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   ★カテゴリー「クルーグマンマクロ経済学」より、同書の要約集に飛べます。

2014-10-01

[][]植田裁定2014? 植田裁定2014?を含むブックマーク

 ふと気づいたら、NRI金融市場パネル7月の議事概要が公開されていた。中でもアベノミクス評価に関して植田和男氏の「総括」要旨がひとつの視点としてなかなかおもしろかったので、一部を引用させていただく。

 植田氏は日銀のQQEについて、理論的には「効果には疑問の余地があった」としつつも、「外国為替市場と株式市場に大きな影響を与え、それが実体経済にもある程度の効果を及ぼしている」と見る。そして、かのKrugman(1998)における主張の眼目は、日銀による高めのインフレ目標へのコミットメントと、政府による財政政策との協調にあると指摘した上で、こう論じている。

日本銀行による「量的・質的金融緩和」は、Krugmanのこうした提案に近い面がある。例えば、インフレ目標を従来の1%から2%に引き上げることでコミットメントを強めるとともに、長期の国債も大量に買入れることにした。同時に、政府は財政政策だけでなく、賃金引上げを企業に促すmoral suasionも含めて、景気刺激の面で様々に協力した。これらの結果としてKrugmanの言うようにインフレ期待が変わり始めた面があるのかもしれない。別の面からみれば、(中略)「量的・質的金融緩和」は広い意味で「ヘリコプターマネー」に似た面がある。つまり、「第一の矢」としての強力な金融緩和策と、「第2の矢」として拡張的な財政政策によるpolicy mixである。これは、規模や時間の長さによってはインフレを引き起こす可能性を十分に有している。

・ところが、実際に生じたことを詳しく見ると、劇的に変化したのは、株価が上昇するあるいは円は減価するという期待であり、しかもそれは、むしろ海外のヘッジファンド等によるものであった。一方、債券市場では期待が余り動かず、金利が低迷したままである。この間、インフレ期待には劇的に火がついた訳でなく、現実に対してゆっくりと後追いで上がっていく動きに見える。このように、インフレ期待が顕著には動かず、ポートフォリオ・リバランスもいま一つ勢いが出ないので、政府資産価格が上昇し続けるという期待の維持に苦慮しており、経済政策全体として正念場に差しかかりつつあるということだと思う。

 なお、植田氏のQE0とかQE2とかまぎらわしいんじゃゴルァ、という方は、ワーキングペーパー「非伝統的金融政策の有効性:日本銀行の経験」を参照されたい。また、QQEが資産価格に与えた影響については、「異次元の金融緩和:中間評価」で分析されている。

 それにしても、アベノミクスをめぐるさまざまな議論をながめていてつくづく思うのだが、支持側も否定側もどうにもバイアスが強く、しかもそれぞれ同床異夢だったりして、さながら群盲象を撫づといったありさまだ。植田氏はあたかもそうした支持側・否定側双方の論点をすくい上げて巧みに裁定しているかのようで、良くいえば中庸、悪くいえばいいとこ取りな感がある。

 とりあえず何事にもバイアスかかりまくりな群盲のひとりとしては、本当に景気が良くなればいいなと祈るばかりだ。

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