を高めるためにすべき事柄の例示です。もちろんほかにもあるのですけれども、この3つを例として申し上げたいと思います。公平性、廉潔性の確保、経営監視が目的です。先ほど申し上げた言葉を使いますと、これらが「望ましい成果」に相当するものです。OECD原則は、このような成果を得るためには、取締役会は客観的な独立の判断を下すことができなければならない、としています。すなわちこれは、社外取締役の導入を企業は検討しなければいけない、ということを求めているわけなのです。この話を通じまして、OECD原則それ自体は最終目的ではない、という私どもの考え方のロジックをおわかりいただければと思っております。まず目標があり、達成したい成果というものが存在することを前提に、経験やリサーチに照らして我々の納得のいく形で、これらの目標を達成する、問題を解決していきたいと考えています。何も問題がなく分析もなければ、正しいルールを見つけ出すことは決してできないということです。そして、いま申し上げたこの例では、原則が結論づけているのは、客観的な独立の判断を下すことができる取締役会を通じて、目標を達成することができる、ということです。

2014年から15年にかけて、OECD原則の改訂作業が進められ、来年終了する見込みとなっています。したがって、現時点において原則がどのように改訂されるかを詳細に申し上げるには、少し時期が早過ぎます。しかし、今回の有識者会議では、これは特に問題とならないと思います。なぜならば、OECD原則の価値の根幹を成す部分はそのまま残るからです。OECD加盟国は、改訂は現在のOECD原則を基礎として行うということについて既に合意しています。従って、原則の価値の根幹部分、これは広く周知されているものですが、その部分は改訂版においても残されるということです。

1分遅くスタートしましたので、あと1分あると思います。あと2枚スライドが残っていますが、OECDのウエブサイトにおきましては、この2つの課題に関しましては少なくとも3つのペーパーを掲載しております。スライドでは、コーポレートガバナンスのシステムの機能に影響を与える、あるいは影響を与える可能性があると考えられる重要な事項がリストアップされております。また、資本市場における投資の連鎖に将来的に影響を与えうる事項についても書いてあります。このような変化というのは、市場経済の中では常に起きているもので、今に始まったことではありません。このような点に対処することこそが、OECD原則が、多くのコードがそうである、そしてそうであるべきように、生きた文書である所以なのです。

状況が目まぐるしく変わり行く現在の世界において、「常にボールから目を離さない」ことがこれまでにも増して大事になってきていると思います。企業の業績を向上させ、企業部門における価値の創造、持続可能な成長を可能とするよう、コーポーレートガバナンスのルールを設計していく、ということを我々は確認しました。そして、このことが今回の有識者会議の目的の一つでもあるということを大変幸運に思っております。

私のほうからは以上です。どうもありがとうございました。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、ここで一旦、質疑応答と意見交換に移りたいと思います。ただいまのイサクソン課長からのご説明につきましてメンバーの皆様からご質問あるいはご意見がございましたらご自由にお願いしたいと思いますが。

じゃあ、冨山メンバー、それから堀江メンバー、お願いします。

○冨山メンバー

説明ほんとうにありがとうございました。日本ではコーポレートガバナンスについて、まだまだ専ら株主の短期的な利益の最大化のための道具立てではないかとか、あるいは不祥事を防止するためのほとんどコンプライアンスを同義に理解しているケースが少なくありません。そういった意味合いで、今日伺っていて改めて、これは一つ確認かつ質問なのですが、この問題というのはより広く、要は経済社会全体のパフォーマンスを高めていく。それも短期ではなくて、中長期的なサステーナブルグロースを目指すもの、それがコーポレートガバナンスであり、コーポレートガバナンス行動を高めていく趣旨であるというところ、そういう理解でよろしいのかという確認が1つと、それから、もう1点、このOECDプリンシプルについて、ストロングアプローチで、かつデファクトであるという話があったのですが、これ、裏返して言えば、その個別の国とか地域、あるいは個別の市場においては、むしろこれはある意味ではミニマムスタンダードのデファクトであって、それぞれの国はもっと高い。それぞれの歴史的な背景とか事情を踏まえながらもっと高いものを目指すべきものという前提なのか。私にはそういうふうに聞こえたのですが、その辺はどういうふうに理解すればよろしいのでしょうか。

○イサクソンアドバイザー

ありがとうございます。経済的なパフォーマンスには、2つの要素があると思います。1点目は、私のスライド4ページと関連しておりますが、優れたコーポレートガバナンスの下において、家計の貯蓄が企業の投資に最良な条件で流れて行くということですが、それには3つの段階があります。

まず最初に、家計の部ですが、お金を生産的な形で活用することには前向きだということです。株主保護が図られていることを知っている以上、マットレスの間にお金を隠すようなことはしないでしょう。そして次の段階ですが、お金を最大限うまく活用してくれる会社に対して家計は自らのお金を積極的に提供するということです。3つ目の段階では、優れたコーポレートガバナンスの下において、会社内でそのお金を活用する人々は、他人のお金をどのように管理しているかということについて説明責任を果たすことが求められます。これは非常に適切なことだと思います。これにより、資本市場の効率性がより高まり、実体経済、言うなれば工場の作業のパフォーマンスの改善にもつながるということです。コーポレートガバナンスの議論では、このような工場といった実体経済の視点がしばしば置き去りにされてしまう傾向があるように思います。

2番目のご質問には簡潔にお答えしたいと思います。ご指摘のとおり、OECD原則はハイレベルなものではありますが、同時に、各国のコードと比較しても非常に要求水準の高いものということであります。これは用語の使い方とか語義も関連してくるかもしれないのですけれども、各国のコードはより細かい内容となっているケースが多いのですが、志の高さという点では、OECDも各国のコードも違いはないと思っています。

