心肺停止状態にある登山者のこの日の収容が見送られ、撤収する自衛隊員=30日午後2時半、王滝村の松原スポーツ公園
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御嶽山噴火で30日までに12人の登山者の死亡が確認されたが、発生から4日たっても死因が示されない状況が続いている。県警は「災害死」と説明する以外は、死に至った詳しい原因については明らかにしていない。治療に当たった医師や下山した登山者、救助関係者、家族らの証言からは、噴石の直撃による外傷、火山灰を吸い込んだことによる呼吸器系の損傷などが浮かぶ。専門家からは、災害の検証や今後の対策を立てる上でも「死亡やけがの原因に関する情報を広く共有できるようにしてほしい」との声も出ている。
「噴石に当たった跡や、気道に熱傷の跡があっても、どちらが死因なのかは分からない。死因がはっきりと特定できない以上、不確かな情報は出せない」
県警災害警備本部の広報担当者は、「災害死」に分類され、司法解剖などがされない今回の噴火による犠牲者の死因特定は難しいとの認識を示した。
死因究明について、県警は心肺停止状態で収容した登山者が医師により死亡が確認された場合は、検視をして死因を調べているとする。公表が遅れていることについては、死因の特定の難しさに加え、現段階では迅速な収容を最優先にしているとも説明する。
死因が明確になっていない中、救助関係者や登山者らの証言からは、噴火に遭った登山者の身にどのようなことが起こったかがうかがえる。
信州大病院(松本市)DMAT(災害派遣医療チーム)のメンバーとして27日から現地に入り、県立木曽病院(木曽郡木曽町)などで医療支援に当たった小林尊志医師(44)と秋田真代医師(30)は「噴石が当たったり転んだりして骨折した人が大半だった」などと話す。病院によると、熱い水蒸気や灰を吸い込み、呼吸が困難になる気道熱傷も目立った。
同じくDMATの一員として木曽病院で診察に当たった長野赤十字病院(長野市)の第一呼吸器内科副部長の降旗兼行医師(45)は「運ばれてくる人は鼻の中に灰が入っている人がほとんど。背中にあざがある人が多かった。頭をリュックや腕で守りながら逃げようとして背中が空いたのでは」と推察。「肺の中まで灰が入っている患者もいた」とも話す。
同病院第一救急部長の岩下具美医師(50)も「けがのタイプとしては、体幹(背中や腹部、胸部)の外傷、四肢の外傷。背面にけがを負っていた人が多かったのが今回の特徴」とする。
生存者の証言も多数の死者やけが人が出た原因を探る手掛かりになる。
背中にやけどを負って木曽病院で治療を受けた石川県小松市の男性(60)は「とっさにザックに身を隠し、熱風や噴石から身を守った」と振り返る。山頂の剣ケ峰にいた駒ケ根市の女性(58)は、剣ケ峰にある御嶽神社頂上奥社の軒下に避難した際、「軒下から外れた登山者が灰に埋もれていく様子を見た」。直下の剣ケ峰山荘に避難した男性は「大人の体ほどの岩」が屋根を突き破って落ちてきたと証言する。木曽町福島の男性(63)は8〜9合目で噴石が降り注ぐ中、ハイマツの下に潜り込み、難を逃れたという。
捜索や救助の妨げになっている火山ガスも死因の可能性の一つに挙がる。
気象庁は今回の噴火で放出された火山ガスには、二酸化炭素(CO2)や二酸化硫黄、硫化水素などが含まれていたとみる。
国際山岳医で心臓血管センター北海道大野病院(札幌市)の大城和恵医師(47)=循環器内科・内科=によると、CO2は20%以上の濃度になると「わずか数回呼吸しただけでも急激に意識を失ったり、呼吸まひが起きたりする」。硫黄臭のする硫化水素は「高濃度を吸うと、一呼吸で死に至ることもある」という。
死因の公表について、県警は取材に「個々のケースについて公表するのは難しいが、死に至った要因の概要をまとめて、近く発表することは検討している」とする。
防災科学技術研究所の棚田俊収地震・火山防災研究副ユニット長は「死因は噴火直後に何が起こったかを知る手がかりになる。警察は詳細な検視をした上で、なるべく情報を明らかにしてほしい。生死の境目を『運が良かった、悪かった』で終わらせてはならない」と指摘する。
東大大学院情報学環総合防災情報研究センターの田中淳センター長(災害情報論)も「登山者はそれぞれ、その時に取り得るぎりぎりの対応をした。亡くなった人の情報だけでなく、助かった人の経験をきちんと伝えていくことも、これからの登山者の『生』につながる」と話した。