○堀江メンバー

OECDのグラント・カークパトリックさんとは年金基金のガバナンスの議論をこれまでさせていただきました。年金基金のガバナンスでは、OECDの原則と日本の現状には差があると感じていますが、今回のこのコーポレートガバナンス原則において、日本の関係者ともいろいろお話をなさっていると思いますが、どの原則の部分が日本はおくれているのでしょうか。

○イサクソンアドバイザー

ご質問は、OECD原則に照らして日本はどの分野でおくれをとっているか、ということだと思いますが、そのような議論は、やはりコードができ上がってからすべきだと思います。ただ、現段階で幾つかの考察をすることができると思います。

日本におきましては、企業部門の生産性、産業競争力、ROE、内部留保といった点に関して様々な懸念が示されています。このような懸念というのは日本の経済全体で見られることであり、また、現在、アベノミクスの改革の中で取り扱われている問題だと思っております。私がいつも採っているアプローチは、まず経済的な問題からスタートすることです。ですから、ただOECD原則との比較をするということではなく、我々が直面している現実の経済的な課題について考えなければなりません。原則は総合的なものであるので、むしろ現実的な課題は何であるかということから始めて、そこから、日本の経済の問題、生産性や競争力、内部留保その他の問題を解決するために、我々はどのような貢献ができるか、ということを考えていくことだと思います。これらの課題を特定することができれば、OECD原則その他の我々OECDが行っているコーポレートガバナンスに関する取組みは、非常に有用な情報源となり、また有益なアドバイスを与えるものと考えております。

○池尾座長

時間が来てしまいましたので、あと、どうしてもというご質問があれば受けますが、よければ質疑はこれまでにしたいと思います。

ただ、1点、OECDコードと各国コードの関係についての理解を、我々の中で正確に再確認しておいたほうがいいと思います。OECDコードは、先ほどフロアーというような表現もありましたが、そして各国の特殊事情を持ち出して、それから逸脱することは許されないものだという、そういう意味で強いアプローチだというふうなご説明があったと思うのですが、そういう意味でOECDコードは包括的ではあるのですけれども、それに対して各国コードというのはディテールをより具体的に、そういう意味で細かく決めることもできるし、各国事情を組み込んでいるものにすることはできるということで、神田先生、いかがですか。確認をお願いしたいのですが。

○神田メンバー

はい。それで結構かと思います。

○池尾座長

よろしいでしょうか。

それでは、イサクソンさん、どうもありがとうございました。(拍手)

それでは、本日の後半の課題に移らせていただきたいと思います。コーポレートガバナンス・コードに関する基本的な事項などについてということで、まず事務局からご説明をお願いし、その後、討論したいと思います。では、よろしくお願いします。

○油布企業開示課長

それでは、事務局からのご説明もできるだけ短く申し上げたいと思います。資料2、3、4という資料がございますので、これを若干ご説明させていただきます。まず、資料2は2ページものの横の表です。これは、今日のご議論をいただく基礎的なものとしてOECDプリンシプルと各国のコード、日本のスチュワードシップ・コードなどについて前文、序文、その他にどういうことが記載されているかということを概観したものでございます。

お断りが1つございまして、フランスについては前回、フランス商法で指定を受けているコードは1つだけであると、AFEP−MEDEFコードと申し上げましたけれども、そのほかに中小の上場企業向けのミドルネクスト・コードというのが実はございます。そこで、今日は参考資料5−1だと思いますけれども、このミドルネクスト・コードについても翻訳したものを配付させていただいております。ミドルネクストといいますのは、フランスの中小上場企業の団体ということだそうでございます。

1ページ目をごらんいただきまして、各国のコードになりますが、制定経緯がどの国のコードにも書かれています。それから、ガバナンスの目的、ガバナンスの説明がございまして、それから、独、仏では自国がどういう株式会社の機関設計をとっているかという説明もございます。

おめくりいただきまして2ページ目になりますが、まず、コードはプリンシプルベースであるということが記載されております。それから、その次にコンプライ・オア・エクスプレインであるということが説明されております。右のほうに明朝体で書いておりますのは、これは日本のスチュワードシップ・コードでございまして、日本のスチュワードシップ・コードでは、プリンシプルベース・アプローチ、それからコンプライ・オア・エクスプレインについて、なかなか耳慣れない概念ですので、「それはそもそも何なのか」という説明も少し書かれています。

それから、この段で申し上げますと、ドイツ版につきましては、コンプライ・オア・エクスプレインがただちにはかからない、サジェスチョンといった項目も、数は少ないですが幾つか区分して書かれております。

その下の欄ですが、このエクスプレインの評価について、イギリス版、それから日本のチュワードシップ・コードにも、「コンプライではなくてエクスプレインをしているからといって機械的に評価すべきではない」ということが書かれております。

それから、ガバナンス・コードの適用対象になります。イギリスのところですが、これはイギリスのメーンボード、メーン市場の中でも、プレミアム上場とされている区分について適用になっているということでございます。そのプレミアム上場区分の中でも、大手のFTSE350社については若干違う書き分けをしているということです。ドイツ、フランスにつきましては、これはEU規制市場ということで、EUの統一的な枠組みの規制がかかる市場がございます。そこに上場している会社が対象になっております。それから、フランスにつきましては、冒頭申し上げましたように、時価総額で10億ユーロ未満の企業については、前回ご説明、お配りいたしましたAFEP−MEDEFコードではなくて、このミドルネクスト・コードに準拠することも可能だということになっております。

それから、コード自体の将来の見直しの可能性についてですが、典型的にはドイツでは毎年ということになっておりまして、日本のスチュワードシップ・コードはおおむね3年と書いています。イギリス、それからOECDプリンシプルは定期的に、あるいは漸進的に見直しをするんだということが書かれております。最後に、「その他」と書いてありますのは、前文、序文が終わった後の具体的な各則、各論のところについて、どういう構造になっているかということが説明されているコードもございます。

これが外国のコードやOECDプリンシプルの状況でございまして、次に資料3をごらんいただきますと、縦の1枚の紙になっております。これは今、表で申し上げたことを項目だけ1から8まで、ご議論の一つの目安にしていただくということで記載させていただいております。

さらに、これにほぼ対応するような形で資料4を用意しております。資料4は、資料3の2から8までにそれぞれ対応する実際の記述を抜粋して、それぞれ掲げております。例えば、一番最初のページをごらんいただきますと、コーポレートガバナンスについての説明ということで、4枚にわたりましてOECDプリンシプルや各国コードの抜粋をつけております。そもそもコーポレートガバナンスとは何かということにつきましては、本来、ゼロからこれを議論いたしますと、何回会議を重ねても足りないぐらいだろうと思いますが、この有識者会議に当たりましては、その基礎となっています6月24日の閣議決定で、このことについて一応の記載がございます。一番最初に枠で囲って掲載しておりますけれども、「企業が株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で」エトセトラということで、ここで数行にわたって記載がございます。こうしたフレームワークがございますので、これを参考にしながらいろいろご意見をおっしゃっていただければと思っております。その後にはOECD原則ではこう書かれているというような説明を記しております。

2ページ目のところをちょっとごらんいただきますと、OECDコーポレートガバナンス原則からの抜粋ですが、下のほうのパラグラフをごらんいただきますと、ここにアンダーラインを引いたところで、ガバナンスの改善ということが「投資家の信頼を高める」エトセトラにつながるということが記載されております。残念ながら、その前で「(中略)」というところでちょっとはしょってしまったところがございまして、これは先ほどの冨山委員のご質問にも関係すると思うのですけれども、この「(中略)」に省略した部分は、日本語版ですと12ページになりますので後でごらんいただければと思います。ここではOECD原則では、長期的な、辛抱強い、ペーシェントな資本を誘因しようとするならば、ガバナンスの改善が必要であるというふうなことが書かれてございます。

あとは、資料4の構成だけざっとごらんいただければと思います。3ページ、4ページはガバナンスの説明でございまして、右下にページが振ってありますが、5ページ目が、ドイツ、フランスの株式会社の機関設計の説明です。

7ページから2枚にわたりまして、プリンシプルベースの説明についての抜粋を掲げております。

それから、9ページから、ここは5枚にわたりまして、コンプライ・オア・エクスプレインについてそれぞれ抜粋を掲げております。

14ページはコンプライではなくエクスプレインを選択した場合の評価について記載がございます。

15ページ以下がコードの適用対象、適用会社についてそれぞれのコードから抜粋をしております。

16ページだけちょっとご説明いたしますと、16ページの上はドイツのコードの抜粋です。ドイツのコードだけを読み取りますと、「EU規制市場のみを対象にしている」ということは明記されておりませんけれども、ここの注のところに書かれておりますように、株式法などの定義がございますので、その関係でドイツのコードはEU規制市場を対象としているということでございます。

この辺からずっと適用対象でありまして、最後にコードの将来の見直しについて抜粋をしております。

私からのご説明は以上でございます。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、ただいまのご説明に関連して議論をしたいと思いますが、ちょっと資料ナンバーはついておりませんが、公認会計士協会の森メンバーが本日ご欠席なのですが、意見の1枚紙が添付されていると思いますので、ただいまのご説明の特に3番目ですね。当該国の株式会社制度の説明というところで、我が国には監査役設置会社というような制度があるわけで、その辺のところをしっかり説明すべきだという意見書が出ておりますので、ご参照ください。

それでは、今のご説明に関連して、資料3をごらんいただきながら、コーポレートガバナンス・コードに関する基本的事項についてご議論いただきたいと思います。実際、論文を書いたり何かするときは、序文というのは一番最後に、全部ができ上がってからそれに合わせて書くというのが実態だと思うのですが、ここでは冒頭で申し上げましたが、議論の範囲、どのぐらいのカバレッジのことを我々は議論するかということをある意味含んでおりますので、前文でこういうふうなことを書くということは、我々の議論の範囲というか対象は大体こういうところだということなので、議論の対象をこういう形で限定することが望ましいか、適切かどうかとか、そういうふうな趣旨のことも含めてご意見をいただければと思います。いかがでしょうか。じゃあ、どうぞ、小口さん。

○小口メンバー

ありがとうございます。前回も申し上げたことと一部重なってしまうのですけれども、いただいた資料3「コーポレート・ガバナンスの説明」に関し、資料4に、いろいろと各国の考え方、あるいはOECD原則等々も載っているのですが、私自身は、第1回でも申し上げた通り、4ページの日本版スチュワードシップ・コードの、この取締役会の考え方というのをぜひ中心に考えていただけたらと思っております。

理由は2つあります。一つは納得性ということなのですが、この考え方は、スチュワードシップ・コード策定時に当然有識者会議で議論されて、それから、パブコメも経たということであって、納得性を得た形で合意されたものだということです。内容についても触れますと、先ほどのイサクソンさんのお話でもありましたが、取締役会の役割というところで、「企業価値の向上を図る責任を有している」という明確なメッセージがまずあって、これは先ほどのイサクソンさんの話ですと、目的に該当すると思います。そして、その手段としてmeans to an endのmeansに当たる部分が「経営陣による執行を適切に監督」するということ、これは先ほどのOECDのお話で、モニタリングの部分になると思いますし、「適切なガバナンス機能を発揮」、これはいろいろ考えられるのですけれども、例えば先ほどのお話で言えば、ステークホルダーへの配慮であるとか、あるいは透明性、フェアネスをどう維持するのか、また、先ほどは出ていなかったかも知れませんが、最近大変議論になっているのは多様性の問題、こういったものを広範に含んだ概念と言えます。簡潔で短くこれだけでは抽象的かもしれませんが、今後議論を深めるためには大変納得性のあるものではないかというのが理由の1点目です。

2つ目の理由は一貫性です。資料2のほうですか、あるいは資料4のページ4にも書いてありますけれども、機関投資家のスチュワードシップと企業のガバナンスは「車の両輪」とスチュワードシップ・コードに明記されています。スチュワードシップ・コードでこれが取締役会の機能である、役割であるということを書いた中で、車の両輪ですから、車輪は同じ方向を向かないと前に進みませんので、スチュワードシップ・コードで書いたものを、重複にはなりますが、コーポレート・ガバナンス・コードでも書くことによって一貫したメッセージを対外的にも発信できるのではないかと考えています。その意味においても、この考え方は大変重要な意味を持っているんじゃないかと思っております。以上です。

○池尾座長

ありがとうございました。

どうぞ。

○内田メンバー

3番目の株式会社制度の説明のところですが、これは先ほどの森さんのご意見とちょっと重複することがあるかもしれませんが、日本の制度が基本的にどういう仕組みになっているのかということをわかりやすく、きっちり記載する必要があると思います。今年の6月に会社法が改正されまして、監査等委員会設置会社が導入されて、既存の2つ、監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の3種類の機関設計ができて、各企業の判断で選べるようになりました。非常にフレキシビリティーがあるのですが、逆に外から見るとわかりにくいというのもあろうかと思います。これらの3つの機関設計は、法制上、全部等価であるはずなので、その辺も含めてわかりやすく説明する必要があるだろうということと、それからさらに監査役制度そのものをより丁寧にわかりやすく説明する必要があると思います。これは海外の投資家に会って、私も感じるのですが、我が国の監査役制度は非常にわかりにくいという指摘がよくあります。実際、その辺を良く理解されていない投資家さんも多いのではないかと思います。私ども、監査役会設置会社制度を採用している会社自身でもIR活動で当然わかりやすい説明を心掛けているわけですが、このコードにおいて、英文を含めてわかりやすい説明をきっちりしていただきたいというのが1つあります。

ただ、これも単に法制上の義務、権利を説明するだけではなくて、監査役に期待されている役割、隣に太田さんがいらっしゃるので、ここで私が言うのはおかしいのかもしれないのですけれども、監査役に期待されている役割についてもしっかり記述する必要があると思います。つまり、監査役というのは単なるコンプライアンス・オフィサーとしての機能だけではなくて、例えば会長・社長などCEOを含めた幹部と定期的にミーティングをしたり、取締役会をはじめとした重要会議に出席したり、各事業場・工場、関係会社を往査したりして、これらを通じて現場の生の情報をかなり入手できる立場にあるわけですから、そういう活動を生かして経営戦略とか、事業戦略についても意見とかアドバイスを期待されていると思うんです。その辺のことを、本質的な期待役割として記述することは、投資家の理解を深めるだけではなくて、企業自身がよりよい取り組みをすることを促すことにもなると思いますので、是非書いていただきたいと思います。

ただ、この期待される役割まで序文に入れると煩雑になり過ぎるということであれば、例えば監査役制度という章を1つ起こすとか、OECDコードに準拠するのであれば、第6章の取締役の責任のところに日本の一つの制度として、きっちり期待される役割まで含めて書くということを是非ともしていただきたいと思います。

○池尾座長

はい、どうぞ。

○堀江メンバー

私は資料3の7番目のコードの適用対象について議論していただきたいと思います。先ほど、油布さんからご説明がありましたように、他の国は、全部の上場企業というわけではなく、ある程度、時価総額等で絞った範囲に適用するほうが多いような感じがします。私は、機関投資家の立場から言わせていただくと、コードの目的が市場全体の企業価値を中長期的に上げる点から言うと、非常に申しわけない言い方ですが、時価総額の小さな企業が幾ら頑張っても、大きな時価総額の企業がだらしない状況ですと、リターンが上がらないという、非常にプラクティカルな側面があります。全部一律に上場企業の企業価値が向上すれば非常にいいとは思いますが、いろいろな企業がある中、全体について一律に当てはまる行動規範をつくると、コンプライ・オア・エクスプレインとはいえども、利害関係者の方が非常に多く取りまとめができないこともあると思います。従って、私はプラクティカルな立場で機関投資家の立場からいわせていただくと、時価総額のある程度大きなところに絞り、狭からず、深からずという感じで落としどころを探っていただき、株式市場リターンにインパクトがある形でちゃんとしたプラクティスを入れていただくことが、機関投資家の立場から言うと非常にありがたいなと考えております。

○池尾座長

ありがとうございました。

今の点に関しまして、関連してご意見はございますか。どうぞ。

○キャロンメンバー

監査役会設置会社の話ですが、内田さんのおっしゃる通りだと思います。海外の投資家と話すと、日本の監査役会は取締役会で票を持っていないなかで、中期経営計画等、会社の重要な意思決定に対してどれだけ監督機能が働いているのか、というご質問をよく受けます。運用の面で、監査役会の制度がフルに活用されていないような気がし、もったいないと思います。社外取締役の導入に関してはもちろん私も賛成ですが、現監査役会設置会社制度のもとで監査役に対して、法律遵守の観点からの狭義の議論のみならず、企業価値向上の実現のための広義の議論にぜひ積極的に参加していただきたい。今回のコードを通じてそういうようなエールをお送りするといいと思っています。要は、今の監査役会のフル活用を促していく。内田さんのご意見に大賛成です。

○池尾座長

監査役が要するに取締役会のメンバーではなくて、取締役としての権限を持っていないみたいな。でも、実態として取締役会に監査役が出席されている会社っていうのは多いですよね。

○キャロンメンバー

もちろん出席している方がほとんどで、義務づけられていますけれど、今現在の監査役の役割はわりと狭く、コンプライアンス的な役割に偏ってしまっているように思います。そこで、株主や役職員そして企業価値向上により直接的に関与できるように監査役の役割を広げるという可能性もあるのではないかなと思い発言いたしました。

○池尾座長

ありがとうございます。

では、どうぞ。

○太田メンバー

先程、内田委員とキャロン委員から監査役制度に関して、大変理解に富んだご発言をいただいたと思います。海外の機関投資家が問うているのは、一言で言えば、我が国の監査役に議決権がありかなしか、そのことだけだろうと思います。私は従前からこの種の議論や指摘は、全く無意味な議論だと思っています。むろん今の両委員からのご提案内容は理解していますが、議決権のありなしだけを問うということではなくて、監査役が企業に於いてどのような機能を発揮しているか等を述べる必要があります。企業における取締役会への監査役の出席義務、意見陳述義務はどの企業でも果たされているのが当然であって、むしろそれをやっていなければ、それは義務違反ということになるわけです。ただ、機能の発揮の仕方というのは企業によってさまざまであります。それは我が国だけではなくて、諸外国でも一緒だと思います。

監査役は、取締役会に付議される全ての案件について、事前に全て事案を聴取しておりますし、問題がある記述等々があれば、それを訂正要求するというのは、どの監査役も行っている職務です。そういう職務の内容を海外の機関投資家に粘り強く説明を続けてきているのが現実です。企業によっては、IR等を通じて行っているという事例もあります。ただ、繰り返しになりますが、ボーティングライトを持つか持たないか、持たないからだめなんだという、この論法でいきますと、今の会社法を改正せざるを得ないわけであって、それはちょっと違う議論だと言わざるを得ません。我が国企業の真の問題点が、監査役に議決権を持たせるということだけなのであれば、今回、会社法の改正が通りましたけれども、監査等委員会制度への移行を企業は進めればよろしいだけのことですが、企業のガバナンスの実態に応じて適正な制度間競争になるかどうかということをもう少し時間をかけてみるということではないかと思います。

最後になりますが、前文、あるいは別項目でもよろしいのですが、東証の上場企業の98%が監査役制度を、採用しているという、この現実を踏まえた、まさにアウトカムオリエンテッドな体制、コードのつくり方、これを私は強く望みます。

○池尾座長

ありがとうございました。

今の点にさらに関連してご意見ございますか。どうぞ、武井さん。

○武井メンバー

2点あるのですけれども、まず監査役のほうを先に申し上げさせていただきます。今日ご紹介があったOECDのガバナンス原則の6のところ、ですが、日本語では取締役会の責任と訳されていますが、英語の原文ではザ・ボードなんですね。ザ・ボードは別に日本の場合、取締役会に限らない。監査役会を含めたものがザ・ボードであって、このOECD原則が求めているのは、ザ・ボードがどこにあるんですか、またザ・ボードがどう機能しているんですかということをちゃんとコンプライ・オア・エクスプレインしてくださいということなのだと思います。なので、その文脈の中で監査役についてもわかりやすく説明するということだと思います。コードでどう書くかだけでなく、企業側もわかりやすく説明していかなければいけないということなのだと思います。ザ・ボードの中で監査役会がどう機能しているかどうかということなのだと思っています。

次に、2点目ですが、ガバナンスの定義のところなのですが、これも議論を始めるとキリがないのですが、基本的に事務局さんの資料を踏まえまして二点あります。1つめが、日本の社会の皆さんが受け入れられる定義にしていただきたいということです。その観点で二つ目が、再興戦略に掲げてあります定義というのは大変よくできている、わかりやすいと思っています。何が良いかと言いますと「持続的な企業価値の向上」ということをキーワードに定義している点です。ガバナンスというのは、さきほど冨山さんの発言もありましたけれども、別に短期的な株主の利益を最大化させるとかいったどうのこうの話では全然なく、社会に対して貢献をしていくための仕組みであって、共通項はやはり持続的な企業価値の向上という点なのだと思います。ガバナンスを一番短く定義して言うとしたら、持続的な企業価値の向上のための仕組みと言えば、どの立場のかたからももう終わっちゃうというか共通項がくくり出せていると思います。それをさらに定義を膨らませることがあっても、あまり細かいところで無理して書いて定義するよりも、もっと大きなくくりで定義したほうが良いと思います。コンセンサスを得るという観点からは、この再興戦略で書いてある定義でもまだ詳しすぎるかもしれません。ただ持続的な企業価値の向上を通じた日本経済の成長を支えるという今回の再興戦略を受けてやっているコード創設の目的に従ったガバナンスの定義にしたほうがいいと思います。

今回のガバナンスコードは、いろいろなステークホルダーのかた、すなわち資本市場の方、債権者の方、企業現場の方の皆さんが全員で取り組む、オールジャパンの話です。ですから、皆さんが共通項として導き出せるものとして、持続的な企業価値の向上というのは大変いい言葉だと思いますので、持続的な企業価値の向上という点をベースにガバナンスについて定義していただければと思います。以上です。

○小口メンバー

2つあります。まず監査役制度の話なのですけれども、日本は制度が今後3つになるわけでして、先ほどお話もあったと思うのですけれども、それぞれの制度は等価だということであれば、書くべきはどの制度がどうかというよりも、全体を通じて貫く概念であって、その共通の概念のもとにどの機関を選ぶかというのは会社の自由ということではないかと考えます。各制度の優劣や機能の詳細よりも、3つの制度を貫くような概念は何なのかというところをまずはきっちり固めて、あとどうやっていくかは、企業さんのアカウンタビリティーの問題じゃないかなと、私は理解しています。

2つ目は、先ほど堀江さんがおっしゃった対象の話です。イサクソンさんのお話を聞いていて思ったのですが、インベストメント・チェーンの中で、アクセス・トゥー・キャピタルとアロケーション・オブ・キャピタルという話が出ましたが、アロケーション・オブ・キャピタルから言うと、確かにアロケーションするのは機関投資家なので、投資対象として見ているところだけやればいいよという話もあろうとは思うのですが、一方で、キャピタルにアクセスしたいという思いがある企業が、機関投資家が対象とする規模に達しないところがあるとしたら、そこまで包含するような概念をつくるという考え方もあると思います。ここはバランスだと思うので、どちらを重視しながらバランスをとっていくかというふうに議論した方が、健全なのかなと思っています。

○池尾座長

内田委員。

○内田メンバー

今の武井さんのお話に関連して、全体のまとめ方のところで、ちょっと私の意見を述べさせていただきます。今回のコーポレートガバナンス・コードの定義が「持続的な企業価値向上のための自律的な対応を促すもの」ということになっていますが、持続的な企業価値の向上というのは、ほとんど企業が目指しているところであり、そのための自律的な対応というのも当然、企業の責務であり、これはやらなければいけないことです。したがって、今回、策定されるコードは、ある凝り固まった特定の形を押しつけるような他律的なものになるようなことは避けたいというのがあります。企業が前向きに受けとめて、自律的に企業価値向上に取り組む際に役立つようなものにしたいと考えています。

どういうことを言いたいのかと申しますと、要するに、持続的に企業価値を向上させる本質的なものは何なのかということをきっちりコードの中に書き込むことが重要である、ということです。先ほどの監査役のところで申し上げた私の意見もそういう考え方に基づいたものです。本質的な役割として、監査役というのは、法律に基づいた義務とか権利がありますが、それらを生かして何をやらなければいけないのか、企業価値向上の観点からもっと幅広く期待される役割があるはずなんですね。そういう本質的なものをきっちり書き込むというのがコードに要求されていることではないかと思います。形にこだわり過ぎて本質を見失うということがよくありますけれども、本件はそこまでは行かないと思いますが、要するに本質的なものをしっかりと書き込んだコードというのを目指していただきたいと思います。

○池尾座長

ありがとうございました。

中村メンバー。

○中村メンバー

まず監査役会制度、その他の制度についてきちんと書き込むべきというところについては、基本的に同意しております。適用範囲と、それに伴った全体の書きぶりのところなんですけれども、非常に大規模な会社について適用されるというのは当然のことだと思うのですが、完全に適用するかどうかは別としても、少なくとも多くの上場会社がそれを目指して実行していくというようなコードであるべきだと思います。制度の説明をするということについては、海外の方にご理解をいただくということが大きくあると思うのですけれども、コンプライ・オア・エクスプレインというところにつきましては、やはりもともと英語ということもあって、いろいろな会社が等しく理解できるようにきちんと説明をするということが必要になってくると思います。

その際に、今日の資料を拝見をすると、英国のコードではコンプライ・アンド・エクスプレインとコンプライ・オア・エクスプレインなど、いろいろ分かれているというような例が少し挙げられておりますけれども、今回、スタートとしてコンプライ・オア・エクスプレインの基準として作っていくということで議論されておりますように、いろいろな考え方が混在をしているとわかりにくいというところもございますので、そういった意味で今回はコンプライ・オア・エクスプレインというところで統一した書きぶりにしていただくということを希望いたします。以上です。

○池尾座長

ありがとうございました。

はい、どうぞ。

○武井メンバー

監査役のことで1点だけ。4年前に池尾先生がまとめられた金融審でガバナンスの報告書があって、たしか3タイプのわかりやすい絵があったと思うんです。そのまま使うかどうかはさておき、あちらをベースにすると監査役制度を含めてわかりやすくできるかなと思います、ご検討頂けましたらと思います。

○池尾座長

池田さんがつくられたものですね。

○武井メンバー

あ、そうでしたか。すみません。

○池尾座長

どうぞ。

○内田メンバー

もう一つよろしいですか。先ほどの適用対象のところで、フランスでは大企業と中小で区分しているということですので、その辺の見極めも必要ではないかと思います。これはコードの中身によりますが、ほんとうの本質的なものだけで、絶対にこれは守らなければいけないというものであれば、全ての企業を対象とすることでいいのですが、期待される役割なども含めて、割合膨らませたものにすると、現実的についてくることができない企業もでてくると思います。この辺も踏まえながら、適用対象を場合によっては分けるということも想定に置いておいたほうがいいのかなという問題意識があります。

それから、もう一つは時期についてです。これは、既に閣議決定されているスケジュールなのでどうしようもないとも思うのですが、我々企業サイドからしますと、極めて厳しいスケジュールというイメージです。実際に、コンプライするにしろ、エクスプレインするにしろ、企業の中でかなり真剣に検討する時間が必要だと私は思います。したがって、今後の進め方の中で、時期について何か延ばせるようなことを提案できる機会があれば、是非検討をお願いしたいと思います。ほとんどの企業は厳しいというご意見だと思います。これからいろいろな企業さんにヒアリングをしてみますが、多分そういうご意見が圧倒的に多いというふうに思いますし、私どもの会社でもこれは非常に厳しいと思っています。機会があれば、もう少し期間を何とかできるように、検討していただければと思います。

○池尾座長

はい。

○太田メンバー

2度目の発言になりますが、今、何人かの委員の方から御意見のあった、対象をどういうふうに定義するか、絞るかという議論について、意見を申し上げます。今、東証での上場企業の内、いわゆる大規模企業といいますか、時価総額の大きなところに焦点を当てるというご意見もあるのですが、例えばTOPIX500で言えば、これは時価総額だけではなくて流動性もあわせてピックアップしている訳ですが、それで約90%程度のカバレッジになると理解をしています。一方、会社数でいうと、後ほどよく調査をしたらいいと思いますけれども、20%程度のカバレッジでしかありません。そうしますと、20%の時価総額のところは切り捨ててもいいかもしれませんが、80%の上場企業を切り捨てていいのかどうかという事になります。この議論は慎重にやるべきだろうと思います。

別の視点から申し上げますと、いわゆる大企業、会社法上の大会社という範囲はものすごく大きくなってしまうのですが、大会社と、いわゆる中小、中堅、これに等しくコンプライ・オア・エクスプレインというルールをどう当てはめていくのかという現実問題があると私は思います。これから東証等々で実務的なコードの策定に入るとしても、コンプライ・オア・エクスプレインと言いながら、これはソフトローではなくて、ある意味ではハードローになっていくわけですよね。実質的に、ハードローを遵守せざるを得ない上場を希望している企業、あるいは上場継続を希望している中小、中堅、とりわけ中小にとって、何を実際的なコード、基準としてコンプライせよという、あるいはできないのならエクスプレインをせよということなのかということになります。規定の仕方によって、これが実質的な義務化につながることを懸念をしております。

したがって、時価総額の大きなところに対する海外、あるいは国内の機関投資家も含めて大きな関心があることは十分理解するものの、そうでないところに対して一律適用することの問題意識を述べましたが、そこをどのように措置をしておいたらいいのか、この辺の論議は具体的な数字、会社数を含めて見ておかないと、結局ついてこれない企業が多く出てしまう事を恐れます。ついてこれない企業が悪いんだと言ってしまえばそれきりなのですが、そんな簡単なことではないわけであって、そういう人たちに対する手当てをどのように幅広くやっていくのかという点に関して議論を深めていかなければならないと考えています。例えば、先ほど来からの議論にもありましたが、高次の理念だけを示して、中小といえどもコーポレートガバナンスの基本原則というのはどこでも同じはずですから、例えばそういうものはきちんと守りなさいよというようなことにするとか、中小向けのコードを作成するか、幾つかの考え方があるように思います。したがって、時価総額の大きいところだけをやればいいのではないかというやり方については、多少、私は違和感を感じます。

○池尾座長

あと、規模の大小ともかかわりますけれども、新興企業、ベンチャー企業を、先ほどのキャピタルにアクセスということであれば、当然、ベンチャー企業も対象にしなければいけないということになりますが、その辺りもどう考えるかというのは論点としてあるかと思いますが。

○小口メンバー

何度もすみません。私自身は最初から、ものすごく頭に残っていることで、いろいろ議論が出ましたので再度申し上げたいのですけれども、「日本再興戦略」改訂2014の、「コーポレートガバナンス・コードの策定等」に書かれていますが、「我が国企業の実情等にも沿い、国際的にも評価が得られる」という、大変難しい命題が与えられているという点です。まさに今出ていたお話に関連する部分で、言い方は難しいのですが、実情を踏まえれば踏まえるほど、国際的には評価が得られないものになると懸念しています。逆に国際的に評価が得られるようなものをつくろうとすると、多分、実情には合わなくなる。ですから、二兎を同時につかまえるというのは難しいことのような気が個人的にはしていまして、どちらを優先するのかという言い方にしてもいいかもしれませんけれども、この命題の軽重といいますか、理解というのも少し確認しておいたほうがいいかなと思っています。

○池尾座長

ありがとうございます。物事にはトレードオフが必ずあるので。

はい、どうぞ。

○大場メンバー

今のお話に関連しますと、両方をどのように取り込むかというのは、なかなか難しいことだと思うのですが、どのように対象を絞るかというのは一つ大きな争点になると思います。テーマとして次回までにいろいろ各メンバーの方に取りまとめをしてもらって、開示するようなセッションが必要ではないかと思います。大変難しいテーマではないかと思います。これが1点。

それから、もう1点は、そもそも再興戦略のテーマですが、「稼ぐ力を取り戻そう」って書いてあるんですね。稼ぐ力が弱くなっているのでこの会議が設定されていると思うので、あまりに実情を踏まえると前向きな議論になりません。実情をしんしゃくし過ぎているからこういう現状が起きているかもしれないという観点があるので、稼ぐ力を取り戻すためにコーポレートガバナンス・コードをどのように策定したらいいか議論する必要があるのではないでしょうか。その観点を忘れるとそもそもの会議の意味が希薄化してしまうという懸念があるということを申し添えたいと思います。

○池尾座長

ありがとうございました。

神田先生、いかがでしょうか。

○神田メンバー

当てていただきましてありがとうございます。

私はいつも大した意見ではなく申しわけないのですけれども、今日、この資料3に挙げられている各項目は非常に重要ですし、それから、適用対象も先ほどから事務局のお話を聞いていて、フランス辺りは一見非常に難しそうには思うものの、なかなかの知恵だなというふうに思いました。それで、他方、では日本はといえば、日本の今のお話にありました新興企業というのですか、例えばジャスダック市場の上場会社は昔は上場会社でなかったのですよね。店頭登録銘柄という時代もあって、そういう企業も上場会社にしましょうという政策のもとで上場会社にしてきたという歴史がある中で今回、どの辺りに今の稼いでいただく必要があるのかというポリシーからすれば、それは当然入ってこなければいけないものだと思います。

ですけれども、こういった話はやはり各論をしていただかないと。先ほど池尾先生がおっしゃったように、最後に序文を書くということかと思います。ですから、この時点である程度議論しておくことは非常にいいと思いますけれども、やはり各論であるコードの中身を議論して、それで、それとの関係でまた総論へ立ち戻って最後に決めるというか、取りまとめるというのが実際のやり方としてはよろしいように思います。

○池尾座長

どうもありがとうございました。そのとおりだと思います。

あと、もう少しだけ時間が残されていますが。

○武井メンバー

すいません、さきほどの「我が国企業の実情を踏まえて」という点なのですが、私は少し違う意味で読んでおりました。今回のガバナンスコードの策定はあくまで再興戦略にも書かれておりますとおり企業の稼ぐ力のためなわけです。そして企業にはそれぞれいろいろな稼ぎ方があるわけでして、逆に言うと、ほかの企業と同じことをやっても稼げないわけで、また同じことをやっていてもリスクをとったことにならないわけです。なので、いかに差別化するかということが大事となります。そうした差別化するというところ、いろいろな企業戦略面で選択肢に多様性があるというところを、今回のコードが否定することがないようにすべきというのが、「実情を踏まえて」という意味なのだと思っております。

先ほど、OECDの方からもご説明があったとおり、OECDのガバナンス原則は、ここの枠内だったらあとはもう手段さえ選べばできるはずだという内容で書かれているわけです。ですからそこからの乖離を意味する実情という意味ではないと思います。それよりも、稼ぐ力についての各企業の個別の実情のほうです。稼ぎ方を取り戻すには企業はいろいろ差別化しないといけないところに、コードの内容がその差別化戦略に支障にならないようにすべき、差別化戦略に適う実情は踏まえてくださいという意味と読んでいました。

従いまして、「実情を踏まえる」ということと「国際的に評価を得られる」ということの間に二項対立があるようには読んでおりませんでした。今日のOECDの方からのご説明も受けまして改めてそう感じたと言うことでございます。以上です。

○池尾座長

はい、どうぞ。

○キャロンメンバー

大体どこかのタイミングで私は場を壊す発言をしてしまいますが、そのタイミングが来たかもしれないのですけれど、今回のコードの意義の話なのですが、日本のコーポレートガバナンスが説明が不十分だという話ではないですね。説明が足りないんじゃなくて、実態が足りない。先ほどイサクソンさんが非常に礼儀正しく、例えばどういう問題が存在するのかご説明くださいましたが、まずは業種にもよりますが、日本企業の低生産性。2つ目は、日本企業の競争力の低下。もう一つは日本の低ROE、そして過剰な内部留保。実際に直面している問題が多々あります。今回のコードの内容がいかに立派でも、結局、何も変わらないと意味がない。今回のコードの趣旨は「変革、改革」です。まさに日本再興戦略の一環として、いかに今までと違う行動をとっていくか。説明は当然大事ですが、我々がコーポレートガバナンス説明天国を作ってしまったら、失敗です。今回の試みはコーポレートガバナンスを通じて企業の「パフォーマンス」を上げるためのものだと思います。先ほどもお話させていただきましたが、監査役設置会社については、今の運用は不十分だと思います。けれども、答えは、今のものを捨ててるのでなく、今の監査役会制度をもっと活用できるので、そういった工夫を取り入れるべきと申し上げたい。「変革、改革」がなくては何も意味がありません。外圧役として発言させていただきました(笑)。よろしくお願いいたします。

○池尾座長

いや、だから、アウトカムオリエンテッドじゃないといけないっていうことで、それはわりと合意できるんじゃないかと思いますが。

大体よろしいでしょうか。追加のご意見をいただければ。

よろしいですか。じゃあ、本日の討議は一応以上ということで終わらせていただきます。極めてインテンシブに議論をしていく必要があって、通常の会合の場だけで十分議論しきれない場合もあると思いますし、それから、お忙しい方ばかりなので全員に必ず出席していただくというのは難しい場合もありますので、本日、森メンバーが出されたような形の意見書を出していただくとか、特定の論点に関してのご意見をメール等の形で事務局に送っていただくとか、そういう形で、この場でもちろんオープンにいろいろ議論していきたいと思っていますが、それを補足するようなこともいろいろな形でお願いしたいというふうに思っておりますので、よろしくご協力をお願いいたします。

次回以降、どういう形で議論していくかということは、本日いただいたご意見等も踏まえながら引き続き議論の整理の仕方を考えていきたいと思いますので、この点についてもご協力よろしくお願いいたします。

それでは、最後に事務局からご連絡等ありましたらお願いします。

○油布企業開示課長

2点ございます。1点目は議事録のチェックでございます。お気づきになられたと思いますが、今回はテーブルが前回より小さくなっております。一般傍聴の方の申し込みが非常に多いので、実は全員収容できないものですから、先着順、それから同じ会社の中であまり多過ぎるときにはそこは調整してもらっていまして、要は、ここに今日お越しになれなかった方がたくさんいらっしゃるわけでございます。そういう意味でも議事録はできるだけ早く作って公表したいと思っております。そういうわけで、でき上がりました速記についてはチェックをお願いすると思うのですけれども、前回よりちょっと短い締め切りで切らせていただきますが、趣旨はそういうことでございますのでよろしくお願いしたいと思います。

2点目は、次回の日程でございますが、9月30日、火曜日です。後日改めてご連絡差し上げますが、30日、火曜日の15時30分を現在想定しております。よろしくお願いいたします。

○池尾座長

どうもありがとうございました。

それでは、以上をもちまして本日の会議を終了させていただきます。大変ありがとうございました。

以上

お問い合わせ先

金融庁Tel 03-3506-6000(代表)
総務企画局企業開示課
(内線3836、3671)